14話 縁談とパーティー
ある夜、ルミは王家の家族とディナーを摂ることになった。偽の家族に会うのは建国祭後のディナー以来だ。
「ジュリエッタよ。ご機嫌はいかがかな?」
上座に座った国王は、ルミが座るのを見届けると笑顔で聞いた。
「まあまあかしら」
ルミは平静を装い、努めて冷たく言った。
王妃様は相変わらず、ニコニコしてこちらを見ている。一方幼い王子様は、一人で椅子に座りたいと言って駄々をこね、使用人たちを困らせていた。
王妃様と王子様はルミが替え玉であることを知らない。生みの親ではないといっても、王妃様は殿下の母親だ。気づかれないように注意しなくては。ルミは気合をいれるため、咳払いをひとつした。
ディナーにはラム肉のステーキが出された。ルミは最近シェフにお願いして、食事の量を半分に減らしてもらっている。食べきれずに残すのが心苦しいのだ。
「少ないな、足りるのか? それで」
ルミの運ばれて来た料理を見て、国王は不満そうに聞いた。
「大丈夫、ダイエットよ」
「そうか、ジュリエッタももうすぐ18だからな」
「ええ、気になる年頃なのよ」
ルミは笑顔を作った。
「そこでだ、ジュリエッタ」
国王がカン!と、グラスを強く置いた。
「縁談の話が来ておる」
「え、縁談?」
「ああ、北の国、リック王子との縁談だ。昔から、お前は早くこのスレイダンから出たいと言っておっただろう?」
「……そうだったかしら?」
国王の声がいつもより威圧的なので、顔が思わず引きつってしまう。
「リック王子はジュリエッタの二つ年上だ。丁度良い相手じゃろ?」
「え、でも……そんな急に……」
国王はまたカン!と、グラスを強く置いた。
「会ってくれるね?」
陛下の目が、初めて冷たく鋭く見えた。
「まあ、仕方ないわね」
ルミは声が震えないように気を付けて応えた。
ウルフの誕生日パーティー当日。
ルミはステラナを連れ、フェルセン公爵家へ向かった。馬車は王都を抜け、どんどん森の中へ入っていく。
「本当にこんなところに公爵様の家があるの?」
「ええ、フェルセン公爵様は自然を愛する人なのよ」
おめかししたステラナはいつもよりご機嫌だ。
フォークダンスの練習中にも、ルミはステラナからフェルセン公爵家のことは色々と聞いていた。
「屋敷はさほど大きくないのよ。使用人の数も必要最低限といった感じで、そこ、右足を前に出して」
「パーティーの規模は?」
「質素よ。でもとても素敵なパーティーよ。次は右手を上に上げて」
「こう? 来賓の数は?」
「百人もいないでしょうね。はい、ここでクルッと回る!」
「ウフフッ。面白いダンスね」
「フェルセン公爵様は合理主義者で、無駄が嫌いな方なのよ」
馬車を下りたルミは、周りを見渡して驚いた。
手入れが行き届いているので、廃墟とまでは言わないものの、蔦などの植物が屋敷の半分を覆っている。屋敷は背の高い木々に囲われ、昼間なのに暗くてゾッとする印象だ。
「夜に来たら真っ暗でしょうね。もっと怖いに違いないわ」
ルミは屋敷を見上げて呟いた。
屋敷の手前にある丸い庭には、ステラナの言った通り百人ほどの来賓がすでに集っていた。貴婦人たちのカラフルなドレスが、緑に映えて美しい。
その会場へゆっくり進みながら、ルミは肩をさすった。
「少し寒いわね 」
森の中の空気は澄んでいて、とても美味しいが、王都よりも冷たい。
春らしいと思って選んだ黄色いドレスは、肩が出ているので肌寒かった。
「ボレロを取りに戻ろうか?」
ステラナが聞いたが、ルミは首を振った。
「大丈夫。そばにいて」
ふと、会場の真ん中にエリオが立っていることに、ルミは気づいた。いつもの黒いスリーピース姿ではない。光沢のあるグレーのスーツを着て、男性と立ち話をしている。
「ねえ、どうしてエリオがいるの?」
ルミはコソッとステラナに聞いた。
「あら、知らなかった? エリオ様は伯爵家のご出身なのよ?」
「え?」
ルミは驚いてエリオを見た。
「ライゼン伯爵様のご子息なの。こういう場には居て当然の身分よ」
「……知らなかったわ」
エリオは使用人たちと同じ身分なのだと、勘違いしていた。
替え玉ではなくなった後、専属農家としての繋がりがあるから、もしかしたら、結ばれる可能性が……ゼロではない、かもしれない……。
そういう淡い期待があったが、伯爵家と農民では絶対にあり得ない。
エリオが一気に遠い存在に感じられた。
「おっ! ジュリエッタ!」
ウルフがこちらに気づき、手をあげた。ルミは重い気持ちのまま、ウルフに近づいた。
「お誕生日おめでとう、ウルフ」
ルミはウルフに挨拶のハグをした。
「ありがとう」
ウルフは照れたように笑った。
「いつものように、すぐ追いつくからね! とか言わないのか?」
王女の真似をして、ウルフはケラケラ笑った。
「あー、心の中では思ってたわよ」
ルミはウインクした。
「はい、これ。誕生日プレゼント」
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次回は誕生日パーティーでの出来事です。




