11話 里帰り
ルミが家の中に入ると、母は奥の寝室で横になっていた。
「お母さん? 大丈夫?」
近くへ寄り、ルミが声を掛けると、母はこちらを向いた。
「ルミ!」
パッと花が咲いたように母は笑顔になった。
「お休みをもらってね、エリオさんに連れてきてもらったの」
「そうだったの。エリオさんは?」
「今お父さんと外で話してるわ」
「そう」
「体、大丈夫?」
「ちょっとね、熱を出しただけなのよ」
母が体を起こそうとしたので、ルミは手伝った。
「昨日、王宮へ行ったんでしょ? エリオさんが見かけたって」
「あなたが勤めているところ見たくてね。とっても大きくて素敵なお城だったわ。すごい所で働けてるわね」
「うん、本当に。毎日ご馳走だし」
「そう、それは良かった」
母の笑顔はいつものように温かい。大丈夫そうだ。ルミはホッとした。
「畑の方はどう? 二人でなんとかなる? 手伝ってくれる人はいる?」
ルミが母の手を取ると、母はルミの手をさすった。
「近所の人と協力しながらやってるわよ。心配しないで」
「それなら良かった」
「ルミ、お腹空いてない? いつものポタージュなら、キッチンにあるけど」
「本当⁉ ずっと食べたかったの」
ルミは台所へ向かった。
「あ、お母さん、しばらく台所を借りてもいい?」
「え? いいわよ」
ルミはそれから、家にあるもので料理を作った。マッシュポテトやキッシュ、ポテトのガレットなど。
それらが出来上がる頃、エリオと父が一緒に入ってきた。
「おっ、いい匂いだな」
「何やってるんだ?」
「料理よ。なんだか 久しぶりでとっても落ち着くわ」
「ルミは小さい頃から、料理もよく手伝ってくれたからな」
父はニッコリ笑って、母の眠る寝室へ向かった。
「美味しそうだな」
「日持ちする料理ばかりだから地味だけど。よかったら試食してみる?」
「いいのか? ありがとう、頂くよ」
ルミはポテトのガレットをエリオの口に運んだ。
「ん! 美味しい」
「本当? よかった」
午後は父がやっている畑をエリオと手伝った。
『芽かき』と言って、成長してきたジャガイモの芽を剪定し、硬くて成長しそうな芽だけにする方法だ。そうすることで一つ一つのジャガイモが大きく立派に育ってくれる。
広大な畑の芽を、一つ一つ確認し、芽かきを行って土を盛る。三人でもかなりの重労働だった。
「とっても助かったわ、ありがとう」
「王宮の執事様にこんなことをさせてしまうなんて、申し訳ない」
「いえ、力になれてよかった。それに初めての体験で、とても楽しかったです」
母も交えて四人で夕食を摂りながら、畑の話で会話は弾んだ。
食べ終わった頃、エリオはポケットから書類を出した。
「そういえば、これを」
「何ですか?」
「専属農家の契約書です」
「おおっ!」
「この契約書がある限り、契約は続きますので」
「ありがとうございます」
「これはありがたい」
「ではこちらにサインを」
父がそこにサインをしたところで、そろそろ戻らなくてはいけない時間になった。
ルミとエリオがユーリに乗った。走り出す前にユーリがひと鳴きした。
父と母は笑顔で手を振り、ルミとエリオを見送った。
振り返る度、その姿がどんどん小さくなっていく。それがルミには辛かった。
「すまない。家族のことが気にかかるだろう」
「うんん、気にはかかるけど大丈夫よ。お父さんは元気そうだし、お料理も準備してきたし」
「もう少しあの家に残っててもいいんだぞ? お母さんが元気になるまでくらいなら」
「うんん、もっと長くいたら離れられなくなるわ。ちゃんとお給金も貰っているし、本人が戻ってくるまでは替え玉役をまっとうしてみせるから、大丈夫よ」
「……ありがとう」
エリオの優しい声が、頭の上から聞こえる。
「ルミが何を犠牲にして、王宮まで来てくれているのか、私は今まで知らなかった。気づいてやれなくて申し訳ない」
「うんん」
「これからはもっとルミの役にたてるよう、王女が早く戻ってくるよう努力する」
「ありがとう」
エリオの優しさに、ルミは瞬きをして溢れてくる涙が後ろへ飛ばないよう気を付けた。
お読みいただき、誠にありがとうございます!
次回からはルミが心機一転、能動的に動くようになります。




