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闇に蠢く  作者: 野村勇輔(ノムラユーリ)
序章・奈央
32/261

第31回

   ***


 あれから一年が過ぎた。


 相変わらず奈央は基本的に『おひとり様』だったし、響紀との関係もあまり変わってはいなかった。


 二年生になるまでの間に何とか響紀との関係を良くしたかったのだけれど、もともと響紀は奈央より早くに起きて家を出ていくし、帰ってくるのも遅くなってからなので会話をする機会がそもそも少ない。日中に顔を合わせることがあるのは日曜日くらいのものだったが、その日曜日ですら響紀は学生時代の友人や職場の先輩、後輩とどこかに遊びに行くことが多く留守勝ちだった。焦ることはない、同じ家に住んでいるのだから、大丈夫。そんなことを考えているうちに、あっという間に月日は流れ現在に至る。


 そういえば、結局石上麻衣ともあの後、全く会っていなかった。隣のクラスなのだからまた会いに行ってみるという選択肢もあったのだけれど、何せ最初に会いに行ったときに嫌な思いをしている。それが奈央の足をより彼女から遠ざけていた。あの夢がただの夢だったのだということを確認するために一度会いたいと思っていたのだけれど、ちらっと顔を見ることすらないまま奈央は進級、クラス替えでも彼女と同じクラスになることはなかった。


 進級、といえば小林もそうだ。彼の場合はいつの間にか学校に来なくなり、二年生に進級するのを機に退学してしまった。彼に何があったのかは知らない。最後に見たのは確か、小林から話しかけられたあの日だったはずだ。翌日、彼が登校してきたのか奈央は知らない。記憶を辿ればその日は睡眠不足と貧血に倒れ、一日の殆どを保健室で寝て過ごしていたので奈央には彼を見たという覚えが全くなかった。


 小林が登校して来なくなったことで、新たに図書委員が選ばれることになるのかと思いきやそんなことはなく、結局奈央がその後一人でクラスの図書委員の仕事をする羽目になった。そんなに大変な仕事ではなかったのだけれど、夏休みの図書館解放の当番では、木村が手伝ってくれたおかげでずいぶん助かったのを覚えている。もしもあれが木村ではない別の誰かだったとしたら、さぞかしやり辛かったことだろう。奈央は今でも人と関わるのが苦手なままだった。人間不信、とまではいかないまでも、微妙な警戒心を持って人と関わるようになったのは間違いない。


 その原因となったあの一件からしばらく経っても、奈央を訪ねて警察が来ることは結局なかった。小母の話によれば、あの数日後に奈央の自転車を証拠か何かとして持って行ったらしい。どのみち処分するつもりだったのでそれは喜ばしいことだったし、何ならもう返してくれなくてもいいとすら思った。幸いなことに、あの自転車は今も戻ってきてはいないし、新しい自転車を買ってもらったので登下校に際しては何の問題もなかった。


 良くも悪くも、全ては元通りだった。


 あの一週間の出来事を思えば、梅雨明けから進級した春先までのこの間、特に何事もなかった。


 平穏無事な毎日が、ただただ続いていた。




 ――響紀が、あんな質問をしてくるまでは。

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