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プロローグ


 2333年。

 僕は、数少ない心を許していた同僚を失った。

 同僚と言っても、正社員になった時期が同じだから、同僚扱いを周りからされていただけ。


 僕も苦労した人生だったと思う。

 それでも、助けてくれる人がいたし、お金にも困らず、大学にも行けた。正直、働かなくても十数年は生きていける財産を貰った。


 でも、同僚は違う。

 学業に集中してバイトをしていなかった僕とは違って、生活するために、今働いている機関に働きながら高校に通って卒業した。

 今まで大変な経験が多かった彼を、なぜよりによって彼だった?


 涙が止まらなかった。


 わからないことがあれば、察して答えをくれた優しい彼じゃなくても良かったじゃないか。


 どうして。


 どうして彼だったの?


 彼を失ったことで、僕の心はぽっかり穴が空いて、何もする気がなくなった。

 ぼんやりしながら、帰路を歩いていると、夕方を知らせるチャイムが鳴る時にはどこかへ帰るはずのカラスが何か光みたいなものをつっついていた。


 ……奴らは、光り物がすきだからなぁ。


 ぼんやりとそう考えていた時、


「やめてよっ、君にはボクを掴めないよっ! 諦めてよ!」


 光が喋っていた。

 その声を聞いて、職業病かもしれない。気持ちは病んでいても助けなきゃと思った。


「やめろっ!!」


 カラスに向かって、大きくはらう仕草をしながら走る。……運が良かった。持っていけないと言う諦めがあったんだろう、飛び去って行った。

 光を手に乗せ、思わず撫でる。


「大丈夫ですか? 共生しているとは言え、中にはあなた達を悪用しようとしている輩はいます。手のひらサイズのあなたが、一人で行動するのは危険です。休職中ですが、保護機関の職員として保護します」


 僕はそう宣言して、保護機関まで運ぼうとした。それをなぜか、「やめてください!」と光は止めた。


「……まずは姿を見せるね。恩人に対して姿を隠しているのは失礼だから」


 姿を現したのは、雪うさぎだった。と言っても、冷たくないし、逆にふわふわしてる。


 ……かわいい。


「ボクは異世界の妖精なの。この世界にいる妖精とは少し違うんだぁ。人外と共存しているここの誰かに、ボク達のことを助けてもらおうと思って、ボクが代表としてきたの。だから、保護機関? に連れて行かれるのは困るの!」


 ……なるほど。


「それで? 助けて欲しいのは、具体的にどう助けて欲しいんですか?」


 異世界の妖精と言えど、人外保護機関に勤める職員としては、問題が起こる前に阻止することが目標だ。聞き取らないといけない。


「ボク達は、月光島と言う世界の妖精なの。月光島には妖精、精霊、聖獣にそれぞれ管理者がいるんだけど、別の事件だけどそれがきっかけで妖精と精霊の管理者が不在な状況になってしまったの。妖精のお家の管理者は、精霊達よりも長期間不在な状況でね、月光島に妖精が姿を現せない状況なの。それを打破するために、管理者を探しにきたの!」


 んー、聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がするなぁ。


「月光島の住人に、なってもらえば良いのでは?」


「適応がある人がいないわけではないの。でも、管理者がいるってことをできるだけ気づかれたくないの。昔は知られていたけど、それが理由でこの状況に陥っているから、今回は異世界の人間を管理者にしようって話し合いで決めたの……」


 とある事件の内容は教えてくれなさそうだ。

 困っていることは異世界のこと、日本ではない。彼らにとって異世界人である僕に……ん? 異世界人?


「僕が管理者になれば、君は帰れますか?」


「うん!」


 この世界に、執着はない。

 唯一親しくしてくれた同僚は亡くなってしまった。

 本当に、家族だと思える存在もそれよりも前に亡くした。

 唯一、そばにいてくれる子はきっと、僕が向かうところにはついてきてくれる。


「……従魔がいるんですけど、連れていけますか?」


 気がかりなのはこのことと、職場にどう説明するかだけ。


「テイマーさんなの?! 尚更、嬉しいなぁ。大丈夫だよ、契約してれば魂で繋がってるから連れていけるよ!」


 その言葉にほっとする。


「仕事、退職しなきゃなぁ……」


 その一言に、妖精は慌てたように言う。


「その必要はないの! 異世界から来た管理者は、生活に支障がないように、故郷への転移魔法は特典で付いてくるの!」


 あ、帰れるんだ。

 それなら、日本へ買い物に行けて良いかも知れない。

 悲しんでくれそうな人はみんな、いなくなってしまった。誰かに会いにここに帰ってくることはなさそうだけど。


「じゃあ、僕が君たちのお家の管理者になります」


 うちの子も妖精だし、仲良くなってくれるといいんだけど……。

 そう考えながら、僕は妖精を手のひらに乗せて帰路についたのだった。



 僕の従魔、幸太郎を見た瞬間、妖精さんは悲鳴を上げた。……どうした?


「ひぇー!! ここまで強い妖精さんと契約してるなんて聞いてないのっ!」


 ……幸太郎ってそんなに強いの? 出会った時には銀狼の姿をしてたけど……。妖精だと言われるまで、犬だと思ってたし。


「食いやしないから、悲鳴をあげるでない。こうなるから、お前の職場に気を遣っていけなかったのだ。可哀想な目に合った子らが多いからな、気を遣わせるわけにはいかん。……ほれ、幼子。こっちへ来い、その傷を癒してやろう」


 口は偉そうだけど、幸太郎は優しいのだ。

 それでも、行こうとしない妖精を幸太郎に差し出す。彼は自分や周りに害をなす相手以外には攻撃しないから、安心できる存在だ。


「そんなぁ、管理者様ぁ」


「幸太郎に了承得られるまで管理者ではないですよ。大丈夫、幸太郎は優しいです」


 その言葉通り、幸太郎は優しく毛繕いをして、妖精の傷を癒していく。


「可哀想に、こんなに弱ってしまって。……ついでに我の力を分けてやろう。同じ、光属性の妖精みたいだからな。相性は悪くないだろう」


 慈愛がこもった声で毛繕いを続ける。時間が経つごとに、手のひらサイズのうさぎから二回り大きくなった。


「ふわぁ……、体が軽くなりましたなのぉ」


 幸太郎が優しいことが伝わったのか、彼の足に頭を乗せてくつろぎ始めた。それを咎めることもなく、「良い、良い。幼子は大人に甘えるのが仕事なのだ」と甘やかし始めた。


「幸太郎、この子の他にも管理者がいなくて力が弱まっている子がいるらしいんだ。……助けてあげたい、異世界まで着いてきてくれる?」


 そう言えば、幸太郎はしょうがないやつだなぁと優しい顔をした。


「医者から鬱と診断されて、仕事を休めとは言った。だが管理者をやることだな、別に我は反対ではないぞ。……望むなら、異世界でもなんでもついていってやる。手のかかる契約者を、異世界に放り出すわけがなかろう」


 妖精の毛繕いをしながら、合間合間にそう答えてくれた。……幸太郎はやっぱり優しいなぁ。


「幸太郎様っ、幸太郎様が来てくれるだけでも、お家の生命力が戻ると思うのでっ。他の子たちの弱体化を防げると思いますなのっ」


 いつもは番犬代わりとでも考えてくれ、しか話さない幸太郎が、行くだけで影響を与えるくらい強いとは思って見なかった。お世話していた子と比べて、存在感が強いのはわかっていたけど……。


「妖精はそもそも異世界出身だろうと気にするような性格はしておらん、契約主が行くと決めたら我はただついていくのみだ。この幼子の言う通り、我はこの子らを眷属することができるくらいの力がある。お前は何も心配せず管理者の仕事を全うすると良い」


「とのことなのでっ! ボクたちのお家に案内しますなのっ! それではいっくよぉ!」


 えっ、うそでしょ?

 そう考えて間もなく光に包まれたのだった。




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