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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とりあえず短編置き場

仮)スチームパンクっぽい何か。

作者: 桜桃露雨


 王国歴250年ごろ。少年は料理をする母親にしがみつきながら疑問を覚えた。なぜお湯が沸くと薬缶の蓋が動くの?


 疑問を疑問とし持ち続け、少年は青年になり不思議が動力に使えると発見した。

 蒸気王「アーサー・マクスウェル・ボルト」が世に出たのは、蒸気動力を発明した王国歴274年のことだった。


 蒸気動力は、工業化を進めやがて動力車を生み出すが、動力車の誕生は難産だった。

 馬車の後部に蒸気動力を載せ、馬の要らない馬車が作られたが最も軽い蒸気動力で20トンを超えていた当時馬車の車軸と車輪が重量に耐えられずにすぐに壊れてしまった。

 では、馬車を蒸気動力にするのではなく、馬を蒸気動力にすればいいと発想が転換されるが車輪の大きさが重量に耐えられるように小径で幅広だったためギア比を低くしないとまともに動けず、時速3~5キロという遅さが普及を妨げた。


 アーサーの孫である、リチャード・マクスウェルが鉄輪式動力車を考案し、鉄輪による石畳破壊の対策とし鉄の棒をつなげた鉄路を走らせることでやっと蒸気動力車が実用化されたのは王国歴368年だった。

 同じく娘系の孫である、ウィリアム・ジョナサンが蒸気動力を小型化せずあえて大型化し動力車と貨車を分ける方式で首都と鉱山都市を結ぶ鉄道を開業したのは王国歴421年のことになる。



 鉄道の開業から、蒸気動力車の発展は加速した。従来の貨車に変え、客車をけん引させる旅客鉄道。高架を建設し、能力の限界まで高速化させた高速鉄道。蒸気動力で空気を圧縮し動力車の気蓄タンクに充填する地下鉄道。

 蒸気動力の発展に伴い軽量小型化された結果生まれた、自走蒸気動力車、蒸気動力気球から発展した飛行船、船舶用蒸気動力。


 蒸気動力発電で生み出された電気が、都会を覆い都市から夜を追放した。


 煙管式から水管式になり効率化が進む蒸気動力の普及がさらなる高みを目指す。

 火炎石と呼ばれるハイカロリー燃料のおかげで、蒸気動力車は燃料の供給に気を遣わず運航できるため小型蒸気動力の発明は、自家用動力自動車の普及の原動力となった。

 燃料供給の人手が不要であり、一人で動かせる動力自動車は水の残量さえ気を遣えば地の果てまで走る能力がある。


 電気計算機で制御される蒸気駆動装置は、第二の産業革命と呼びならわされ戦場に鉄巨人が闊歩、建設現場で鉄材を組み立てる鉄人、起重機のない港で波止場で荷役作業をする各種鉄巨人たち。

 町は多層化され、高層建築にあふれ最上部と最低部の距離は徒歩での移動を阻むほど離れていった。


 王国歴も800年を超えると都市の階層化が起きだした。

 地下深くのスラム街、地下中層にある貧民街、地下上層にある商業地区、地表レベルにある庶民街、低層階の高級商業区、中層階の中流階級居住エリア、高層階の上流階級居住エリア。

 地下は網目のような隧道、空中を覆う空中回廊でつながれた各層…人は生を受け、土に戻るその瞬間まで階層を、いや階すら移動せずに過ごせる。


 階層ごとに行政府が統治し、交わることなく生きていく。


 間もなく、スラム階層に落ちてきそうな、貧民階層の最低レベルの住民たち。

 そんな彼らは、常に生きることに努力する必要がある。努力をやめた先は生を失うか、運が良ければスラムでの生活が待ち受けている。

 上層で廃棄された食品が下層に捨てられ、下層はそれを唯一の食料として流通させる。

 貧民街以下の階層に通貨は意味をなさない。通貨をいくら持っていても購入できるものがない。


 各階層にある、同一レベルを結ぶ鉄道も地下には存在しない文明の利器と言えるだろう。

 すべてが、上層に住む人の生活を支えることを唯一の存在理由として成立する階層都市。


 蒸気式作業補助具が鉄骨に鋲を打つ音が響く。鉄巨人が鉄骨の重みにきしむ音がやけに大きく響いた作業場を子供が走り回っている。

 蒸気動力車で使い終わった火炎石の廃棄場が近いこの作業場は火炎石拾いの子供たちが近道としてよく利用している。蒸気動力車に使えない廃火炎石も家庭なら十分使えるエネルギーが残っている。

 蒸気にするのじゃなく沸騰したお湯を薬缶いっぱい作るために使うなら1週間は使えるだろう。


 子供たちは買取所に持ち込みお小遣いにし、自宅に持ち帰って家で使うため拾いに行く。


 スラムでは、わずか銅貨1枚のため悪事を働くやつもいる…そう、絶望が支配するこの町で最も価値が無いのが人間だからコイン(銅貨)1枚のため躊躇なく踏みつぶされる。

 銅貨1枚で買えるものは小ぶりなパンがせいぜい1個…1食に満たない金額より、人命は軽いのが世の定め…それが階層都市の下層部に住むゴミたちの価値とみなされている。


 そんな、ゴミ溜めでもマレに這い上がろうとする者が現れる。It'sとしか呼ばれない少年?青年と呼ぶには幼く、少年と呼ぶには少しひねた…そんな年ごろだが、遺跡(ゴミ捨て場)で入手した剣と抗争に負け捨て置かれたギャングが持っていた38口径8インチバレルのシングルアクションリボルバーを手に入れ、スラムの中でも下層と言われるエリアを抜け出し、銅貨(ペニー)が1枚で2セント。半銅貨(ハーフペニー)が1セント、1/4銅貨(クォーター)が5ミル。そして上層では見ることもない1ミル銅貨。

 この4種類の銅貨がスラムで流通する通常の貨幣で、銀貨がかろうじて貧民街で見ることができる。

 上層階で銅貨を使うようなものはいない為、銅貨は事実上地下部分専用硬貨と言われている。スラム階層にリフトはなく、リフトがあるべき場所は広場になっている。

 5セント銀貨という最小の銀貨すら見たことがない生活から抜け出すには、危険だが手当てが良い傭兵になるか、上層部の住民に見いだされ何かの特技で仕えるしかなく、コネが無い少年は迷わず傭兵になった。

 銀貨の価値である1ターレルの日当があるのが貧民で、スラムだと4セントももらえれば稼ぎ頭扱いされる現実の中で傭兵だと2ターレルの日当ですら底辺と言われる。武器の手入れや補充を自腹でするため手取りで言えば1ターレルに満たないが。


 少年はやがて青年にしか見えなくなる。かつて呼ばれた名を捨て去り、自分でつけた名前を名乗る青年はもうすでに中堅と言われるレベルに達した。

 スコルピウス、サソリの古代語を自分の名前にした青年は、仕事を励む…かつて入手した38口径はすでに使っておらず、メインに44口径8インチバレルのシングルアクションリボルバー、腰に剣を下げ、隠し武器として38口径4インチバレルをブーツにひそませる。

 携帯蒸気駆動計算機による正確な索敵と、ターゲットへの照準がスコルピウスの得意技となりその銃撃は「サソリの針」と恐怖される。


 何時しか、スコルピウスの住居は中層に移り…引退を考え始めた。最初に手に入れた38口径をスラムに隠し誰かが見つけるまでその場に置いておこう。

 かつての自分の様に、自分の人生を切り開くものが現れるように。


 スコルピウスの名はいつしか歴史に消えていった。

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