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13-6 戦々恐々の日々②

 金曜日の午前中、教壇に立つ教師の声と、窓越しでも微かに聞こえる雨音が教室に響き渡り、普段通り?に行われる授業。あまり変わる事のないサイクルを繰り返す中でノートに視線を落とし、俺は普段通りに板書を写す。

 しかし俺はピタリとその手を止めて、首を動かす事なく辺りを見渡す。俺はすっと目を伏せて、音のないため息を漏らす。

 俺にとって、何処かぎこちない雰囲気が永遠と流れ続ける教室での授業は、憂鬱なものだった。俺の前に座る神無月(かんなづき)さんも何処か神経を研ぎ澄ませながら授業を受けている気がした。

 既に判明している(マイナス)ポイントが大きい以上、試験でこける可能性を加味して学業を怠る生徒はこのクラスには存在しなかった。中間試験も異能実習試験後の連休明けに控えている。

 そして火曜日のHRには試験について細かく記載された資料が皆に配られていた。しかし他クラスのペアと組むルールのはずなのに、一向に顔合わせの知らせがない。本番当日でどうも初めましてになってしまうのだろうか?それだとしたら作戦なんて直ぐに立てれないし、しっちゃかめっちゃかの大騒ぎになってしまう。そうなれば指揮権を握るのは……。

 そんな焦りを覚えつつも俺は窓の外を見つめる。時折強化ガラスに打ち付け、形を変える雨粒を見てぼんやりと頭の中を空っぽにする。

 俺は雨が好きだ。なんとなく見ているだけでも飽きる気がしない。それに、雨の日は俺に有利に働く。いや、だからこそ、俺は雨が好きなのだろうか?

 そうして水溜りに落ちる雨粒によって生じる波紋の様に、俺の心にも微細な波紋が生じる。俺は変化を感じる事が出来ても、言葉に表す事が出来ない心の動きを感じつつ、意識を授業に引き戻した……。


―――――――――――――――――――――――――――


 2限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。俺はぱたりとノートを閉じ、次の授業の用意を始める。次の授業は体育だ。今日で最後のペア振りでの、室内テニスだった。

 恙無(つつがな)く着替えと準備が終わり、授業が始まる。と言っても直ぐ様ペアに分かれて軽い練習がスムーズに行われる。既に4回目にもなるこのペアでの体育なので、大半のペアは意気投合し、楽しんでいる。体を動かす事で、今は試験のペアの(しがらみ)が取り払われている気がして、俺はなんとなく嬉しかった。

 俺は試験のペアも体育でのペアも一緒で(はやし)さんなのだが、俺達だけでなくて他のクラスメイトも同様な状況が、ちらほら見受けられた。中条(なかじょう)さんに教えてもらった情報なので俺が本人達からわざわざ聞いた情報ではないのだが。

 そして俺達ののコートで文句を垂れ流している女の子には、思わず苦笑いせざるおえなかった。その女の子とは崎田(さきた)さんだった。竜星(りゅうせい)とは離れ離れになり、橋本(はしもと)と体育のペアを組んでいた。

 橋本は荒っぽい石川(いしかわ)の仲介役ともあり、大人しい性格をしているが、気さくに話し掛けてくるし、誰にでも気を使える人だった。石川を力づくで止めるシーンも一度だけ見た事があるので、ある程度の膂力もあるはずだ。中条さん情報によると石川と幼馴染みらしい。

 男子の中心的人物の側に最も近く、そのある程度のイケメンフェイスと性格で、女子からの人気は高い。らしい。俺はこの情報を横流ししてきたニコニコ笑顔の中条さんの顔が頭に浮かぶが、直ぐに意識を眼前のテニスボールに向ける。

 林さんに向けて返球した後、尻目に崎田さんを確認する。どうやら不満はある程度解消されたのか、文句を言う事なく練習に励み始めていた。竜星に対して余程の一途な思いを抱いている為、人気のあるはずの橋本ですら普通程度に思えてしまうのだろう。俺は橋本の気苦労には若干同情しつつ、練習に没頭していく。

 練習が終わり、ゲーム感覚の軽い試合が行われる前に、一旦3分程の休憩が挟まれる。そして肩を軽く上下させながら俺に近づいてくる林さん。少しだけ乱れた髪を手櫛で整え、呼吸を落ち着かせながらニコリと笑う。ここ1週間で林さんとは更に打ち解け、自然と会話が出来る程までになっていた。

 元から見てくれは非常に良い子だったので、よく喋り、コロコロと表情を変える様になってからは、その魅力が格段に跳ね上がっていた。俺でさえ、話しているだけで時折色香に惑わされそうになる程の、そんな林さんの魅力を知っているのは俺だけだと思うと、意地汚い独占欲が湧いてくるが、それは彼女の為にならない事は分かっているので、そんな気持ちは奥底に押し込める。

 試験明けには皆と食堂を利用出来るようになれば更に魅力が開花されるだろうと、勝手な妄想を膨らませつつ、目の前で頬を膨らませる林さんに意識を引き戻す。


「……(くん)……ちょっと新海(しんかい)君聞いてます?」

「ごめん、聞いてなかった。もう一回言ってくれない?」

「もう、いっつも直ぐに考え混むんですから……。その癖、直した方がいいですよ?それで、新海君にはこの学校に中学校からの友達とかいないんですか?」

「えーと、中学校からの友達はいないけど、幼馴染みならいるかな。」

 俺はそう聞かれ、真っ先に(かえで)の事が頭の中で浮かび、そう答えた。俺は小中学校と通っていないので、元々の友達はいない。林さんはその事を知らないので、どう解釈したのかは不明だが、幼馴染みの部分だけ拾って吸収したらしい。たれ目を更に丸め、口をほんの少し開けて驚いていた。


「幼馴染み、ですか……。」

「うん、淡いピンク髪のポニーテールの奴で、身長は林さんより少しだけ低いかな。」

 林さんはその特徴に思い当たる節があるらしく、「あの子かな?」と、声を漏らしていた。そもそも淡いピンク髪なんて、俺の面識ある人物では楓以外に知らない。その特徴的な髪色で簡単に覚えられてしまう楓は、ひょっとしなくても有名人なのだろう。


「名前は分からないですけど、あの子とっても可愛いですよね。それに……」

 林さんはそう言って、視線を自身の上半身に向けていた。その何も引っかかる事のない、絶壁平野を哀愁漂う面持ちで見詰めていたのだ。体操服の状態になると、制服と比べて大半の女の子の双丘は小山から、大山に盛り上がり、強調される。しかし林さんにもたらされる変化は無。全く変化を見せない双丘は悲しく泣き叫んでいるようにも見えた。

 俺はデリケートな部分には触れないように苦笑いで誤魔化す。そんな俺の表情を見てハッとした後、恥ずかしそうにもじもじし始める。そして林さんが体の前で腕を組もうとする動作を見せた瞬間に、俺は林さんからさっと目を逸らす。


「そろそろ休憩が終わりそうだね!」

 俺はそう元気よく言い放ったはずだったが、実際はただの棒読みになっていた。そして次の休憩が入るまで不機嫌そうに顔を合わせてくれない、ツンツン林さんが何処か可愛げがあり、俺はもう少しだけ、見ていた気分になってしまっていた……。

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