13-5 戦々恐々の日々①
月曜日の朝、林さんと試験のペア申請の為、寮の先で待ち合いをした後、登校した俺達は試験のペア申請を通した。俺は教室に着く前に、昼食に誘ってみたのだが断られてしまった。俺だけならまだしも、竜星や勝也には少しの抵抗があるらしい。
別に俺はその事を無理強いすることなく、そのまま教室に足を踏み入れると、自然に林さんは1人で席に着いていた。
俺はそんな空気に徹しようとする林さんを尻目に見てから、スクールカバンから取り出したライトノベルに視線を落とす。俺は竜星が登校してくるまで、1人の時間を過ごす事にした……。
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今日も恙無く授業を終えた後に、俺達(竜星、勝也、神無月さん、崎田さん)はEクラス専用の掲示板に視線を注いでいた。そして俺達全員、壁に埋められている70インチのモニターに映し出される文字に、釘付けになっていた。
Eクラスの面々が部活動前に一斉に押し寄せたので、少し混雑気味だったが、とりあえず俺は脳の記憶回路にそのモニターの情報をインプットした。神無月さんは相変わらずの無表情のまま、携帯で写真を撮っていたが。
それが終わると神無月さんは特に何も告げる事なく、普段部活で使用している体育館の方向へと歩き始める。勝也はギョッとした後、大急ぎでその背中を追いかけて行った。勝也も意外と苦労しているのかもしれない。
そして俺は視界の端で、林さんの存在を確認した後、一旦掲示板前から離れる。崎田さんもピンク色をベースとしたケースに収まっている携帯で、写真を撮った後に、とてとてと小動物の様についてくる。竜星は少し遅れ気味の崎田さんに気を使うようにして、歩くペースを落としていた。
崎田さんからの猛烈なアプローチの末、竜星はある程度までは慣れてきた様で、友達以上恋人未満と言っても差し支えない程まで、2人の仲は進展していた。そんな他人の恋事情で口から思わず砂糖を吹き出しそうになるのを堪えつつ、休憩室で少しだけ話し合う。
俺は机に鞄を乗せてから、先程の文面を思い出して、一字一句間違える事なく口に出して確認する。
「試験開始日 5月2日 午前10時開始予定
場所 VAT管轄千鳥戦闘演習場
試験内容
各クラス2人1組のペアを15組作り、ABCDEのペアから1つずつ無作為に振り分けされ、10人15組での時間無制限バトルロイヤル
ルール
異能使用については、過剰攻撃に見なされない程度までは使用可能
基本装備は学校指定の体操服に、スタンバトンの携帯と頸部への電流操作チョーカーの着用
左右どちらかの手首にパルス計測の為のブレスレットの着用
異能補助具の持ち込みも禁止
相手グループ全員をスタンバトンによる気絶もしくは行動不能に追い込むまで、戦闘は続行
途中棄権は基本的に認められない
試験による所持Pへの反映
チームP
1位+40P 2位+30P 3位+20P 4位+15P
5位+10P 6位+5P
7位変動なし
8位−5P 9位−10 10位−15P
11位−20P 12位−25P
13位現所持ポイントが3割減
14位現所持ポイントが4割減
15位現所持ポイントが半減
個人P
MVP(1人のみ)生徒には+15P
1人気絶又は行動不能にさせると+1P(上限+11P)
倒され又は途中棄権−1P
FF(同士討ち)による気絶もしくは継続戦闘不能の負傷を負わせた場合−5P
不当な試験欠席−50P
ルール違反−50P
試験中あからさまな戦闘拒否−10P
FFによるはリタイアはP変動なし
Pは記載された項目の上から順当に精算される。
だったよな?」
「え、いや、そこまで詳しくは覚えてないけど……。」
俺は竜星に情報の正確さの判断を求めていた訳ではなかったが、竜星の反応に俺は思わず失笑する。崎田さんは自身の携帯に映し出される文面を目で追っていた様で、俺を惚けた面でまじまじと見つめていた。
「一字一句全部合ってる、え、新海君ってひょっとして凄い人?」
俺はそれを聞いて苦笑いで誤魔化すしかなかった。竜星もそんな俺を見て苦笑いで誤魔化そうとするので、崎田さんは何も教えてくれない事が不服な様で頬膨らませて竜星を睨んでいた。
「でもとりあえず状況はまずい気がするんだけど、これってどうなの?」
「あぁ、ちょっと良くないな。13位から15位へのポイント変動が痛すぎる。それに……」
「それに?」
「ペナルティポイントがいちいち大きい。正当な評価を下す為には仕方ない事だが、不運な奴はここで退場する事になるかもしれない……。」
2人は元々理解していただろうが、俺の言葉を聞いて再認識したのかハッと息を呑む。にこやかに笑っていられる雰囲気ではなくなり、崎田さんは表情を締め直していた。
「でもポイント的に僕達のクラスでさえ、最下位とルール違反さえ回避すれば退学は防げるよね?」
「……あぁ。それでも今回だけかもしれないが、+ポイントより、−ポイントの方が全体的に大きい。それは今後も続く様ならジリ貧なのは間違いない。確実にポイントゼロへの一途を辿る。」
そこで竜星はポイントの変動値を再び確認する為か、崎田さんの携帯を覗き込んでいた。その代わりではないが、崎田さんが入れ替わりで会話を続ける。
「多分これって、現所持ポイントから引かれるわけだから……ポイントを沢山持ってるはずの上位クラスは焦ってるよね?」
その言葉はわざわざ説明せずともチームポイントでの減少値の振れ幅について話していることが直ぐに分かる。
「最終ポイント値ではEクラスが最も退学に迫るが、失うポイントはAクラスの一部の生徒が最も多くなる。キル(気絶又は行動不能)ポイントである程度稼げる可能性があるとしても、痛い結果になるだろうな。学年内格差より、クラス内格差による問題が生じてきそうだけど……。」
「わ、私達ってどうすればいいのかな?」
俺がそう言うと不安に駆り立てられたのか、崎田さんがおろおろと視線を彷徨わせた後に不安そうに俺をじっと見つめてくる。そんな必死に縋る様に慌てる崎田さんを竜星は「落ち着くように」と、必死に宥めていた。本人も相当焦っているはずなのだが、焦る人を見て冷静になれているのかもしれない。
「戦闘拒否は−10ポイント。順位を上げる為ならそれを覚悟で潜伏するのもいいかもしれない。それに仲間に捨て駒にされる可能性もある。」
俺はそこでチラリと休憩室内の時計を確認する。机の上の鞄を拾い上げ、うろたえる2人に背を向けてガラス扉へと向かう。俺は背を向けたまま、話し掛ける。
「竜星。今回の試験はクラスメイトですら敵で、真の味方は相方だけだ。そこら辺は肝に銘じておいてくれ。」
「分かった。でもそれって隼人君も敵って事だよね?」
「あぁ。俺は友達として容赦はしない。でもアドバイスは惜しみなくする。」
そう言い残して俺はその場から立ち去る。そんな忠告?とも宣戦布告とも取れる言葉には然程意味はなかった。俺としては別に竜星を狙うつもりもない。
ただ、友達だからこそ全力でぶつかる機会があるのなら、惜しみなく利用するだけ。ただそれだけの事だと俺は思っている。
竜星は俺の言葉をどう捉えたのかは分からない。的外れな解釈をしたとしても、竜星なら俺の予想を上回る結果を残してくれると、直感的に感じていた。
そしてこの試験だけではなく今後全ての試験で、俺の手で友達を退学に追い込めるのだろうか。俺は恐らく自己犠牲を払い、それを回避する。それが俺の甘さなのだろうか。
俺は東條の言葉を一瞬思い出すが、直ぐに頭の隅に追いやって、忘れる事にした……。




