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13-3 2度目のデート?②

 カフェの扉を開けて店内に入る直前、眼前で扉が押し開けられ、厚手の黒コートに身を包んだ大柄の2人の男が店から出てくる。そんな2人組と俺達は、すれ違うには少し狭い階段ですれ違う。その男達は堂々と階段を登ってくるので、俺達が端に寄る事になる。その際とても窮屈な思いをして南部(なんぶ)さんは、「チッ」と、舌打ちをしていたが、その男達は振り返る事なく足早に去っていった。

 南部さんが今の男達への愚痴を漏らす中、俺は扉を押し開けて店内に入る。そこで店に入った瞬間、俺はマスターが放つ険悪な雰囲気を感じとる。

 しかし俺達の存在に気付いてからは、一瞬でその雰囲気が箱に押し込められたかの様に消え失せた。遅れて南部さんが店内に足を踏み入れた時には既に普段の柔和な笑みを浮かべ、優しい雰囲気を纏い直していた。


「いらっしゃいませ。」

 俺は軽く会釈した。

 そしてマスターの手には、飲みかけのコーヒーカップが2つ。金属製の丸型トレーが悲しそうにそれを乗せていた。

 店内には誰もおらず、閑散とした雰囲気の中で俺達はテーブル席に腰を下ろす。南部さんは興味深そうに店内を見渡していた。そんな吟味する様な視線にも手ぶらとなったマスターは嫌な顔一つせずに俺達を遠くから見守っていた。


隼人(はやと)ってこんな店知ってたの?なんか意外。」

「ま、まぁ人伝に、ね。俺も柄じゃない。」

「ふーん。じゃあさ、(かえで)とは、来たことあるの?」

「いやないけど……。」

「なら……」

「なら?」

中条(なかじょう)さんは?」

 俺はその質問の返答に、時間をかけた。それは昨日の2人の雰囲気と南部さんの顔が脳裏にちらついてしまったからだ。


「……あるけど。」

 そして俺が数秒のタイムラグの後にそう言うと、あからさまに眉を顰めて不機嫌な感情を露わにする。「ムッ」とした表情は可愛らしく、表情が思わず緩みそうになるが、俺はメニュー表に目線を落とす事でそれを回避する。


「隼人はなんであんな女と仲良くしてるの?」

 しかし俺はそんな質問をされてピタリと動きを止め、視線をメニュー表から南部さんに引き戻す。


「どうゆうこと?」

 俺はそこで若干の不機嫌さを声に表しながら質問を質問で返す。


「だからぁ、なんであんな女と仲良くしてるのかってことよ。どうせ媚を売って周りに囲って貰ってるんでしょ?あたしもちらほらそういう話聞くし、それにあたしはああいう女は嫌いよ。」

「俺は別に媚を売られているわけではないけどな。だけど確かに彼女の行動はそういった類の物はしていると俺は思ってるよ。でも、別に不快じゃないし、中条さんは嫌いじゃない。それに中条さんは友達だから。」

 俺はそうキッパリと言い切る。元々中条さんが皆と仲良くなる為に、見た目やコミュニケーションを上手くやりくりしているのは知っている。彼女の武器を活用し、どんな人でも簡単に籠絡して自分に好意を向ける様にしているのは、今まで付き合ってきて感じていた。この短い期間ですら、この学年で彼女の事を慕う人の多さは、確実にこの学年でNo. 1だ。

 もはやクラスメイトに至っては中心的人物から精神的支柱にまで昇華している。いづれはクラスメイトに対して向けるのは寵愛になり、彼女からの一方的な飴。彼女に群がる群衆はそれに汚染され、一瞬の依存にまで発展するのではないかという程だ。

 未だそこまでは至ってはいないが、俺には逆の構図に見えていた。そう、中条さんが皆、いや、人に依存しているという事だ。自分から離れて欲しくない、自分を見続けていて欲しいのではないかと俺は思っていた。いや、()が客観的な判断をした結果だった。

 人間は誰しも1人では生きていけない。それゆえ、人は必ず他の人を求めようとする感情が働く。孤独を回避して、人の温もりを無意識的に求める。その感情が彼女は何かしらの理由で増幅され、今の彼女を作ったのだと予想している。

 俺はそんな事を考えてしまうと、彼女を突っぱねる事も出来ないし、そもそも不快に感じていないのだからどうしようも出来なかった。皆とは違う尺度で測っているのは南部さんぐらいなのだろう……いや、()もそうか。

 そして中条さんは、天賦の才、いや、努力して勝ち取った類稀なる才能を遺憾なく発揮し、飴を配り続ける。そんな彼女の世界が知らぬ間に広がり、自分もその世界の住人になる。それは到底気づける事ではなく、死ぬまでそのままなのだろう。

 しかしそれは悪い事なのだろうか?()を振り撒く彼女に対して嫌いだと言う南部さん。飴を配られた側は不快な感情を抱いておらず、寧ろ幸福と言える。そんな事を否定していいのだろうかとさえ思う程。確実に周りを汚染し、無意識的に依存させる。そんな事を踏まえても彼女の事を俺は嫌いにはなれなかった。

 そして俺は真剣な面持ちで南部さんをじっと見つめる。別に南部さんを咎めるつもりは全くなかったのだが、中条さんを悪く言う南部さんに対して、多少の不快感を募らせたのは事実。それが顔に出ているわけでもないのに南部さんには伝わったのか、視線を泳がせ始まる。


「べ、別に隼人を怒らせるつもりなんてないわよ。隼人の目を見ればあの女に汚染されてないなんて直ぐ分かるし。けど、少し心配になって。」

「……南部さんは目を見れば分かるの?」

「えぇ、多少はね。だからあの女が以前見た目と何も変わってなかった時は思わず吐き気がしたわ。それはあの女にも伝わっていたみたいだけど。」

「だから俺にも気づいたんだよな?」

「そうよ。今日話そうとしてたのは、隼人の事。それに楓の事も。」

「楓?」

 俺はそこで首を傾げる。俺はそこで自身の記憶を遡り楓の心身についての情報について入念に調べる。

(楓は失敗作のはず。そのはずだ。もしかして欠如した記憶の中に大切な情報が?)

 しかしそこで単純に楓の闇の一部についての話ではない可能性に気づき、そこで記憶を遡る事をやめる。そもそも身体管理の担当が違ったのだから、知らない事もあって当然だと結論づける。

 そんな事を思っているうちに、俺達のテーブルの横にマスターが立っていた。音もなく忍びよられると昨日の事を思い出すのでやめて欲しい。

 そして考えに耽る俺を見て、呆れた南部さんが注文をする為にマスターを呼んだらしく、先に注文を始めていた。


「ビーフシチューセットとブレンドコーヒーを。」

「ビーフシチューは少々時間がかかりますが、よろしいでしょうか?」

「えぇ、先にコーヒーだけ持って来て。」

「あ、俺もオムライスとブレンドコーヒーで。メインとコーヒーはそれぞれ彼女と一緒に出してください。」

「かしこまりました。」

 そう言い残し、一度会釈してから裏方に姿を消すマスター。そしてコーヒーが届く間、南部さんは人差し指をトントンさせながら退屈そうに待っていた。肘を立て、手を頬に添えながら明後日の方角を見ており、俺と視線を合わさない。

 そんな様子を俺は黙って見つめていた。レトロな雰囲気の中、儚げに待っている南部さんはどこか浮いていた。明らかに異質。煌びやかな雰囲気を漂わせる彼女にとって、落ち着いた雰囲気はあまり合っていないような気がした。そんな風に俺が思いながらじっと見つめるのだから、不満そうにこちらを睨んでくる。


「何よ。」

「いや、なんでも。」

「なんでもないわけないでしょ?」

 俺はそう言われて苦笑いするしかなかった。正面から「南部さんの雰囲気に合ってない」なんて言えるはずもないので、俺としては口に厳重な鍵をかけることしか出来なかった。

 不満を顕にする南部さんをいなしているうちに、コーヒーが運ばれてくる。それを口にする事で先程の不満は吹き飛んだのか、表情が満開の笑顔に切り替わる。


「なによこれ、美味しいじゃない。学校のコーヒーメーカーを渋々使ってたけど、もうあんなのは廃棄処分ね。」

 俺はそれを聞いて思わず吹き出しそうになるが、なんとか堪える事に成功する。コーヒーメーカーによる抽出を嬉々として眺めていたのは南部さんだったはずなのだが。どうやら彼女としては味にはしっかりと不満を持っていたらしい。

 しかしあのコーヒーメーカーを利用している人がどれくらいいるのかが少し気になったりした。

 そして一息ついた南部さんから、話を切り出されることになる……。

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