13-2 2度目のデート?①
俺は今、南部さんの部屋の扉の前に立っていた。待ち合わせはロビーでよかった気がするが、本人がそうしろと言うので仕方なく足を運んでいた。昨日のメッセージには「街中で話がしたい」と、要約すればそんな事が書いてあった。それに至るまでの経緯を俺は南部さんが部屋から出てくるまでの待ち時間で必死に思い出していた。
そして俺は再びパンツとお尻という過去の記憶を思い出したところで南部さんが姿を現す。
「ちょっと、一回中に入って。」
「え、うん?」
俺は怪訝そうな顔をしつつ、促されるまま部屋に踏み入れる。そこには整理整頓された以外、以前と特に変わった様子のない部屋があった。
(もしかしてこれを見せたかったのか…?)
そんな俺の思いが的中?したのか、南部さんが焦り始める。
「ちょ、ちょっと、なんか言う事ないの!?」
「え……整理整頓がされたね。え?」
「そうよ!前回あんたが不満そうに見てたから、あたしにかかれば片付けなんて余裕よ!」
そして俺はその言葉を聞いた瞬間、一度だけ頭を真っ白にしながら何も言う事なく踵を返す。その直後に南部さんが喚き散らしていた気がするが、俺は気にせず部屋を出た。
俺が部屋の外で少し待っていると、綺麗な翠眼を潤わせ、少し涙目になった南部さんが今日も今日とて輝かしい金髪をなびかせながら姿を現す。そこで俺は思わず舐め回す様に南部さんを見つめる。
7部袖で白のスウェットワンピースに紺のデニムジャケットを羽織り、黒のスニーカーを履き、体の前で黒のショルダーバックを肩から掛けていた。
以前の様なラフな格好でも似合っていたのだが、やはり元々の端正な顔つきと、モデル顔負けのスタイルを持ってすれば似合わない格好などないのだろう。そんな事を感じさせる程、南部さんは可愛く見えた。
俺が言葉を失っていると南部さんが俺の視線に気づき、佇まいを直す。
「あ、あたしだってオシャレくらいするわよ。」
そんな艶かしいピンク色の唇をもぞもぞと動かして呟かれた言葉を聞いて心臓を一度だけ跳ね上げさせる。なんとか正常な鼓動に一瞬で立て直すが、もじもじと体をよじり、恥ずかしそうにしながらも「どう?…なんか言いなさいよ…。」と、上目遣いで南部さんから言われた瞬間に、俺は一目散にこの階のエレベーターに向かって歩き出した。
このままでは南部さんに欲望のまま全てを求めてしまう野獣になってしまいそうだった。この前のパンツと艶やかなお尻を思い出してしまった事と、先の天然混じりの行動も加味され、俺の心臓は破裂寸前だった。
いや、それはかなり誇張表現だな。
とりあえず男として女の子に背を向けて逃亡するなどととてもだが恥ずかしい行為だったが、今の俺には脇目も降らず逃げる事しか出来なかった。それ程南部さんは魅力的過ぎた。結局エレベーター内で一緒になるのだから意味のない事ではあるのだが。
南部さんはエレベーター内で追いつくと、俺の腕にしがみつき、「ガルル」と獲物に飢えた肉食獣の様に唸っていた。俺に逃げられた事が余程癪に触ったのか、「もう離さないぞ!」との意思がひしひしと伝わってくる。
「ちょっとなんで逃げるのよ!そ、そんなに似合ってなかった……?」
俺はその語気を荒げた後の弱々しい声を聞き、思わず本音を漏らしてしまう。
「いや、似合い過ぎてて、とにかく可愛……。」
俺がそんな事を口走っている事に気づき、直ぐ様手を口に当てたのだが、既に手遅れだった。南部さんは「プシュー」と音を立てて微動だにしなくなった。顔を俯かせており、表情は読みとれなかった代わりに、耳が真っ赤に染まっているのを見てしまった。
そして2階から1階への移動なので一瞬でロビーに到着する。俺達はぎこちない歩みで寮から出る。幸いロビーに他の生徒の姿はなかったが、俺達の様子を見ていた清掃員のおばさんに、クスクスと笑われはした。
南部さんは俺の腕から何故か離れようとしなかったので、俺は「煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散」と、頭の中でブツブツと呟いてなんとか理性を保っていた。
結局俺の腕から離れるのに、3分程時間を有した。俺は南部さんが意外と耐性がない事に驚きつつ、苦笑いを浮かべながら歩いていた……。
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俺達が向かったのは、俺の中で定番になりつつあるカフェカリブだった。その道すがら、前回の悲惨な事件の中心地であった倉田駅の近くを通り過ぎる。
あの事件はテレビニュースなどでも大々的に報道され、315名の死者も出した事もあり、軍と警察は世間から糾弾されていた。そこにはかずさんの姿も写っていたのを俺は覚えている。
俺がそんな事を思い出していると、ふと俺の奥底をどこからか見られている感覚に陥る。俺は直ぐ様ばっと辺りを見渡すが、どこにもそれに該当する人物は見当たらなかった。
「どしたの?」
「いや、なんでもない。多分俺の気のせいだ。」
「なにそれ、へんな隼人。」
すっかり普段の調子を取り戻した南部さんに呆れた様にため息を吐かれる。結局そんなねっとりとした視線は、カフェに到着するまで注がれ続けた……。




