12-8 桜花と黄金が齎す厄災
今日の部活も恙無く終わるが、先輩達が部活を延長するつもりだという事は元々知っていたので、1年生メンバーだけでのお昼のプチお食事会になっていた、はずだったのだが、先の一件で女子達から一方的にお断りされる事になってしまった。
それに憤慨した勝也と三神は弾かれる様に真っ先に帰宅したのだが、俺はそのまま食堂で食事を摂る事にしていた。
神無月さんと春雨さんは2人で弁当を食べるらしく、既に姿はない。春雨さんの様子が少し心配だったが、神無月さんがなんとかするだろう。
そんな状況になってしまったので、俺は久しぶりに中条さんとの2人っきりでの食事になった。
中条さんは俺への誤解が直ぐに解けると、普段通りに接するのは彼女の美点だろう。ぎこちなく接されると余計気を遣ってしまうので、ありがたい事だった。
しかしそんな俺達2人の空間をぶち壊す様に新たに乱入してくる戦士がやってくる。うっとりする程に淡いピンク色と輝く金色は、見る人が見れば瞬く間に目を奪われ、その人物の虜になってしまうだろう。
「あれ?隼人に桃ちゃんじゃない。もしかして2人で食べてるの?」
「げ、楓……。」
「え、楓嫌われてるじゃん、げって、ププッ。」
「ちょっとヒカリ何笑ってんのよ!」
そんなやりとりを唐突に始めるものだから中条さんが目を白黒させて困っている。楓は憤慨し、南部さんが失笑している。このままでは事態の収束が難しくなるので、さっさと椅子に座らせる事にする。
「はいはい分かったから、とりあえず座れって……。」
俺が席を立ち、中条さんの隣に移動しながらそう言うと大人しく対面の席に座る2人。意外にも従順な様子に中条さんだけでなく、俺も驚いてしまう。2人は啀み合うのはやめそうになかったが、とりあえず良しとしよう。
そうして2人は睨み合いながらも、仲良く?荷物を残して食事を選びに行く。なんやかんやいっても2人は気が合うのかもしれない。
そんな中、2人が残していった荷物をじっと見つめて中条さんが口を開く。
「隼人君、もしかして気を使ってくれたの?」
「え?」
「さりげなく私の隣に座り直したからさ。私と楓ちゃんとヒカリちゃんとの仲を一応配慮してくれたのかなって。」
「あー、いや、特に考えてなかったかな。馬鹿2人を一緒にさせとけば余計な被害は出ないかなって。」
俺は苦笑いを浮かべながらそう答えたが、中条さんは納得していない様だった。俺としては中条さんに配慮したと言うより南部さんに配慮したのだが、そんな事を言えば余計ややこしくなるので、その事を伏せていた。
中条さんは目を細めてジトッとした目を俺に向けてくる。とりあえずその顔はめちゃくちゃ可愛くて、形容しがたいものだったので、俺は思わず息を呑む。
そして俺は観念する事にして、嘘を混ぜた真実を話す。
「中条さんが2人に対して抱いてる印象を知らなかったから、一応だよ、一応。」
俺がそう言うと満足したようにニコリと微笑む。やはり中条さんはずるいと思う。俺はそんな視線を受けて恥ずかしい気持ちを紛らわせる様に頭を掻く。中条さんはそんな俺を見て、指先で髪を弄りながら、ボソリと呟いていた。
「どんな些細な事でも配慮するのは、なかなか出来る事じゃないよ?」
俺はその言葉が耳に届かなかった事にした。どうして疑問形だったのか気になったりもしたが、その好奇心をグッと堪える。そもそも先の俺の対応としては、2人を席に座らせないのが1番妥当な気もしていたが、そんな事は過ぎた今になってはどうでも良い事だった。
そして俺は1番重要な事を頭から抜け落ちていた。美少女3人に囲まれて食事する事の意味を。
そんな周りの目線を露知らず、2人が戻ってくる。
そして南部さんが席に着こうとして、中条さんと目が合っていた気がした。2人の目線の中間で発生する火花を、俺は幻視する。俺は思わず目を擦り、今見たものは真実だったのかを確認しようとするが、次に目を開けた時には既に中条さんと南部さんとの目線は切れていた。2人が正面に座っている訳でもなかったので、特に問題は起きないだろうと思っていたし、人付き合いのプロフェッショナルの中条さんなら上手くやってくれるだろうとも、期待を寄せていた。
そんな中、楓が至極当然の様な疑問をぶつけてくる。
「なんで隼人は桃ちゃんと2人っきりだったの?」
「あぁ、説明すると面倒なんだけど、色々あってさ。」
俺はその質問が予測されたものではあったのだが、いちいち説明するのも面倒だったので、濁して答えた。すると楓の目が細められ、じっと俺を見詰めてくる。俺はそこでさっと顔を背けて何も見なかった事にした。
しかし楓はそこで終わらせるつもりは毛頭ないらしい。
「色々、ねぇ?私気になるなぁー、ねぇ隼人?何?色々ってさ。」
「……楓ちゃん、よかったら私から説明しよっか?」
「え?」
その「え?」とは俺が思わず出してしまった声だった。楓の俺を責める様な冷ややかな声を無視するつもりだった俺にとって、それは予想外の出来事だったからだ。俺はしげしげと中条さんを見詰めると、中条さんは俺に一度ニコリと微笑んでくる。「私に任せて!」と、言わんばかりの眩しい笑顔だったが、とても心配になったのは俺だけだったのだろうか。とりあえず説明を任せて食事に手を伸ばそうとするが、直ぐにその手は止まってしまう。
「まぁ要約すると、隼人君が好みの女の子を、巨乳、ボブっ子って、答えたんだよ♪」
「「「……?」」」
中条さんを除く3人はピタリと動きを止める。皆は困惑の表情を浮かべる。そもそも事実が改変されている上に端折り過ぎているので、2人に意味が伝わったのかも怪しい。
しかし中条さんはニコニコしたままで、追加の説明はないようだった。中条さんの口から恥ずかしそうに巨乳と口にした時には耳を疑ったが、直ぐに別の考えで頭の中を塗り替えられていたので、俺の記憶には残らなかった。
そして、放心状態から抜け出した楓が慌てふためき始める。
「え?え?どどどどどうゆう事!?」
「つまり、隼人君の好みの女の子を隠さずに言うもんだからさ、元々皆でここに集まる予定だったけど、他の子達は呆れて帰ったの。」
「いやいや中条さん、確かに流れとしてはあってるところもあるけど、根本的に違う事を話してない?」
俺は流石に見兼ねて口を挟む。好みの女の子を公言したのは勝也と三神だし、そもそも俺の好みは口にしていない。少し照れながら話す中条さんに俺は見兼ねて軌道修正を図る事にした。
そんな中、南部さんは口をあんぐりと開け、同年代に比べたら貧相な双丘を悲しそうに両手で覆っていた事は、見なかった事にした。
しかし中条さんはこの茶番をまだ続けるつもりなのか、体をクネクネさせながら、色っぽい視線をわざとらしく俺に向けてくる。そんな事をするもんだから、沸点をあっさりぶち抜いて楓がキレる。俺だけに。
「はーやーとー!ボブっ子って、まさかねぇ?」
楓はそういいながら「ギギギ」と、聞こえてきそうな程ぎこちなく首を傾げる。あの錆びついた機械に油をさしてやってくれ。
それに顔は笑っているが、溢れ出る怒気によって全く安心出来る表情に見えないのが、恐ろしいところだ。
そして俺が楓の背後に鬼神を幻視した直後、楓の手元が霞む。
その直後。俺は高速に飛来する金属製のフォークを、眼前で掴み取る事に成功する。もはや先に手が出るのだから恐ろしい事だ。
とりあえず眼球にフォークが刺さるなどという誰も見たくないであろう悲惨な光景は回避したが、楓の怒りはまだ鎮まっていないようだった。何をそんなに怒っているのかは不明だったが。
しかし楓は顔面蒼白状態の中条さんを見て、冷静さを取り戻した様だ。俺は楓にフォークを投げられたのは初めてではなかったし、軍の俺達の部隊では少し過激な程度の戯れだったので簡単に対処したが、中条さんや南部さんからすればとんでもないやりとりだっただろう。
そして鉛玉が飛んで来なかっただけマシという考えを持っていた俺も大概だろう。それに瞬く間に起きた出来事なので、他の人達に見られていなかったのが、せめてもの救いだろう。
しかし南部さんは俺が飛んでくるフォークをあっさり掴み取った事に驚いている様だった。警戒する様に目を細め、じっと見詰めてくる。訳の分からないところで実力の片鱗が露呈するのは予想外だったが、仕方ない事なので、気にするのもやめた。
とりあえず血の気が戻り、普段の様子に戻り始めた中条さんの様子が気になっていた俺は意識を引き戻す。
「俺が言うのも変だけど大丈夫中条さん?」
「へ?あ、うん。その、なんかごめんなさい。」
「ううん、気にしないで桃ちゃん。私も悪かったから。」
俺に一度軽く返答し、楓に対して思わず出てしまったような謝罪の言葉に楓も罰が悪そうに答えていた。結局それがきっかけで中条さんの口から真実が話され、誤解は解けた。
元々仲が良かったのか、そのまま意気投合する2人だったが、南部さんは俺の言葉に曖昧な返事を返すのみで、終始不機嫌なままだった……。




