12-2 作戦会議③
俺は気を取り直して自身の弁当に手を伸ばす。そんな中、俺はふと最近の事を振り返ると、思うところがあった。
それは神無月さんの人に対する接し方が、大分柔らかくなった事についてだった。まぁ春雨さんに対してだけなのだが。
常に無表情、物言いも淡々としたものだったが、春雨さんには笑顔を見せたり、楽しそうにお喋りしているのを、部活中で何度も見かけた。普段も2人で昼食を摂っているみたいなので、随分と仲が良い様子だ。
俺がそんな2人を微笑ましく見詰めていると、神無月さんに小動物を意図もたやすく殺せてしまいそうな目つきで睨まれるが、最近ではそれも慣れてきていた。そんなものに慣れてどうするのかと少し悲しくなってくるが、そろそろ本題に入ろうと思い、俺から話を切り出す。
「春雨さん、試験の事についてなんだけど、いいかな?」
「あ、はい。私からも訊きたい事があったので。」
「なら、ちょうどよかった。俺が聞きたかったのは、春雨さんの事とBクラスの現状を聞きたかったんだ。」
すると春雨さんはニカッと太陽の様に眩しく笑った。
「私の事なら解決しましたよ。三神君と、今日の午前中に申請してきてペアにも既になりました。」
「そうなんだ。でも、なんで三神と?」
俺が以前聞いた時にはペアが出来ていなかった春雨さんだが、どうやら今日ペアが出来たらしい。
そして俺はペアの相手に三神が選ばれていた事に対して疑問に思った。あいつは運動能力が高い訳でもない、寧ろ低い部類に入るだろう。そんな俺の考えが分かっていたのか、春雨さんは言葉を詰まらせる事なく返答する。
「三神君は確かに他と比べると運動能力は低いんですけど、優秀な頭脳があります。作戦立案を任せたかったんです。それに本人曰く、異能にも多少自信があるそうなので。
まだ異能使用については明記されていないですけど、恐らく必要になってくると私は睨んでいるんです。それに、まともに話せそうなのが、クラスでは三神君、だけで……。」
とても春雨さんらしい考えに俺は納得する。
春雨さんなりに考えてのペア組らしいが、最後の掠れる様に聞こえて来た悲しい言葉は聞かなかった事にした。
そして三神の頭が良い事は初耳だった。元々知的な雰囲気を醸し出してはいたが、実際どうなのかは知らなかった。異能に関してもそうだ。これに関しては本人の自己評価らしいが、Bクラスに配属されていると考えると、それは嘘ではない事が直ぐに分かる。運動能力をカバーする異能と頭脳。これが評価された結果、Bクラスなのだろう。
そして春雨さんの運動能力の高さは既に知っている。そのポテンシャルを三神の作戦によって遺憾なく発揮さえすれば十二分に恐ろしいペアになるだろう。
「それに三神君は何故かとっても嬉しそうでした。私がお誘いした時、とても取り乱していたんですけど、直ぐに嬉しそうに笑ってくれたので、私も一安心です。」
春雨さんはどうやら不安だったようだ。断られたらどうしようという気持ちでいっぱいだったのだろう。それにしても三神の喜ぶ姿が簡単に想像出来てしまったのが、個人的には面白いところだった。後で三神を茶化す材料を手に入れた俺は、それを表情に出す事はせずに話を続ける。
「とりあえず春雨さんのペアが決まってよかった。」
「はい、とりあえず一安心です。でも新海君はまだペア決めていないんですよね?」
「うん、そうだね。上手く相手が見つからなくてね。明日までには決めるつもりではいるけど、いい相手が見つかるかどうか。」
「そうですか、新海君なら大丈夫だと思うんですけど、やっぱり少し心配です。」
俺は頭を掻きながら誤魔化していたのだが、春雨さんの俺を心配してくれている表情を見ていると、騙している事に胸が苦しくなる。悪意があってそうしている訳ではなかったが、春雨さんの善意に甘えている気がして、少し嫌な気分になっていた。
しかしペアを決めあぐねているのは事実だった。俺自身最悪ランダムでもよかった。それはランダムによるペナルティは特にないはずだからだ。
そして俺は今回、同クラスの落ちこぼれの救済をするつもりでいた。おこがましい事をしようとしているのは分かった上での行動だ。
このクラスは短期間ながらもクラス内での実力差が露呈していた。それは正しい尺度で測られたものではないが、参考には値にするものだ。自信のあるものは早めに行動し、優秀なペアを見つけようとする。自信があるからこその余裕の態度で最終的に残る人もいるだろう。なので俺はそれに当てはまる事のない、言い方は悪いが余り者達とペアを組む気でいた。
そして俺としては同世代との争いでは負けるつもりはなかった。それは自信過剰でもなんでもない。俺は幼少期から戦闘に関しては極めてきた。長年の努力の末、得てきたものだ。これは揺るぎのない事実であり、俺の常識だった。だからこその今回の行動だ。俺は実力を見せびらかしたい訳でもない。
しかし自身を高く評価してもらいたいという思いも当然ながら存在する。それを押し込み、クラスメイトの為にサポートに回る。エゴで塗り固められた単純な考えをしていた。
そんな俺の考えにうすうす勘付いたのか、神無月さんはこちらをじっと見詰めてきた。
「足をすくわれないようにしなさいよね。」
「……あぁ、そこまで自惚れていないよ。」
「え?どうゆう事ですか?」
「いえ、なんでもないわ。新海君が度を超えた馬鹿で、かなりのお節介という事を再確認しただけよ。」
「え、つまり?」
「馬鹿にしたのよ。」
俺はその神無月さんの発言に、苦笑いを浮かべるしかなかった。神無月さんは俺に対して呆れた様にため息を吐く。春雨さんは意味が分からないといった風に首を傾げ、キョトンとしていた。
「ま、まぁ、それは置いて、Bクラスはどうなの?現状。」
俺はそれ以上触れて欲しくない事だったので、直ぐに話題を切り替える。そんな俺の言葉を聞いて神無月さんは目を伏せ、春雨さんは考えが纏まるまで少し考え込んでいた。
「私達のクラスでは今回の試験、クラス内対抗ではなく、クラス別対抗と既に決めつけている節があるんです。それならBクラスである自分達が焦る必要はないと、楽観視しているんです。私はそんな事をしていると、簡単にポイントを失う気がしているんですけど、どうなんですかね?
勿論一部の人は事態の重要さをアピールしているんですけど、大多数の人が様子見をするべきだと言っているんです。ポイントがあるからこその立ち回りも重要だという事は分かるんですけど、私はどうしても納得出来なくて……。」
「確かに安全マージンを取ったやり方は維持には向いると思う。今回は全てが初めてで分からない事が多い。多少のポイント減少を食らってでも、大きな損害を出さない方が需要だと考えているんだね。」
「はい……。」
春雨さんは顔を俯かせ、自身の考えを振り払う様にして、首を横に振っていた。
この場では既に異能実習試験はクラス別対抗になるという考えの元、話し合いが進められていた。そんな中、神無月さんも口を挟んでくる。
「確かにそれはEやDクラスには出来ない作戦ね。AやBの所持ポイントが多いクラスならではの作戦は既に勝ち得ている有利を活かしたものだし、私は良いと思うわ。
しかし言ってしまえばそれは、全クラスの能力が全て同じ場合の話ね。学校側から能力の差でクラス分けされている以上、AやBが苦戦するの……なら……。」
そこで神無月さんは顎に手を当てて黙り込んでしまう。神無月さんもやっと気づいたみたいだった。この試験の先のおおよその展開が。
春雨さんは神無月さんをじっと見詰めて不思議な顔をしていたので、俺は神無月さんの代弁をする事にした。
「生徒1人1人の能力的にクラス分けされている以上、AクラスとEクラスが正面から対峙するとどうなると思う?」
「え、それはもちろんAクラスが有利に事を運ぶと思います。でも、団体戦なら個人の能力もある程度無視出来ますよね?」
「うん、そうだね。1対1では勝ち目は薄くても、団体での勝負なら、作戦やチームワークによって覆す事が可能だ。
しかし今回はペアでのバトルロイヤルだよね?それってほぼほぼ個人競技と変わらない。厳密に言うなら大きく変わってくるんだけど、まぁ大きく分けるなら個人の能力が大きく戦況を左右させる。つまり、AやBクラスの生徒が個人の能力で苦戦を強いられるなら、EやDのクラスなんてお先真っ暗なんだよ。
つまりこのバトルロイヤルは何かある。下位クラスでも対等に勝負が出来る様になっているはず。それは何かは分からないけど、予想はつく。今回だと、他クラスのペアとの共闘や、入学時に評価された3つの能力以外を必要とされる事。
要するに、やり方次第では下位クラスは上位クラスに爪痕を残せる可能性が大いにあり、上位クラスは守りだけに徹している場合ではないという事だね。
これは再確認なんだけど、先輩達から聞いた限りだとクラス内だけでの試験の線も切れた。絶対とは言えないけど、クラス内だけで争わせる意味がないから、99%全クラス対抗試験だよ。まぁ、終盤ならまだしも序盤からクラス内での蹴落としに耐えれる生徒はそんなに多くないからね。」
春雨さんは俺の話を聞いて、口を開けながら黙り込んでいた。いや、言葉が出ていなかった。口をパクパクさせて言葉を必死に絞り出そうとする姿は可愛らしくて思わず、表情が緩みそうになるが、無理やり表情を引き締める。
「新海君、あなた最初から気づいていたわね?惚けるなんて、騙されたわ。」
「俺も確証がなかったから言わなかっただけだよ。先輩達の話を聞くまではね。夏威も気づいていたみたいだから、あの2人のペアには注意したほうがいい。ペアも南部さんだから、恐らくこの学年で最強ペアだよ。」
そんな俺の言葉を聞いて眉を顰める神無月さん。じっと俺を見詰めてきて、何か言いたげだった。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないわ。あなたが本当にそんな事思っているのか甚だ疑問に思っただけ。」
その発言は恐らく先の夏威の一件絡みだろう。俺が夏威を軽くあしらった様に見えた神無月さんからすれば、俺が夏威のペアに下した評価は、嘘の様に聞こえたのだろう。
実際俺自身、夏威単体でもう一度再戦するならば、負ける気は一切しない。
しかし今年主席の南部さんの実力が未知数な以上、俺としても夏威のペアは警戒に値するものだった。もっとも警戒する必要ないペアなんて存在しないのだが。
そんな事を考えている内に春雨さんが、今の状況に追いついたのか、俺に尊敬の眼差しを向けていた。
「凄いです新海君!全然気づきませんでした。これも山籠りの成果ですか!?」
「あ、いやー、そう、かな?あはは……。」
俺は視線を泳がせながら答える。俺としては春雨さんの中で俺の山籠り設定がまだ生きていた事に驚きだった。神無月さんはそれが嘘だという事を知っているので、顔を背けて必死に笑いを堪えていた。
そして春雨さんは俺の発言によって水を得た様に思索に没頭し始める。既に昼休憩も終わりに近かったので、俺達は既に食べ終わっていた弁当を片付けて、春雨さんに一度声掛けをしてそこでは解散となった……。




