11-8 ペアの攻防①
神無月さんは俺に用があるみたいなので、先輩達3人とはファミレス前で解散する事になった。手を振りながら先輩達の後ろ姿が見えなくなったところで神無月さんが口を開く。
「少しスーパーに寄ってもいいかしら?新海君には護衛として付いて来てもらうわ。」
「は?」
「冗談よ。あ、スーパーは本当に行くし、新海君には勿論付いて来てもらうから。」
俺は神無月さんの珍しい冗談に対して、間の抜けた声を出してしまったが、特に追求される訳でもなかったので、そのまま冗談は流れていく。神無月さんは少し恥ずかしかったのか、黙って早歩きでスーパーへと目指す。その間に俺達の間には会話が発生する事はなかった。
そんな早歩きの結果、直ぐにスーパーへと辿り着いた。入り口で買い物かごを片手に持ち、食材を選び始めた神無月さんを意味もなく眺めていると、(ちなみに俺は神無月さんのスクールカバン持ちをさせられている)食材に話し掛ける様に神無月さんは喋り始める。
「あなた体、大丈夫だったの?」
「え?……あ、うん。」
「そう。」
俺は最初こっちを見て話す訳でもなく、唐突な話で内容も掴めず、理解するのに時間をかけた。恐らくだが、昨日の怪我についての心配をしてくれたのだろう。多分。
「今日は部活で激しいトレーニングを普通にこなしていたから、少し気になってね。」
「それは、午後には骨も完全にくっついていたから、心配いらないよ。無駄に頑丈に出来てるからね。」
「治りやすい肋骨っていっても、1日で完治するなんて「ただ頑丈だからです。」と言われて納得出来ないと思うのだけれど。刺された傷も昨日のうちに塞がっていたみたいだし。」
相変わらずこちらを見て話してくれないが、確実に俺の嫌なところを突いてくる。傷は完治したはずなのに、蒸し返す様にズキズキと痛んでいる気さえした。俺が怪我をしたのを知っているのは楓と竜星と神無月さんのみ。俺は怪我した事を隠していたので、恐らく他の人には気づかれていないはずだ。俺の異常な程の自然治癒能力に気づける可能性があるのは神無月さんと竜星(楓は知っているはず)のみ。神無月さんには薄々気づかれてはいるが、詮索はあまりしてこないので、結局真相にたどり着く事はないだろうと、俺は思っていた。
そこで急に振り向いてきた神無月さん。普段のつり目は相変わらず、それ以外は無表情。でも眼差しではしっかりと俺を射抜く。そんな事に俺は嫌でもドキドキさせられてしまう。
それに何故か顔を近づけてくる。俺は思わず体をピシッと硬直させる。まさに岩石の様にカチコチになった俺の顔に、神無月さんの顔が近づいた事により、俺の心拍数は更に跳ね上がる。神無月さんに心臓の鼓動が聞こえていないだろうかと少し心配になる。
そして神無月さんは俺の耳元に、麗しい唇を近づけて、小声で囁く。
「新海君の異能は再生復活系統の時間逆行あたりじゃないかしら?」
それを言い終えると直ぐに俺から離れる神無月さん。俺は離れていく事を少し残念に思いつつも、神無月さんの返答に困り、とりあえず否定をしておく事にした。
「違うけど……。」
「そう。」
「え?どうゆう事?」
「……あなたの異能を予測しろって言ったのは新海君じゃない。だから私なりに考えて結論を出したまでよ。」
そう言って歩き出した神無月さん。俺は神無月さんのその言葉を聞き、何を言いたかったのかを理解したので、続きを聞くために黙ってついて行く。神無月さんはキョロキョロと辺りを見渡しており、それは食材を見つけるのではなく人を見ていたので、人気のあまりないところを探しているのは、直ぐに分かった。
俺達は有名高校の制服を着ており、男女の2人組だという事も加味され、どうやっても視線を切る事は出来なかった。神無月さんはため息を吐き、妥協したのか果物売り場で足を止めた。話す内容が異能に関してなので注意を払っているのか、小声で喋り始める神無月さん。
「まず今回の治癒速度を見て、異能での作用によって修復を図ったんじゃないかと思ったわ。直ぐに再生復活系統までは絞る事はしなかったけれど、あなたの戦闘能力を見て、単純に治癒能力を底上げするものではないと思ったの。
そしてあなたは異能の練習の際に、私に2つの干渉力を行使させたわよね?それはあなたが実際に昔行っていたって言っていたわ。つまり、物体干渉力は確定として、空間干渉力か人体干渉力のどちらかを使用した事になる。
そこまで考えて思ったのだけれど、以前私と決闘した際に、あなたは異能を使うまでもないと言っていたわよね?それって実際は使ったけど、私の人体干渉力の抵抗力が高くて、異能を使う事が出来なかったのではないかと考えたのよ。それに自身の肉体に干渉して直接治癒した方が都合が良いと思ったのよ。環境を変化させて間接的に自然治癒能力を向上させるよりも確実的だし、ガラス玉を操作した事を考えると、そう考えるのが妥当だと思ったのよ。
でもこの考えには不自然なところが2つ。まず1つ目に以前あなたが私の人体干渉力の抵抗が高い事を知った時、驚いていたわ。私の目にはそれが演技には見えなかったし、演技する意味もない。例え演技をしていたとしても、今回の様にあからさまな治癒行為によって異能の使用を見せびらかす様な適当な行為は、あなたならしないと思ったわ。演技するならそれに合わせる様に自然治癒に身を任せると思ったし、行動が明らかに変だわ。
それに2つ目。春雨さんに聞いたのだけれど、新海君も抵抗力が高いみたいね。それはつまり自身の異能も効き辛い事を意味指すわ。私には効かなくて、自分には効くなんて代物でここまでの治癒スピードは出せないと思ったの。
この2つの矛盾点を加味して、これを伝えるのを躊躇ったのだけれど、とりあえず1回目はこけてみようと思って、訊いてみたのだけれど、どうかしら?」
俺はそこで少し迷う。とりあえず不自然に思われない様に買い物の素振りを続けて俺は自身の中で出したアドバイスを伝える。
「まず予想の組み方は良かったと思う。俺がとった行動を元に考えているところは評価出来る。でもそこに不確定要素を入れ、そもそも大前提を間違えてしまったら、異能を突き止めるのはまず不可能だ。それに2つの矛盾点は一応解消出来る。俺も異能使用の片鱗しか見せてないから、ミスをするのも当然だよ。
確かな情報のみを使い、前提を間違えない事からだね。予測した上での可能性を考慮するのはいいけど、それを真実にすると、想像が創造になってしまう。」
「そう、まだまだみたいね。また一から考えて見るわ。それに時間逆行なんてもの、幻の存在だものね……。」
そう言って歩き出す神無月さん。正面からぶつかって行く、素直で真っ直ぐなところは神無月さんのいいところだ。俺はそこで表情を緩めそうになったので、口元を抑える。首を横に何度か振り、雑念を払い歩き出す。
神無月さんは人体干渉力の抜け道を知らないみたいだし、ガラス玉を止めるだけなら数千、数万といった異能の数々で可能なのだ。
そして俺の自然治癒を異能によるものだと思っている内は、真実にたどり着く事はないだろう。それに最後の言葉は少し気になったが、直ぐに俺の記憶からは消えてしまった。
俺がそんな事を考えている時に、奥の魚コーナーで淡いピンク色の髪の少女が目に入る。それはどこからどう見ても楓だった。
神無月さんはまだ気づいていないみたいで普通に2つの食材を吟味している。俺はさっと顔を背けながら楓の視界からスッと外れる。その俺の少し変な動きを見た神無月さんは首を傾げていた。別にこそこそする必要はなかったのだが、なんとなく2人っきりの状況を見られるとまずい事になると思ったからゆえのその行動だった。
しかし楓に気を取られていた俺は、別の刺客から声を掛けられる。
「あれ?隼人じゃん。まーたお買い物?」
俺はその声の方をバッと振り向く。その人は南部さんだった。俺があまりにも凄い勢いで振り返るので、驚いて「うへっ」と、思わずといったように声上げていた。
そこで神無月さんも南部さんの存在に気づいたのか、食材を見ていた顔を上げて、南部さんを見詰める。
そして普段通りの無表情だった神無月さんは、背後から現れた人物によって冷静さを失い、目を泳がせ始めた……。




