11-7 部活内情報収集
俺達は今日の授業と部活を恙無く終えた後、ファミリーレストランで夕食をとっていた。俺達はテーブル席を5人で囲んでおり、メンバーは俺と神無月さん、鷲川先輩と遠藤先輩に加えて町田先輩。
元々俺は町田先輩を誘うつもりはなかったのだが、一応3年生としての意見も聞きたいとの神無月さんの判断もあり、この様なメンバー構成になっているのだ。
この集まりは珍しく神無月さんの提案で集まっていた。春雨さんも誘ってはいたのだが、丁寧に断られた。恐らくだが、先輩に迷惑を掛けないようにとの判断だろう。春雨さんにはBクラスの状況を聞いておきたかったのだが、それはまた今度という事になった。
そして俺は今、神無月さんと町田先輩に挟まれて座っていた。町田先輩はコの字型に座る為の椅子があるにも関わらず、俺の隣に座ってきた。そのせいで少し、いやかなり狭くなり、神無月さんが不満を告げる様に俺をじっと睨んできていた。口をパクパクさせ、アイコンタクトでも必死に俺に訴えかけてくる。俺は「町田先輩に席を移動してもらうように言ってくれないかしら?」とのメッセージを読唇術で読み取ってはいたが、それを言い出せずにいた。
結局その座席のまま、本題に入る。俺は座席の文句を言えなかった代わりに、話を切り出す事にしたのだ。
「あの、少しいいですか?先輩達の最初の異能実習の試験はどんな内容だったんですか?」
俺達は今まで楽しく会話をしていたが、俺の一言で全員顔つきを変える。普段おちゃらけている姿をよく見せる遠藤先輩ですら、真剣な顔つきに変わっていた。町田先輩は自身のジュースのコップを揺らしながら、何処か遠くを見詰めていた気がした。その代わりにではないが、鷲川先輩が返答する。
「新海達もついに始まっちゃったかー。」
「そうですね。試験も査定も始まりましたね。俺もまだ、それを目にした訳でもないのでいまいちよく分かってないんです。所持ポイントがゼロになると退学。そんな生徒は実際どれくらいいるんですか?」
「その学年にもよるんだけどな、俺達の学年はまだ4人で済んでる。」
「私の学年は17人。1年生の時に15人退学になったわ。最初でこけてズルズル、とね。それに大半がEクラスの人だったけど、Aクラスで退学になった人も1人だけいるわ。」
「そう、ですか……。」
俺は予想していた以上の数字に少しだけ気が重くなる。そんな沈鬱な空気になりかけるが、それまでジュースに口をつけていた遠藤先輩が気にする素振りを見せずに、口を開く。
「私達が1年生の時の最初の試験は、クラス対抗の陣取りだったよね?今はもう慣れたけど、初めてスタンバトンを当てられた時の感覚は今でも忘れられないかな。」
そう言いながら、遠藤先輩がわざとらしく体をくねらせており、それを見た皆の表情が緩み、少し空気が軽くなる。町田先輩は渡されたバトンを引き継ぎ、空気を壊さない様に悠然と話を続ける。
「私の時はバトルロイヤルだったわよ?」
「確か太陽さんとペアを組んで、最後のワンペアまで残ったんですよね?」
「「そ、その話を詳しく!」」
俺と神無月さんは食い入る様にハモらせながら町田先輩に詰め寄っていた。神無月さんも珍しく必死な様子でそれを意外に感じていたが、必死になるのも当然な事だと思いあまり気には止めず、直ぐに忘れていった。
そして町田先輩はあからさまに取り乱す事はしなかったが、俺達の勢いに上体を仰け反らせ、目をぱちくりと動かしていた。それでも直ぐに冷静になり、普段の優しい笑顔を浮かべる。
「クラスで2人1組のペアを作って、周りは全て敵の状態だったわね。完全にバトルロイヤル形式で、最後は神宮寺君のペアだったんだけど、あの時はよく勝てたと思うわ。それ以降は全部負けちゃってるし。」
「え、神宮寺会長に勝ったんですか?」
俺が素直に感じた疑問をぶつけると、町田先輩は苦笑を浮かべる。
「そりゃあ、文字通り無敵の神宮寺君も最初から敵なしだったわけじゃないからね。Aクラスからのスタートではあったけど、彼自身の努力もあって今の実力を手にしてるのよ。」
「そうなんですか、俺も初めて知りましたよ。」
「博隆君が知らないのも仕方のない事だと思いますよ。一度の敗北、それも右も左も分からない初戦なんて、後の大きな活躍で掻き消されちゃってますから。」
「でも優佳先輩も、渡辺先輩も十分やり手だったって事ですよね?だってその初戦で勝利をもぎ取ったのは優佳先輩ですし。前々から実力はある程度知ってましたけど、なんか意外です。」
「確かに……。」
俺が遠藤先輩に共感を示しつつ頷くと、町田先輩はジトっとした目を向けてくる。俺はそれを見て見ぬフリして、神無月さんを見る。先程から会話に参加しないで(一度だけ喋りはした)ずっと黙っていたのだが、俺の視線に気づいたのか、顔をこちらに向けてくる。
「何かしら?そんな間抜けな面を向けないで欲しいわね。」
「いや、神無月さんから誘ったのに、結構静かにしてたから、気になって。」
さらりと吐かれた毒は、さらりとスルー。
「私が今日確認したかったのは、どんな作戦を行ったのかとルールの確認。それに異能の使用についてもね。私から何かを発言しにきたわけではないわ。」
目を細めて少し不機嫌そうな神無月さん。そんな中、俺越しに顔をひょこりと出して神無月さんの様子を伺う町田先輩。
「曜ちゃんはやっぱり新海君とペアを組むの?」
そんな質問に軽く首を横に振り、返答する神無月さん。
「いえ、寧ろ倒したい相手です。町田先輩は私達の試験の事、新海君から聞いたのですか?」
「えぇ、部活の合間にちょこっとだけね。現段階では私達と全く同じ内容の様にも思えるけど、この学校の方針的には違う内容になってくるでしょうね。」
そこまで言って町田先輩は口元に手を当ててニヤニヤし始めた。小悪魔的な笑みを見れば、また何かを企んでいるのは直ぐに分かった。まぁそれは遠藤先輩から得た教訓だったが。
そして俺はジュースを口にして喉を潤す。俺はなるべく絡まれない様に空気になろうとしていた。
「曜ちゃんは新海君と何かあったの?結構仲が良さそうに見えるけど、もしかして新海君に初めてのキスとかを奪われたちゃった?」
そこで俺はジュースを吹き出しそうになるが、なんとか堪えることに成功する。神無月さんも普段の無表情で切り抜けるが、鷲川先輩と遠藤先輩が何故か大ダメージを負っていた。
「え、は、隼人君、も、も、も、もしかしてぇぇぇぇええええ!?」
「お、お、落ち着け奈々華!そ、そんなわ、わ、わけな、な、ないだろ!?」
「落ち着くのは先輩達です。ほら、町田先輩はこんなにも楽しそうに笑ってますよ……。」
俺は2人が取り乱す事を見ていると冷静になれた。神無月さんも呆れた様にため息を吐いていた。
「ふざけるのなら帰りますよ町田先輩。私は個人的に新海君を超える事を第一目標にしてるだけですから。」
「はぇー、もしかして、新海君ってすっごく強いのかな?かな?」
「さぁ、どうでしょう。そこら辺のクラスメイトよりは強いですよ。」
神無月さんは町田先輩のやんわりとした詮索に気づいており、俺の実力を濁して答えた。さりげなく優しい一面を見せられると意識して緊張してしまう。
そして意識してしまった事により、今まで気にしていなかった密着具合と、微かに漂う神無月さんの甘酸っぱい心地よい香りに、俺の思考回路はショート寸前だった。どうにか理性を保ち、それを誤魔化す様にキメ顔で茶化す。
「いつ、この俺を越えれるかな?」
「町田先輩、それで異能の使用は許可されていたんですか?」
そこで俺は神無月さんに完全に無視され、俺自身の時が止まる。そんな俺をしげしげと見つめる町田先輩は、話を続ける。
「私達の時は異能使用はなしだったんだよね。だから神宮寺君にも一矢報いれたって感じだと思う。でも、次回からは異能をメインとしたカリキュラムにどんどん変わっていんだんだよね〜。」
「そうなんですか、ありがとうございます。」
そう言って試験の話は終わりを迎えた。
しかし異能の話やスタンバトンの扱い方の話は話題としてあがりはしていたので、店員さんに「物騒ですね。」と言われた以外、特に変わった事はなかった。
そして俺が心の傷を修復して、再起動するには10分程かかり、それを遠藤先輩にネタとして扱われ続ける事になった……。




