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11-6 探り合い

 俺がトイレから戻ると、事態は完全に収束したようで皆は既に散り散りになっていた。ぱっと見渡した限りでは、竜星(りゅうせい)崎田(さきた)さんと話をしており、勝也(かつや)中山(なかやま)を中心とする3人グループに混ざっていた。

 そして珍しい事に、中条(なかじょう)さんが1人っきりで俯きながら壁に寄り掛かっていた。彼女の周りには必ず誰かしらがいるので、それはとても珍しい光景だった。俺は先の件の事で話をしておきたかったので、近づいて行く。自分から逃げておいて都合の良い時に話し掛けるのは、胸の奥でチクリと痛みを伴うものだったが、今は仕方ない。

 すると俺が近づいてきた事に気づいたのか、俯いていた中条さんがパッと顔を上げる。


「あ、隼人(はやと)君……。」

「ごめん、さっきは無視しちゃって……。」

 俺がそう言うとふるふると軽く首を横に振る中条さん。その顔は普段の笑顔ではなく、俺を心配してくれている表情をしていた。

 しかし何処か俺に対しての怯えも微かに感じとられた。


「隼人君は普段あんな事言わないし、人を馬鹿にする様に笑ったりもしない。何か、あったんだよね?」

 その質問に俺は言葉を詰まらせる。確かに普段とは違う状況ではあったが、何が違ったかを説明する事は出来なかった。いや、したくなかった。そんな俺を、全てを見透かす様な目で俺を見詰めてくる中条さん。


「やっぱり隼人君ってさ……()()()()()……?」

 俺はその言葉に恐怖を覚える。命の危機を感じたわけでもない。敵意を向けられた訳でもない。

 しかし俺は今、確実に恐怖した。普段の声から、別人の様に変わる声。低く冷たい、絶対零度の声。口から上は普段となんら変わりのない、天使の笑顔。

 だが、口角を吊り上げ口を醜悪に歪める。そのギャップも加味されて俺は恐怖したのだ。言葉の意味もストレートには受け取れない。俺は一気に大量の汗を掻いた気がした。


「もぉー!そんなに驚かないでよ。あ、そろそろ授業始まるから行こっ!」

 そんな甘い声と眩しい笑顔の中条さんに手を引っ張られ、整列している皆の元に駆け寄る。その様子を見ていると、先程の事は全て幻だったのではないのかと思ってしまう。結局中条さんは、その後も普段通りに接してくれた。何かを忘れさせる様に……。


―――――――――――――――――――――――――――


 俺と石川(いしかわ)との揉め事からは何も起きる事はなく、30分のフリーの時間を迎えた。それから自然に普段のメンバーで集まる。今回は崎田さんがいないみたいで、竜星が少しだけ元気そうにしていた。


隼人(はやと)君、スタンバトンを扱う上でのコツとかないの?」

「うーん、強いて言うなら、重さに振り回されない事と間合いを見極める事だな。」

 そんな俺が少し唸った後に出したアドバイスは、皆を驚かせていた。中条さんは大きなくり目を何度もパチパチさせながら、驚きつつ疑問に思っているようだった。


「え、そうなの?私間合いの見極めは分かるけど、重さは余り気にしてなかったよ?これ、私からしても結構軽いし……。」

「俺も俺も。」

 俺達は必然的に先程の授業の話になる。元々竜星からレクチャーして欲しいと言われていたので丁度良いと思い、少しだけアドバイスをしてみる事にする。


「確かにこれは鍛えてさえすれば、重さを気にする事なく、振り抜く事は可能だ。でも実際の重さとしては1.2〜3キロくらいはある。それはこの形状と頑丈さの中では軽い部類に入るけど、確かに重みは存在する。

 弾かれれば、普段より体勢は崩しやすくなるし、遠心力もかかって、軽いものを振り抜くよりも力と時間が必要だ。だから相手よりパワーに自信があるなら、長期戦に持ち込んで、重みを利用した撃ち合い勝負に持ち込めるなら有利に働くし、中条さんみたいに力が然程なくても男子よりは腕が短くて間合いが短い事もやりようによっては有利に働く。

 これは相手に先端部の電極を当てさえすれば勝てる戦いだ。さっきの授業みたいに、綺麗に振り抜いたり、高速についたりするのはオマケみたいなものだよ。これは剣じゃないから、鍔迫り合いも無意味だしね。」

 俺のそんな説明にポカーンと口を開けて聞いていた3人。俺は途中から明らかに熱が籠った喋り方をしてしまっていた。俺は少し恥ずかしくなって、視線を泳がせる。そんな中ふと竜星に視線を向けると、俯いて体を震わせていた。


「隼人君、凄いよ!僕もうなんか自信出てきちゃった。こんなに凄いコーチがいるんだから、試験も余裕だよ!」

「いや、余裕ではないだろ……。」

 そんな呑気な事を言う竜星に対して、冷静に突っ込みを入れる。


「いや、でも隼人の言った事は結構凄い事なんじゃないか?」

「うん、私達は授業で言われた事しか考えてなかったから、本格的な戦いを想定した言葉は凄い参考になるよ!」

「いやー、俺ペアは女子と組みたかったんだけど、あんまし自信がなくて声を掛けれなかったんだよなー。でも、今からでも遅くないよな?」

 そんな事を言って女子の元に駆け出す勝也。俺のアドバイスを聞いただけで強くなるわけではないのに。そんなところが勝也らしくて、3人で笑みを溢す。勝也がペアの話を出したので、俺達は自然とペアの話に移り変わる。


「竜星はもしかして崎田さんとペアになったのか?さっき2人で先生のとこ行ってたし。」

「うん。なんか崎田さんからグイグイくるから、成り行きで……。」

 竜星はそんな事を言いながら何処か遠くを見詰めていた。その竜星の目は焦点が合っていなかったが、俺は苦笑いを浮かべた後、中条さんに視線を移す。


「中条さんは結局どうなったの?」

「あ、えっと私は……」

 そこまで言って向こうから、「ズンズン」と聞こえてきそうな歩き方をして近づいてくる人影が。それは石川と橋本(はしもと)だった。


「中条さん、俺と一緒に練習しよう!ペアなんだから。それにまだ登録も済ませてないし、今から登録しに行こうよ!」

 そう言って中条さんの腕を掴んで東條(とうじょう)の元に引っ張っていく石川。中条さんは一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに笑顔に変わってニコニコしていた。どうやら中条さんは結局石川とペアになったみたいだ。


「中条さん、隼人君がいないうちにもう一度ペアに誘われてたんだよ。中条さんは笑顔で了承してたけど、実際はどうだったのかな?僕は石川君より、隼人君とペアになって欲しかったけど。」

「まぁ、でも仕方ないよ、元々断るつもりだったし、中条さんが上を目指せるペアを組めたのなら俺はそれでいいよ。」

「でも、隼人君なら1人でみんなを倒せちゃいそうだから、ペアになってくれたら相当心強いと思うけど。」

「さぁ、どうかな。ここはそんなに甘いところじゃないと思うけど……。」

 結局この話はそこで終了した。竜星はまだ納得していない様子だったのだが、崎田さんが合流して一緒に練習する事になったのでその日の異能実習授業はそこで幕を閉じた……。

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