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11-4 授業の始まり②

 体育館のメインホールに出ると2人の先生が立っていた。

 主に東條(とうじょう)のサポート役として、国立(くにたち)将也(まさや)先生。万が一の怪我をした時に応急処置を施す為に浜田(はまだ)有紀(あき)先生といったところだろう。2人は校内でも何度か見かけていたので顔と名前が一致し、役割もおおよその予想がついた。そもそもネームプレートを首からぶら下げていたのだが。

 そして2人の近くには俺達専用と思われるスタンバトンが縦長の箱に詰められており、外からでも分かりやすく学籍番号が記入されていた。俺は浜田先生の列に並び、名前と学籍番号を伝えてスタンバトンを渡してもらう。

 その際に手をギュッと握られる。俺は体を硬らせ直ぐに顔を合わせると、茶髪のショート髪を微妙に揺らしながら、柔和な笑みを向けてくる。


「君が、新海(しんかい)隼人(はやと)君、ですね?試験、楽しみにしていますよ?」

 そんな事を言われ、手は直ぐに離された。順番待ちで皆が並んで待っているので、俺は直ぐにその場を離れる。

 俺はその後暫く浜田先生の様子を観察していたが、話し掛けていたのは俺だけだったようだ。美しく妖艶(ようえん)な女性ではあるが、先程の行動と立場的には先生である事も加味して、綺麗な女性に手を握られた事の嬉しさよりも、圧倒的に警戒心が上回っていた。

 俺は浜田先生を尻目に警戒しつつ、慣れた手つきで箱からスタンバトンを取り出す。箱の状態の時から思っていた事だが、やはり軽い。他の生徒が手にした時に「軽っ!」と、思わず声をあげるくらいだ。超超ジュラルミンをメインフレームとして設計されており、先端部の電極では100万V(ボルト)、側面の放電パネルでも、ある程度の厚さがある服の上からでも十分な威力を出せる。

 そして軽量化と衝撃耐性の強化によって、鈍器としても十分扱えるものになっているスタンバトン。超超ジュラルミンの加工技術と生産能力が上がり、比較的簡単に加工出来るようになったのが、量産まで至らせたのだろう。内蔵バッテリーを箱から取り出して装着さえすれば直ぐにでも使える状態だ。

 そこで俺達は立ったまま普段の座席順に整列し、東條を見詰める。暫くすると東條が声を張り上げ、説明を開始する。


「よし、全員に行き渡ったな?皆も分かっていると思うが、このスタンバトンは生徒間で無闇に扱える様な代物ではない。基本的に内蔵バッテリーは箱に入ってはいるが、装着はせずに普通の警棒となんら代わりのない状態で練習してもらう。本番では電源を入れてもらう事になるが、それ以外での使用は基本的には認める事は出来ん。どうしてもと言うなら、私が直接相手してやろう。」

 ニヤリと端正な顔を歪めて嬉しそうに提案する東條。奴の相手をしようとする挑戦的な生徒はもれなくサンドバッグにされ、後々後悔する事になるだろう。それが皆は分かっているのか、誰も不満の声を上げる事はなかった。


「各自見た限り不備などはないな?……なら扱い方を今から説明する。」

 そこで国立先生がスッと前に出て、東條に横に立つ。


「まずこの先端部分の電極を相手の体のどこでも当てさえすれば、筋肉が流れた電流によって強制的に収縮され、身動きが取れなくなる。これは薬物使用での痛覚遮断をしていても関係なく沈静化をする事が出来る。」

 そこで実際にスタンバトンを国立先生の体に当てながら説明する。


「基本的には当てにくい手を狙わず、上半身や下半身を狙うんだ。5秒程放電させ続けるとどこに当てても対象は気絶まで追い込めるが、そんな必要はない。1〜2秒で十分だ。もちろん頸部に当てれば一瞬で気絶もするし、手や大腿部(だいたいぶ)に当てれば当分痺れが残る。中には相手に電流を流すのを抵抗を感じる奴もいると思うが、そんなぬるい奴は大人しく相手にやられてくれ。」

 そんな無慈悲な事を言う東條。国立先生も思わず苦笑いだったし、女子生徒の数名は顔を青ざめさせていた。浜田先生は相変わらずニコニコとした表情を変えずにいたが。

 それに普通の高校生にしては、説明される内容が物騒であり、言っている本人がなによりも楽しそうに笑いながらプレッシャーを掛けてくるので、余計タチが悪かった。

 しかし俺は既に軍でスタンバトンの扱い方を叩き込まれているので、復習程度にしか俺は聞いていなかった。殆どの生徒は不安そうな顔をしており、スタンバトンを握る手は明らかに力が入っていた。

 そして俺はとりあえず今後の事を考えて、ペアを見つける為に、クラスメイトの観察に力を入れる事にした。そもそも試験内容は完全に公表されているわけでもない上に、竜星(りゅうせい)勝也(かつや)、ないとは思うが中条(なかじょう)さんからの誘いが来る可能性もあった。

 しかしその誘いは一旦は保留にしておいて、はぐらかそうと俺は考えていた。クラスメイトを知るにはいい機会であり、俺から誘う口実にもなるので、早々にペアを決めてしまうのは愚作だと考えていたからだ。それにこの試験にはまだ慎重になったほうがいい。最初の試験という事もあり、情報の収集を図ってからでも遅くはないはずだ。

 そんな事を考えているうちに、単純な説明が終わり、実戦に移る事になった。やはり最初の授業ということもあり、単純な動作の反復を繰り返すだけだった。基本に忠実なのはいいことだ。そんなうちに1限目の終了間際で、東條から今更ながらの2人の先生の紹介が始まった。


「今更になって悪いが……2人の先生を紹介する。こちらが国立将也先生だ。この授業の副担任をしてもらう。」

 そこで紹介された国立先生が一歩前に出て口を開く。


「国立将也です。以前はVATに所属していました。5年程前に引退して、今は教員職についています。皆さんと仲良く、自分も成長していければと考えています。よろしくお願いします。」

 スキンヘッドとその(いか)つい顔。よく通る低い声とは裏腹に、フレンドリーな雰囲気を醸し出していた国立先生。軽い会釈もピシッと決まっており、その先生の性格が現れていた。同じ様に浜田先生も紹介され、前に一歩出る。


「浜田有紀です。普段は保健の先生をしているので、顔を合わせるのは2度目という人もいると思います。皆さんとは仲良くしていきたいので、よろしくお願いします!サポートも全力でしていくので、どんどん声を掛けてください!」

 浜田先生は朗らかに笑い、両手を畳んでガッツポーズをしながら体を一度だけ上下させる。その大きな胸が「たゆん」と弾み、男子の一部からは思わず「おぉ……」と声が漏れていた。

 浜田先生は俺が見てきた最近の女性で一番エロかった。仕草の一つ一つが大人の色香を漂わせ、なによりもそのグラマーなボディと相まって、嫌でも目を奪われてしまう。膝あたりまで伸びる白衣に黒のスカート。素足は黒のタイツによって全てカバーされ、胸元もしっかりと隠されていたが、その豊満な双丘は隠そうとはしているが、とても目立っており、隠れてはいなかった。隠した事による更なるエロさを醸し出し、思わず息を呑む。プルプルとした鮮やかなピンクの唇で、耳元で甘い囁きをされようものなら、もれなく心を掴まれてしまうだろう。文字通り心臓鷲掴み(ハートキャッチ)だ。

 そんな雰囲気に呑まれそうになるが、授業の終わりのチャイムによって俺の理性はギリギリ保たれた。ピンク色のオープンハートのピアスを両耳につけ、生徒を色香で惑わすのは先生としてどうなのだろうかと思いつつもその場では解散となる。

 俺は今後の展開を予測し、頭を切り替える。そうこうしている内に神無月(かんなづき)さんがこちらを見てくる。少し不機嫌な様子だったが、一度目を伏せてから佇まいを直し、俺をじっと見詰めてきたのであった……。

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