11-2 真の学校生活の始まり
俺達は今、普段通りに登校していた。竜星と会話をしながら普段と同じ通学路をなぞる様に学校を目指す。
数本の肋骨の骨折の影響によって運動は禁止されている俺だが、学校生活には支障をきたさないので、問題なく登校していたのだ。結局、異能実習にも普通に出席するつもりでもいたが。
そして俺達が教室に足を踏み入れた瞬間に異様な重い空気に全身を呑まれる。普段の明るい教室とは思えない雰囲気を醸し出しており、会話の1つも聞こえてこない。ぱっと見渡し、中条さんがまだ登校してきていない事を確認して、席に着く。会話の中心的人物がまだ登校していないにしても明らかに異常事態だった。
俺はこの状況になってしまった事に少し思い当たる事があった。それは学校から届いたメールに記載されていた、所持ポイントの件と今日から始まる異能実習授業。それでもこんなに空気は重くなるものだろうか?
そこに神無月さんが姿を現す。普段から無表情の神無月さんは、教室に現れたその瞬間から険しい顔つきになっていた。俺は思わず眉を顰める。竜星は呑気にラノベを読んでおり、この状況に気付いてないのだろうか?とりあえず神無月さんが着席するのを確認して、小声で話し掛けてみる事にした。
「神無月さん。この状況って一体……?」
俺の声を聞いて神無月さんはゆっくり振り返ってくる。そこで俺は神無月さんに呆れた様にため息を吐かれてしまう。
「新海君、あなた学校からのメッセージ、読んでないでしょ?」
「え、メッセージ?」
俺はそう言われて直ぐに携帯を開き、メッセージを確認する。俺は昨日から一度もメッセージを確認していなかったので、その事を知らなかった。
そして、視界の端で中条さんが教室に姿を現したのを確認した。中条さんは普段通りの笑顔を浮かべていたので、教室の空気は少し和らぐ。数名の男女が縋る様に中条さんに近寄っていくのを確認してから、携帯に目線を引き戻す。
そしてそこには新たな情報の開示がなされていた。その情報を見て俺は目を大きく見開く。
そこで東條が普段より早く教室に姿を現す。HR前ではあるが、既に黙って教壇に立っていたので、それに気づいたクラスメイトは全員席に着いていた。俺も神無月さんとの会話を自然と終え、視線を東條に注ぐ。今日も今日とて凄い寝癖だったが、その目は俺達を品定めする様な、入学式の日に見せた同様の鋭い目になっていた。無言の圧力の中、ゆっくりと口を開く東條。
「既に全員の出席を確認した。少し早いがHRを始める。」
そう言って始まるHR。クラスメイト全員が息を呑んだ気がした。
「まず初めにお前達も気になっているだろうが、所持ポイントについてだ。今日の7時に一斉送信された新しい情報に驚いているだろうが、そこに書いてある事は全て事実だ。これは全学年共通事項であり、既にポイントの査定は現時点を持って始まっている。所持ポイントがゼロになると、退学。この事実は今日まで新入生には緘口令が敷かれていたので、知らないのも当然だろう。」
そこでクラスにざわめきが生じる。先程俺が確認したメッセージにも「所持ポイントがゼロになると退学処置になる」と簡潔に記載されていた。その事を事前に知っていたであろうクラスメイトだが、やはり驚きは隠せない。それは同然の事だ。ポイントがゼロになれば退学、エリートへの道を失う、そんな事は当然避けたい。
しかし詳しい事は何も分からない。早く情報が欲しいといった様にクラスメイトは食いつく様に東條を見つめる。
「フフッ、皆がやる気になって大変喜ばしいなぁ。」
焦らす様に笑うだけの東條。そんな様子を見かねたのか、ある生徒が声を上げる。
「先生、早く続きを言ってくれよ。俺達は退学になるんじゃないかって、朝からヒヤヒヤしてるんだぜ。」
その生徒は確か、石川新。その整った顔立ちと、運動能力の高さでこのクラス内の男子のリーダー的存在だった。そんな奴が発言したのだから、クラスメイトからは同じ様な声が次々と上がる。それをものともせずに東條は答える。
「まぁまぁ慌てるな。これは必須の伝達事項だ。全クラスに同時に説明が行われている。」
そこで意を唱えるものはいなくなる。
「まず初めに所持ポイントとは何か、これは主に3つの評価項目がある。テストや課題といった勉強面。行事で行われる体育祭や球技大会、普段の体育で測る運動能力。異能実習で見させてもらう実践能力。これらをある査定基準を持って評価して、ポイントに表される。勿論プラスになる事もマイナスになる事もある。
そして入学出来た事に対しての評価も既になされている。Aクラスから順に、200ポイント、175ポイント、150ポイント、125ポイント。そして、Eクラスは100ポイント。お前達がいかに危うい立場に立っているのか分かるだろう?まずスタートの地点から違う。」
そこで再びざわめきが生じる。
しかし意を唱える者はいなかった。クラスメイトの中には絶望している生徒もちらほら見受けられた。
そこで俺は冷静にその話を聞き、分析していた。
以前春雨さんが予測していた通りだった事で、俺はあまり驚いてはいなかったからだ。それに退学は俺としても避けたいところだ。
しかしポイントは退学意外にも意味があるような気がしていた。それを見極める速度が違うと後々厄介な事になってきそうだ。それに以前東條が俺に言った言葉「今までの学校生活は前座」、「お前のやり方で、生き残れるか?」との東條自身から俺への忠告。これを受けて俺は甘い考えを放棄せざる終えないのではないかと考えていた。ポイントの加減の具合も分からない今はどうしても慎重な動きになるだろう。
そして今日の異能実習授業も一筋縄ではいかない様な事をうすうす感じていた。
俺がそんな思索に耽る中、東條の話は続く。
「あんまり適当な生活を送っていると簡単にこの学校を去る事になるだろう。私としてはお前達の顔が見れなくなるのは少し残念だ。」
本人はそんな事を言っていたが、表情が悪魔の様に笑っていたため、そんな事は一切思っていないのではないかと思う。
「ポイントはテストや行事、異能実習の際に出る課題によって大きく変動される。今日の4限にわたる異能実習でも楽しみにしているんだな?」
そんな事を言って後は通常の事務連絡をして、今日のHRは終えた。
そして俺の前の神無月さんは東條の言った言葉を全てメモしていたのか、ノートを閉じて手を休めていた。俺は教室を出て行く東條の後ろ姿を見送った後、辺りを見渡す。頭を抱え、絶望するものより、友達同士で話し合いをしたり、先の動きを考えようとする動きが多く見られた。それはとても良い傾向だった。ここで折れる事なく先に進もうとする。それは俺にとって少し意外だったので、感心していると、慌てふためく竜星に話し掛けられる。
「ど、どうしよう隼人君!僕、勉強も運動も苦手だよ……。」
「と、とりあえず落ち着けって、そんなに迫ってくるな!」
「ご、ごめんごめん……。」
襲いかかる様に迫る竜星をとりあえず落ち着かせる。
「今は分からない事が少しでも判明しただけマシなほうだ。査定基準は分からないが、評価項目は判明したんだ。苦手な分野をカバーしていけばいい。」
俺はそう言って鞄から体操服を取り出す。
「ほら、とりあえず着替えようぜ。次は異能実習授業だろ?」
「そ、そうだね……。」
そう言って勝也の合流の後、重い足取りで更衣室に向かった……。




