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10-3 非道な計画

 准看護師さんによって案内された別室で診察を受け、退院する事になった俺だった。そもそも入院なのかどうかも分からないが、とりあえず俺に用がある人の話を聞いたら帰っていいそうだ。

 先程の病室に戻った俺達の去り際に、「可愛い彼女さんに心配してもらえて幸せ者ですね。お大事に。」と言い残して去っていく女性。そのせいで俺達の間には気まずい雰囲気が流れ、楓は顔を真っ赤に染めていた。

 俺はそんな今にも湯気を立ち込めそうな楓を意識しないようにとベットに潜り込み、その用がある人を待つ事にした。

 数分程経つと、俺の病室にノック音が響く。俺はベットから顔を出して一度だけ楓と見詰め合う。その時には楓も冷静さを取り戻しており、真剣な顔つきだった。俺達は黙って頷き合った後、俺が返事をした事で扉がゆっくりと開かれる。

 そこにはかずさんと顔と名前だけは知っていた人物がいた。その人物は背後にいた護衛と思われる2人に目配せして、人払いを行う。髪は黒髪ベリーショートのワンサイド刈り上げがキッチリときめられており、体の軸がしっかりと通っている上に、ピシッとした姿勢と厳格な顔つきでグレーのスーツ姿がよく似合っていた。かずさんも退出しようとするが、低い厳かな声に呼び止められる。


「田中8等総長。君も聞いていて構わない。寧ろ聞いていたい……いや、見守ってあげたいのではないのかね?」

「そう……ですね。ありがたくそうさせてもらいます。」

 かずさんは普段の明るい雰囲気は出す事なく佇まいを直す。ピシッと立っているその姿はどこか格好良かった。

 そしてその人物は竜星(りゅうせい)神無月(かんなづき)さんが座っていた丸椅子をチラリと見て、一番近い竜星が座っていた丸椅子に腰を下ろす。その人物から放たれるオーラと佇まいで、俺と楓は無意識に背筋を伸ばす。その人物は俺達の様子を見て「楽にしていて構わない」と言ってくれる。それでも気を抜く事は出来なかった。


「娘が先程までここにいたのは聞いている。とりあえず親として、娘を守ってくれた事に感謝は伝えておこう。ありがとう。」

 そんな事を言いつつ、お礼をしてくる。俺は別に守った訳ではなかったので、むず痒くなる。恐らくその人物も分かっており、社交辞令みたいなものだったのだろう。


「いえ、別に娘さんを守ったわけではないですよ。俺が勝手にした事です。寧ろ巻き込んでしまったと言った方が正しいですね。」

「そうか……。」

 その人物は一度咳払いをした後、目つきがガラリと変わる。それを見て俺は思わず唾をゴクリと飲み込む。


No.(ナンバー)……いや、忘れてくれ。新海(しんかい)隼人(はやと)君。私の事は知っていると思うが一応名乗っておこう。私はVAT所属、暗部掃討作戦司令部、副司令長官の、神無月(かんなづき)総一郎(そういちろう)だ。司令長官に話を通して私が代表して君達に合いに来たんだ。」

 俺の思っていた通り、その人物は神無月さんの父親だった。

 そして総一郎さんは一度楓にも視線を向けて、ニコリと笑いつつそんな事を言っていた。目があまり笑っていなかったせいで俺は警戒して眉を顰める。


「すまないね、私は笑顔作るのが下手なんだ。あまり警戒して欲しくない。よく妻にも注意されるのだけど、上手くいかないんだ。許してくれ。」

「え、あ、はい……。」

 その雰囲気と顔から近寄り難い人だと思っていたのだが、裏腹にも気さくな人なのかもしれない。

 しかしそんな明るい気分は総一郎さんの言葉で一気に冷え切ったものに変わる。


「電車ジャックで命を落としたのは315名。一般人の生存者は()()。更に周辺に実験に使用されたと思われる大量の未知物質(ダークマター)が未回収のままだ。今は作業員を総動員して、回収に当たっているはずだ。」

 それを聞いて楓は思わず口に手を当て、体を震わせていた。俺も拳を爪が食い込むまで強く握りしめる。俺は頭の中で情報を冷静に整理しようとしていたが、ぐつぐつと烈火の如き憤怒がこみ上げてきていた。総一郎さんは悔しそうに話を続ける。


「奴らの計画は2年にもわたる壮大な計画だ。年数の割には仕事が早く厄介な連中だ。我々は今まで後手に回ってきている。これでは前回と今回の様に奴らの計画がスムーズに進んでしまう。それを阻止するべく我々は先手を打つ事にした。時期はまだ未定だが、暗部の総本山を叩く。……相手は研究所から盗み出したデータを利用して異能使いを生み出そうとしている。本質的には違うがエクスタシア計画と少し似ているところがあるね。」

 俺はその言葉を聞いて目を一気に見開く。俺は一気に怒りの感情が脳を染め上げ、前がよく見えなくなる。それを静止するように楓に手をそっと握られる。握るというより添える形で重ね合う手。ゴツゴツした俺の手とは違い、少しひんやりとした柔らかい手。それだとしても楓の手は他の女の子に比べれば、硬いのだろう。

 しかし俺はその事ですっと、感情の波を鎮めていく。楓は自身も辛いはずなのに、笑顔で微笑む。俺はそれに微笑むが、直ぐに緩んだ表情を引き締め直す。


「エクスタシア計画……知っているんですか?」

「あぁ、私も関係者だ。その時は司令部に着任したばかりで、末端の情報処理などを主にしていたよ。5年程経ってからは君達の境遇にも少し手を出す事くらいは出来るようになってた。

 しかしその時にはもう計画は中盤を過ぎていて、根本的な流れへの手出しは結局出来なかったけどね。」

「そう、ですか。」

「それで君達も無関係と言ってしまえばそうなのだが……私から暗部掃討作戦の席を用意出来るが、どうする?」

 その質問に俺は迷う事なく告げる。


「いえ、遠慮しておきます。俺はもうあの場所には帰りたくありません。でも、俺は人の助けにはなりたいです。守りたい人もいます。」

「そうか……司令長官ならきっぱりとダメ出しするのだろうが、私は君の考えは悪くないと思った。子供の時だけが我が儘が許される。でも、いづれ決断する時が来る。……私も3人の子供の父親だ。子供には甘く接してしまうようだ。」

 総一郎さんは微笑みながらスッと立ち上がる。


「楓君。君はどうかね?」

「いえ、私も遠慮しておきます。私は隼人について行くって決めてます。」

「楓……。」

「……そうか、残念だ。」

 総一郎さんは俺達に背を向けて立ち去ろうとして入り口で立ち止まる。その後ろ姿を神無月さんと重ねて俺は見つめていた。


「最後にもう1ついいかな。娘を……(よう)を頼む。あの子は強くなれる。」

 そう言い残して立ち去る総一郎さん。部屋の外で待機していたと思われる護衛と共に足音が遠のいていく。扉を開けたままかずさんも外に出る。その顔はどこか辛そうな表情をしていた。


「隼人。自分の事を大切にしろ。」

 どこか怒気が微かに含まれていた言葉を残してゆっくりと閉められる扉。俺はその言葉が胸に刺さりながら、黙って誰もいない扉を見つめ続ける。俺は楓の優しく掛けられた声に振り向く。


「隼人。帰ろ?」

 俺は黙って頷き、帰りの準備を始めた。楓の表情を見ないようにしながら。

 それは俺の決意が揺らぐ様な気がしたから……。

 そして、暗い現実から目を逸らし、光ある未来だけを見る様にしながら……。

10章の最終話になります。

小説2巻目を意識したお話になるので、話はここでひと段落つきます。作者の自己満足なのでこれは気にしなくても問題ないです。

話はまだまだ続きますので、次回の11章1話もどうぞよろしくお願いします。


更新報告はTwitterで行っておりますので、そちらで確認していただけたら、幸いです。

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