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1-7 この世界の理

 やっとの事で先輩達から解放された俺達は、自身の部屋がある寮に向けて、帰路に着いていた。最初は楽しかったゲームも途中からは嫌気がさし、今ではトラウマになっていた。先輩達はゲーム初心者に求める技量を超えていたし、何より2時間もぶっとうしでやらされた身にもなって欲しい。

(当分ゲームは見たくない。)

 そんな事を思いつつ、藤堂(とうどう)大崎(おおさき)さんをチラリと視線を向ける。ゲーム大好き人間の2人にはこれくらいの時間は特に何の問題もなかったらしく、疲れた様子は俺が見た限りでは見せていなかった。

 それと他に純粋に気になった事があったので、この際思い切って大崎さんに質問をしてみる事にした。


「そういえば大崎さんってなんで?って言ったら変だけど…リズムゲーム?が上手だったの?」

「え、えっと、そ、それは…。」

「確かにそうだよね。言っちゃ悪いけど、他のゲームはからっきし下手だったのに、リズムゲームだけは僕より上手くプレイ出来てたよね?」

 藤堂は俺と同じ事に疑問を抱いていたようで、俺に同調する。そして大崎さんはキョロキョロと視線を泳がせ、モゴモゴと口籠っていたので、少し時間を消費して待っていると、意を決した様に喋り始めた。


「…そ、それは…私の異能(いのう)が関係あるんです…。」

「「異能?」」

「はい…。私、リズム…というかテンポ?の取り方や合わせ方で左右してくる異能なんですけど。それの練習で最初は音楽関係を習っていたんですけど、上手くいかなくって…。その時、リズムゲームに出会ったっていうか…そんな、かんじ…です…。」

 最初はハキハキと話していた大崎さんだったが、後につれて語気が弱くなっていき、俯いてしまっていた。しかし、藤堂は気にする様子を見せる事なく話を続ける。


「そうなんだ。いやー僕も負けてられないなぁ、今日はまた徹夜かな?」

「藤堂お前そんなことしたらまた明日の授業で寝てしまうぞ…。」

「た、確かに…。ほどほどにしておくよ。」

「あっ、わ、私はここで…!」

「うん、また明日だね!バイバイ。」

「あ、はい、さようなら。」

 寮が目前に迫るとそう言い残し、一度ペコリと会釈をしてから走り去って行く大崎さん。俺は彼女の後ろ姿や、普段の姿を見ている身としては、あの子が恐ろしい異能を持っているとは到底思えなかった……。


―――――――――――――――――――――――――――


 俺達2人は大崎さんの姿が見えなくなった事を確認してから、俺達も解散となった。と言っても、同じ寮で更に同じ階だったので少しびっくりした。同じ寮なのはわかっていた事だが、まさか階も一緒だとは思ってもいなかった。少しばかりか法則でもあるのかと逡巡するが、面倒になって考えるのをやめた。ちなみに藤堂は1010号室だそうだ、覚えておこう。

 そして俺は自室の扉の前で藤堂と別れて、自室に入る。鞄を机の上に無造作に置き、自室のベットに横たわった俺はガッツポーズをしていた。

(よっしゃぁぁぁぁ、友達できたぁぁぁぁぁ!!!)

 俺の中で勝手に藤堂と大崎さんが友達になっているがそれくらいは大目に見てほしい。今日の俺はとても浮かれていたからだ。今日一日ずっと平静を装っていたが、内心はずっとうわつき、ルンルン気分だった。俺としてはこんなにいいスタートダッシュを決めれると思っていなかったからだ。

 更にさりげなく、藤堂と大崎さんと連絡先も交換していた。そして、何かメッセージでも届いていないかと思い携帯を開く。このタイミングで送ってくる人はいないと分かっていながらも俺としては、確認せざるを得なかった。

 そして、浮かれていた俺にはどうでも良いことだった。

 そして俺は携帯を見て、上がっていたテンションがいっきに下がっていくのを感じていた。

 (かえで)からメールが届いていたのだ。しかも、軍専用の暗号を用いて。つまり、軍関係の連絡だという事だ。


「なんで俺のメールアドレスを楓が知っているんだ?怖っ。」

 俺は誰にも届く事の無いそんな事を呟いて、体を震わせる。そして俺はメールの内容に一応目を通してから直ぐ様メールを削除した。そして、俺は夜ご飯を食べるために不必要な荷物を置いて部屋を出た……。


―――――――――――――――――――――――――――


 次の日からは異能使いの集まりの学校なだけあって、午前中の授業は全て異能に関する事だった。そもそも、異能の歴史や使い方、条例などは中学校の範囲だ。この学校はそもそもエリートの集まりということもあり、クラスメイトはみな退屈そうにしていた。もちろん藤堂は寝ていた。うん。知ってた。

(こいつ、テストでどうなっても知らねーぞ。)

 しかし俺は授業で教わる内容と、自分の知識との差異を見つけ、疑問に思ったので、これを気に一度頭の中で異能について整理する事にした。

 そもそも、異能の発端はワームホールの観測、そしてそれを用いた実験の負の産物とされていた。これが一般社会の常識だ。

 だが実際には違う。この実験の裏には確実に裏がある。何者か、いや、もっと大きな勢力が関わっているかもしれない、そいつらが、今の異能にあたるナニカを求めて起こしたと俺は考えている。

 ワームホールの実験に重力波が使われ、その際の過程で別次元と異界の扉を介して繋がり未知物質(ダークマター)がこの世界に流れ込み、ピンポイントに人類の体構造を変化させた。もちろん、全人類が変化したわけではなくその違いは何か?と、非道な実験も行われてきた。この実験は人類限定の話で、モルモットでは代用が効かない…。つまり、実際に人間が使われたわけだ。

 さらに約50年程経った今でも実験の成功例は指で数えれるほどになる。それはなぜか?そもそも未知物質(ダークマター)だけあって、認識することすら最初は不可能だった。

 更に別次元と繋がった事により、別次元からの侵入者ももちろん存在した。後にその侵入者を「異形(いぎょう)なるモノ」と、呼ばれるようになった。これによって世界はパニックに陥り、科学の進歩も軒並み落ちたからということも加味されるだろう。

 当初は異形なるモノ達の対処は、全世界が勢力をあげて対策に応じていた。別次元と最初に繋がったのは日本だが、その余波によって世界各国へと、ゆっくりだがその影響は波状攻撃を受けるかの様に広がり、被害が出ていたからだ。そして世界各国が当然に所持している近代兵器で、異形なるモノ達はどうにかなっていたらしい。最初は排除するのに苦労したそうだが、コアとなるものを破壊さえ出来れば無に帰すと分かってからは対処がしやすくなったらしい。ちなみに異形なるモノは全て未知物質(ダークマター)で構成されていると数年前判明した。

 そして、異能の力に目をつけた各国は異能を軍事利用出来ないかと考えた。その結果、現代兵器を利用するより、異能使いを使う方がコストパフォーマンスがいいことが証明された。

 それからは早かった。各国のエゴが絡み、優秀な異能使いの引き抜き、育成、実験などさまざまな事が行われてきた。その結果人類のほとんどが異能使いになった。もちろん適正を持たずに生まれてくる子や、異能を発現出来るが、弱すぎてなんら一般人と変わらないなどの人もいる。その結果、全世界で異能を使う犯罪だけではなく、ただの犯罪件数も、うなぎ上りに増加した。

 一昨日の事件もそんなものだろう。悲しきかな。良くも悪くも異能のせいで変わってしまった世の中だ。

 更に日本だけではなく世界各国では、別次元へと乗り込み逆に異形なるモノを狩ろうとした。それはVariant Assault Team―通称、VATと呼ばれるものだ。俺が「軍」と呼んでいるものがこれにあたる。

 軍はまず、1番上に最高司令、その次に副司令、その配下には司令塔や特別科学チームなどの役職官がおり、その下に総長がいる。総長は数字が低いほど実力者で、総長には大部隊がついて回る。俺らの担任は約7年程前だが、2等総長についていた。つまり、かなりの実力者であり、上層の人間であったということだ。10番代の総長ならまだしも、一桁、さらに2番目となるとその影響力は小さくない。そんな人が世界の真実を隠しているなんて、軍の闇も再確認出来たよ。

 ちなみに、なぜこんなに裏の事に詳しいのかは、俺も軍の人間だったからだ。

 え?知っていただって?まぁ、それはおいて、俺はこんなに闇の深い軍にうんざりして、辞めた……。


 やめろ、やめろ、やめろ、嘘をつくなっ!!


 逃げるな!!

 俺は、最初は本当に組織の裏側を知らずに動いていた。しかし俺は知ってしまってもその事に目を背け続け、行動を繰り返していた。それが正しいと信じて。

けど、俺は過ちを起こした。


 その事に気づいてしまってからは俺は逃げるようになってしまった。そして、心の片隅にある人から貰った正義感を残してこの日常に逃げてきた。


 もうやめよう、こんなことを考えるのは…。

 俺は自分の心を自分でめちゃくちゃにして勝手に自爆した。

(くそっ!最悪だ…。)

 俺は最悪な気分になりながら授業の終わりを迎えた。

(飯、食べるか…。上手く作り笑い出来るかな…?)

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