9-5 因縁の対決①
「いやー隼人くんは仲間思いだねー。関心関心。でもそんな甘い考えが命取りになるって学ばなかったのかなー?」
仮面男は俺を煽る様に話し掛けてくる。仕草までもいちいちわざとらしい。俺はそんな相手の言葉には惑わされずに、ただ聞き流す。
そして逆に質問をしてみる。
「今日はなんの用だ?出来ればお前とは会いたくなかったんだがな。」
「えー、そんなつれない事言わないでよ〜。私は君に会いたかったけど……隼人くんはそうじゃないみたいだね。」
大袈裟にクネクネと体を曲げたり、恋する乙女みたいな照れた反応をする仮面男。奴は男だという事が既に判明しているが、毎度この様な態度をとっている。奴と遭遇するのはこれで4回目だが、長々と話したのは1度だけ。それも戦闘中の中で奴が一方的に俺に話し掛ける形だけだ。
それでも俺は奴の異常性をひしひしと感じていた。だからこそ、今ここで仕留めておきたいが、また新たに出現した名前持ち相当と思われる敵。仮面男と共に行動しているという事は、相当の実力があるという事は容易に想像が出来た。相手の実力は未知数な上、俺と楓は戦闘を意識した格好ではない。これでは満足に戦いすら出来ずに返り討ちに合う可能性がある。
だからこそ俺と楓は、相手の動きを見てから動くという、言葉で伝えなくても共通の意思が出来ていた。
「隼人くんさぁ、別に会話の1つくらい弾ませてもいいんじゃないのかなぁ?今日が君の命日になるんだからさぁ!!」
どうやら仮面男は俺を殺す気満々の様だ。語気を強めて威圧するように言い放つ言葉に、俺達は怯む事はない。
そして仮面男の殺気が更に1段階引き上がる。すると沈黙を貫いていたもう1人の人物が初めて口を開く。
「おい、仮面男。茶番はいつ終わるんだ?さっさと殺してズラかるぞ。」
初めて聞いた声はお面によって微妙にくぐもった中性的な声になり、男性か女性かは判断がつかなかったが、口調的には男性だった。
そして、その言葉にあからさまにイラつきを見せる仮面男。
「ねぇあんた、私に指図出来る立場だと思ってるの?実力を買って貰ってるからって調子乗ってると、殺すわよ。」
隠そうともしない怒気が俺達にも伝わり、少しの緊張感を持ってしまう。怒りの矛先を向けられている人物は、一切悪びれた様子を見せなかったが。
そして、状況がある事で一変する。
騒ぎを聞きつけたと思われる2人の警備員が駆けつけてきたのだ。俺達しかまだ見えていないのか、俺達だけに向けて荒げた声で言葉を投げかけてくる。俺は視線を警備員に移す事はなく、視界の端に捉える程度。それくらい俺達の対峙している人物達は警戒するに値する奴らだった。
仮面男は先程の怒りをぶつける様に手のひらを、俺達に突き出して異能を使うのが見えた。基本的には奴の能力は可視化されたものではないのだが、衝撃波という性質上、微妙に空間に歪みが生じる。それを目視して軌道を予想する事は出来るが、あまりにも一瞬の事なので、自分達に飛んでこないのなら避ける行動を選択するのはリスキーすぎる。
それを分かった上で、俺は奴の異能発動モーションに合わせて動いていた。なぜならそれはおそらく俺達を狙った攻撃ではなく、俺達の後ろから姿を表す警備員に向けての攻撃と予測したからだった。
俺は迷う事なくポケットからフォールディングナイフとガラス玉を手にする。ナイフの刃を出していたら間に合わないので、ガラス玉を形状変化させ、刃渡り15cm程のナイフの様な形に変形させる。特に切れ味などを考えていない、形どったものを一瞬で作り出し、構えて射線を予測する。目を凝らして相手の手の向きと目線を見て予測する。異能の発現を見てからでは間に合わないので、動作から射線を読み取るのだ。
俺はその射線を予測し、ガラスナイフを軌道状に置く。ナイフを振るのではなく、置いて対処するのだ。
そして俺が動作を完了し終えて約0.5秒後。俺の左腕に衝撃が走る。それと同時にガラスナイフが「バリィィン」と激しく音を立てて砕け散る。俺は直ぐ様粉々になったガラスナイフをビデオの逆再生の様に修復する。
俺が何をしたのかというと、奴が放った衝撃波を相殺したのだ。ガラスナイフを持っていた腕はタイミングを合わせて受け流す様に後方に引きながら衝撃を緩和したつもりだったが、俺の左手は少しの痺れを残していた。そのガラスナイフの破壊音と、実際にそれを目の当たりにし、驚いた警備員は悲鳴を上げて逃げ惑うのを視界の端に捉える。それと同時に仮面男が仮面越しにニヤリと笑った気がした。
そして放たれる第2射。体勢を崩した俺ではそれを受け流したり、回避して致命傷を避ける事は出来そうになかったが、その様子を見ていた楓は既に行動に移していた。
そこで楓は、俺の右肩を強く下に下ろす様に力を加えてきた。その勢いで俺の右肩は外れそうになるがなんとか持ち堪え、俺達は伏せる形となる。
その後、俺の頭上を衝撃波が通っていくのを感じとる。耳につんざく様な音を聞き取った後、楓と俺は直ぐに立ち上がり、体勢を整える。やはり油断ならない相手だ。
「あっれー、おっしぃー!いやー、今のでもダメなんだね。てか隼人くん、そんな優しい事していないでさぁ、もっともっと君の冷酷な戦いを見せてよ。それにしても……私の異能の性質を把握しての完璧な相殺。技術だけはバケモンなのよねぇ……。ゾクゾクしちゃう♡」
仮面の上から頬に手を当てて、そんな余裕そうな様子を見せる仮面男。俺と楓は「しっかり。」「すまん。」と短く会話する。
俺達はそれだけで十分だったし、何より相手のもう1人が既に歩み寄ってきていたので、警戒する。異能は未だ不明。出来るなら直ぐに異能を見極めないところだった。俺はナイフを楓に手渡す。
そして、それを見て一気に加速してくる黒服に俺達は目を見開く。それは明らかに人間の身体能力を超えたスピードだったからだ。それにより見出されるのは奴の異能が楓と同じ、異能強化系統の身体強化と予測する。その動きだけでは完全に特定する事は出来ないが、ある程度の予測は必要だ。
しかし思い込む事はしない。それは無意識のうちにこれは出来ないと決め付けてしまうからだ。
そしてよく見ると黒服は既に刃渡り15cm程の黒のハンティングナイフを体に沿わせる様に手にしていた。先程からずっと右手を背中に隠していたのだが、ずっとナイフを握っていたらしい。
そこでナイフを構えながら突っ込んでくる黒服の背後では、異能を使おうとしている仮面男が見えた。俺と楓はその射線を切る様に楓が前になる形で黒服を挟んで一直線になる様に並ぶ。俺は右半身だけ体を出して仮面男の行動はしっかりと捉えれるように陣取る。楓が前衛、俺が中衛後衛を務めるツーマンセルは、軍に所属していた時からの当たり前の戦い方だった。なので何も言わずとも、自然とその動きをする俺達。
黒服は凄いスピードで右手のナイフを突き出して、強烈な突きを放ってくる。それを楓はナイフの刃で滑らせる様に左に受け流そうとする。その時に不快な金属音を出しつつ、相手のナイフを弾き出す様に軌道をずらす。その神業と呼べる技術に黒服が感嘆の声を漏らした気がした。
楓は右手でナイフを扱い相手の攻撃をズラすと同時に、左手で相手の顔に向けて掌底打ちを繰り出す。それを見越していたのか、2人のほぼ中間地点で黒服の左手も伸びてきて「パアァン」と、甲高い音を立てる。
お互いが掴み合いになる前に、距離を取る様に離れようとするが、俺がそこで楓と入れ替わりで右から前に詰め寄り、右ストレートを放とうとするが、一旦半身になり、既に飛来していた衝撃波を回避する。
俺が前に出ようとするとこうなる事は分かっていたが、奴の精密な射撃力で、カバーに入り辛すぎるのが問題だった。
すると黒服は、俺達と距離を離して間合いから外れる。仮面男はこちらに歩み寄りながら距離を詰めてきていた。それを見つつ俺は俺達の背後にある休憩室のガラスを拝借する。入り口の扉部分はガラス製だったので、休憩室は俺にとっての補給になる。縦に2m、横に60cm、厚さ10mmの扉が2枚。これだけあれば色々な事に使用出来る。
どろりと溶け出す様に音もなく金属枠からガラス扉を取り出し、形状を変化させる俺を見て思わず声を上げる仮面男。
「あちゃー、そういえばガラスも液体だったっけ?面倒になっちゃったねぇ……。」
そんな一言はただのぼやきにしか過ぎない。
そして更に激化していくであろう俺達の戦闘は続く……。




