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8-8 少女が魅せる料理の腕前②

 俺は既にどんな料理を作るのかを訊いていたので、どんな料理を作るのか過程の想像を膨らませるのではなく、完成後の事を想像して待っていた。

 そして炒め始めたあたりからだんだんと良い香りがキッチンカウンター越しに、俺のところにも漂ってくる。南部(なんぶ)さんとの会話をしながらの事だったので、待ち時間は全く苦ではなかった。

 寧ろ楽しみな気持ちがいっぱいで、途中からそわそわしており、南部さんにはそんな不自然な挙動はバレていたかもしれない。

 そして俺の前の机に、2人分の料理がすっと置かれる。その料理というのは、炒飯(チャーハン)だった。俺は南部さんから散蓮華(ちりれんげ)を受け取る。

 南部さんは律儀に着用していたエプロンを脱ぎ、椅子にかけてから座る。自然に俺の対面に座った南部さんは、机に両肘を突いて顎に手を当てて俺をじっと見詰めてくる。

 それは無言の圧力で食べろと言われている気がし、俺は少し緊張しつつ「いただきます」と言葉にして、1口頬張る。

 その間も当然の様に目を細めてじっと見詰めてくる南部さん。そんなに心配そうに見られても困る。俺はゆっくりと咀嚼(そしゃく)して味わう。俺はゴクリと飲み込み、嚥下し終えて口の中が完全になくなった事でポツリと感想を漏らす。


「美味しい…。」

 漏らしたのはただその一言。俺はもっと感じた事はあったのだが、口から出たのはそんな感嘆近い一言だった。それでも俺の感想を聞いて、分かりやすく表情を緩めて笑顔になる南部さん。

(めちゃくちゃ必死の形相で見てたからね。正直言って怖かったからね?)

 俺はそんな事を思いつつもぱっと満開の笑顔を咲かせる南部さんを見て2口、3口目とどんどん口に運んでいく。そこで南部さんが何かを言っていた気がしたが、俺は夢中になって食べ進めた。プロの料理人が作ったとまでは言えないが、俺よりも上手に出来ており、何処(どこ)か優しい味がした。味付けはしつこくなくあっさりとしており、家庭で作ったとは思えないほどのパラパラの食感に舌鼓を打つ。

 俺は食事の手が止まらなかった。ゆっくりと味わいたい気持ちもあったが、先にもっと食べたいという気持ちが勝っていた。そこで俺は唐突に頭を揺さぶられて意識を南部さんに戻す。


「ちょっと、美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけど、人の話くらい聴きなさいよ!」

「え、あ、すみません。」

 俺は反射的に謝る。南部さんはそんな俺を見て乗り出していた身を引いて椅子の背もたれに体重を預けていた。どうやら俺は食べる事に夢中になり、南部さんの話を一切聞いていなかった事に対して、怒っているようだった。俺は悪い事をしたと思い、一度食べるのを止めて南部さんを見詰めた。


「ごめん聞いてなかったから、もう一回言ってくれない?」

 俺はそう頼むが、南部さんはそっぽを向いて話してくれそうになかった。その頬は色白の肌も相まって、ほんのりとピンクに染まっているのが直ぐに分かった。

 俺に褒められて美味しそうに食べるから嬉しかったのだろう。実際先程も嬉しいと言っていた。

 そして俺は根気強くずっと南部さんに視線を送り続けると、ため息を吐いて俺の方をやっと見てくれた。


「ま、まぁ、あたしが作ってあげたんだから、美味しいのは当たり前だし?そんなに美味しそうに食べても嬉しくないから、当然だからね!」

 南部さんは腕を組んで強がってはいるが、顔がにやけていた。全く説得力がない上に嘘をついているのはさっきの言葉でバレバレだった。やはり彼女はかなり素直なんだろう。なぜ普段は捻くれた少女を装っているのだろうと、俺の疑問はより一層深まってしまった。

 そこで俺は再び炒飯を口に運ぶ。うん、やはり美味しい。俺は冷める前に食べてしまおうと思い、食べ進める。俺は4分の3程食べ終わったくらいで、南部さんから話し掛けてきた。

 俺は「ちょっといい?」の一言で顔を上げると、南部さんとばっちりと目が合う。そのつり目の綺麗な翠眼は、俺の全てを見透かしてくるような瞳だった。

 俺は目を逸らそうとするが、じっと見詰められてそれが出来なくなってしまう。

 俺達の間に10秒程の沈黙が流れた後、南部さんが再び口を開く。


「やっぱりあんた…。それ、()?」

 俺が見てきた中で最も真剣な顔をしていた南部さん。眉を顰めて小さめな声で問われたものに俺は唐突な質問だったからこそ大袈裟に反応する。表情…体の表面には全く変化は無かったが、俺の心は大きく揺さぶられたのだ。

 そして俺はその質問には答えれなかった……いや、答えたくなかった。

 そこで俺が黙っていると南部さんは俺から目を逸らす。俺もそこで目を逸らして目の前の事から逃げる様にして視線を落とす。ここはまた俺が誤魔化すべきだったのかもしれないが、先に南部さんから切替えされる。


「ごめん変な事訊いて。でも言える事は一つある。()()は嫌いじゃないけど…その()()1()()は嫌いだな。あたしを見てるみたいで吐き気がする。」

 俺は何も言えずにただ黙り込んでいる間、南部さんの言葉が頭の中で反芻する。必死に言葉の意味を考えるが、真意は見えなかった。俺は顔を上げる事が出来るくらいには持ち直してはいたので、とりあえず南部さんを見ていた。

 南部さんは自身の髪を触り、くるくると人差し指に巻きつける様に弄っていた。この可愛げのある少女はいったい何を考えているのだろう。その見た目からは想像もつかない程の何かを背負っているのではないかと勝手に想像を膨らませる。自ら足元を削り、今にも消えてしまいそうな儚げさが俺には感じ取られた。

 南部さんは綺麗な素足(部屋ではスリッパを履いていたため裸足)を椅子の上に乗せ、両足を立てて腕を足の前で組んでいた。

 そして顔を俯かせて蹲る。そのせいで少しだけ声がくぐもった様に聞こえてきた。


「今から言う事は聞かなくてもいいから。

 …あたし、両親がお金持ちなの。仕事が上手くいってていっつも忙しそうにしてた。それでもあたしは子供の頃はちやほやされてきたし、普通の家庭よりはよくもされてきたし、贅沢も少なからず体験した。

 それに運動も勉強も出来て、異能にも恵まれてた。見た目もお姫様みたいとかも言われてたし…でもあたしはそんなあたしを見る周りの目が嫌だった。親からはあたしの才能が分かるとだんだんとあれもこれも求めてくる様になった。そのくせ仕事が忙しくて構ってもくれなくてなっていった。でも親のお金や権力を求めて寄ってくる人もいた。あたしはもっと本質的なあたし自身をみんなに見て欲しかった。

 勉強や運動とか成績とかじゃなくてもっと違うものを、上辺だけを見て欲しくなかった。それ以上を求めるのは強欲かもしれないけど。

 …周りからは天才だと崇められてロクな友達も誰もいなかった。近づきがたい存在にあたしは知らないうちになってた。そのうちあたしは自分から周りと離れる様にしていった。どうせ相手から来ないのなら自分から拒絶したほうがマシだと思って。

 それでも友達は出来ないのに、すり寄ってくる人は減らない。誰もあたしの見てほしいところを見てくれない。なんで?なんでなの?あたし何か悪い事したかな?もっとあたしが努力すればいいのかな?

 この学校だって、首席で合格した。異能を加味した中での最難関の高校で1位を取ったんだよ?でも親に褒めて貰える事はなかった。それくらい私達の子だから当然だと言われた。あたしは努力でいろいろなものを手に入れてきたけど、本当に欲しいものは何一つも手に入らなかった……。」

 そう言って顔を上げる南部さん。泣いてはいなかったが、今にも決壊寸前のうるうるの瞳がそこにはあった。それを見て俺は胸が苦しくなる。

 そして俺は意外にも言葉が呟く様にすっと出た。


「南部さん。俺は……」

「何も言わないでっ!!」

「…ッッ…。」

 俺は慰めの言葉を掛けようとしたが大声で放たれた怒号によって掻き消され、俺は急いで口を閉じる。

 その後に小さく「ごめん、隼人は悪くないよ。」と呟かれたのを、俺の耳はしっかりと拾っていた。南部さんは膝に顎を乗せて、顔全体は見えていたが、目線が合う事はなかった。


「あたしが勝手にべらべらと喋って怒るのも変だよね。ほんとはあたし、こんなに饒舌じゃないのに、隼人の前だとなんでか思いが溢れ出てきちゃう。今日初めて話したのにね。可笑しいよね。ふふっ、ここ笑うとこ。

 …それにあたしは人に寄りかかるのは得意じゃないの。…悪いけど、それ食べたらもう帰って…。」

 南部さんは頑張って笑顔を取り繕ってはいたが、とてもぎこちなく、普段の可憐な笑顔はそこにはなかった。俺は言われるがまま少し冷めてしまった炒飯を平らげる。十分美味しくいただいた俺は椅子から立ち上がる。

 俺は小さく「ごちそうさま」と呟いた後、南部さんをじっと見詰める。体は微細に震えており、どうやら泣くのを我慢しているみたいだった。

 時折鼻をすする音が聞こえてくるが、話し終わって伏せてしまった顔からは表情を読み取る事は出来ない。俺は思わず手を伸ばして南部さんの頭を撫でそうになる。そこで俺は右手を押さえ込み、何事もなかったかの様に声を掛ける。


「南部さん、俺、帰るけど、今日はありがとう。美味しい料理作ってくれて。また食べたいからお願いするかもしれない。」

 俺は南部さんの返答を待つが「うん」との短い一言しか返ってこなかった。俺は今はそっとしておく事に決めて部屋を出ようとする。部屋のドアを開けて俺は振り返らずに一応の忠告をしておく事にする。


「今日は出来ればもう部屋から出ないほうがいい。そんな顔を他の人に見せるのはあまり良くない。」

「バカ!泣いてない!あたしが泣くわけないでしょ!」

 そんな少し怒った?様な返答が返ってきた。

 そしてその南部さんの返答は俺が忠告した半分の正解でしかなかった。もう半分は不安にさせるだけなので言う必要はない。いや、部屋から出せない為には言ったほうがよかったかもしれないが、俺言わないと判断した。


「それじゃ、また学校で会ったら……。」

「うん……。」

 そんな短いやりとりをして俺は部屋を出る。

 寮の廊下に出て俺は深呼吸をする。2回程自身を落ち着かせる様にそれを行った後、俺は振り返る事なく力強く足を踏み出していた……。

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