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8-7 少女が魅せる料理の腕前①

 俺は自分の部屋に一旦戻り、先程買ってきた食材を冷蔵庫に入れた後、水分補給とトイレを済ませてから部屋を出る。

 そこで俺は直ぐ間近に迫るであろう理想的な未来を想像してしまい、唐突に緊張し始める。手汗をうっすらとにじませながらも女子寮に到着して、207号室がある階に到着する。

 俺は扉の前に立ってインターホンを押そうとして、背中に汗が大量に流れるのを感じる。今日は少しだけ暑い事も加味されたが、それは汗をかいた根本的な原因ではなかった。

 そして俺は意を決してインターホンを押す。女子の部屋に入る事は2回目だ。(かえで)の部屋には入った事はあるが、それ以外は一度もなかったので、俺の手は少し震えていた。

 楓はまだ顔見知りだが、南部(なんぶ)さんは今日会って初めて話したばかりだ。俺はそんな事を今更ながら考えると、実はとんでもない事をしている事に気づく。

 しかしもう引き返せない、というか引き返したくなかった。別に嫌々来た訳でもないのだ。それに可愛い女の子の手料理を食べさせて貰えるだなんて、なんて幸せなんだろうと思うと少し気が楽になった。

 俺は単純な思考回路をしており、自身の知能指数が著しく低下している事に気づく。

 俺はそんな考えを何度も頭の中でぐるぐるさせながら、20秒程待っていると、「ガチャリ」と音を立てて扉が開く。

 そこで俺は南部さんと目が合い、「入って」と軽く一言告げられる。俺は「お邪魔します。」と言ってから靴を脱いで玄関の奥へと進んで行く。

 そして扉を開けると部屋の様子が一気に目に入る。

 部屋の構造は全生徒一緒なはずなので家具の配置も俺と大した差は無かったが、俺が真っ先に目がいったのは、ベットの上に無造作に放置されていたパジャマや下着の類だった。

 何故俺がいない間に片付けていなかったのかと思うが、俺としてはどうでもいい事だった。

 すると俺は部屋に踏み込むことなく下着を思わず凝視している事に気づいて、頭を横に振る。そんな俺を見ていた南部さんはどうやら俺の視線を辿りやっと気づいたのか、顔を一気に赤く染め上げて下着を片付け始めながら、俺に言い放つ。


「ちょ、ちょっと何見てんのよ!トイレ、トイレに入ってて!!準備出来たら呼ぶからっっ!」

 そう言いうと片付けを中断し、慌てて俺に詰め寄って来て玄関に追いやられる。俺は仕方なく用を足すわけでもないが、トイレに入って待つ事にした。その間、俺は部屋に落ちていた下着の柄を思い出していた。

(水色…。ピンク…。フリフリ…。)

 俺が先程見てしまった下着を、南部さんに当てはめて想像するという最低な事をしながら待っていると扉が優しくノックされた。

 俺は時間を忘れるように想像に没頭していたので、待っている時間は一瞬の様に感じられた。

 そして俺はトイレの扉を押し開けると南部さん佇んでおり、ジト目を向けながら呆れる様子で話し掛けてきた。


「あのさ、確かに片付けてなかったあたしも悪いけど、ちょっとは目を逸らすとかしないわけ?あんたむっつりスケベでしょ。」

 俺はそう言われて過去を振り返る。俺は確かによく胸とか足とか首筋とか…言っていたらキリがないがよく見ている。それを表情には出さないように振る舞っているので、むっつりスケベと言われて否定は出来なかった。

 むしろ完璧に合致しているまでもある。俺はとりあえず謝って便宜を図ろうとする。


「ごめん、思わず凝視してしまったよ。魅力的な下着だね。可愛いと思うよ。」

 俺の言葉を聞いて南部さんは顔を引きつらせる。


「え、キモッ…。」

 そう短く拒絶するような一言と表情を見せる南部さん。俺の心に確実に深いダメージを刻みつつ、沈黙が生まれる。お互いがお互いをじっと見詰め合う中、俺は満面の笑顔を保とうとしていたが、恐らく目が死んでいただろう…。


「とりあえず部屋戻ろうか。」

 そんな一言は自分でもびっくりするほど片言だった。南部さんはそんな俺に目を見開きつつも黙って部屋に誘導してくれた。

(俺はさっきの場面、なんて言い訳すればよかったのんだ?誰か教えてください…。いやほんとマジで。)

 俺は返答される事のない愚痴を溢しながら部屋に入る。俺は先程見た下着を再び南部さんに重ねるように見てしまいそうだったので、後ろ姿を見ずに足元を見ながら部屋に入っていった。俺から南部さんが離れる足音を聞いて顔を上げる。どうやら南部さんが片付けたのは服だけだったようで、他のものは散らかったままだった。

 別に踏み場所がなかったり汚いわけではなかったのだが、俺は少しだけ気になった。

 そこで俺は眉を顰めていると、南部さんは少し恥ずかしそうに言い訳をしてきた。


「か、片付けは少し苦手なの!…てかそんなにじろじろ見ないでくれる?」

「う、うん。とりあえずここ座っていいか?」

 俺はとりあえず椅子に座る事にする。床に座ろうと思ったが、どうせ料理を食べるなら先に座っていようと思ったからだ。

(よし、とりあえず一旦落ち着く為に深呼吸をしよう。焦る事は良くない良くない。)

 そして何度も深呼吸する俺の姿は見る人によっては勘違いされる事をすっぽ抜けていた俺は、部屋の中をよく見渡す。

 すると俺のイメージしていた女の子の部屋という感じがした。これは俺の勝手なイメージだったので、女の子全員がこういういった部屋かは分からないが、とりあえず南部さんの部屋は可愛くておしゃれだった。

 ベットの上にはなんのキャラクターか分からなかったが、くま型の色違いのぬいぐるみが2つ。枕カバーや布団は緑を基調とした花柄。フローリングの上にはシンプルな茶色の絨毯。カーテンも緑色だったが、壁紙がこの寮は白で統一されているので、全くしつこい印象は受けなかった。

 無機質な冷蔵庫にもマグネットのワンポイントの追加やホワイトボードが貼り付けられていた。ホワイトボートには冷蔵庫の中身と思われるメモがされており、生活感を感じさせる。

 俺が見て分かる限りだが、机の上には化粧水や美容液、乳液にハンドクリームや化粧品などが置いてあった。あの美貌はこの努力によってしっかりと維持されているのだろうか。

 そして、壁際の棚の上にはディフューザータイプのルームフレグランスが置いてあった。ほんのりとジャスミンとチュベローズのすっきりとした上品な香りに、俺は思わず再び大きく息を吸い込んでしまう。

 そこで俺は黙って料理を始めていた(料理を始めていたと言っても米研ぎからだが)南部さんに思わず感想を述べていた。


「南部さん。この部屋いいね。なんかうまく言えないけど…落ち着くっていうか、良い匂いもするし…南部さんが部屋に手を加えたんだよね?」

 俺が若干キモいセリフを言うと褒められた事によって嬉しかったのか、見回して分析されたのが恥ずかしかったのか分からなかったが、少し頬を赤らめながら自信満々に答えてくれた。


「そうよ、あたしが1人で考えて家具とか買っておいたんだから!あんたとは違ってセンスもいいんだからね。てか、何じろじろ見てんのよ!もう黙ってて!」

 また怒られてしまったが、どうやら強がりみたいな感じで本気で怒っていたわけではなさそうだ。もう黙っててと言われてしまったが、俺は南部さんの事を知りたかったので、質問をしてみる。


「南部さんはなんで料理が出来るの?料理するの好きだったとか?」

 俺がそうキッチン越しに訊いてみると、睨んでくるが、どうやら嫌ではないようで質問にはしっかりと答えてくれた。


「勉強やスポーツとか以外にも得意なものを増やしたかったのよ。ただそれだけ。まぁ、お菓子を作るのは好きだけどね。」

「そうなんだ。だから卵を多めに買ったり、バターやベーキングパウダーも買ってたんだね。」

 俺がそう答えると、南部さんは驚いたのか「えっ」と思わずといった風に声を上げていた。


「あ、あんたあたしの買い物かごの中身見てたの?」

「うん。普段はそんなところ見ないんだけど、俺が見たとき南部さん1kgの白砂糖なんて手に持ってたから、他に何を買ってるのか気になってね。」

「そ、そう。」

 南部さんは短く返事をして会話が終わる。俺は「何勝手に人の買ってるもの見てんのよ!キモッ!」くらい言われると思って覚悟していたのだが、あっさりと話が終わった事により、俺は肩透かしを食らった気分になる。

 その後も俺は料理中の南部さんに様々な事を訊いてみたりした。俺が南部さんに話し掛ければ返事も返してくれるし、にっこりと笑顔も返してくれた。俺はそんな彼女に、知り合って短時間ながらも惹かれつつあったのかもしれない。

 しかし、やはり彼女との絶対的な壁は薄々感じ取っていた……。

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