1-6 部活動体験ってさぁ、怖くね?
藤堂に連れられて着いたのは、校舎の別棟だった。そして階段を上り、その3階のある1室の扉を横にスライドさせる。
そして、その部屋を見た時に真っ先に視界に飛び込んできたのは大量のモニターだった。その部屋にいたのは僅か4名。それなのにモニターの数はかるく20を越えていた。俺には画面に映し出されているものがどの様なゲームなのかを理解する事は出来なかったのだが、全ての画面では別のゲームが行われている事くらいは辛うじて分かった。
そして俺はその光景を見て「す、凄っ!」と、思わず感嘆の息を漏らしていた。藤堂はそんな俺の言葉を拾う。
「凄いよね?僕も初めて見たときはびっくりしたよ。しかも、部の貢献が認められて本校とは別のサーバールームとネットワーク回線が用意されてるくらいだし、もう意味わかんないよね?思わず笑っちゃうよ。」
そこで入り口で立って会話をしていた俺達に向け、中の人達から声が掛けられる。
「お、藤堂来てたなら言えよな。ほら、お前の席もちゃんと用意しておいたぞ!」
「ありがとうございます、先輩!」
「先輩?お前もう先輩とも仲良くなってるのか?」
「うん。僕ここに顔出すの2回目なんだよね。今声を掛けてくれた人は成山悠介先輩だよ。」
藤堂に成山悠介と呼ばれた人物は、右手を挙げて柔和な笑顔で答えてくれた。
「おう、よろしくな!てか藤堂、お前2人も新しく連れてきたのか!やるじゃないか。」
「「え、2人?」」
俺達は成山先輩が放った言葉に疑問を持ち、視線の先(俺達の背後)を見ると、見知った顔がそこにはあった。
「「大崎さん!?」」
「は、はいっ!!」
俺達はそこで思わず大声で名前を呼んでしまったので、どうやら驚いてしまったらしく、あたふたと手を体の前で何度も交差させていた。
「あ、ご、ごめん。驚かすつもりはなかったんだ。」
「い、いえ、大丈夫です。何も言わなかった私も悪いので…。」
そんなやりとりをしつつ、俺は不思議に思う。
(いや、今のは気配がないって度合いじゃなかったぞ?完全に消えていた…これは彼女の影の薄さではなく、異能の力が関係していそうだな。まさか無意識に発動しているのか?ここまで強い異能を制御出来ていないのはまずいが…異常が出ているならまだしも俺が何かする時期ではないな。てか、楓もこの事に気付いて声を掛けたのかもな。いや、ないかあのアホには無理だな……。)
「新海君?おーい…大丈夫?」
俺は大崎さんの事について考え黙り込んでしまっていた様で、そんな藤堂の言葉と、俺の眼前で掌を見せながら横に振られていた事で意識を引き戻す。
「え?あぁ、すまん、少し考え事をしてた。」
「そう?その間に僕が先輩に話をしておいたよ。」
「あ、あぁ助かる。それで結局何をすればいいんだ?それに聞いてなかったけど、そもそもここは何の部活なんだ?」
そこで俺は先程と違う先輩?に答えを告げる様にして、気さく口調で話し掛けられる。
「ここはE-sports部や、知ってるか?」
「はい、名前くらいは知ってますけど…。詳しくわないですね…あなたは?」
「おう、すまんな、まだ名乗ってなかったな。俺は加藤秀聖や、一応2年生やな、よろしくな!まぁ、とりあえずやってみて、合わんだらそん時はそん時や。ほなやってみな。」
そう言って加藤先輩はコントローラー?を渡してくる。気さくな口調なので俺からすれば親しみやすそうな人だった。
「加藤先輩ですね、俺は新海隼人です。こちらこそよろしくお願いします…。てか俺、テレビゲームを一度もやったことないんですけど…大丈夫ですかね?」
俺がそんな事を言うと先輩は目を丸くして驚いていた。
「お、お前それ本当か!?ゲームが普及して、世間にもスポーツとして認められているこの世の中でゲームやったことないって、どんな生き方してきたんや!?」
「あはは…。って、操作の仕方教えてくれますか?」
「お、おう?任せろ!」
そうして俺は困惑気味の加藤先輩に操作方法を教えてもらいつつ、最初のゲームに挑んだ。当然最初は上手くいく事はなかったが、自分としてはとても新鮮味があり面白いと感じていた。俺は次のゲームをプレイしてみたいと思い、別のゲームに手を伸ばす。
そして、そのせいで次々と他のゲームを試していくうちに先輩に気に入れられてしまった俺が、部室から出してもらえたのは、2時間後になるのだった……。