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8-5 気づいて欲しいモノ

 俺は直ぐに屋上から立ち去る事をせずに、暫く佇んでいた。俺は東條(とうじょう)が見ていた方向には何かヒントがある様な気がしてならなかった。

 しかし何か重大な事を見落としているのだとしたら東條が放置する訳がない。俺はじっとその方向を見つめるが、これといったものは掴めない。その方向にあるのは大型ショピングモールと倉田駅。見える範囲で大きな施設というとそれくらいしか思いつかなかった。

(何か視覚的な物ではなくて、別角度から考える必要があるのか?)

 俺は考えてもそれらしい事を思いつく事は無かった。そもそも今の考えがミスリードの可能性もある。深読みしすぎるのも良くない。今の事は忘れる事にして、俺は屋上から離れようとして違和感に気づく。

 なぜ東條だけが相手の行動に気づいたのかと。いや、もしかしたら東條だけではないかもしれないが、少なくとも軍の連中にはまだ報告がいっていない可能性がある。昨日楓が来た時、何も言わなかった上にじじいからの連絡も無い。軍は今、復興と対策で忙しく猫の手も借りたい程のはず。かずさんも忙しい中で、わざわざ通り道のついでに俺達に会いに来てくれた。そうなると手を借りる手段を取らないのは少しおかしい。いや、俺に手を借りる事を完全にやめたのなら、おかしくはない。

 しかし、東條1人が今日相手の動きに感づき、まだ報告が届いていないといった方が妥当だと俺は思った。東條1人だけが気づくという事は、事件は学校周辺で計画されているという事だろうか?東條も以前の推測がと言っていたので、まず学校関係で間違いないだろう。

 おおよその行動は読めるが、時間や場所、やり方が分からない以上明確な対策が取れない。寧ろ学校が休みなので学生が出歩く事を見越して、そこを狙っているのかも知れない。

 しかしこの考えだと不自然な点もある。まず本当に学生の引き抜きなのか?軍は本当に気づいていないのか?そう考えると俺の思い込みの様な気もしてきた。

 俺は一度思考をリセットする様に頭を左右に振る。

 そして、俺はとりあえず屋上から降りる事にした……。


―――――――――――――――――――――――――――


 俺は一度自室に戻り、財布と携帯を持って再び外に出る。スーパーマーケットで食材の買い込みをする為にエレベーターに乗り込み、ロビーから真っ直ぐ目的地へと向かう。

 俺は歩いている最中も先の事を思案していたのだが、特に気がつく事はなく空振りに終わる。

 そして何事もなくスーパーに到着した俺は買い物かごを持って食材を探す。卵パックや、特売の豚肉などをかごに入れていく。元々スーパーのホームページで確認しておき、買う物を決めていたので俺はスムーズに買い物を進める。

 そこで棚の角を曲がった俺は、調味料のコーナーで輝かしく存在をアピールする様な金髪が目に入る。

 その女の子はお尻を後ろに突き出す様にして前屈みになっていたので道を塞いでいた。その手には砂糖を持っていたので、そんな見た目で料理するのだろうかと少し失礼な事を考えていた。

 それでも黒色のフレアミニスカートに白のTシャツの上にシルキーピンクのジップパーカーに身を包んでいたその女の子は一目見て可愛いと断言出来る程だった。

 更にミニスカートなので足は太ももの半分までしかカバー出来ておらず、少しだけムッチリした白い綺麗な足が曝け出されており、なんとも蠱惑(こわく)的だった。そこで俺は体の揺れに合わせて微妙に動くスカートを見て、下着が見えるのではないかと淡い期待を抱く。

 そして黄色に近い金髪は癖が1つもついておらず、赤色のゴムで纏められてツインテールになっていた。お腹の辺りまで伸びている髪は、手入れが行き届いているのか、毛先まで太陽の様に輝かしかった。

 俺から見える横顔は鮮やかなピンク色の唇。ツンとしている綺麗な鼻。ぱっちり大きな翠眼(すいがん)に長いまつ毛。俺は人を惹きつけて目を離せなくする様なその横顔を見て、俺は思わず「ゴクリ」と喉を鳴らす。

 俺は当初迂回していくつもりだったのだが、足を止めて見入ってしまったので、その子は俺に気づいたのかこちらに顔を向けてくる。そこで俺は薄々気づいていた事が確信に変わる。

 その女の子は俺が通っている学校の生徒だった。たまに廊下ですれ違う事がある。金髪で美少女が印象的だったので顔は覚えていたのだ。クラスメイトではないので名前は分からないが、恐らく1年生のはずだ。

 そして更に俺はずっと黙って見詰めてしまったので、その女の子とばっちり5秒間程目が合う。俺は少し気まずくなり顔を逸らそうとして、その女の子が先に顔を逸らした。

 俺は声を掛ける事なくその場で180度回転し、そこから立ち去ろうとする。俺は同じ学校の生徒と分かっているが、相手は多分そうじゃないだろう。俺は今制服を着ているわけでもないので、声を掛けるとなると、女の子からするとただのナンパに思われてもおかしくないと予想したからだ。

 そこで俺は勘違いされる前に立ち去ろうとしたが、その女の子が発したと思われる声に呼び止められる。


「ちょっとあんた……。」

 俺が思っていたよりも声が少しだけ高く意外だった。俺は声の主の方に振り向く。どうやら先程の女の子が呼び止めたので間違いないようだ。買い物かごには既に色々な食材が綺麗に並べて入っており、料理を自身でしている事は容易に想像がついた。それは俺の勝手な先入観のせいで違和感でしかなかったが。

 そしてその女の子は既に腕を組んでこちらを睨んでおり、どっしりと構えて口を開く。


「あんたさっきまであたしの事ずっと見てたでしょ?なんか用?」

 少しだけトゲトゲした声を混ぜながら、威圧的に俺を見てくる。少し気が強い子なのだろうか?俺は素直に先程の事を説明する。


「いや、君に見惚(みと)君が道を塞いでいたからちょっと見ていただけだよ。」

 俺が不意に本音を漏らしそうになるが、直ぐ様路線変更して言い直したので誤魔化せただろう。多分…。

 するとその女の子は不快そうに眉を(ひそ)めて俺を見ていたが、俺にそう言われてから通路の幅を少し確認してハッとした顔になり、頬をほんの少しだけピンクに染める。

 どうやら意外と素直な子なのかもしれない。俺がうっかり本音を漏らしていたら殴られていたかもしれないが…。

 その子は少しだけ体をもじもじしてから軽く会釈してから謝ってくる。


「あ、あの、ご、ごめんなさい!あたし全然気づいてなかったです。」

「あ、いや、今後気をつけさえすれば大丈夫だよ。俺もずっと見ているだけじゃなくて、一言声を掛ければよかったよ。」

 俺は別に謝って欲しいわけではなかったので、少しフォローするように優しく言う。本音が本音なだけに少し心が痛む。


「そういえば、あなたどこかで……?」

 その女の子はそんな事を言って少し考え込み始めた。どうやら俺の顔を覚えていてくれたのだろうか?俺は先にその女の子が答えを出す前に俺から話し掛ける事にした。友達の第一歩は自分から踏み出そう。少し緊張するが、俺はその女の子に話し掛ける。


「俺は新海(しんかい)隼人(はやと)。第一学校の生徒なんだけど、君もだよね?俺は1-Eなんだけど、君は?」

 俺がそう言うと一気に思い出したのか顔にぱっと笑顔が戻る。

 そしてその笑顔には少量の(あざけ)りが混じっていた事に俺は気づく。


「そうそう、あんた廊下で見た事が…あるよね?多分。てか、あんたEクラスなんだ。あたしは南部(なんぶ)ヒカリ。1-A()よ。」

 南部さんは俺がEクラスだと知って少し態度を変えつつ、Aクラスだと言う事を強調するように強く言い放った。恐らく、下のクラスに配属された奴の事は下に見るのだろう。それもEクラスとなると余計だ。

 俺はその事に少しだけイラつくが、顔には出さずにその気持ちを心の底に押し込める。俺は出来るだけ笑顔を保ちつつ話しを続ける。


「そうなんだ、やっぱり同じ学年だったんだね。南部さんは今日はご飯の買い出しに来てるのかな?」

「そうよ。いつもは自分で作ってるからね。あんたこそ買い出し?そんななりで料理出来るのね。」

 俺の買い物かごの中をチラリと見て、どうやらそう判断したみたいだ。南部さんは少しだけバカにするような言い方をしてくるが、俺も南部さんに対して同じ事を思っていたので、特にイラつく事は無かった。


「まぁ、簡単な料理なら。南部さんも料理出来るのかな?俺の周りには料理出来る奴いないからなんか親近感が湧くよ。」

 これは俺の本心だった。中条(なかじょう)さんや神無月(かんなづき)さんがどうかは知らないが、とりあえず(かえで)は全く出来ない。竜星(りゅうせい)勝也(かつや)とも、そういった話はした事がない。なので純粋に料理の話もしてみたかったし、友達が作ってくれる料理ってのを食べてみたかったのだ。俺はそんな期待を寄せていた。まだ友達ですらないというのに。


「あ、当たり前よ。あたしはなんでも出来るから料理も出来て当然ね。あんたと違ってとても美味しい料理を作れるんだがら!」

 南部さんは腕を組み、顔を横に向けながら偉そうに言ってきたのだが、心配するような目でこちらをチラチラと横目で見てきていたので自信があるのかないのかよく分からなかった。俺がどう返答しようかと困っていると、勘違いしたのか矢継ぎ早に話す。


「あ、あんた信じてないでしょ!どうせ私の見た目とかで料理しなそうとか思ってるんでしょ?みんなそう。私の事、成績と見た目しか見てくれない。」

 最初は勢い良く喋っていたのだが、後半からは語気が弱まっていった。どこか悲しそうに言った南部さん。俺はじっと見詰めているだけだったので、南部さんは言い過ぎたといった風に口を押さえる。

 そして俺を睨んでくる。

(いや、今の俺悪くなくね?)

 そこで南部さんは少しだけ目を潤ませるが、服の袖で目を軽く擦り、キッと眉を吊り上げて再び睨む様な目に早変わりする。


「い、今のは忘れて!じゃあ、私行くから。」

 そう短く告げて俺の返事を待つ前に振り返って立ち去る南部さん。途中一度振り返って俺を見てきたが、直ぐに歩き出して角を曲がっていった。

 俺はポツンと1人取り残されたのだが、買い物をしに来ていた事を思い出して、俺も目当ての商品を取りに歩き始めた……。

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