表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/216

8-4 巧妙に隠された表情

 俺はゆっくりと目を覚ます。

 そんなゆっくりとした動きとは真逆に、一瞬にして脳を覚醒させて現在時刻を確認する。9時57分。

 どうやら俺は疲れており、大分(だいぶ)寝てしまったみたいだ。普段は学校の課題を終わらせて、日付が変わるくらいにはベットに入っている。それが昨日は出来なかった上に心身共に疲れているとこうなるのも仕方のない事だろう。

 俺はとりあえずボサボサの髪を弄りながらお湯を沸かし、顔を洗いに行く。しばしばしていた目もはっきりと開くようになってきた。

 そして朝食の準備を終えた俺は席に着き、食事を摂る。

 今日の先の事を考えながら、トーストに(かぶ)り付き、咀嚼(そしゃく)する。嚥下(えんげ)するのと同時に、ホットココアで流し込み、直ぐに立ち上がる。

 俺は普段から朝食に特別力を入れていない。本当はあまり良くない事なのだが、朝から凝った料理をする気が沸かないという単純な理由から、そういった形になっている。

 俺は備え付けのクローゼットから今日の服を選び、着替え終えてから時刻を確認する。10時15分。

 約束の時間までは15分程に迫っていた。その後には竜星(りゅうせい)との約束もある。

 そう、俺は昨日の夜に、ある人物からメッセージが送られてきていた。

 そして更に学校側からのメッセージも。学校側からのメッセージは全校生徒への一斉送信といった形だったが、内容はよく分からないものだった。

 送られてきた内容は俺のプロフィールでたり、詳しく言うと生年月日とクラス、名前に現在所属している部活動など、今の学校生活について記載されていた。

 そして1つ気になるところがあった。

 そこには所持ポイントという項目があり、俺の場合は100ポイント。上限や下限も分からないし、これが何を意味するのか分からない。これだけでは他人とも比較出来ない。

 しかし後で竜星に直接訊く事や、メッセージで他の人に確認する事も出来るので、とりあえず(かえで)神無月(かんなづき)さんにメッセージを昨日の夜のうちに送って確認をしてみたのだが、まだメッセージへの返信はない。

 竜星には後程訊く事にして、俺は既にこの事については1人で悩んでも意味がないと結論付けていたので、一旦保留という形にする。

 そうこうしているうちに俺の部屋の無線インターホンの室内親機から「ピンポン」と高い電子音が鳴る。時刻は10時20分。予定より少しだけ早いが…特に支障は無かったので、インターホンに映し出される映像で俺の予想通りの人物だという事を確認する。

 そして玄関に向かいドアを押し開ける。

 するとそこには普段通りのスーツ姿の東條(とうじょう)が立っていた。そこで相変わらず凛々しく力強い視線をこちらに向け、俺が準備出来ている事を確認しているみたいだった。

(今日は学校が休みのはずだ。それなのになんでスーツ姿なんだ?)

 そんな事を思っている俺を気にする素振りを見せずに東條はぐっと足に力を込めて跳躍する。

 そこで東條そのまま寮の外の空中へと飛び出す。

 そして東條は何故か落ちる事なく、空中を「歩いた」のだ。そこに何か透明な何かがあるような足取りで、然も階段を登るように上へと登っていく。俺はそれを黙って見詰める。

 すると東條は俺の視線に気づいたのか後ろに振り返ってきた。


「すまん、そういえば何も言ってなかったな。屋上で話そう。」

「あ、そうですか。」

 俺はそう言うしかなかった。なら最初から言っておけよと内心では悪態を吐きつつも、俺はさりげなく辺りに誰もいない事を確認し、ポケットからガラス玉を取り出して屋上へと向かう。

 その光景は他人に見られていたらとても驚かれた事だろう。空中を歩く人と天に向かって落ちていく人。どちらとも異様な光景だ。幸い誰にも見られてはいなそうだ。こんな事で目立ちたくなもなかったし。

 俺は東條に数秒遅れて屋上に足をつける。

 すると東條は俺に背を向けて遠くを見ていた。どこかを睨みつける様に。その背中はどこか親しみを覚えた。直感に近いものだったので、なぜそう感じたのかは分からない。

 東條は振り向き、真剣な眼差しから、面白そうなものを見るような目に変わる。俺はそれに呼応するように目を細める。

 そして大人の色香を持つ東條の唇がゆっくりと開かれる。


新海(しんかい)、お前にはどうしても守りたい奴がいるか?」

「え?」

 最初に言ってきたのはそんな質問だった。俺は予想だにしていなかった質問に面を食らったが、直ぐに冷静になり、俺は考える事もせずに即答する。


「……あぁもちろんだ。俺の手で守りたい奴はいる。」

 俺のそんな言葉を聞いて東條は口角を吊り上げる。

 声に出して笑いはしなかったが、心の中では笑っているのだろう。表情を見ればそれがひしひしと伝わってくる。


「そうかそうか……。それはいい事だな。お前は私と同じだな……。なら1つアドバイスをしてやろう。守りたい奴がいるのなら、そいつから離れるなよ?」

 俺はその言葉にピクリと反応する。それは何故か説得力がある言葉だったから。

 そして俺はそばに付いていたが守れなかった人もいる。その事を思い出して、拳を固める。

(しかしわざわざ忠告する程の何かがあるのか?確かに嫌な前兆はチラホラと見受けられる点はあった。まさか暗部の連中は既に行動に移しているのか?)

 そして俺の考えをお見通しかの様に、東條は俺の思考に言葉を被せてきた。


「以前言っていた推測が恐らく現実となっている。まだ被害報告は出ていないがな。」

俺はそこで大きく目を見開く。

(それならば事態は急速に悪化の一途を辿っているのではないのか?)

 俺はそんな事を思っていると、東條は1人ごとで「舐められたものだな。」と呟いていた。どうやら俺には気づかなかった事に、東條は気づいたみたいだ。

 俺の周辺では特に変わった事は無かった。人の視線を感じた程度だ。それも最初のうちだけで、途中からは全くしなくなっており、俺は気が緩んでいたのかもしれない。研究所から盗まれたデータもどのようなものかも分からず、相手の手の内が読めない事もあり、俺からは行動しずらいのだ。

 東條もまだ確証を掴めていないようなので、恐らく俺にこれを伝えたのは保険みたいなものなんだろう。生徒同士でカバーし合う形になるのが理想的なのだろうか?正直足手纏いになるので俺単独の方が動きやすいのだが、守るとなると話は違う。つきっきりで動かなくてはならないし、制限もついてくる。

 そんな中で俺と実力が同等のやつが現れると激戦は回避出来ないだろう。俺はそんな事を考え、気を引き締め直す。ここ1週間程は用心しておく事を決める。

 東條は簡単な話だけをするつもりしかなかったのか、踵を返そうとする。


「私はこれから行かねばならないところがある。ここを離れるのは少し心配だが…代わりは呼んでおいた。今日限りだから、お前とは顔を合わせずに終わるかもな。」

 東條は既に俺に背を向けているので表情は分からない。

 しかしどこか心配しているのは声からも伝わってくる。それが何に対してなのかは分からないが、おおよその予想はつく。

 そして顔だけをこちらに向けて俺を見てくる。


「最後に1つだけ。学校から届いたメッセージの意味は、明日私の口からクラスメイト全員に向けて説明される。本格的な学校の始動というわけだ。今までの学校生活は前座に過ぎん。お前のやり方でこの先、生き残れるかな?」

 今日は寝癖が1つもなく、毛先まで綺麗に手入れがされていた。麗しい髪が風でなびく。その妖艶な横顔と相まって少しだけ俺は心を奪われる。

 しかしそんな中、魅力的な姿から放たれた言葉は笑って流せるものではなかった。東條は意味のない事は言わない。恐らく現実に起こる事だ。俺はこの先、学校はどの様な変化を遂げていくのか楽しみでもあったが、警戒を怠ると食われるのは自分になってしまうのだろうか。

 俺は終始真顔で笑いもしなかった。驚きはしたがそれだけだ。その事に東條は鼻で笑った気がした。


「お前は一体何者だ?」

 俺はその質問に対して何も答えない。少しだけ鼓動が早くなる。東條はそんな俺を睨みつけて、ため息を吐く。

 そして、無言で屋上から飛び降りていった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ