8-1 解凍
俺達は解散となったが、寮までの道のりは同じだ。
しかし神無月さんは体育館の鍵を返しに行ったので、俺は春雨さんと2人っきりで帰路についていた。
そんな中、俺は今日の事を訊いてみる事にした。
「春雨さん。今日はどうだった?」
「へ?…そ、そうですね…。神無月さんとも上手くやれていたと思いますし…。異能を制御する為に踏み出した事は大きいと思います。
あ、あと、新海君と一緒にいる事が出来て楽しかった…です。」
春雨さんは少し俯いて耳をほんのり赤くしていた。俺は春雨さんが楽しむ事が出来たのならよかったと思いつつ、今後の事について考える。
異能を制御してしまえば問題はある程度までなくなる。
しかしそれによって更なる問題が増えてしまう。
俺は春雨さんがどうやったら自分の身を自分で守れるようになるかを考えていた。身を守るだけなら単純明快。しかし事はそんなに甘くない。
そして俺はそんな事を必死に考えており、春雨さんが心配そうに俺を見詰め、俺の制服の右袖を掴んでいた事に気づかなかった。
更に俺は油断していた。以前ここで事件が起きたのは4日前。当分は暗部の連中は大胆な行動に移す事はない。そう、考えていた……。
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俺は春雨さんと別れて寮の自室に戻る。
そして俺の部屋がある階で降りると、何故か俺の部屋の前で蹲っている人が視界に入る。その人の顔を伺う事は出来ないが、直ぐにその人が誰なのかが分かった。
髪の色が淡いピンクの奴なんて限られている。
それに俺の知っている中では1人しかいない。俺はそいつに近寄り、話し掛ける。
「楓、お前ここで何してんだ?そこに座られていると中に入れないんだが…。」
俺がそう言うと楓はスッと顔を上げて俺を丸い可愛らしい目で見詰めてくる。そのまま無言のまま立ち上がり、ドアの前から移動する。顔は少し俯いており、その時の表情は分からなかったが。
そしてポツリと喋り出す。
「遅い。早く開けて。」
「は?」
俺は意味が分からなかった。楓はとりあえず中に入りたいようだった。俺は楓を気にする様に見詰めつつ、扉のロックを解除して中に入る。
楓も当然の様に俺の後ろについてきて中に入ってくる。その間も黙っていたので、俺は少し不思議そうに楓を見ていた。
そして楓は何も言わずに俺のベットに腰掛ける。ギシッとベットがほんの少し軋む音がし、同時に楓のたわわな胸が揺れていた。
楓は何か用があって来たと思うのだが、何故か何も話さない。
そして、何も言わないまま俺の布団に滑り込む様にして潜り込む。俺は結局楓が何をしたいのか分からず、質問する。
「楓、お前何やってんだ?てかそもそもいつから部屋の前にいたんだよ?」
「…1時過ぎ…くらい、かな。」
「は?」
俺は絶句した。今日は4月16日。だんだんと暖かくなってはきていたが、今日は少し風もあり、肌寒い日だった。楓の服装はブルーのギンガムチェックのスカートにホワイトのベーシックシャツ。上半身は腕までカバーしていたが、足が膝から下までは全て素肌が露出していた。
俺は部屋のデジタル時計で時刻を確認する。
4時43分。
(そんな状態で、約3時間半も待ってたのか!?)
俺は直ぐに楓に近づいて、俺は楓のおでこに右手を当てて体温を測る。その楓のおでこに触れると、ヒヤリととても冷たい事から低体温症を俺は直ぐに連想した。
それだけでは判断出来る訳ではなかったが、明らかに楓は寒がっており、普段よりも気持ち血色が悪く、意識もはっきりしていないようだった。
「お前何やっ……。」
俺はそこで怒鳴るのを止める。今言っても意味がないし、多分逆効果だろう。
俺はとりあえずお風呂を沸かす。その間に俺は温かいココアを飲ませる為にお湯も沸かす。部屋にはこれ以上毛布などはなかったので、とりあえずベットの中で温まってもらう事にした。暖房もつけて部屋を暖めてみる。一気に温めると確か体に悪かったはずなので、温度調整で少しずつ部屋を暖める。
すると直ぐにお湯が沸いたので、粉を溶かすだけで作れるココアを用意する。俺はマグカップにお湯を注いで粉を溶かして、楓にスプーンと一緒に手渡す。
楓は少しだけ冷ますように息を吹きかけながら、少しずつ猫の様にちびちびと飲んでいた。5分程かけて飲み干して、楓は再びベットに潜り込む。
俺に背を向けるようにして、横になる。俺はだんだん暖かくなってきた部屋の中で楓をお風呂に入れようとする。
「楓、お風呂沸いたら入るだろ?」
「入らない…。もう大丈夫。」
楓はここ最近で全く聞いた事がないほど、弱々しい声でそう返事をしてきた。俺は苦しくなる程心配になるが、水を被って濡れている訳ではないので、暖かい部屋でベットに入っていれば大丈夫かと判断して、お風呂には入れない事にした。意識がはっきりしていない状態で、1人で湯船に浸からせるのも危険と判断した結果だ。
俺はとりあえずトゲトゲしい声音だった事を反省し、一度深呼吸をする。
俺が焦っても意味がないので冷静な判断を心がける。俺が焦るなど余程楓の事を想っていたのだと、そこで気付いたが、結局それを気に留め続ける事はない。
それに低体温症は馬鹿にできないものだ。俺はとりあえず楓を見守る。そこで楓がポツリと呟く。それは耳を澄ましていないと聞こえないほどの声量だった。
「ごめん…隼人…。」
「…気にすんな。今は体を温める事に集中しろ。」
「うん…。ありがと。」
そんなやりとりをしてお互い黙りこむ。その沈黙は俺は悪くないと感じていた。おそらくお互いがお互いの事を考えている。口に出さなくても通じあうものがあるのだ。
そんな風に俺が楓を見守って10分くらい経つと、スースーと寝息が聞こえてきた。どうやら寝たようだ。
俺はとりあえず安堵する。
そして、安心した事により、ぽろっと口から思っていた事を溢す。
「バカ。本当に心配させやがって…。何やってんだよ…まったく…。」
俺はそんな事をいいつつ、楓の寝顔を盗み見る。
それはとても可愛らしい寝顔だった。まるで眠れるお姫様の様な。
普段の笑顔も可愛いと思うが、やはり無謀に晒された顔にはまた違った雰囲気があり、俺はドキリとする。
楓は今寝ている。その綺麗な淡いピンクの髪、体温が少しずつ戻ってきているのか色づき始めている綺麗な唇。手を伸ばせばすぐに触れられる。そんな事を思うと俺は顔が熱くなり、興奮しているのを自覚する。部屋が暖かいから体温が上昇している訳ではない。単純に俺は楓に対して発情していたのだ。
俺はそんな事を振り払うように首を横に振る。
楓に入らせるつもりだったお風呂に俺は入る事にした。今日は汗をかいたので、元々シャワーを浴びるつもりだったのだが、お風呂も沸かしてしまったので、せっかくだから入る事にした。
そこで俺はもう一度だけ眠る楓をチラリと見て、脱衣所に向かった……。




