1-5 交差する思惑…
昼食を食べ終えた俺達は午後からの身体計測がある為、既に楓達と別れて体育館に向かっていた。女子と男子では体育館の場所が違う為、それは仕方ない事なのだが、俺は一緒の方が良かった…ってのは横に置いておく。
身体計測は全学年同時に行われるそうなので、先輩と一緒になると考えてしまうと少し足取りが重くなる。俺達は体育館に到着すると、その入り口からさっと見渡す。いくら広い体育館といっても3学年が集まっているので狭く感じられた。
既に出来ていた列は6列あり、1つの学年に2列程あるみたいなのだが、それでも20人近くの列だ。今回は俺は1人ではないので、並んでいる待ち時間は話をしていれば良いのでまだマシかと思いながら並んでいると、注目を集めている人だかりがある場所がチラホラと見受けられた。
(あれは…現生徒会長だな。そして、知らない顔と…あれは確か……)
「神無月夏威君だね。」
藤堂は俺の視線の先を見ていたのか、俺が思っていた事を見透かしているかの様に被せて話し掛けてくる。
「え?藤堂お前知っていたのか?」
「うん。僕、5日前から寮に住んでいたから顔は知ってるよ。食堂でもチラホラ見かけたし。あと…あそこの家はお父さんが有名でしょ?」
「あぁ、確かにそうだな。良い意味でも悪い意味でも…な。」
「え?なんて?」
「いや、気にするな…で、もう1人のほうも知ってるのか?」
俺はもう1つの人だかりに指を指しながらそう訊いてみる。
「うん、あの人も有名だからね、でも名前だけかな。佐渡雷智。何をしたとかまでは僕は知らないけど。」
「佐渡…。」
苗字だけは聞いたことがある。裏ではヤバイ実験や禁忌に触れたなどと、悪い噂が1人歩きしているようなものなんだが、実際はどうなのかは分からない。この学校は注視する必要がある人物が多すぎる。
俺はそんな事を思っていると、前から急かす様に声を掛けられる。
「はい、次の人!」
「…あ、すみません。」
俺は急ぐようにして、軽く会釈をして身体測定をするために台に乗る。
「…174.3cmですね。はい、もういいですよ。」
(やはり体の変化なし…か。)
そんな現状に落胆しつつ、藤堂の話し声に耳を傾ける。
「新海君どうだった、身長伸びてた?」
「全然。これっぽっちも変わんねぇ…。藤堂は?」
「僕?僕は2cm伸びて180になってたよ。」
「そうか…。俺ももう少しだけでいいから身長が欲しかったな。」
「…今からでも伸びると思うけど?」
「そうだと…いいな。」
俺は少し気を落としながら身体計測を続ける。藤堂は首を傾げていたが、直ぐに忘れたのか普段の様子に戻っていた。こうして恙無く計測を終えていった俺達は、部活動の時間が始まるまで学校をなんとなく見回ることにした。
その間に藤堂が腹痛を訴え、トイレに篭ってしまったので、1階の休憩室で待つ事にした。その行動は今では凄く後悔している。
「新海お前1人か?」
休憩室で1人で佇んでいた俺にそう声を掛けてきたのは、俺達のクラス担任の東條愛だった。
(まずいな…こいつにはほとんどの情報が筒抜けのはずだ。1人で待っているのは愚策だったか。)
俺は内心焦りつつも、特に表情を変える事なく返答する。
「いえ、違いますよ。友達がトイレにいったのでここで待ってるだけです。」
「なら用件は手短に済まさねばな?」
そう言って東條は端正な顔を少しだけ崩して口角をあげる。この人相手にどこまで隠し通せるかを予測しようとしてみるが、直感的に無理だという事は理解していた。
「何故、入学試験で手を抜いた?お前なら成績トップを狙えただろうに。ましてや元軍の人間がE判定などありえん。私の目を誤魔化せるとでも思ったのか?」
そう言って東條の目つきは鋭いものに変わる。元々のつり目を更につり上がらせ、威圧するかのような視線を向けてくる。俺は東條がこの学校にいる事は知らなかったので、そんなつもりは無かったのだが、本人はどうやら深読みしているらしい。俺はたじろぐ事なく、寧ろ呆れた様に言い放つ。
「はぁ、学校の判定は正しいですよ?俺は確かに元軍の人間ですが、落ちこぼれ組ですよ?手なんか抜いていません。」
(全て筒抜けか。この人相手に情報戦は部が悪すぎるな…。強引にでも抜け出したほうがよさそうだ。てか、早く藤堂帰ってこいよ。昼あんなに食べるからだろ!)
俺がそんな事を思っている間に東條は矢継ぎ早に話を進める。
「エクスタシア計画……末端だけだが、知っていると言うと君も快く話してくれるかな?」
俺はそれを聴いて、これ以上喋らない事を決める。それは鎌かけの可能性もあったからだ。それを見て面白そうに俺をしげしげと見つめてくる東條。
「黙秘するというわけか。それなら仕方ない。この手…」
東條がそこまで口にした瞬間。
休憩室の入り口に立つ、3人目の声によって東條の放った言葉は塗り潰される様に掻き消された。
「ごめん新海君!ちょっと長引いちゃって…って、あれ?東條先生?え…何か話してた?」
「いや、そんな事ないよ。ほら行こうぜ、藤堂もう部活動始まってるぞ。じゃあ先生、俺達はこれで。」
「え?よ、よかったの?新海君何か話してたんじゃないの?」
「あぁしてたさ、とびっきりでかいうんこの話をな。」
「ど、どゆこと?」
藤堂は俺の放った言葉の意味が理解出来ないらしく、困惑しながらも俺に背中を押される形で休憩室を後にする。
俺は先程の話をうんこと例えた。しかし俺の言った事は間違っていない。あんな話は糞と同じだった。
(それより藤堂まじ助かるわ。スーパーグットタイミング!お前実は話聞いてたんじゃね?ってぐらいにな!)
こうしてピンチ?から脱出した俺達は、部活動体験に向かった……。