7-2 左右逆転
食堂で食事を終えた俺達は食堂を出た扉付近で解散となっていた。2年生と中山さんはそのまま帰るらしいが、3年生の渡辺先輩、町田先輩、東野先輩は学校に残って勉強をしていくみたいだった。
どうやらこの学校はテストで赤点を取るとまずい事になるらしい。3人は赤点回避というより、高得点を狙っての勉強をするらしいが…俺も今後はしっかりと勉強もしておこうと思いつつ、俺は帰る先輩達に挨拶をした後に神無月さんに話し掛ける事にした。
「神無月さんも直接(第4異能訓練用)体育館に向かうんでしょ?」
「そうね。荷物も既に持ってきているし…時間的にも直接行った方がいいわ。」
そう言って神無月さんは歩き始めたので、俺は自身の腕時計で時刻を確認する。12時47分。もう直ぐ約束の1時だ。春雨さんは既に来ているのだろうかと思いつつ、俺も神無月さんに付いて行き、左隣に追い付いた後に同じペースで歩く。
そこで俺は少しの下心を混ぜて、冗談を言ってみる事にした。
「もしかして俺達って、周りから見るとカップルに見えてるのかな?」
俺はそこでチラリと神無月さんを見るが、依然前を向いたまま、黙って歩くのみだった。表情にも変わった様子はない。
そこで俺はもう一度言ってみる事にした。
「もしかして俺達って、周りか…グフッ…。」
すると俺は普段の優しい殴りではなく、神無月さんから重い一撃が俺の横腹に向かって飛んできた。
そこで俺はあまりの衝撃に思わず膝をつく。
そして前を見るが、神無月さんは全く心配する様子を見せず、止まってくれない。今になって発言に後悔し、焦った俺は直ぐに立ち上がって話し掛けてみたりしたが、体育館に着くまで口を開いてくれる事はなかった……。
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「自業自得ね。」
俺はそう神無月さんに言われつつ、殴られた横腹をさすりながら体育館に入る。体育館の中を確認するが、まだ春雨さんはいないようだった。まだここに来ていないか、更衣室にいるのだろう。
そこで俺達は着替えるために更衣室に別れて入る。
そして、俺はそこで見てしまった。
「あれ?神無月さん少し遅かった…です…ね……。」
俺はそこで上半身が白のスポーツブラ。下半身が制服のスカートだけの状態の春雨さんとばっちり目があってしまった。
「え?し、新海君…?ここ女子更衣室だよ?」
「え?いや、ここ男子更衣室だよ…?」
そんな事をお互い言い合って黙り込む。俺はとりあえずその場から離れればよかったのだが、なぜか俺の足は鉛のように重く、全く動かなくなっていた。
そして当然、視線は春雨さんに釘付けになっていた。
見る人を魅力する大きな瞳に、綺麗なまつ毛。ツンとした端正な鼻に、小さな顔にぷるぷるとした柔らかそうな唇。髪は毛先まで手入れが行き届いており、体も流麗なくびれがあり、透き通ったような白い素肌。可愛いらしいおへそもチラリと覗かせ、スポーツブラに守られた僅かな膨らみがあるぺったんこな胸も。それらが全て、俺の瞳には魅力的に映った。
そこで春雨さんに聞こえているんじゃないかと心配になるくらい、俺の心臓はバクバクと高鳴っていた。
普段は可愛い子ぐらいにしか思っていなかった俺には、その完成された美の光景はインパクトが強すぎたのだ。
すると春雨さんの瞳が一気に潤み、耳が赤くなる。さっと両手で胸を隠し、しゃがんでしまう。
そしてシーンと静まり返った部屋に、軽々と響き渡る大声で言い放つ。
「み、み、見ないでくださいぃぃぃぃいい!!?!」
その瞬間に俺は一瞬だけ冷静になり、更衣室から追い出される様に飛び出してドアを閉める。
そして、ドアにもたれかかるようにずるずると座り込む。俺の心臓はまだ高鳴っており、先程見てしまった光景は瞼の裏に焼き付いたかのように、忘れる事は出来なかった…。
俺は呼吸を落ち着かせ、少し冷静になったところで立ち上がり、本当に男子更衣室かをドアの上に設置されているプレートを見て確認する。
すると確かに俺が入ったのは男子更衣室だった。
そこで俺はなぜ春雨さんが間違えて男子更衣室に入ってしまったのかに気づく。
そして着替えが直ぐに終わったのか、神無月さんがピンクのTシャツと黒のハーフパンツの状態で出てくる。
すると神無月さんも当然の様に俺の存在に気づき、首を傾げて質問してくる。
「…なぜまだそんなところで突っ立っているのかしら?それにさっきの悲鳴は?」
「…いや、中で春雨さんが着替えていたんだよ…。」
「は?」
そう言って神無月さんは更衣室に指を指していた俺を睨んでくる。
「いやいや、冗談じゃないから。そんな睨まないでくれるかな!?
まぁ、それで多分だけど…ここって、バドミントン部の体育館にある更衣室や体育の授業で使う更衣室とも…男子と女子の更衣室の位置が…「逆」、なんだよね…。」
すると神無月さんも俺にそう言われて気づいたのか、納得した様子で俺の言葉を補足する。
「確かに…そうね。基本的に見た目は全く一緒。パッと見て違うと分かるのはプレートの一点のみ。
つまり、プレートをよく確認しなかったのなら間違えて入ってしまうのはあり得る話だわ…。何これ、学校側の意地悪かしら?」
「いや、そんな事を俺に訊かれても困る…。」
「それもそうね…。今後私もよく注意して中に入るわ。」
「そうした方がいいよ…。うん。」
そんなトラップに呆れつつも、俺はとてもいい思いをしたので、内心はガッツポーズをしていた。
そして少し経つと着替えが終わったのか、顔を真っ赤にした春雨さんが荷物を持って更衣室から出てきた。
そこでプレートを確認して女子更衣室に入って行った春雨さんを見届けて、俺は苦笑いを浮かべながら更衣室に入り着替える事にしたのだった……。




