6-9 作戦会議②
「異能の特訓、ですか?」
「うん。今、春雨さんに必須なのは、異能を制御出来るようになる事だよね?それなら、それを出来るようになったら、単純に悩んでいる問題が解決する訳だよね?だから、特訓しようって話だよ。」
俺が春雨さんに提案していたのは異能の特訓だった。今春雨さんが最優先で行うべきなのは、異能を制御する為の力だ。その為には、俺が特訓を見てあげればいい。
そこで似た様な問題を抱えている大崎さんと一緒に行う事も考えたが、今は楓に任せている状態なので、一緒には行わない事にした。
そして恐らくだが、春雨さんと大崎さんの2人が抱えている問題は、似ているようで全く違うものではないかと、俺は勝手に予想していた。
これは大崎さんと話してみないと確信は得られない事なのだが、その話はまた考えるとしよう。
春雨さんに異能を制御したい、扱えるようになりたいという気持ちがあるのなら、神無月さんと一緒に特訓すれば良いのではないかと考えていたのだが、するとそれを神無月さんが了承してくれるかが、問題になってくる。これは本人に直接訊いてみないと分からないので、俺はこの場で訊いてみる事にする。
「神無月さん…あの…少しいいかな?」
「何かしら、私の特訓に春雨さんも参加させて欲しいって言うのなら、別に問題はないわ。」
「え?」
俺はそこで驚いて惚けた声を漏らしてしまう。
「別に私は問題ないって言ってるの。今のがあなたの言おうとした事であってるでしょ?違っていたかしら?」
「いや、あってる…けど…。」
どうやら俺の考えは見透かされていたらしい。
神無月さんも頭が回る方なので、話の流れから予測するのは簡単だったのだろう。そしてそこまで無表情で話していた神無月さんが、少し嘲る様に笑った気がした。
「え?け、結局どうゆう事になったんですか?」
そして春雨さんは俺達の話が理解出来なかったらしく、オロオロとしながら俺と神無月さんの顔を交互に見詰めていた。
俺と神無月さんの異能特訓の話を知らなかった春雨さんが直ぐに理解するのは難しかったのだろう。
「…要するに、私と春雨さんが一緒に異能の特訓をしようって話。…どうかしら?あなたにとっても悪い話じゃないと思うのだけれど。」
「あ、そ、そうゆう事ですか…え?でも、神無月さんも異能で困っているんですか?」
春雨さんは意外と言った様に驚いた後、首を傾げていた。そして神無月さんは少し言い辛そうに話を続ける。
「えぇそうね…。…あなたみたいに制御出来ないわけじゃないけど…干渉力がね、低いのよ。」
「そうなんですか…でも、人体抵抗力は高いのに不思議ですね…。」
俺はそんな不意に紡がれた言葉を聞いて、驚きを隠さずに少し身を乗り出してしまう。
そして直ぐ様、早口に問いただしてしまう。
「え?ちょ、ちょっと待って。春雨さん今なんて?人体抵抗力は高いって言った?」
「は、はひ!い、言いました…けど、どうしたんですか?そ、そんなに慌てて…。」
そう言われて俺はかなり声が大きくなっている事に気づき、冷静になるように努める。深呼吸をし、気持ちを落ち着ける。
するとその間に神無月さんは春雨さんに話し掛けていた。
「春雨さん、それって私の事?」
「え、あ、はい、そうです。あ、あの!す、すみません!教室で椅子に座っている時から恥ずかしくて、必死に異能を抑えていたんですけど…急に手を掴まれてびっくりしちゃって、教室を出る時に3秒程制御出来なくなっちゃって…。でも、神無月さん平気そうにしてたから…。」
春雨さんは罰が悪そうに視線を泳がせつつ、神無月さんはそう言われて自身の手をじっと見つめていた。
そして視線を春雨さん…ではなく、俺に向けてくる。
「それって私の抵抗力が高かったから春雨さんの異能が効かなかった。という事であってるのよね?新海君。」
「あ、あぁ、そうだ。神無月さん、人体抵抗力が高かったんだな…。」
「えぇ、そうね。私も初めて知ったわ。既に常人よりもある程度は高い事は知っていたのだけど、恐らく予想よりも高い事になるわよね?」
「そうゆうことになるな…。春雨さんの人体干渉力は大分高いから、それに抵抗出来るとなると…かなりものだな。」
俺より抵抗力が高いとなるとかなりのものになる。それは神無月さんの隠れた才能だ。神無月さんはとても嬉しいのか、珍しく笑顔を浮かべ、腕が少し震えていた。
そしてそこで俺はとりあえず明日から特訓に参加出来ないか、春雨さんに訊いてみる。
「春雨さん、明日の午後って空いてる?」
「え?えーと…空いてますね。」
「なら部活の後、午後1時から特訓に参加しない?」
春雨さんはそこで少し悩む様子を見せるが、直ぐに決断したのか、喋り始める。
「や、やります!やっぱり、制御出来るようになる為には直ぐにやらないとダメですよね…。私頑張ります!」
「…分かった。じゃあとりあえず連絡先教えてくれない?都合が悪くなったら連絡して欲しいんだけど。」
「あ、はい、分かりました。」
そう言って鞄から携帯を取り出す春雨さんを見ていた神無月さんが口を開く。
「私もいいかしら?連絡先の交換。」
そこで意外な一言を放つ神無月さん。俺はてっきり連絡先を交換しないと、勝手に思っていたのだがそうではないらしい。
「え、あ、ぜひお願いします!…私が連絡先交換するなんて…少し夢みたいです…。」
そこで少しだけ語気が弱まる春雨さん。俺は柔和な笑みを浮かべる春雨さんを見つつ、それを聞いて黙るしかなかった…。
そして俺は腕時計で時刻を確認する。18時12分どうやら時間が結構経っていたらしい。俺はここで夜ご飯を食べていく事にして、メニュー表を取る。
するとそれを見た神無月さんが、少し意地悪な事を俺に対して言ってくる。
「もしかして、奢ってくれるの?」
「え?」
「…もしかして、奢ってくれるの?」
「いやいや、2回も言わなくても大丈夫だから、聞こえてるから!」
「え?し、新海君、奢ってくれるの?」
「え、春雨さん!?じょ、冗談だよね…?」
「え?ち、違うんですか!?」
そこで俺は春雨さんと、神無月さんにじっと見つめられる。俺はこの流れをどこかで体験したような気がするが気のせいだろうか?
そして、俺は春雨さんの期待の眼差しと、神無月さんの目の圧力によって観念する事に決めた。
「あーもう、分かったよ…好きなもの頼んでいいよ…。」
(最近俺の財布がダメージを負いすぎている気がするが…気のせいだろうか?)
そんな事を思いつつ、本格的にバイトを探す必要があると考えていた。
そこで唯一の救いだったのが、注文する際にマスターが「今日は少しだけ安くしておきますね。」と言ってくれた事だろう。
そしてバイトの需要も夜はあるらしく、俺にはマスターが神様か何かなんではないのかと思えてきていた。
今回は「あーん」などといったものはしてくれる人はおらず、ただ美味しいマスターの料理に、舌鼓を打っただけだった。
そしてその歩く帰り道で俺は、神無月さんに気になった事について質問をしていた。
「そういえば、神無月さんはなんで春雨さんの参加に協力的だったの?俺としてはありがたい事だったんだけど…。」
「そうね、異能の感じ方や扱い方は個人によって変わる。それでも何かしらの共通点や、別の視点から何かを見つける事が出来るんじゃないかと思って。
私と春雨さん。お互いにとって良い関係を築けるんじゃないかと思ってね。確信はないけど、試してみないと始まらないわ。」
俺はその神無月さんが言った事に対して、純粋に納得していた。
神無月さんが言った事は実際軍でも、分隊単位でやっていた事だ。感じ方、扱い方が違っても共通点や、ヒントみたいなものは出てくる。異能開発は1人で行うよりも大勢でやるほうが圧倒的に効率が良い。
しかし、それはお互いが信頼できる相手じゃないと意味がない。異能の情報が筒抜けになるという事はそれに対して対策が容易に出来るようになる事を指す。
恐らく神無月さんは、先に春雨さんの事を知った事により、一定の信頼も持った上での了承だったのだろう。しっかり考えられている事に称賛していると、逆に神無月さんに質問をされる。
「私も1つ、あなたに訊きたいことがあるわ。家などにいて、空いた時間で出来るような、簡単で効率的に異能の練度をあげる事が出来るものはないの?」
「効率的にあげることは出来ないけど、簡単に毎日出来る事はあるよ。」
神無月さんはさっきまで前を向いて話していたが、それを聞いて俺のほうに向いてくる。
「…それは?」
「毎日ずっと異能を使い続ける事だよ。ギリギリまでね。少し危険だけど、簡単ではあるよ。神無月さんの場合だと、何かを常に振動させておくとか?
そういえば、神無月さんの異能を詳しく聴いた事って無かったね…。」
「…そうね、それはまた明日伝えるわ。」
「分かった。」
そこで春雨さんが俺の服の袖を2度程引っ張ってくる。それに合わせて俺は春雨さんに視線を向ける。
「私は…どうすればいいんですか?」
「春雨さんは…空気を圧縮とか…出来る?」
「え、やってみないとわからない…です。」
「わかった。なら詳しいことは明日やろう。」
そこで俺達は寮に到着する。
「それじゃあまた明日!」
「は、はい!お、おやすみなさいぃ!」
「おやすみ。」
そうやって俺は2人が寮のロビーに入り、姿が見えなくなるまで見届けた……。




