6-8 作戦会議①
俺は春雨さんが教室全体に投下した爆弾のおかげで、俺はぼーっとしていた。春雨さんは顔を赤くして俯き、チラチラと俺を見てきていたが、俺はそんな彼女の相手をする程の余裕はなかった。
そして、気がついたら東條の言葉を最後に、部結成は締めくくる事になっていた。
「お前ら、部活も頑張れよ?私からは以上だ。」
そんな風に不敵に笑うだけで、東條からの言葉は一瞬で終わった。そして解散の流れとなる。今日は部結成がある為に部活はない。明日は8時半から部活がある事になっているが、今日は解散だ。つまりどういう事かというと。
「ねぇちょっと隼人君、まさか2股?私もそれは良くないと思うな?」
俺は遠藤先輩に、右肩に手を置かれながらそう言われた。絶妙なニヤニヤ顔に俺はイライラを募らせながらも、表情には出さない。さりげなく2股となっているが、なぜそうなったのか分からなかったが、俺は否定しようとする。
「いやいや、2股なんてしてないですよ!そもそも、誰とも付き合ってないですよ!春雨さんはただの友達です!」
「本当にぃぃ?怪しいな?…えいえい。」
俺は頬を遠藤先輩の人差し指で突かれながら質問攻めにあう。そして視界の端で春雨さんは俺の「ただの友達」と聞いた時、少しショックを受けていた様に見えた気がした。
「おい隼人…お前やっぱり、春雨さんとデキてんのか?お昼の時はごまかされたが…やっぱりそうなんだな!?」
「え、そ、そうなの、新海君!?」
「違うからなデキてないから!そして、中条さんも信じないでぇ!?」
俺は慌てながらそんな質問攻めに抵抗する。
更に言うなら神無月さんの視線が痛い。そんなゴミを見る目で俺を見ないでくれるかな?
そして元凶の春雨さんはただ手を振りながらオロオロしており、どうすればいいのか分からないみたいだった。まだ俺にだけ皆が集まっているが、そのまま春雨さんに流れていく可能性もあったので、外に連れ出したいところだ。
しかし今俺が主体で動くのはまずい。そこで俺は神無月さんにアイコンタクトを試みる。
「神無月さん!春雨さんを外に連れ出してくれないかな?」
俺は神無月さんをじっと見つめた後、春雨さんと外を交互に見て、必死に伝えようとする。その間にも質問攻めは継続される。
「新海お前やるなぁ!運動だけかと思ってたけど、女を作る方も早いなんて流石だな!」
そんな事を佐野先輩は笑いながら言ってくる。俺は佐野先輩、勝也、中条さん、遠藤先輩に囲われている中でいちいち返答していてはキリがなかったので、耳を押さえ、「聞こえない聞こえない何も聞こえません。」などとふざけたセリフを繰り返し呟く事にした。
そしてそこで、あからさまに怒りのオーラを放ち、それを全身に纏う東條が近づいて来た。まさかこの寸劇に一緒に参加してくるのかと思っていたが…そんな事はなかった。
「おい遠藤…お前、私の言った事をもう忘れたとか言わないよな?新海を取り囲むのは好きにやればいいが…お前、もう一度言うが…。私の言った事を忘れてないよな?」
とても女性から放たれたとは思えないほど低く恐ろしい声を聞いて、遠藤先輩は戦慄した。直ぐにガタガタと震えながら、古びたロボットの様に振り返り、腕を組んで立っていた東條の方を見る。
「ま、まっさかぁ…ハハッ。忘れてたなんて事はないですよ?決して。うん…。」
「そうか?ならいい。忘れていたなんて事を言っていたら、私は何をするか分からなかったなぁ…。」
そう言って右手の拳をギュッと強く固める東條。そこで同時に黒と赤が混ざったどす黒い怒気を形成した様なオーラが噴出される。なんでそこまで迫力を出せるのかは分からないが、東條によって笑顔を痙攣らせる遠藤先輩が連れて行かれ、障害が1人減ったのは大きい。
そして、その間に春雨さんは神無月さんに連れられて教室の外に出たようで、既にその2人の姿はなかった。心配のしていた事が解消され、俺を囲む障害が減った事によって安堵した俺だったが、結局その檻から解放されるのは、10分後になってしまった……。
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「なぁぁぁんだ、ただの友達かよ。つまんねーの。」
「いや、俺は最初からそう言っていただろ!?」
「いや、だってそれは春雨さんがあんな事言うからだろ?「付き合ってます!」なんて事を言ったら疑うのは当然だろ?」
「いや、まぁ、そうだけどさぁ…お前全然話聞かなかったじゃん…。」
俺はあの場をなんとか切り抜け、勝也ともう1人、新たに部活で知り合った1年生と寮に向かって歩いていた。そこで勝也はその男子生徒に同意を求める。
「お前もそう思ったよな?三神。」
「えぇそうですね。春雨さんは十分…いや、凄いめちゃくちゃハイパー可愛い子です。あんな子が新海君の事で顔を赤らめたり、付き合っているだのと言うところを見ると…完全に黒と判断するのが妥当でしょう。
結果的には白に限りなく近いグレーといったところでしょうか?新海君も春雨さんにああ言われるのは満更でもないでしょう?……やっぱり、黒じゃないですか?羨ましいです。」
「おい、最後の私情が入っただろ…。」
「気のせいです。」
そんな事を言いつつ、自身の眼鏡を人差し指で「クイッ」と、押し上げる動作をする三神。
こいつは三神大輔。身長165cmほどで、黒髪のおかっぱだ。眼鏡は四角で青色フレームだ。こいつはバドミントン部の新入部員なのだが、俺と勝也、そして三神だけが新入部員の中で男だった。それ以外は神無月さん、中条さん、春雨さんに、名前を覚えていない女子が4名。新入部員は10名ということになるが、3対7の比率はどうなのか?嬉しいような、そうじゃないような。いまいち分からない感情を抱えつつ帰路に着く。
寮につき、エレベーターに乗る。三神は4階で降りて、勝也は11階なので、俺が10階で先に降りる。勝也との別れの挨拶を手を振りながら済ませ、俺は携帯を直ぐに開く。するとそこには神無月さんからのメッセージが届いていた。
「以前私と行ったカフェにいるわ。早く来てくれないかしら?」
そこで俺は「了解。今急いで行く。」と短く返信し、俺は財布と携帯以外を自室の玄関に置いて、再びエレベーターに乗る。俺はエレベーターから降りた後は少し小走りになりながら先を急いぐ事にした……。
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「ごめん、少し遅くなった。」
俺が息を整えながら到着すると、黙って紅茶を飲んでいる神無月さんと、居心地が悪そうにキョロキョロと見渡したら俯く事を繰り返す春雨さんの姿が直ぐに目に入った。
2人が会話をしていた雰囲気もなく、他に客の姿はない。更に店内はとても静かだった事もあり、俺の声はとても響いた。そしてそんな俺の声を聞いて、春雨さんが視線を寄越して、俺と目が合う。
「あ、新海君…。」
「ごめん、遅くなったね…隣いいかな?」
「あ、う、うん。」
俺は了承を得ると、春雨さんが横にずれて空いたスペースに腰を下ろして座る。すると神無月さんも紅茶から視線を上げ、俺をじっと見つめてくる。
「新海君、あなたの意図をわざわざ汲んであげて実行に移して今回は助けてあげたけど、次はないから。
それに、この事について説明してくれるかしら?」
「あ、あぁ。春雨さんいいかな?話して。」
俺は軽く頷いた後にそんな風に訊くと、春雨さんは少し困ったように、口を開けたり閉じたりして、言葉を選んでいるようだった。そんな姿を見て神無月さんは少し悟ったのか、先に喋り始める。
「言いたくない事なのなら、無理していう必要はないわ。あなたとは今日知り合ったわけだし。当然ね。」
「神無月さん…。…春雨さん、俺は話してもいいと思うんだけど、どうかな?神無月さんは普段キツイあたり方をしてくるけど、優しい一面もあるんだ。」
俺がそう言うと、神無月さんは人を殺せそうな程の圧をかける様に俺を睨んできた。俺はそんな視線を無視するかの様に、春雨さんをじっと見詰める。
俺はここまできたのなら神無月さんにも理解者の1人として、春雨さんの力になって欲しかった。俺1人では限界があるし、同じ女子としての意見も欲しかったからだ。俺のそんな気持ちが伝わったのかは分からないが、春雨さんは黙って頷いてくれた。
そして春雨さんさ、俺の制服の上着を神無月さんには見えないテーブルの下で、キュッと摘んできた。
「あ、あの…ですね…とりあえず今日はありがとごさいます。助けてくれて。自分がしでかしたミスだったのに、2人に助けて貰って…。」
「いえ、それは問題ないわ。後で新海君に恩は返して貰うわ。」
(え?俺!?ま、まぁ確かに頼んだのは俺だよ、俺だけど、そこは無かった事にしてくれてもよかったような…。)
「それで、私の事なんですけど…。」
そこで春雨さんは黙ってしまう。そんな春雨さんを見て神無月さんは眉を顰めて、じっと春雨さんを見詰める。
そこには威圧を感じたり急かしたりする気配は微塵もない。
そして俺の制服の上着を摘んでいた春雨さんの右手を、俺はそっと握り返す。そうすると、春雨さんも俺の手を握り返してくれる。そこで春雨さんは覚悟決めたように神無月さんを見て話を始めた。
俺に説明したように…。
そして神無月さんは春雨さんの話の途中で胸に手を当てたり、苦悶の表情を浮かべていた。どうやら神無月さんも思うところがあったらしく、真剣に話を聞いてくれた。
そこで話し終えた春雨さんは俯いて黙り込む。それは神無月さんの返事待ちという事だろう。俺も黙って待つ。そして神無月さんは結論を出す。
「…いいわ、私もある程度のフォローはしてあげる。
でも、あなたをずっと見てあげる事は出来ない。私も自分の事で精一杯なの。友達にもなれないわ。そもそも、そこにいる新海君とも友達じゃないわ。あなただから友達にならないわけではないわ。
それでもいいのなら、協力してあげる。」
「…っ、は、はい…よ、よろしくお願いします!」
春雨さんは本当に嬉しそうに笑った後に、勢い良く頭を下げた。俺と神無月さんはその事に面を食らうも、直ぐに笑顔に戻った。
神無月さんの珍しい微笑む様な笑顔も、春雨さんの太陽の様に爽やかで明るい笑顔も、とても扇情的で俺には勿体ない程だった。
そして俺は、神無月さんらしい返答だという事と、春雨さんとの2人の秘密ではなくなって残念に思いつつ、今後の話をしていく事にした……。




