6-7 部活動結成!
俺は春雨さんと一緒に、食堂の席についていた。席の場所は他の生徒と少し離れた隅っこを選んだ。やはり、春雨さんは他の人と近づく事は抵抗があるみたいなので、俺の勝手な配慮でここの席にしたという訳だ。
そして俺は春雨さんの言葉に耳を傾けながら、うどんをすすっていたのだが、思わず聞き返す程に俺は驚く。
「え?その髪って、自分で切っているの?」
「はい…その、美容師さんに迷惑を掛けるのが怖くって…。」
「…そうなんだ。でもその髪型…春雨さんに良く似合ってると思うよ。」
「そ、そうでしゅか?あ、ありがとう…ごさいましゅ…。」
春雨さんはそう言うと、顔を朱色に染め始め、「プシュー」と音を立てる様に蒸気を吹き出した気がした。そして自身の髪を人差し指と親指で摘み、捻るようにいじっていたのだが、俺はその姿を眉根を寄せてじっと見詰める。
(春雨さんは…バスや電車といった公共交通機関も利用していないんだろうな…外に出る時は自分から近づかないように努力しているのだろう。)
俺は今聞いた話と、先程の様子を見てそう思っていた。春雨さんは食堂に向かう際や、列に並んでいる時も、なるべく人とは一定の距離を取ろうとしていた。そもそも普段は食堂を利用してはいないのではないかと思いつつ、会話を続ける。
「そういえば…部活動体験でバドミントン部に来てたけど…部活はどうするの?」
「え?あ、いや、そうですね…その、まだ決めてないんです…。」
「え、そうなの?でも、部結成は今日だよ?」
「はい…それで、最初は適当な部に入って幽霊部員になろうかと考えていたんですけど…。」
「幽霊部員?」
「え?あ、いや、幽霊部員っていうのは、サボって部活に顔を出さない人の事です。」
春雨さん俺の疑問にあたふたしながらも説明をしてから、そこで一度俯いて黙り込んだ。俺はどうしたのかと首を傾げ、春雨さんが話すのを待つ。数秒後、春雨さんは恐る恐る顔を上げて、話を始める。
「新海君はバドミントン部に入るん…ですよね?」
「うん、そう考えてるよ。」
「…なら、私もバドミントン部に入ろう…かな…。」
少しだけ顔が赤くなりつつも、笑顔を見せてくれた春雨さん。俺はその顔を見て嬉しく思う。恐らく俺がいるから入る事にしたのだろう。多分…。
それは俺にとって嬉しい事なのだ。俺という存在がいるだけで、自分から踏み込んでいける。これは大きな一歩なのではないかと思っていたからだ。
「うん、いいんじゃないかな?お互い頑張ろうね、部活を。」
「そ、そうですね。が、頑張りましゅ。」
俺はその噛んだ春雨さんを見ていると、思わずニヤニヤしそうになるので、すかさず右手を口に当てて表情が緩むのを抑える。
そんなお昼を過ごして俺達は、自身のクラスの前で別れる。そして、その瞬間を見られていたのか、とある3名に包囲される。とある3名とは竜星と勝也と中条さんだ。
俺は質問攻めになる事を覚悟したのだが、逃走したほうが手っ取り早いのではないかと思い、振り返り逃走を図ろうとするのだが、肩を勝也に掴まれて逃げる事が出来なくなったので、俺は観念して話す事にした。勿論重要な部分は伏せて。
これは俺の独断だったが、もしかしたら、話した方が春雨さんの役にたっていたのかもしれない…。
しかし俺は話さないという選択肢をとっていた。これが春雨さんの為になるはずだと信じて……。
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7限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。今日一日ずっと授業を起き続けていた竜星を一瞥すると、ぐったりと机に伏していた。起きている事は出来たが、疲労困憊といった様子だ。普段通りなら落ち着くまで教室にいてもよかったのだが、今日は部結成があるので、俺は竜星に急かすように言う。
「竜星早く準備しろー…ここバドミントン部の部結成で使うし、竜星も部結成あるだろ?遅れたらどやされるぞー!」
そんな俺の言葉がしっかりと耳に届いたのか、竜星は体を起こして慌てた様に準備を始める。そして、もう準備が出来たのか椅子から立つ。
「隼人君ありがと…じゃあ、僕もう行くね。また明日!」
「おう、じゃあなー…また明日?」
(明日は土曜日だから、必ず会うとは限らないぞ?)
俺はそんな事を思いつつ、竜星と入れ替わりで右隣に春雨さんが座ったのを確認した。俺は近くで春雨さんのフォローするつもりだったので、予め竜星の席に座って欲しい事を伝えておいたのだ。
そして俺は、春雨さんに俺と場所を入れ替える事を伝える。
(これで遠慮先輩の突撃からもフォローが出来るはず。)
俺はそう考えての場所替えだった。そもそもとして席の移動を強要される可能性もあるが、その時は臨機応変に動くしかない。そして勝也は既に俺の前、つまり、神無月さんの右隣の席を確保していた。
(意外と素早い奴…。)
そもそも部結成の場所は、基本的に顧問の担任している教室ということになっている。勿論担任のクラスをもっていない先生や、部活自体の規模が大きく、部員が全員部屋に入りきらない部活もあるので、それは別の部屋を用意されているみたいだ。
そして、先輩達や同学年と思われる生徒が扉から続々と入ってくる。このクラスは30人用なので、全員座る事が出来るのか少し心配になるが。
そこで東條も姿を見せ、教室に入ってきて教卓の前に立ち、自身の腕時計で時刻を確認したのか口を開く。
「渡辺、町田、前に出てこい。進行はお前らに任せる。」
そう言って東條は教室の入り口前に立つ。そこで俺はある2人の先輩がまだ来ていない事に気づく。そして、廊下からこちらに向かって走ってくる音が辛うじて聞こえ…その2人が顔出す。そう、遠藤先輩と鷲川先輩だ。そして、2人は教室に入ろうとして、地獄の番人に捕まってしまう。
「おい、お前達…30秒の遅刻だ。後で私のとこに来い。いいな?…ほら、今はさっさと席につけ。」
「「はい…。」」
淡々と怒られた鷲川先輩と遠藤先輩はしょんぼりしつつ、直ぐに俺の右隣に座る。俺は「何してたんですか?」と訊くつもりだったのだが、既に渡辺先輩と、町田先輩?が前に立っていたので、話し掛けずに大人しく前を向く。
そして教壇の上に立つ渡辺先輩は、身長が185cm程で、肩幅も広くガッチリした筋肉がついており、大きな岩の様な力強い見た目だった。目つきも鋭く顔は少し怖かったが。
町田先輩?は、身長160cm程で、艶やかな黒髪で、前髪がパッツンになっており、他の部分は肩の高さまでの長さに切り揃えられていた。最初の印象では硬い姿勢や整った顔のパーツ、その纏う独特な雰囲気を見て、可愛いと言うより、魅惑的な美人といった印象を受けた。
この学校には容姿が整った人が多いと思いつつも、2人の話す事に耳を傾ける。
「俺がこの部活の部長を務めている、3のAの渡辺太陽だ。俺が引退するまで、よろしく頼む。」
「えーと、副部長の町田優佳です♪3年A組です。副部長としてみんなをサポートしていくので、よろしくお願いします♪」
そこで2人は短く自己紹介を済ませ、会釈した後に進行を再開した。
「ここにいる部員でこれから1年間頑張っていく事になる。俺は部長という立場だが、そんな事は気にせずに接して欲しい。先輩後輩という立場は守る必要はあるが、それを守った上での良い関係を築きたいと思っている。
では、まず3年から自己紹介をしてもらいたいと思う。自身の名前とクラス。何か言いたい事があったら言って欲しい。強要はしない。…それじゃあ布橋から。」
そこで渡辺先輩に布橋と呼ばれた先輩は席を立ち、自己紹介を始めた。
「えー、3年Bの布橋海斗です。えーと…運動バカです?よろしくお願いします。」
そんな感じで順調にと自己紹介が回っていく。そして、順番は巡り俺の番になる。俺は部員全員からの視線に晒されている事に緊張を覚えつつ、席を立って少しパサついた口を開く。
「えーと、1年Eの新海隼人です…。運動は得意なので、よろしくお願いします。」
そして、俺はプレッシャーにあっさりと敗北し、普通に自己紹介を終えてすっと椅子に座る。
(くそっ!めっちゃ普通な事しか言えなかった!何か面白い事でも言おうとしたけど、みんなに見られて頭が真っ白になったぞ!?)
俺はそんな実はとても緊張していた事を、表情には出さず、1人で苦しんでいた。そして、俺の次は春雨さんだ。こういった自己紹介は慣れているのかと少し心配になりつつも見届ける。
「え、えーと、1年Bの春雨暦です!…あ、え、えーと…新海隼人君と付き合っています!」
「「「「「……?」」」」」
俺は春雨さんが勢いよく放った言葉に絶句した。
(え?この子何言ってんの?は?え?え?)
この部屋にいる部員全員も驚きのあまり誰も声を上げていなかった。あの神無月さんですら驚きのあまり、後ろを振り向き、目を白黒させながら、絶句していた。部屋が静寂に包まれる中、東條だけは声を押し殺して笑っていたが。
そこで春雨さんは自身が言い放った言葉にやっと気づいたのか、顔がみるみる紅潮し、両手を体の前で振りながら全力で否定した。
「あ、いや、今のは違います!わ、わ、忘れてくださいぃぃぃ!!」
そんな必死な姿に男共は全員ほっこりしていたが、俺が後からどんな目に合うのかは、大体の想像がついていた。
(やってくれましたね、春雨さん…。はぁ、この後どうしよう…。)
俺は全員の自己紹介が終わったその後、渡辺先輩が何か言っていたような気がするが、俺の耳にはまったく届いていなかった……。




