6-5 孤独な少女①
俺は東條との話を終えた後、部屋に戻ってお風呂が沸くのを待っている間に、携帯を開いて、神無月さんから送られてきたメッセージの確認をしていた。
「そうね、私はVATのトップを目指しているから、異形なるモノ戦に重きを置いているわ。もちろん対人戦も怠るつもりはないわ。」
そう意気込んでいるメッセージを送ってきていた神無月さん。要するに「どちらとも頑張ります。」らしい。
俺はそのメッセージに「分かった。」と簡単に返信しておく。まず神無月さんが最初にやらなければならない事が決まったので、俺は携帯を高速充電コードに繋ぎ、ベットに放った。
そして俺は、先程東條に言われた言葉を思い出し、右手の拳を固く握りしめる。「いつ、大人になるのか?」と、そんな言葉が俺の頭の中で何度も反芻する。そんなループの中で彷徨っている俺を引き戻したのはある言葉だった。
「出した結論をどう乗り越えて行くのかが大切なの。」
俺はそんな言葉にハッと気づかされる。既に結論を出してしまったのだから、どう乗り越えて行くのかが大切だ。俺は決めた事に迷いをもたない事にする。これがどんな御伽噺だとしても…。
そこで俺はお風呂が沸いた事に気づき、お風呂に入る為に服を脱ぎ、軽い足取りで浴室に向かった…。
翌日、俺は目が覚めた。脳を一瞬で覚醒させ、普段通りに朝の支度を始める。俺は恙無く朝の支度を終えて、待ち合わせの時間に部屋を出る。
俺が自分の部屋から出て数秒後には1010号室の扉がゆっくりと開き、中から竜星が現れる。どうやら今日は遅刻ギリギリにはならなそうだと思い、俺は安堵していた。
そして普段通りの道を通過して登校し、教室の自身の席に着く。そこで自然に俺の視界に入った神無月さんは、どうやら俺達よりもかなり前に登校したのか、教材を机の上に用意して、席に座って静かに本を読んでいた。俺はその真剣な眼差しで本に読み耽る横顔に見惚れながらも、登校して来た勝也に話し掛けられた。
「おは、今日は遅刻ギリギリじゃないのな。」
「うっせ、昨日のは俺は悪くないぞ。寝坊した誰かさんがいたからな…。」
俺はチラリと竜星に視線を向けながら、そんなたわいもない会話をする。そして早々に会話を切り上げた勝也が自身の席に向かったのを確認して、俺も直ぐに授業の準備をしようと思い、再び竜星に視線を飛ばす。
すると竜星は普段の様に本を読んでいた。竜星は待ち時間などにはライトノベル?っていう本を読んでいるらしい。竜星がよく口にする、漫画やアニメ、ライトノベルやゲームなどといったものは、俺は全くもって今まで触れた事が無かった。いや、触れる機会がなかったというわけだ。俺はそんな事もあり、未知なる物に興味をそそられていた。
テレビゲームは一度体験したがとても面白く、以前の様に何時間もプレイしたいとは思わなかったが、少しだけならまたやってみたいと思うようになっていた。
今度休日にでも、竜星を誘ってみるのもありかと思いつつ、準備を終える。そうしてごく自然に、朝のHRを迎えた……。
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4限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
そこで俺はトイレをする為に席を立つ。その事を竜星に伝えてから俺は廊下に出る。
俺がトイレに向かって歩いていると、唐突に背後から俺の知らないアルト声に呼び止められた。
「あ、あの!…あなたが新海君ですよね?…ちょっといいですか?」
俺はその声に直ぐ様反応し、くるりと全身を振り向かせていた。するとそこには昨日の部活で見かけた女の子が立っていた。
髪型はミディアムで髪色はこげ茶色。身長は155cm程だろうか?顔のパーツは整っており、見た目は見るだけで可愛いといった印象を受ける。
俺が思わず解析するかの様にそんな事を思っている間、黙ってじっと見つめてしまう形に、不本意ながらもなってしまった。
するとそこで、彼女が何やら小声でぶつぶつ言っている事に気づくが、完璧に聴き取ることは出来なかった。そして俺はまだ返事をしていない事に気づき、返事をする事にした。
「あ、ごめん、ぼーっとしてた。俺に何か用かな?」
「え、あ、は、はい!そ、そうですね…ここではちょっと話づらい事なので、休憩室で話し、ませんか?」
「いいけど…長くなりそう?」
俺はトイレに行くと言った理由で、竜星達を待たせているので、長い間拘束されるようなら連絡を取りたかったので、最初にそう訊いていた。
「あ、うん…あ、はい。そう…ですね。少し長くなります…。」
「分かった。なら、ちょっと連絡してもいいかな?」
「あ、はいどうぞ。」
そしてその女の子は、常に体をもじもじとしながら俺の様子を伺ってくる。そこで俺が視線を合わそうとすると、直ぐに別方向を見て目を合わそうとしないのに、こちらを伺ってくるのだから不思議なものだ。
そんな事を思いつつも、俺はさっと携帯を取り出して、竜星にメッセージを送る。
「すまん、少し長引きそうだから、先に食堂行っててくれ。飯も食べてていいから。」
俺はメッセージを送信し終えたので、休憩室に足を運ぶ事にした。ささやかな尿意を我慢して……。
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休憩室は自販機などが置いてあり、背もたれ付きの椅子が2つと丸机のセットが10個ある空間だ。そこの椅子に座るので、俺達は当然のように向き合う形になる。丁度誰もおらず、この空間に2人っきりになるので、その女の子も恥ずかしいのか、先程よりも激しくもじもじしていた。
相手から話すのを待ってもよかったが、俺から話したほうがスムーズにいくと判断し、俺は一応名乗る事から始めた。
「知ってると思うけど…俺は1-Eの新海隼人。君は?」
「え、あ、えーと…春雨暦です。あ、Bクラスです…。」
彼女はあまり話す事が得意ではないのか、先程と同じ様に目を合わして話す事はなく、あっちこっちに視線を飛ばしながら喋っていた。
そもそも俺と春雨さんは接点がゼロに等しい。なので、俺は話し掛けられる理由が思いつかなかった。そしてその事について訊きたかったが、まずは春雨さんの用件から聴くことにした。
「春雨さん。用って、何かな?」
「え、あ、は、はひ。そ、それはですね…。」
春雨さんはそこで少し黙る。春雨さんの様なあまり話す事を得意としない人とは、話をした事が少ないが、ここは俺がリードする様に話したほうが良さそうだと、再認識する。
そして俺が口を開きそうになった瞬間に、春雨さんは早口になりながら、喋り出した。
「あ、あの!わ、私とお付き合いしてください!」
「…はい!?」
俺は春雨さんから早口で飛び出して来た言葉に驚きを隠せなかった。さも当然の様に俺は爆弾を投下され、その事によって俺の陣営は甚大な被害を受けて、正常な判断が出来なくなってしまう。
「これは告白か!?」と、そんな事を思いつつ俺は慌てふためく。その姿は周りから見ればさぞ滑稽だっただろう。そして俺は真意を確かめるべく、釣られる様に早口で訊き返す。
「あの、付き合うって…そのつまり恋人になりたいって事かな!?」
俺は数瞬後、頭を抑えながら後悔した。もし付き合うの意味が俺の言った言葉と違う意味で言ってきていたとしたら、俺はただの自意識過剰野郎という事になる。
(俺はなんて浅はかだったんだ!)
俺は言われた言葉のインパクトが強すぎて、冷静な判断が出来ていなかった。一時の感情で「はい付き合いましょう!」とか、口走る事がなかっただけ、まだ良かった。
そして俺の言葉を聴いた春雨さんは、滑らかな動画の様に見る見るうちに顔を朱に染め上げていく。
「ほえ?……ッッッ!!いやいやいやいや、違います!い、い、い、今のは忘れてくださいぃぃ!!」
春雨さんは慌てて手を振り回しながら、その勢いのまま椅子から立ち上がり、2歩程後ずさる。するとその勢いで椅子が吹き飛ばされていた。
(うん、よかった。やっぱり勘違いだったんだね。よかったよかった。……チクショォォォォ!)
俺は脳内で机を台パンする自分をシミュレートしてから、冷静になるように努め、椅子をわちゃわちゃと慌てて戻している春雨さんを見つめながら話し掛ける。
「ほ、本当は、なんて言うつもりだったの?」
「…え、あ、はい。急に取り乱してすみません。」
春雨さんは顔を赤くしながらも2度程会釈をして、椅子に座る。そして深呼吸の後、胸の前で握り拳を2つ作り、俺をキッと見つめてくる。
「え、えーとですね…私と友達になって欲しいんです!」
春雨さんは今度は間違えずにしっかり言えたようだ。
そこでどうやったら先程のように言い間違えるのか、俺には理解出来そうになかった。それに何故友達になりたいと言っているのに、睨んでくるのだろう。
しかし春雨さんは俺に友達なってください言ってきた。俺は全然友達が増える事はよかった。寧ろ飛び跳ねる程、嬉しい。
そして、2週間前程の友達作りに励む自身を見ているような気分になり、共感出来る事はたくさんあったが、この時期に、ましてやクラスメイトですらない俺に友達のお願いをする事は少し不自然だった。俺はその事が気になり、素直に訊いてみる事にした。
「うん、友達になるのは全然大丈夫だよ。むしろ俺も可愛い女の子と友達になれるのは嬉しいから、喜んでお願いしたいけど…どうして俺だったの?」
春雨さんは俺の言葉を聴いて、ほんの少しだけ上体を仰け反らせる。
「か、か、可愛いぃぃ!?…わ、私がっ!?」
俺は少しミスをした。率直な意見を言い過ぎてどうやら春雨さんはダメージを負ったみたいだ。どうしたものかと逡巡するが、結論を出すよりも先に春雨さんは目のぐるぐるを抑えて、持ち直す。
「お、お世辞でも嬉しい…です。さ、さっきの質問ですけど…。」
春雨さんはそこで俯き、黙ってしまった。あまり言いづらい事なのかと思い、俺は撤回しようかと考え口を開こうとするが…春雨さんは右手のひらを俺に突き出して静止するように訴えてきた。俺はそんな彼女を待つようにじっと見つめる。一度目が合うと直ぐに逸らされてしまうが、先程まで紅潮していた顔もだんだんと落ち着きを取り戻したのか、透き通る様な綺麗な白い肌に戻りつつあった。
そして覚悟を決めたのか、春雨さんは俺の方を向く。
「私…自身の強く作用する異能を上手く制御出来ないんです。」
俺はそこまで聴くと、思考回路を起動させ、円滑に物事を考える為にガラリと気持ちを切り替える。
「私の異能は圧力増強。あ、これ秘密ですよ?2人の秘密です。」
口の前で人差し指を立てる春雨さんを見て、俺は黙って頷く。それに反応するように春雨さんはニコリと笑顔返してくれる。どうやら会話が全くもって下手という訳ではなさそうだ。相変わらず目は合わせてくれないが。
「私は子供の頃から周りより人体干渉力が高くて小中と、除け者にされてきました…。それは私が異能を制御出来ずに周りの子達に迷惑をかけてきたからなんです。
最近ではかなり制御出来る様になってきたんですけど、昨日ポールを運んでいる時、異能が発動してしまったんです。」
(なるほど、だから昨日はポールを持ったままもたもたしていたのか。そしてそれは重くてそうなったわけではなく、異能の制御に戸惑っていたんだな……。)
「そしてその際に、新海君が近くに来て、平然と私の周りで立っていたから、人体干渉に対しての抵抗力がとても高い事が直ぐに分かったんです。
それで、気になって気になって、話してみたい。友達になってみたいって、思ったんです。私の異能のせいで友達って呼べる人はいませんでした。だから、その、こんな私でも、いいですか?」
「え?」
俺はそんな事を言われると思っていなかったので、変な声を出してしまう。それを違う意味で捉えたのか春雨さんは慌て始めた。
「あ、いや、しゅ、しゅみません。質問の答えている途中で質問してしまって…。」
「いや、別に大丈夫だけど……。」
俺はそんな彼女の力になってあげたいと少し思うようになっていた。俺の力を知られたり、事情が事情なので、俺はもっと詳しく聴いてみる事にした……。




