6-4 戯言
俺達は4人でファミレスを後にする。俺は左腕につけている腕時計を見て時刻を確認する。20時18分。意外にも長居?した事で既に辺りは暗くなっており、俺達はそのまま寮に向かって歩き始め事にした。
そこで俺は何処から視線を感じる。直ぐに顔だけを振り向かせ、目を凝らして辺りを見渡す。
しかしそれらしい怪しい人物は見つからない。これはなんとなくといった具合だったので、流石に気にし過ぎかと思い、直ぐに忘れる事にした。
「…?…隼人君どうかしたの?」
そんな俺の様子を見ていたのか、遠藤先輩はそう言いながら首を傾げて訊いてくる。この人は意外にも周りを見ている様みたいだった。
俺はそんな事を思いつつ、先程の事を誤魔化す様に笑った。
「いえ、なんでもないですよ。ちょっと可愛い子がいた気がして。」
「「は?」」
「いやいや、冗談ですよ?」
俺は軽い冗談を言ったつもりだったのだが、遠藤先輩と神無月さんから冷たい目線と言葉を食らったので、直ぐに撤回した。未だ会話の感覚が掴めずに明後日のキャッチボールを稀にしてしまうが、それは横に置いておこう。
そして、そんなやりとりをしつつ寮に到着する。学年で寮が別々なので、全員がバラバラに別れる事になる。なので全員で別れの挨拶をして解散となった。俺は先輩達の参戦もあったが、とても楽しめたものになったので、満足していた。
そして…神無月さんの件だが、頼まれて了承したからにはしっかりと役目を果たす為に少し考える必要があった。今の神無月さんに足りないものを思い浮かべながら、寮のロビーにあるエレベーターに乗る。
そしてそのまま自室に到着し、鞄を下ろす。制服の上着だけとりあえず脱ぎ、ハンガーに掛け、俺はベットに横になり考える。
神無月さんに足りないのは、異能の練度と、応用力。そして、瞬間的に求められる判断力。振動剣をメインに扱おうとするなら、遅筋の増強も必要だが…それは神無月さんに任せよう。そもそも彼女は対人戦と異形なるモノ戦のどちらに対して重きを置いているのか知らないので、そこで考えるのを一旦やめた。
そもそも相手にするものが変わると必要なものが変わってくるのは当然の話だ。俺はそこで神無月さんにメッセージを送る事にした。
その時。俺はある人物からメールが届いていた事に気づく。俺は神無月さんにメッセージを送る前に、それを確認する。
「21時お前の寮の屋上。」
それだけが書いてあった短いメールを消す。そもそも俺のメールアドレスが漏れすぎて少々心配になってきたが、まぁ、対処しようがないので諦める。
そして差出人は東條だった。接触は予想していたが、なぜ屋上なのかは分からない。俺はとりあえず神無月さんに、確認の為にメッセージを送る。
「1つ訊いておきたいんだけど。対人戦と異形なるモノ戦、どっちに重きを置いているの?」
そうメッセージを送る。ついでに竜星にもメッセージを送る事にした。
「今日は早く寝とけよ。また明日授業で起きれなくなるぞ。じゃ、おやすみ。」
俺はメッセージアプリを閉じ、携帯を机の上に置く。とりあえず制服から部屋着に着替える事にして、約束の時間を待つ事にした。
時刻は20時51分。それを部屋のデジタル時計で確認してから俺は靴を持ってベランダに出る。ポケットから徐にガラス玉を取り出し、以前と同じ要領で俺は空中を浮遊して、屋上に着陸する。
そこには既に東條がタバコを咥えて屋上に佇んでいた。相変わらずの凄い乱雑な寝癖。寧ろわざとやっているのではないかと疑ってしまう程、毎日寝癖がついていた。俺は東條がタバコを吸っている姿を初めて見たので少し意外に思いつつ、黙ってその綺麗な横顔を見ていた。
「お前、こちらをじっと見ているの、気づいているぞ?」
すると東條は唐突にこちらに振り向き、そんな事を告げてきた。そして、ポケットから灰皿と思われる缶型のケースを取り出し、タバコをしまう。
俺は特に気配を消していた訳でもなかったのだが、まぁいいだろう。
そして東條はニヤリと笑いつつも、こんな事を言ってきた。
「もしかして私みたいなのがタイプか?お前も意外と面白い好みをしている。……フフッ、冗談だ。」
東條はその美しい見てくれは妖艶さを漂わせているので、ある一定層からは人気が出そうだが、俺はそうではないので、その冗談を無視して、軽く受け流した。
「私から話す事は少ない、少しの確認と言ったところだ。別に情報を寄越せとは言わない。しかしお前が口を開いてくれるなら、勿論話は別だがな?」
東條はそんな事を言う。当然俺から話す事はない。
しかし、訊いておきたい事はあった。
「俺からはあんたに訊いておきたい事は2つ程ある。どちらも似た内容だし、今からあんたが話す内容と被っているかもしれないな。」
「そうか、ならとりあえず話してみろ。」
俺はそう催促されたので、とりあえずは俺から話す事にした。
「まず1つ目だが、あんたが名前持ちを1人始末したって聞いたが、ここは大丈夫だったのか?今日見た時は学校が大きな損傷をしていた様子もなかったし、あんたも外傷はなかったように見えた。それで服の下は実は怪我をしてましたとか笑えないぞ。」
「フフッ、お前から心配されるなんて思ってなかったぞ?」
東條は何処か可笑しそうに笑う。俺はそれを黙って見届ける。多分この人は俺が何も言わなくても正解に辿り着くと踏んであえて何も言わなかった。
「私の体を心配してくれてありがとう。…と言いたいところだが…恐らくお前の事だから「私が苦戦した相手がいるのなら、警戒する必要がある奴がいる。」とでも考えているのだろう?
フッ…残念だが、そんな奴はいなかったぞ?私が始末した名前持ちも強い部類ではなかったからな。ほれ、この通り傷もないだろ?」
東條は俺の期待通りに正解を言い当てた後、自身の服を持ち上げて、その腹斜筋によって引き締まった艶やかなウエストと、チラリと覗く意外にも可愛らしいへそを見せてきた。俺は一瞬それに目を奪われるが、再び視線を東條の顔に戻す。
「そうか、それならよかった。なら2つ目だ。ここを襲撃した目的はなんだったんだ?おおよそ察しはつくが…恐らくそれだけでここは襲わないと俺は読んでいる。あんたはどう考えてるんだ?」
東條はそこで腕を組み、少し黙る。長考したのち、口を開いた。
「そうだな…私は最初、学校の情報を目的として襲撃してきたと考えていた。しかし、戦ううちに分かってきた事だが、明らかに破壊工作や、殺戮を主体とするには人員不足が感じ取られた。姿を確認された名前持ちも僅か1人。
私はそこで他の目的があったとみている。他の箇所では2人以上の名前持ちで行動していた事が確認されていることから、もう1人が学校内を隠密に嗅ぎ回っていた可能性がある。
そして、学生を誰1人として人質に使わなかった事から私はサブの目的として、学生の引き抜きを考えていたのではないかと予想している。」
「学生の引き抜き…ありえるな…。」
俺は東條にそう言われて考えてみる。確かにこの学校はエリート達の集まりだ。
(若干エリートかどうか怪しい奴もいるが、それはEクラスだからだろうか?)
そんな事は横に置いておいて、将来有望な奴も当然の様に大勢といる訳だ。そこから人材を引き抜けるなら、暗部としては勢力の拡大に繋がる。
しかしそう簡単にはいかないはずだ。そもそもとして軍を目指したり、国のトップを目指している奴が多いはずだ。そんな奴らが簡単に道を踏み外したりはしないはずだ。いや、だからこそ甘い蜜に飛びつく可能性もある。今は暗部より軍が強いが、その構図がいつ逆転するか分からない。そんな時の為に暗部側にも席を確保しようと打算的な動きをする奴も現れるかもしれない。
更に、学校の秘密を暴く事よりも生徒の情報を集めるほうがよっぽど簡単だろう。生徒の情報を把握出来たのなら、欲しい異能を見つけたら的確に拉致する事も出来るだろう。
そこで俺は一瞬大崎さんの顔が脳裏に浮かぶ。俺は少し不安になるが、今はどうする事も出来ない。これは憶測上の話なので警戒することしか出来ないのだ。
「警戒する必要があるな…。」
「あぁ、私も警戒している。最悪の事態は防がねばならん。」
とりあえずこの人に警戒されているなら、周囲の人間は安全だろう。俺も用心する事にし、話を再開する。
「俺からは以上だ。あんたは確認したい事があるんだろ?」
「あぁ、そうだな…。新海。お前は今後どうするつもりだ?まだ、我が儘を通す気か?」
「そうだな、これは子供の我が儘だ。…俺の戯言だ。」
東條はそこで珍しくほくそ笑む。
「そうかそうか…なら、私は外野として、そんな御伽噺を見させてもらおうか…。新海、お前がいつ、大人になるのか楽しみだな…フフッ。」
東條はそう言い残して、颯爽と屋上から飛び降りていく。俺はその背中を黙って見届けていた。
(御伽噺…いや、これは夢物語…だな。)
そして俺はそんな事を思いつつ、自身のベランダに戻るのであった……。




