6-2 嫌な違和感
俺達は普段通りに食堂で昼食を摂り、恙無く放課後を迎えていた。あの後、中条さんからは特に何も言われる事はなく、普段通りに接していた。
そこで俺は机の上に自身のノートを2冊だけ残し、部活動へ行くために準備をする。そして俺は今日、バドミントンを少しでも上手くなってやろうと意気込んでいた。まだ体験のうちだが、明日には部結成があるので、体験は今日で最後となる。部活動に行く前に神無月さんとの約束を思い出し、俺は神無月さんに声を掛けようとすると、相手はそれを見越していたように先に話を始める。
「よく考えたらあなたには話をしておきたい事がいくつかあったから…部活動の後でもいいかしら?時間がかかる上に、私も早く部活に行きたいもの。…あなたもでしょ?」
「お、おう…分かった。」
普段の無愛想な無表情な顔でそう言って神無月さんは颯爽と教室を出て行く。「真面目に取り組もうとする精神は神無月さんらしいな」と思いつつ、俺は気持ちよさそうに惰眠を貪る竜星を起こす事にした。
「おい放課後だぞ?起きろー!」
「…え?隼人君?…ハッ…、僕寝てた?」
「ガッツリ寝てたな…。でもお前にしては頑張ったほうじゃないか?」
俺に体を揺さぶられると、竜星は眠たそうな目を擦りつつ、周りの状況を確認するためにキョロキョロと辺りを見渡していた。
そう…竜星は最初は調子良く頑張っていたのだが、やはり途中で力尽き、6限目からは爆睡していたのだ。今までが酷かったので、俺はよく頑張っていたほうだと思うが、現状はやっとスタートラインに立てそうになったくらいだろう。
俺は竜星が頑張ろうとしている理由は大体の想像がついていたが、それは竜星の口から聞きたかったので、俺からは何も聞かない事にしている。竜星は帰りの支度をしながら話を再開した。
「うーん、でもそうかな…?僕としてはちゃんと全部の授業受けたかったんだけど…やっぱり、今まで出来なかった事は直ぐには出来ないね。
あ、隼人君。悪いんだけど…ノート貸してくれない?」
竜星はこちらに振り向き、そんな事を言ってくる。俺は机の上に置いてあるノートを掴み、竜星に手渡す。
「ほれ、どうせそう言ってくると思って。用意しといたぞ…。」
「え?まじで?うわぁぁ、マジ助かる。ありがとう隼人君!」
竜星は俺から渡されたノートを見て、パッと笑顔になる。そんな顔でストレートに感謝されると少しむず痒くなる。俺は人に感謝されるのって、めちゃくちゃ気持ちいい事だと思いつつ、口角を上げてニヤニヤしていた。そんな俺を見ていたのか、少し高めの声で罵られる。
「隼人…なんでそんなにニヤニヤしてんだ?気持ち悪いぞ…。なんかいい事でもあったか?」
「は?勝也お前、気持ち悪いとかゆうなよ。傷つくだろ?てか、別にいい事なんてないぞ…ほら、さっさと部活行こうぜ。」
「そうだな。でも今日はラケットに当たるといいな?」
「グッ…。」
俺はニヤニヤ顔で勝也が放った言葉にダメージを負っていた。
勝也…山田の事だが、俺と竜星が下の名前で呼び合っている事にお昼に気づき、それにより「俺も下の名前で呼んで欲しい」との要望があり、下の名前で呼び合う事になった。
まだまだ付き合いは浅いがこんな関係になれて俺はとても嬉しく思っていた。そして、中条さんも合流したので部活動に向かおうとする。
「竜星また明日な!」
「うん、また明日。ノートは明日返すね。」
「おう。」
そう言って俺達は竜星と別れて体育館を目指す。その何気ない時間でも、歩きながら雑談をする。
「しっかし竜星の奴、急にやる気出してどうしたんかな?変なもんでも食ったか?」
「うーん、どうなんだろうね?でも勉強にやる気がある事って、とっても良い事だと思うな。そうだよね、隼人君?」
「そうだな…俺もあいつを友達として応援してやりたい。だから、支えもしたいし見守りもする。あいつとはもっともっと良い関係になっていきたい…。」
俺はそんな事を真面目な顔で言っていたので、2人は俺の顔を見て、唖然としていた。そんな2人を見て俺は不思議に思う。
「…?どうしたんだ2人とも。そんな意外みたいな顔をして…。なんかあったのか?」
「いや…隼人君って、そんな事を考えてたんだって。」
「え?」
「あ、いや…普段隼人君が何を考えてるいるのか分かりづらいから、意外だったというか…。」
俺の質問に目を泳がせながら答える中条さん。珍しくあたふたする彼女を尻目に勝也もよく分からないまま結論を出す。
「うーん、そうだな…一言で言うと柄じゃない発言ってやつだな。うん。」
「いや、なんだそれ…お前達俺をなんだと思ってるんだ?」
「「うーん、バカだけど何考えてるか分かんない人?」」
「いや、結構酷いなおい!?」
俺は2人からの持たれていた自身の印象が全く同じだった事と、意外と変な方向に思われていたのに驚いた。俺はそこでふと疑問に思った事があった。
「でも中条さんは結構相手の考えている事を読めそうだと思うんだけど。勝也と違って。」
「おい。」
俺は最後の言葉をわざと強調するように言ったせいで、勝也から睨まれていた気がするが、先程散々言われたのでこれでとんとんといったところだろう。
そして、俺の質問に対して中条さんは少し黙る。その時の彼女からは笑顔が消えていた気がするが、気のせいだろうか?中条さんはこちらを振り向いた時には、朗らかな笑顔を見せつつ、返答してきた。
「うーん、私は得意だと思ってたんだけど…隼人君は特別読みづらい?っていうか…言葉に表しづらいけど、そんな感じ。」
「ふーん、そうなんだ。」
中条さんはやはり俺から何かを感じとっているみたいだ。確証は得られていないのか、まだ探っている段階なのだろう。そしてところどころ警戒するような気配を出しているのはそのせいなんだろう。俺は思索に耽て、少し間黙ってしまう。その際に再び中条さんの笑みが消えていた事に俺は気づかなかった……。
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俺達は体育館に到着すると先輩達に挨拶をして、着替えるために更衣室に入る。今日は遠藤先輩が突撃してくる事はなく無事に中条さんは着替える事が出来ていた。
そして俺達は体育館に戻り、部活動が始まるのを待っていた。今日は体験に来ていたのは俺達は3人と、初めて姿を見る女子だけだった。今日は部活動体験最終日な事もあり、他の部にでも散っていったのだろう。
この学校は部活動がある程度の数あるので、人が分散するのは仕方ないようにも思えた。それに2年生からは部活動は強制ではなくなるので、それも加味して余計に人は減るだろう。
しかし、そう言っても実際はどうなのかは分からない。今度先輩達に訊いてみようと思っていると、どうやら部活動が始まるみたいだ。時刻は5時10分。前回と変わらず同じサイクルを繰り返すみたいだった。なのでまたランニングから始まる。
俺は前回と同じように鷲川先輩の背後にピッタリとついて行く。それは、良い姿を見せれるうちに見せておこうという浅はかな魂胆だった。
そしてランニングが終わり、小休憩を挟む。その間に俺は鷲川先輩に話し掛けられていた。
「新海…お前走力は凄いな。俺のペースにしっかりついてくるなんて。走力には自信があったんだぞ?それに…あんまり息も切れてないみたいだな」
「褒めてくれるのは嬉しいですけど…俺としてはそれ意外が上手くなりたいです…。」
「あ、すまんすまん。えーと…そうだな。確かにバドミントンというものを見るとしたらまだまだかもしれないが、走力は誇れるって事だ!」
「先輩…全然フォローになってないです…。」
俺は鷲川先輩に無自覚な攻撃をされダメージを負った。気は配れるが言葉選びは下手な様だ。
するとそこでふわりと背後から抱きついてくる人がいた。
「ひろきち…後輩いじめちゃダメだぞ?」
「へ?先輩、ちょ、何してるんですか!?」
俺の背後から音も無く忍び寄り、抱きついてきた遠藤先輩に俺は困惑する。ランニング後なので汗を掻いており、しっとりと肌と肌が密着する。密着した事により、自然と遠藤先輩の甘い大人の匂いが鼻腔をくすぐる。
俺は更に後ろから遠藤先輩に右手の人差し指で頬を突かれながら、耳元で甘い声で囁く様に言われる事により、色々と意識させられる。
「私も走りには自信あったんだぞ?それを簡単に超えられたら少し思うところがあるよね?ね?」
「ちょ、とりあえず離れてください。」
(あ、やっぱり離れなくてもいいです。)
俺は口ではそう言いつつも、実際にはそんな事を思っていた。なぜなら、背後から抱きついて事により、そのたわわな果実を俺の背中で堪能していたからだ。押しつけられている事により、柔らかい感触が背中越しに伝わってくる。
そう「なんて素晴らしいんだと思いつつ」俺は、鷲川先輩の顔を見る。すると鷲川先輩はどう反応すればいいのか分からないのか、目をぐるぐるさせ、眉がピクピクと上下に動き、口をパクパクしていた。
(な、なんだその顔…ブフッ…やばい見てるだけで笑えてくる。)
俺はそんな面白い顔をしている鷲川先輩を見て楽しんだり、背中の果実を堪能しているのも良かったのだが、だんだんと中条さんの視線が痛くなってきて、無視出来る程ではなくなる事を回避するのと、小休憩既に終わりそうだったので、俺から行動に移す。
「先輩そろそろ離れてください。小休憩終わりますよ?」
「そうだね…ムフフ、隼人君小休憩になったかな?」
俺が遠藤先輩から離れるように動き振り向くと、遠藤先輩はニヤニヤと楽しそうに笑っていた。俺はその言動をから、どうやら先程の行動は分かってやっていた事に気づく。
(なるほど、俺は遊ばれていたみたいだ。)
そして小休憩が終わり、トレーニングの間は「鼻の下を伸ばしていた隼人君とは口を聞きません」と言われて、中条さんにそっぽ向かれていた。
俺はそんな中条さんをなだめているうちに実際にシャトルを打つ時間がやってきた。俺は緊張をしつつもオーバーヘッドストロークの練習で先輩が投げてくれたシャトル打つ。すると、今日は1球目から、綺麗にスイートスポットにあたり、「スパンッ」という音を立ててまっすぐ飛んでいった。
「え?」
俺は唐突に成功し、思わず変な声を漏らす。そして、その感覚を忘れる前に打ち続ける。俺は2球目も3球目も、綺麗に当て、前回のへっぽこが嘘のように調子が良かった。俺はどういう事かと考えるが、思い当たる事はなかった。たまたま上手くいったにしても、前回の俺を知っている人からすると信じられないといった様子で見られていた。俺自身がよく分かっていなかったので、なんとも反応しずらかったが、とりあえず喜べる事なので喜ぶ事にした。そして、順番待ちの間に神無月さんに話しかけられる。
「やれば出来るじゃない。前回のはなんだったの?」
「いや、俺もさっぱりだ…むしろ俺が教えてほしい…。」
「なにそれ…?」
神無月さんは目を細め俺を見てきたが、それ意外に答えようがなかったのだから仕方ないだろう。
(よし、とりあえず喜ぼう。よっしゃぁぁ!!)
俺は呑気にそんな事を思っていた。重要な事から目を逸らし続けて……。




