6-1 勘違いハゲ太郎
ここでは小説2巻目に突入したとして書いています。
作者本人が勝手に、そうしているだけなので、
気にせず読んでいただけたら幸いです。
ガラリと話の本筋が変わるわけではないので、
何の心配も必要ありません。
俺達は今、走っていた。それは何故か?
それは簡単な事だ。俺達は遅刻しそうになっているからだ。
俺と竜星は今日から毎日登校を共にする事にしたのだが、竜星の朝が遅い事を失念していた俺は、一緒に走らされているという事だ。
汗が首筋に垂れるのを感じるが、それを拭う事はせずにただひたすらに走る。
「おい竜星、お前月曜日は普通に登校してただろ?なんで今日だけ遅いんだよっ!」
「ごめーん!隼人君!僕、昨日一昨日と、溜まってたゲームを消化してたら、気がついたら4時過ぎだったんだよ。それで寝たら寝坊しちゃった☆」
「何が「寝坊しちゃった☆」だよ!さっさと走れぇ!」
そんなふざけたやりとりをしつつも、俺は教室を目前にして、左腕につけている腕時計で時刻を確認する。8時19分。俺はギリギリ間に合った事を確認する。俺達は全力の走りが功を奏し、なんとか遅刻をせずに済んだ様だ。
この学校では遅刻の扱いが厳しく、むやみやたらに遅刻をする事はしたくなかったので、俺達は急いでいた訳になる。
「ギリギリセーフ。」
「そうだな…とりあえず席に着くか…。」
俺は汗はかいたが、息は切れてはなかっか。しかし竜星は呼吸を荒くして手を膝につき、少し辛そうだった。そんな様子を見て、中条さんが心配そうに近寄ってくるが、「後で話すから。」と俺が短く告げて席に戻ってもらった。
そして俺達が席に着くと、東條が直ぐに教室に入ってきて、HRが始まった。
東條は昨日、この学校で交戦していたはずなんだが、外傷は見当たらない。そこは流石と言ったところだろう。
そこで俺は東條と目がバッチリと合い、後々接触してくる事が大いに予想出来た。俺も少し訊きたい事があったので、その時を大人しく待とうと決めた。
HRでは一昨日からの事を話していた。一昨日襲撃があったのは学校も同じだったので、どうやら昨日は1日休みになっていたらしい。俺達は留置所で過ごしていたので、外の情報がシャットアウトされており、その事を知らなかったが、その休みは都合の良いものだったので何も追求する必要はなかった。
それからより一層の警備態勢の強化と、今後の授業への影響の説明をし、「襲撃により破壊された箇所には近づかないよう。」と忠告するくらいの事務連絡でHRは終了した。
今日のHRは普段より長引いたため、1限目の授業開始まで、僅か2分ほどだった。俺は急いで授業の準備をして、授業が始まるのを待つ。
するとそこで神無月さんがくるりと振り返り、俺に話し掛けてくる。俺はそのまっすぐで綺麗な黒髪が少しだけなびくのを見て、見惚れるが直ぐに意識を切り替える。
「あなた今…。いえ、なんでもないわ。」
神無月さんは俺を見て何かを察したのか、それを言い出そうとしたが、俺の表情を見たのか、結局その事を口に出す事はなく、授業の準備をしている竜星の事を一瞥していた。
しかし、直ぐ様俺に視線を戻して、再び話し始める。
「上手く…いったの?」
そんな普段の無表情ではなく、心配そうな表情から紡がれた問いに、俺は黙って頷こうとしたが、上手くいっただけではなかったので、しっかり口で返答する事にした。
「上手くいったこともあるけど…悪い事もあった…かな?今の状況的には悪いほうが上かな。」
「そう…。父上は何も教えてくれなかったから、どうなったのか気になってたの。それに…」
そこで俺達の会話は1限目の授業が始まる事を告げるチャイムによって打ち切られた。
「また後で話すわ。」
神無月さんは短くそう伝えると前を向く。そんな短い言葉に俺は頷きはしたが、恐らく神無月さんには見えてなかっただろう。
そこで俺も授業を受けるために頭を切り替える。
そして、俺は目を擦りながらも頑張って起きている竜星を見て、俺はもう心配する必要はないとそう判断していたのだが…そんな事はなかった……。
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4限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。俺はどうせまた同様な事になると覚悟していた。
(ほら来た。まただ。)
それは今日で既に4回目の事だったので、俺はその事に対策を講じていた。
「隼人君、ここ教えて!僕1人だとやっぱり分かんないや。」
「そうか、もう4回目にもなれば俺もだいだい予想がついてきたから考えといたぞ…ほれ、どこが分からないんだ?」
そう、竜星は授業が終わると同時に、俺に授業内容の質問をしてくるのだ。今までずっと寝ていたせいなのか、そもそもバカなのかは知らないが、あまり授業内容について来れていないみたいだった。
俺はここ最近、学校とは全然関係ない事で忙しく忘れていたが、ここは全国1を争うトップレベルの学校だった事を思い出す。この学校は異能向上をメインにおいているが、学業に対しても手を抜いているわけではない。もちろん、学業メインに動いている学校よりは数段劣るが、十分高いレベルなのだ。
俺は他の学校を全く知らないので、他校と比べる事は出来ないので、学校のサイトに書いてあった事を思い出しながら、そう考えていた。
(てか竜星、よくこれで受かったな…。)
そんな事も思いつつ、ずっと竜星の対処をしている訳にもいかない。もうお昼休憩なので、食堂に行く事を提案する。
「竜星そろそろ食堂行かないか?俺もうお腹減ったわ…。」
「え?うん、そうだね。僕もお腹空いたよ。じゃあまたご飯の後よろしく!」
「お、おう…。」
明るい笑顔でそう言ってくる竜星に俺はそう返事するしかなかった。俺は分からないところは先生に訊けばいいと思っていたが、いざ頼られるとなんとも言えない幸福感に包まれて断る事が出来なかったのだ。
そして、椅子から立ち上がり、俺の前の住人がまだいるのを確認して声を掛ける。
「神無月さん、さっきの話だけど…放課後でいいかな?」
神無月さんはすっと立ち上がり、くるりと振り返ると、直ぐに返事をしてくれた。相変わらずの無表情で。
「えぇ、問題ないわ……。」
そう言って彼女は白を基調として、黒の水玉模様がある巾着袋を持って足早に教室を出て行った。
俺は一度だけ神無月さんと昼食を食べた事があるが、それ以外で見かけたりした事はなかった。普段どこで何をしているのか少し気になったりしたが、後ろから明るい可愛らしい声を掛けられたので、頭を切り替える。
「新海君!今日もお昼一緒していいかな?」
振り返るとそこには瞳を太陽の様に輝かせ、上目遣いの中条さんがいた。どうやら今日は1人のようで、崎田さんの姿は見えなかった。俺は竜星とアイコンタクトをし、了承を得る。
「うん、全然大丈夫だよ。山田が戻ってきたら行こう。」
「了解しました♪待ってます!」
彼女は右手で敬礼のポーズをしながらニコリと笑う。そんな姿に見惚れつつ、山田を待っていると直ぐに教室に姿を見せた。山田は3限目の後の休憩の時に、既に昼食に誘っていたので恐らく今はトイレにでも行っていたのだろうと予測していた。
「すまん、ちょっと待ったか?」
「いや大丈夫だ。今出ようとしたところだから、ちょうどよかったよ。」
俺達はそんなやりとりをしながら食堂に向かう。その道中で俺は、自然と俺の右隣を歩く中条さんに目をやる。彼女が俺にべったりなのが不思議だったからだ。
彼女程の絶大な人気があれば、こんな野郎3人組とお昼を一緒する必要はない。別に裏がなく本人が居心地がいいなどのいった理由で付いて来ている可能性もあったが、俺にはイマイチ理解出来なかった。
別に好感度が上がるような事もしていない。そう、俺には心あたりがなかった。
俺はそんな事を思いつつ、中条さんをじっと見つめてしまう。中条さんはそういった視線に敏感なのか、俺に顔を向けて、微笑みながら見つめ返してくる。
「私の顔に何かついてる?」
「いや、ついてないよ。…ごめん、ただ見てただけ。」
「そう?でも、そんなに見つめられると恥ずかしいな…。」
そう言って彼女は肩を揺らしながら、もじもじする。そんなところを見せられたら、大抵の男子は勘違いしてしまうだろう。現に俺も勘違いしそうになるのを必死に抑え、前を向く。
しかし、中条さんが俯きながら俺の右袖を軽くつまむ。それはとても優しいもので歩くのに邪魔になったりはしない。その絶妙な触れ方に俺は一気に心拍数が上がる。
(ちょっと…そんな事されたら勘違いするでしょ?!え?もしかしてまじで俺の考え過ぎかな?誰か教えてくれぇぇぇ!)
俺は内心そんな事を思いつつも、表情には出さない。
結局、中条さんは食堂に着くまで俺の袖を離さず、喋る事も無かった……。




