5-1 大切なモノ
「くそっ!逃したか。」
「…でもあれは反則だよ…てか、あんなの前いた?」
俺は隠そうともせずに不満を漏らし、楓はお手上げ状態だと言わんばかりに、両手を頭の横に持ってきて、ひらひらと振っていた。
「いや、多分新人だろうな、俺も初めて見たからな。それに今、あれを倒すとなったら面倒な相手だ。」
「うん、あれを無制限に使われたら、手も足も出ないよ…。」
そこで、俺は放心状態で突っ立っていた藤堂に気づく。目の前であんな事が起き、兄も結局救い出す事は出来なかった。なのでビックリもするだろうし、後悔もしているだろう。
俺は心配しつつも、藤堂の顔の前で手を振りながら話し掛けた。
「おーい、大丈夫か藤堂?」
「…え?あ、うん、大丈夫…だけど…。」
心ここにあらずといった表情は鳴りを潜め、普段の表情を取り戻す。
そこで藤堂は楓に視線を向ける。そして、また俺を見つめる。それを数回程繰り返した後、一度閉じた口をもう一度ゆっくりと開く。
「隼人君達って何者?金宮さんも平然と本物の銃撃っちゃうし、なんか元VAT所属なんたらかんたらって…。」
「あーそうだな。なんて説明すればいいかな…てか、今隼人君って…。」
俺はポリポリと頭を掻き毟りながら、どう誤魔化そうかと考えていたところで、不意に下の名前で呼ばれていた事に気づく。
「えーと、友達だから、かな。ダメだったかな?」
藤堂は少し恥ずかしそうにしながらそう言った。俺は勿論そう呼んでくれた事が嬉しかった。下の名前で軽く呼び合う仲になれた事が単純に嬉しかったからだ。俺が先程言った事が、藤堂の何かを変えたのだろうか?
そこで俺は、少し恥ずかしそうにしながらも藤堂の顔を見て話す。
「いやいや、全然大丈夫だぞ、寧ろ嬉しい。ありがとな藤堂。…いや、竜星!」
「なんかむず痒いね…。」
「そうだな…。」
俺達は少し恥ずかしそうにお互いを見合って黙り込む。俺達はそんな空気が嫌いじゃなかった。
そして俺は先程の質問の答えを少しだけ濁らせて説明しようとした。
「あ、そうそうさっきの質問だけどな…俺…」
「隼人、お取り込み中悪いんだけど。」
「え?どうかしたか?」
「軍の奴らだと思うけど、こっちに向かって来てるよ。」
「あ。」
階段の上の様子を見ていた楓は、俺の情けない声に反応して、呆れた様にため息を吐く。そして少し怒った様に声を荒げる。
「あ。じゃないわよ!?ここにいるの見つかったらどうなるかわかってるでしょ?」
「そんな事分かってるよ。でも、隠れようにも奥行くしかないけど、そんなんで隠れれると思うか?」
「いや、無理だと思うけど…。」
そこで竜星が不安そうに首を傾げながら、俺達に問う。
「つまり?」
「「まずい事になった。」」
口を揃えてまずい事を伝える俺と楓。それを聞いた竜星は頬をピクピクと引き攣らせた後に、頑張って笑おうとして、失敗していた。
結局、俺達は無駄な抵抗を諦めてホールで待機する事にした。
その数秒後。俺達がいるホールに軍の連中が突撃してきた。俺達は既に武装を解除しておき、両手を頭の後ろで組み、敵意がない事を表す。ここで問答無用で蜂の巣にされたらそこまでだったが、突入してきた部隊を率いる人が俺達の知り合いだった事もあり、最悪の事態は避けることが出来た。
しかし、俺達は元軍の人間だが、今は一般人であり、更に竜星も言うまでもなく普通の高校生だ。
なので、俺達は簡単な経緯を話してから連行されていくのは、至極当然の事だった……。
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「お前達アホだろ、こんなところに2人で潜入とか。本当、何考えてんだか…。」
「「すみません…。」」
俺達は今、軍の護送車で移動していた。竜星は一応犯罪に加担したという事で、俺達とは別の護送車で事情を訊かれているらしい。
そして俺達はというと、護送車の中で40代後半の顎髭が特徴の男性に、怒られており、2人揃って俯いて話を聞いていた。
「どうせ隼人が言い出した事なんだろ?楓。」
「う、うん。でも私から付いて行くって言ったから、私も同罪だよ。」
「で、でも、俺達はじじいの許可があって突入したから問題ないだろ?」
俺は直ぐに携帯を取り出して、その画面を開いて、じじいから送れてきたメッセージを見せる。その男性はさっとメッセージに目を通した後、呆れた様に愚痴を零す。
「…は?あのクソジジイ何やってんだよ…。」
「ほら、許可があるなら大丈夫だよな?な?」
そして俺は結果を分かっていながら言い訳をし、抵抗していた。
「ダメに決まってるだろ!お前達はもう一般人なんだぞ?」
「で、ですよね〜…。」
俺はその男性の言う言葉は予想通りだったのだが、それは正論で返す言葉も俺には見つからなかったので、諦めて黙る事にした。
しかし、楓はまだ少しの可能性を見出すように、その男性に話し掛けていた。
「かずさんも、私達の事後処理手伝ってくれないですか?」
楓は上目使いになりながら、手を顔の前で合わせてお願いしていた。楓のその甘える作戦は多少効き目があったのか、その男性はあからさまにうろたえ始める。
「うっ…ちょ、ちょっと待て楓。その頼み方はないだろぉ…俺もいい年だし、お前達を子供の頃から見てきたんだ。娘や息子のように思ってる…。」
「「え?じゃあ…。」」
俺達は一瞬、煌く糸が見えたと思ったが、その希望という名の糸を掴む前に、直ぐにその希望は途絶えてしまった。
「でも今回はダメだ。謝りには一緒に行ってやるが、罪を庇う事は出来ん。」
「えー、まじかよかずさん。そんな言い方するから期待してしまったぞ…。」
「ハハハ、悪い悪い。でも大切に思ってる事は事実だぞ?それを踏まえて今回はお前達には反省して欲しい。」
「「わかりました…。」」
その男性は真剣な表情で俺達を叱ってくれた後、安心させるような朗らかな笑顔を見せてくれる。
かずさんこと、田中一樹さんとは、昔からの知り合いである。俺達が子供の頃からの面識があり、いつもよくしてくれていた。
今年で48歳。今は軍の8等総長を務めており、総長の中では2番目に歳をとっている。歳を取りながらも衰えを見せず、その実力を保っているらしい。歳のせいで白髪の割合も多くなってきた気がするが。
そんな事を考えてる間にどうやら、目的地に着いたようだ。俺達は護送車から降りて場所を確認する。するとそこは見覚えがある場所だった。
軍の本部。高さ約200mの超高層ビルだ。もちろん地下もあり、そのビルだけではなく、30mほどのビル群で構成されている。襲撃後なので、道には血痕や銃弾跡、遺体、ビルには崩壊している箇所があったりなど、痛々しい風景のままだった。後片付けは進められていたが、当分その作業は終わりそうにない。
俺はその惨状を目にしながら、案内役に誘導されるまま、ビルに入って行った……。
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「楓ちょっと待ってくれないか?」
「え?」
私は隼人の後ろに付いて行き、ビルに入ろうとしていたけど、自動ドアの前でかずさんに呼び止められて振り返っていた。
「どうしたんですか?かずさん。」
「いや、俺の気のせいかも知れんが…隼人の奴、少し昔に戻ったような気がして…。」
それは私も薄々感じてはいたけど、確信は持てていなかった事だった。普段おちゃらけてたりする隼人でも、実はとても冷めた面を隠し持っている。
昔の隼人はよく笑い、よく喋る、とても明るい人であり、そんな冷めた面を持った人じゃなかった。
でも、最近ではその明るい面が出てきているようにも思えた。隼人の過去を知っている人は数少ない。その内の1人と共感出来たのなら、私の感じていた事は間違いではなかったのかも知れない。私はその事がとても嬉しかった。
「そうです、ね…うん、なんかほんのちょっとだけ、笑うのも増えた気がします。」
かずさんは少し黙り、その後私の両手を握り、少し屈みながら私と目線を合わせて喋ってくれた。
「楓。俺はお前の思ってる事は正確にはわからない。でも、なんとなくはわかる。楓は今、おそらく隼人の事を引きずってるだろ?お前は何も気にする事はないし、お前は何も悪くない。
確かに楓の過ちから起こった事かも知れんが、そんなにずるずると背負う事はないんだ。お前の気持ちも、隼人にぶつけていいんだ。
俺は応援してる。隼人が断ってきたら俺を呼べ。隼人をぶん殴りに行ってやるからな!」
私はそんなかずさんの言葉に少し目が潤むのを感じる。けど、我慢する。私は泣かないって決めたから。私は少し震えた声になりつつも、かずさんに答える。
「なんで考えてる事、分かるの?」
私がそんな事を言うと、自信満々に答えてくれる。
「そんなの簡単だ。俺はお前達の事を娘や息子のように思ってるって言ったろ?なら、娘の思ってる事なんて簡単にわかる。そうだろ?」
そんな私にはまだ理解出来そうにない事を言ってくるかずさん。ニカッと笑う顔がどこか笑いを誘いつつ、心が安らぐ。
「そうなの、かな?フフッ、かずさんって意外とバカ?」
「え、ちょ、楓それはないだろぉ…。」
「嘘だよ?でも、ありがと。なんか元気出た。」
「…そうか、ならよかった。俺はお前達に出来る事は少なかったからな…。その事はすまんと思ってる。」
そんな言葉に、私は黙って首を振る。「そんな事ないよ」と言うまでもなく、私のそんな態度にかずさんも察したのか嬉しそうに微笑んでくれた。
(そう、私達はかずさんに大切な事をたくさん教えて貰った。さやねぇと同じくらいとてもとても大切な人だよね?ねぇ、隼人♪)
そこで、私はスキップをしそうなくらい、元気にビルに入って行った……。




