4-7 異能で友達って増えます?
藤堂は俺の言葉に対して、何も言わずに黙っていた。俺はじっと藤堂を見つめ接近しようとする。すると近づくにつれ、だんだんと肌寒くなっていくのを感じた。俺はそこでピタリと足を止める。
「お前…助けて欲しいんじゃないのか?」
俺は怒っていたので、普段より低い冷たい声が出てしまう。その言葉を聞き藤堂は、一瞬反応するようにして、手がピクリと微細に動いた。
「なんで拒絶するんだ?…これ、お前の異能だろ?」
俺はそう問いかける。今、俺の目の前では助けを求めているはずの友達がいる。しかし藤堂は異能を使い?それを拒むようにも見えた。俺は藤堂の本当の気持ちをなんとなく理解しつつも、確信には至らず、藤堂が話してくれるのを待った。
「ねぇ隼人、どうするの?」
楓は俺に近づき、耳元で声を潜めてそう訊いてくる。
「この問題は、あいつ自身が決める必要がある。俺達が無理矢理拘束する事も多分可能だが、あいつがここにいるって事は、何かは重要な事を抱えているはずだ。俺はあいつの気持ちを尊重したい。最初に出来た友達だからな…。」
「分かった。でも道を踏み外したら…。」
「あぁ…そのときは俺が責任を持って止める。」
楓は未だ心配そうに俺と藤堂を見ていたが、半歩下り、とりあえず俺に任せる形を選択した様だった。
そして、数秒間沈黙が流れた後、藤堂の重たい口が開いた。
「まず君達にはこれ以上進んで欲しくない。邪魔して欲しくないんだ。それが嫌なら、その手に持ってる銃で僕を撃てばいいよ。僕の異能ではそれは防げないからね。」
「藤堂…お前それ、本気で言ってるのか?」
「うん、これは僕の本心さ、僕は自身が望んでここに立ってるんだよ。助けなんて求めてない。」
藤堂は全てを押し殺すように無表情のまま喋る。俺はそれに相反する様に昂る気持ちを抑えつつ、話を続ける。
「いや、嘘だな。俺には助けてと言ってるようにしか見えない。」
「…そんなの分からないじゃないか…僕の気持ちを知ってる訳じゃないのに。」
俺は藤堂が喋り始めた事により、先程考えていた事が確信に変わった。藤堂は口ではそう言っているが、本当にそんな事を思っているなら、ベラベラと喋らない。黙るか、機械的に反応するだけだ。
しかし藤堂は違う。こいつは何か、つまり本心を隠しながら喋っている。メールを送ってきた事も踏まえて俺はそう考えていた。なので俺はトラップを仕掛ける。
「ならなんでお前はそんなに震えてるんだ?強がってるだけだろ?」
俺がそういうと、藤堂は反射的にそれを確認するように、手で自身の体を触って確認しようとした。
「なんで、今確認しようとしたんだ?心あたりでもあったのか?」
藤堂は俺のその一言にピタリと動きを止め、俺を睨む。
「新海君、鎌、かけたね?」
「あぁ。」
「意外とずる賢いんだね。君は僕と同じような目をしてたから、何か隠してるのはすぐわかったけど…僕よりずっと大きなモノを抱えてそうだ。」
「そうだな。俺も軽々しく言えないような事は一杯ある。でも今は関係ない。それは仲を深めていくうちに自然と話していったりするものじゃないのか?少なくとも俺はそう思ってる。
そして今、俺はお前を1人の友達として、助けようとしている。」
俺の言葉に藤堂は辛そうに俯く。
「そんなの必要ないよ。」
「お前は何に囚われているんだ?…兄につい…」
「うるさい!!そんなの必要ないって言ってるだろ!」
藤堂は初めて声を荒げながら言い放った。しかし俺は淡々とそう告げる。
「俺は諦めない。本心からそう思っていない限り、お前を導いてみせる。救い出してみせる。その為にはお前が何に悩んでいるのか知る必要がある。俺に教えてくれないか?」
「言ってどうするの?」
「お前の気持ちを知ろうとする。理解しようとする。なぁ、悩みを一緒に共有しようとするのも「友達」なんじゃないか?」
俺は藤堂の思いを…呪縛から解き放とうとする。
「そうだね、「友達」か。アハハッ!いつから僕たちは「友達」になったんだい?」
「…逆に訊いていいか?なんでお前は俺の言葉を聞いて嬉しそうに泣いてるんだ?」
そう、藤堂は泣いていた。俺の発言を馬鹿にしながらも大量の涙を零し、膝から崩れ落ちる。
「あ、あれ、なんでかな?なんで涙、止まらないんだ…?」
藤堂は自身の瞳から溢れ出る涙を、服の袖で何度も拭っていた。俺は異能が消えている事を確認し、ゆっくりと藤堂に近づき、ポンと肩に手を置いて話し掛ける。
「それは、お前が友達という存在がいて、嬉しいんじゃないのか?お前には悩みを打ち明けれる存在、呪縛から解き放とうとする人が必要だったんだ。お前の本心を言ってみろ、藤堂。」
藤堂は涙でぐちゃぐちゃになった顔を俺に向けて、本心を言ってくれた。
「たずげて、新海君。僕を兄さんの呪縛から解放してくれないか…?そして、兄さんを止めて欲しい…僕は今は無力で、何も出来ないから…。」
「わかっ…」
「そんな事は不可能だよ。」
そこで俺の声に被せるように声を掛けてきた人物がいた。俺と楓はそんな声に直ぐ様反応し、体を向け警戒態勢をとる。
しかしそんな俺達より、ある意味早く反応した藤堂が先に話し掛ける。
「兄さん!?兄さんだよね?4年ぶりだけど間違いない、兄さんだよね!?」
「兄さんって呼ぶなぁぁ!!」
その藤堂に兄さんと呼ばれた男は、地下空間一杯に広がる大音量で叫ぶ。その男は、顔を怒りに染めていた今回のテロの首謀者。その男は確認するまでもなく、藤堂友樹その人だろう。
身長180cm程。黒髪で眼鏡をかけていたが、顔立ちは兄弟という事もあり、少し似ていた。
そして、その大きな怒鳴り声で完全に藤堂は萎縮していた。そして、追い討ちをかけるように話し始める。
「竜星。お前はいつになったら、俺の前から消えてくれるんだ?お前がいなかったら俺は肩身の狭い思いをしなくて済んだんだ。分かってるのか?」
「ご、ごめん兄さん…。」
俺はいてもたってもいられず、そこで口を挟む。
「藤堂、謝る必要なんてない。お前は何も悪くない。さしずめ、藤堂に嫉妬でもしてるんだろ?」
「あ?お前に何がわかんだよ。弟より異能の力以外で勝っていた俺が、異能の力だけで全てをひっくり返されたんだぞ!」
怒りをぶつける様な声と言葉に、俺は怯む事なく、淡々と話し続ける。
「確かに今の世の中は異能が使える使えないはとても重要になってくる。だがそれが全てじゃない。そして、お前は異能以外は優秀だったんだろ?なぜ良いところがあって、それが全て意味がないみたいな言い方をするんだ?その力を正当に評価してくれる人は周りにはいなかったのか?」
それを聞いて一瞬藤堂友樹は怯む様に押し黙る。そして、藤堂は立ち上がり、勇気を出し、必死に言葉を紡いでいた。
「兄さん。僕は兄さんの事を尊敬していたんだ。何をやっても兄さんには勝てなかった。それにとてもとても優しかった兄さんが大好きだった。
そして、今も。僕は兄さんの力になりたいと思ってる。今兄さんは道を踏みはずしてしまった。それを僕は今、どうしても止めたいと思ってる。」
俺は単純に感心していた。先程は自分で止める事は出来ないと言っていたのに、今では自分から兄にぶつかって止めようとしている。この一瞬での成長は目を見張るものがあった。
そして、藤堂友樹は少し考えるように黙りこんでいた。先程とは違うベクトルが原因でどこか辛そうにしながら。
「兄さん。僕も兄さんに嫉妬してたんだと思う。異能以外では勝てるところがなかったから。それって兄さんの抱いていた感情と一緒なんじゃないかな?ねぇ、僕達ってそんなに仲悪かったかな?子供の頃はよく遊んでたよね?」
訴えかける様な藤堂の言葉に、藤堂友樹は黙ったまま何も言わなかった。そして、藤堂も兄の言葉を待つように黙って兄を見つめ続けていた。
そして、長い葛藤から抜け出した様に藤堂友樹が口を開く。
「すまん、竜星…実は俺も分かっていたんだ。子供の頃から突き放してしまって俺はお前と仲直りがしたかったけど、思春期で荒れに荒れていた俺には、そんな簡単な事ですら出来なかったんだ。今回もお前を巻き込んで悪かったと思ってる。お前を捨て駒のように使ったり、偵察をさせようとしたり。俺はお前の言葉を聞くまで素直になれなかったガキだったんだ。」
そう言って藤堂に向けて歩みよってくる。
「今この場所に戻ってきたのも、お前が心配だったからだ、こんな、こんな素直になれない悪い兄ちゃんでごめんな…。」
「兄さん…。」
そう言って藤堂を抱きしめるも直ぐに解放し、距離をとった。藤堂の手から虚しくもスルリと離れていく兄。それを恋しく見つめる藤堂。
「でもな竜星。俺は引き返せないとこまで踏み込んでしまった。俺はもうそっち側に戻れない。竜星、すまんな。お前はそっちの世界でしぶとく生きるんだ。
俺は、この地球上の全人類を異能使いにする為に動いている。その為に非道な行いもする。だからお別れだ。次に会うときは俺も異能を使えるようになってからの再開だ。」
そう言ってこの場から離れようとする。しかし、それを見過ごす事は出来ない。楓と俺は静止するために動こうとする。
「おい、仲直りするのはよかったが、行かせるわけに…」
そこまで俺が喋り掛けている途中。
次の瞬間。
奥から不可視の衝撃波が飛んできて俺の腹に直撃した。俺は急所に当たる事は、とっさに体をずらして回避したが、当たった事により衝撃で壁まで吹き飛び叩きつけられる。
(この異能…まさか!)
俺はこの攻撃方法に覚えがあった。軍に勤めていた時に、暗部掃討作戦の時に対峙した奴の異能と酷似していたからだ。
「隼人!」「新海君!」
そう言って藤堂と楓は俺に駆け寄ってくる。そして、奥から衝撃波を放ったと思われる人物が不敵な笑い声を上げながら姿を見せた。
「アハハハハっ!隼人くーん、簡単に当たっちゃダメだよ?昔の君なら避けれてたよね?鈍ったのかなぁー?元VAT所属、特殊編成502部隊コードネームNo.11、新海隼人君?」
俺は思わず「ケホケホ」と咳をしつつ、声を荒げて奴に殺気を飛ばしながら睨む。
「…あぁ、そうみたいだな…まったく油断してたぜ。またお前と会う事になるなんてな。仮面男!」
「私は会いたかったんだけどぉ…隼人くん軍辞めちゃうからさぁ…正々堂々ぶっ殺せなくなったの残念だったけど、今がチャンスだよね?この右腕の恨み今果たそうかな?」
ピエロの仮面を被り、スーツを纏ったひょろりとした姿、通称仮面男は左手で右手があったはずの場所をさすりながらそう言ってくる。
そう、俺と奴には因縁があった。暗部掃討作戦で奴と対峙したときに2度程戦った事があった。2度目のその時は1対1の状況で、俺があいつの右腕を切断して戦いの幕を引いた。つまり相手からすると、俺はとてもとても殺したい程の憎い相手という事になる。
奴は名前持ちの実力者。右腕がないとはいえ、十分脅威である事に変わりはない。
そして、その背後には俺も知らない筋骨隆々な大柄な男もいた。俺は立ち上がり、軽く体を動かして、ある程度は問題なく動ける事を確認する。幸い骨は折れていなかったので、直ぐに動けそうだったが、ダメージを負った事により、100%のパフォーマンスは出せそうになかった。
(まずいな…楓も含め2対2だか、恐らくもう1人の方も名前持ち相当だろう。)
ここを2人だけで制圧するのは難しいはずだが、それを成し遂げているとなれば、相当な実力者になる。
他の奴らもまだ姿を見せていないだけの可能性を考えたが、今そんな事を考えている余裕はなかった。油断していると、逆にこちらがやられるからだ。
「うーん、相変わらず頑丈な体してるね。ダメージを負いはしたけど、致命傷じゃなさそう…。」
「おい、作戦の途中だ…あんな化け物と構ってる暇なんてないぞ。それに時間稼ぎをされたら困るのはこっちだ。」
とても渋い低い声で大柄の男から発せられた声を聞いて、仮面男はしぶしぶといったように返事をする。
「わかってるわよ。戦わないって。」
そんなやりとりを聞く限りだと、もう直ぐにずらかる予定らしい。しかし、やすやすと帰す訳にはいかなかった。軍の本隊が到着するまで時間稼ぎがしたかったところだが、どうやら無理かもしれない。相手は既に撤退の意思を見せせつつ、行動していたからだ。
「おい、データはコピー出来たんだよな?」
藤堂友樹が仮面男にそう訊いていた。
「あぁ、もちろん、君がお話してる間にね。時間稼ぎお疲れ様。」
「そうか、なら本部に帰ろう。」
「言われなくても分かってるわよ、門番、早く開いて、帰るわよ。」
「言われなくても既にやってる。」
大柄の男はそう言いいつつ、空中に手をかざしていた。すると何もないはずの空間が歪み、穴が開き、人が通れる大きさまで広がった。俺はそこで我に返り、早口で楓に指示を出す。
「楓!帰らせるな!」
楓も体を硬直させており、反応が遅れたようで、俺の言葉を聞き、動き始める。俺は先程の衝撃波で銃を手元から落としていたので、奴らに向けて素手で一気に接近を試みる。
そして楓は手元の銃を大柄の男に向けて射撃する。それは奴が移動役だと判明したので、移動役から始末するという、正しい判断だった。
しかし、その銃撃は簡単に無効化される。正面にも同じように空間に穴を開け、それを盾のように扱ったからだ。銃弾は全て謎の空間に吸い込まれていき、奴らに届く事はなかった。
「隼人くん、また今度。今度はぶち殺してあげるから、覚悟しておいてね?…バイバーイ♡」
仮面男はそんな事を言いながら、藤堂友樹と共に消えてしまった。最後に大柄の男も消えて、俺の取り出したナイフでの攻撃は、あと一歩届かず、虚しく空を切る形で終わった……。




