4-6 藤堂竜星の気持ち
僕の子供の頃、家族は皆とても仲が良かった。優しい兄に可愛い妹。それを見守ってくれる両親。僕にはそれだけあれば十分だった。他には何も必要なかった。
でも、俺が珍しい異能を持っている事が判明してからは、家族のみんなは変わってしまった。
放任主義よりだった両親からは、突然期待の眼差しを向けられ、教育に力を入れられるようになった。そして兄からはそんな唐突に頭角を現した僕を見て、嫉妬の眼差しが向けられる様になってしまった。
昔、兄は僕に優しかった。しかし今はそれが虚構だったかの様に、面影が全くない。なぜなら、兄は異能を発現出来なかった無能人だったからだ。自分は異能を使えない、しかし5つ下の弟は珍しい異能を持ち、ちやほやされる。それは兄としてのプライドや、異能を使いたかった子供ならではの憧れから発生する嫉妬が、兄をガラリと変えてしまった。
僕は直接的に嫌がらせをされたわけではないが、言葉遣いが荒くなったり、無視などをされる頻度が時が経つにつれ、どんどん目に見えて増えていった。それは僕の異能が成長していくにつれたものだった。僕にはそれが余計悲しく感じた。
子供の頃の僕は、優しい兄がとても大好きだった。いつも微笑んで一緒に遊んだり話したりしてくれていた。そんな兄が豹変していく姿を見ているのはとても辛かった。
僕は子供のちっぽけな頭で自分なりに考え、兄にもいいところがあると示すために、僕が運動や勉強が出来ないことをアピールしてみたりした。
「兄ちゃん!俺より頭がいいよね?ここ分からないんだけど、教えてくれない?あとあと!かけっこも早くなりたいよ!兄ちゃんとっても足が早いんだよね?」
兄は黙って僕の言葉を聞いていた。そして僕が、「やった兄ちゃんが話を聞いてくれた!」と思った矢先、顔をグシャリと醜悪に歪め、心底嫌そうな顔に怒気をトッピングして、敵対心を向けてくる。
そして口を大きく開いて、耳をつんざく様な声を張り上げる。
「兄ちゃんって、呼ぶなぁぁ!!…はぁはぁ…お前はいいよな?勉強や運動が出来なくても、俺には一生手にする事が出来ない、異能をお前は持ってる。お前はそれだけで勝ち組なんだよ。分かるか?わかったら異能の特訓でもしてるんだな…。
早く俺の前から消えてくれないか?」
そう言って放心状態の僕の前から足早に去っていく兄。僕は脱力した様にその場に座り込む。兄は異能を使えないので、勉強や、運動を頑張る事でその穴を埋めるように努力をしていたらしい。子供の頃の僕は、そんな大事な事にすら気づかず、兄に接していた。
兄の思っていることを…現実を正面から突きつけられた僕は、自分の中で何かがガラガラと音を立てて崩れるのを感じていた。
そして、1つ下の妹にも異能が確認された。異能の発現は大体5〜8歳の間で確認される。結果的には、兄以外が異能を使える事になってしまった。どんどん兄は家族の中で明らかに浮いていく存在になっていく。
そして、兄が家を飛び出したのは16の時だった。突然の家出。音信不通で行き先も分からない。両親は僕に言われて一応捜索願いを出したが、見つかる事はなかった。
そこから僕は、兄がこうなってしまったのは自分のせいだと思い込み、他人を拒絶するようになった。また自分のせいで誰も傷つけたくなかったからだ。
そこから僕は通っていた小学校、進学した先の中学校でもたびたび、不登校の生活を繰り返していた。家では部屋にこもるようになっていった。趣味のゲームやアニメなどに熱中し、外界との接点を減らしていった。自分の心に蓋をするかの様に。
そんな僕は両親と可愛いだった1人の妹にはひどく心配されていたが、そんな事に頭が回るような精神状態にはもうなっていなかった。
そこで唐突に僕の携帯に一件のメールが届いた。
それは3年ぶりの兄からのメールだった。僕はそんなメールを見ただけで、一気に胸が高鳴るのを感じた。バクバクと高まり加速する鼓動。僕は兄に対して負い目を感じながら、何か兄の為になる事が出来る事がないかと、ずっとずっと探して考えていた。
そして僕は食いつく様にメールに目を通す。
「竜星!久しぶりだな!兄ちゃんは元気にやってるぞ。お前は元気か?高校、兄ちゃんの夢だった、高度異能育成第一学校に代わりに入学してくれないか?」
文面だけ見ると、昔の優しかった兄にそっくりだったので、僕はそのメールを見ただけでただただ嬉しかった。
そしてそんな僕は、そのメールの内容を深く考える事なく、兄の言われた通りに、高度異能育成第一学校への入学を目指した。学校にも行かず、勉強も運動も出来なかった僕がこの学校に合格出来たのは奇跡としか言いようがないだろう。俺の異能の力を加味してでの合格だったらしいが、今はそんな事はどうでもよかった。兄の願いを叶える事に必死だった僕は、既に周りがよく見えていなかったのだ。
そして入学してからの事を一切考えていなかった。
一応部活動で、E-sports部がある事を知っていた僕はそれが学校生活のメインとなるつもりでいた。兄からも連絡が途絶えてしまい、どうしようかと悩む日々。ついに学校生活が始まり、寝たふりをしながら周りを警戒するように気配を飛ばしていた。
すると、そんな僕に声を掛けてくる人がいた。
僕は少し警戒しつつ、そちらを振り向く。その人は一言で言い表すなら、「不思議な人」だった。先に名乗り、僕の名前を聞いてくる。
そしてとても明るい精巧な笑顔で話し掛けてくれた新海君は、そんな笑顔の奥に…瞳の奥に何かを隠している気がした。
それは僕と同じ気配を感じとったからだろうか。自然と彼とは仲良くなれる気がした。実際、新海君とは直ぐに仲良くなり、いろいろな事を話したりした。
しかし、そんな時間は長くは続かなかった。
兄からのメールが再び届いたのだ。
「竜星!兄ちゃんの頼みを聞いてくれるよな?学校の警備態勢の把握を頼みたいんだ!それと、今大掛かりな作戦を立てているんだ。勿論それにも参加してくれるよな?」
その文から、とりあえず兄がよからぬ事を企んでいる事が、僕でも直ぐに分かった。作戦とは何かと気になり、返信もしてみたが何も返っては来ない。僕は流石にこの件に関しては直ぐにYESとは返答出来なかった。僕としては道を踏み外しそうになっている兄を止めたい気持ちがあったからだ。
そこで、兄には会いたい気持ちがとても強かったので「警備態勢の把握は出来ないが、作戦の参加は出来る」と返信した。
僕は兄の考えている事と、何を兄は計画しているのかが理解出来ず、僕は心配で夜も眠れなかった日々が続く。
そして、前日に作戦の計画が伝えられていた。僕はその作戦に参加した事に、後悔する事になる。
すると何を思ったのか僕は作戦当日の朝、なぜか新海君にメールを送っていた。僕自身この感情をよくわからないまま送信してしまった。
「助けて。」と。
そんな一言を送っていた。
そこで僕は学校に登校すらせずに、車に乗せられて移動していた。その際に無理にでも逃げればよかったんだと後悔する。
そして、兄に会える事もなく、作戦が開始する。兄の知り合いだと言う人は銃を持っており、本当に知り合いなのかと疑いもしていたが、もう遅い。言われるがまま連れて行かれ、今では地下で1人で立たされている。
僕は捨て駒。兄に会える、役に立てると淡い期待を抱いていたりしたが、兄からすれば僕を始末出来る丁度よい機会でしかなかったのかもしれない。
すると階段から顔出す人が見えた。あぁ、僕はここで死ぬんだと思った。死にたくないと思いつつも抵抗する気にはなぜかなれなかった。間接的な兄からの命令にすら逆らえない。こんなにも縛られている僕は心底嫌だった。
しかし、顔出した人を見て、僕は驚愕する。
そしてその人は僕に対して、怒鳴るような声を上げてきた。
「な、なんでこんなところにいるんだっ!…藤堂おぉぉ!!」
そう彼だ。新海君だ。
僕は内心嬉しい気持ちと悲しい気持ちが混ざっていた。僕を助けに来てくれた?事を嬉しく思うが、こんな僕を見られてしまった事に悲しく思いもした。
そして、なんでこんな僕を助けに来たんだ?そんな事疑問を抱きつつ、僕はしっかりと思っていた事があった。
「助けて!新海君!僕をこの呪縛から解放して欲しいんだ!」
しかし、その簡単な言葉すら僕は言い出す事は出来ず、ただ新海君を睨むような形の状態で、黙りこんでしまっていたのだった……。




