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4-4 手の届く限り

 俺達は敵の別部隊の応援が到着する前に、盗る物をさっさと盗ってその場を離れようとする。(かえで)は連絡役が背負っていた銃を拾っていたので、俺は司令塔の銃を拝借する。楓が吹き飛ばした敵の装備はバレルの先端や、ストックの部分が曲がっており使い物にならず、俺が殺した1人も胴体目掛けて撃っていたこともあり、その流れで銃本体に銃弾が当たり、使い物にならなくなっていた。

 更に不運な事に、俺が1人目に殺した敵のAKは司令塔を殺した際に、玉詰まり(ジャムって)しまったようだ。俺は呆れた様にぼやく。


「おいおいもしかしてこいつら、整備してなかったのか?こんなに早く玉詰まり(ジャムる)なんて、ついてないな…。」

「単純に運が悪かったんじゃない?流石にチャンバーの掃除くらいしてるでしょ。」

 俺達はそんな事を言いつつ、マガジンと奴らが装備していたマガジンポーチを2つ程盗み、ついでにあるパーツも拾っておく。先程銃を撃つ為に落としたナイフも拾う。

 そしてその場を速やかに離れようとする。俺は楓の様子をチラリと見て、楓も帽子を拾い終えて準備が出来ていたようなので、再び屋上に戻る事にした。

 先程割った窓から外に出て、パイプを使い、壁をよじ登る。先に屋上についた俺は楓を上から、登るのをアシストするように腕を掴み、引っ張った。無事に屋上についた俺達は一呼吸置いて話をしていた。


「なぁ、楓。AK頂戴、AK。俺のMAC10と交換しよ。」

 俺がそう言うと、「え、なんで?」と言いたげな惚けた顔をする楓。


「いやいや、有効射程とか考えろよ。お前近距離特化だろ。」

「そうだけど、そんなにロングショットする場面ある?」

「いや、ないかもだけど、少しでも銃は軽いほうがいいだろ?1Kg(キロ)くらいは差があるんだから。」

「分かった。」

 何故か楓はしぶしぶといった様子で了承した。そしてお互いの装備を交換し、俺はナイフについた血を拭っていた。俺はそのナイフについた血を見て少し悲しくなった。

(俺はこの世界に戻る事は嫌なのに、人を殺しても感情の変化はない…。そんな俺を客観的に見ると吐き気がする。)

 俺はそこで平気そうな顔でMAC10のストックを伸ばしたり縮めたりしている楓を見た。

(楓も俺と同じように何も感じなくなってしまったみたいだな…これが、「軍の目指す理想形」か…。)

 それは俺も然りだが…俺はそんな事を思うと悲しくなる。すると楓がこちらを心配そうに見ているのに気づく。俺はそんな楓と目を合わせるように瞳を射抜く。


隼人(はやと)、大丈夫だと思うけど、あんなに連射して、鼓膜破けてたり、肩外れてたりしてないよね?」

「あぁ大丈夫だ。変な体勢で撃つ事になったけど、そんなやわな鍛え方はしてないつもりだぞ?」

「そう?てか、鼓膜って鍛えれるの?…まぁ、平気そうならいいけど…あと、1つ思った事言っていい?」

「なんだ、なんか不満でもあったのか?」

 俺は首を傾げ、楓が喋るのを無言で待った。


「いや、私の名前、桃色悪魔(ピンクのあくま)って、もっと他になかったの!?」

「いや、そんな事言われても。仕方ないだろ?」

 俺が呆れた様にそう告げると、楓は不満そうに頬を膨らませる。

 そう、楓は前々から自分の名前に不満を持っていた。桃色悪魔(ピンクのあくま)は軍がつけた名前なのだが、由来は楓の特徴的な淡いピンク色の髪と、身体強化(サイコブースト)を使用した、殴りや蹴りで敵を無惨に()に沈める姿から、悪魔と名付けられた。楓は全く納得していないようだが…。

 楓は人に対しては頭部や頸部、心臓部などを強打するだけで即死させる事が出来る。そもそも、強化倍率を上げ、力のゴリ押しで殺す事も勿論可能だが、反動で楓自身の肉体にダメージを追う。強靭な肉体を手に入れる事が出来る副作用みたいなもんだ。それにそれを続けると疲れる。

 そもそも異能は永遠と使う事が出来るわけではない。長時間使用する事に特化した異能や、ただ単純に個人としての体力が多い奴もいるが、大体1日で4時間程が平均として扱える。勿論セーブしながら時間を伸ばしたり、その逆も可能だ。

 そしてこの時間を超えると激しい倦怠感と吐き気、めまいなどといった症状が出る。楓はこの症状が出ながらも必死にもがいた事もあり、俺達の特殊部隊のNo.3(ナンバースリー)まで駆け上がった努力家である。もちろん才能の限界もあるが、努力で伸ばす事も可能というわけだ。

 そんな事を思いつつ、少し不機嫌な様子の楓と共に辺りを見渡す。あちらこちらから銃声や爆発音が聞こえる。全体的に部隊を分散させているようだが、1つの箇所だけ、人が多く入っていくのが見えた。それは1番大きい建物だったので、恐らくあそこが連中の目的とするナニカがあるのだろう。俺は指を指しながら楓に話し掛ける。


「楓!あそこに移動するぞ。屋上伝いに行くから、周囲の警戒怠るなよ!」

「うん、分かってる!それと、ところどころ応戦してるみたいだけど、状況はあまりよくないねみたいだね。」

「あぁ、そうだな。」

 俺はそこまで言って一旦移動に意識を集中させる。

 この建物は全て通路で繋がっており、屋上経由で全ての建物に行く事が出来たので、屋上を走って移動した。勿論、全ての建物の高さが同じなわけではないので、ところどころ登ったり、飛び降りたりして目的の場所を目指した。そしてその場所に近づくにつれ、状況がよく見て取れた。


「どうやら軍の連中は数はいるみたいだか、暗部の連中の名前持ち(ネームド)に足止めされてるっぽいな。」

「手助けする?」

 俺は楓に先読みされた様にそう言われて少し悩む。名前持ち(ネームド)を軍とはいえ、そこらの雑兵で対処出来るとは思えなかった。そして、その名前持ち(ネームド)は俺達が移動すれば手の届く先にいる。

 しかし、今戦線は膠着状態にあり、今俺が出て行っても蜂の巣にされて終わりだ。俺は飛び出して行きたい気持ちをぐっと堪えて、楓に返答する。


「いや、ここは軍の奴らに頑張ってもらおう。…俺達は6階の窓から侵入しよう。」

「本当にいいんだね?」

 楓は眉を顰めてじっと俺を見つめてくる。楓の声を聞いて少し決意が揺らぎそうになるが、気を引き締め直す。


「…あぁ、急ごう。」

 そして俺はなんて都合の良い奴だと思いつつ、先を目指す。6階の窓から侵入する為に壁に張り付き、6階に誰もいない事を確認してから、窓ガラスを音もなくどろりと形状変化させ、俺達が簡単に通れるサイズの穴を開ける。するりと室内に足を踏み入れ、無事侵入が完了した俺達は、階段から楓だけが下の階を覗く。

 俺は見張りだ。


「楓、見えるか?」

「見えない。足音も聞こえない。クロスの角で待ってる可能性もあるけど、多分地下なんじゃないかな?」

「地下?」

 俺は思わず疑問に思った事を訊き返す。楓は振り返り、俺を見て話を続ける。


「うん、ここまで大きい施設だから、地下はあっても1〜2階だと思ってたんだけど、敵の進行ペースを見る限り、もっとあるんじゃないかな?」

 俺達は施設に侵入した事で話す時はなるべく近づき、声を潜めて話していた。俺は少し考えて答えを出す。


「楓、ならとりあえず、俺の異能と肉眼でのクロスチェックでルームクリアリングをしよう。本当は探索系統の異能使いがいたら完璧なんだけどな。」

沙代(さよ)ちゃんとか?」

大崎(おおさき)さんか。そうだな、まぁ実際に出来るか分からないが、俺達が考えてる異能なら可能だな。」

 そんな今の状況にはあまり関係ない事を言いつつ、俺はガラスを隅々に這わせて、敵を探る。そこで感知したものは何もなく、耳を澄ませても何も聞こえない。


「よしいないな。こいつら1階にしか人員配置してないな…まぁ、異能で隠れてる奴がいない限りだが。」

「意外だね。やっぱり重要データは全部地下なのかな?」

「あぁ、多分そうなんだろ。…探ったけど、一応気をつけろよ。」

「うん。背中任せた。」

 俺達は先程と逆になり、俺が前、後ろに楓。お互い背を向けて前方、後方どちらとも注意しつつ、階段を降りて行った。

俺達は順調に階段を降り、2階まで来たところで俺は止まった。侵入者が見えたからだ。まぁ俺達も侵入者なわけだが。


「楓、敵がいる。俺らの下に2人、地下の入り口に2人だ。音を出したら外の奴らに気づかれる。銃の発砲はせずにいけそうか?」

「うーん、相手の練度によるかな…さっきと同じならいけるけど…。」

「分かった、ならこれ使え。外では銃撃戦してるから、これなら相手に撃たせないうちにやれれば大丈夫だ。あと俺は援護出来ないが…いけそうか?」

 そう言いつつ、俺は先程拾っておいたパーツを楓に渡す。それは消音器(サプレッサー)と呼ばれるものだ。楓は黙って頷きながら、それを自身の銃に取り付け始めていた。俺はその間に敵の動きを観察していた。

(俺達の下の奴は前と後ろを警戒していて、地下の入り口とは約10m程か、楓の技量なら失敗する事もないだろう。)

 どうやらパーツの装着が終わったみたいで、楓は俺の背中に触れる事で合図を送ってくる。それを確認して俺達は行動に移す。

 まず最初に俺達の下の敵をなんとかする。俺は先程侵入の際に窓を形状変化させて、その際に壊れた窓ガラスをここまで運んできていた。それを上の階を監視している階段の見張り役の目に向けて放つ。ガラスは10cmサイズの鋭利な破片を5つ飛ばしていた。それと少し遅れるように俺は一気に階段を駆け下り、奴らに飛びかかる。こちらを見ていた敵は目にガラス片が刺さり悲鳴を上げ、前を見ていた敵は俺が頭を掴み階段を飛び降りている勢いのまま、地面に頭を強打させた。勿論そんな事をすれば地下の入り口の見張りが気づきこちらを見て警戒するが、もう遅い。

 楓が一瞬で敵の前に踊り出て、勢いをつけながら側転するように横向きになりつつ、足にぐっと力を込めて跳躍し、見張りの視界から一気に外れる。その間に俺はガラスを刺した敵にナイフで首を切りつけトドメを刺す。

 そして軽く高さ2m程跳躍した楓はそのまま空中で1人の頭部を銃で撃ち抜いて、2秒程で弾を打ち切る。


「チッ…。」

 楓は一つのマガジンで2人を殺すつもりだったのか、胴体にしか当たらず、即死しなかったもう1人を一瞥して、舌打ちをしていた。撃たれた敵は苦しみ無茶な反撃しようとするが、華麗に着地した楓に後頭部を強打され…あっさりと死んだ。

 そして俺達は他の敵に見つかる前に地下の階段を警戒しながら一気に降りていった……。

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