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3-7 部活動とは、やはり良いもの?

 7限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。今日の1日は普段より少しだけ長く感じた。それは朝の一件やお昼の事など、俺には少しハードな内容だったからだ。思わず肩をぐるりと回しながら一息つく。

(げっそりした藤堂(とうどう)を助けるのも一苦労だったしな。)

 俺はそんな事を思いつつ、部活動に行く為に荷物をまとめ始める。藤堂も今からE-sports部に顔を出しにいくだろう。そんな予想を立てつつ、藤堂を横目で見ると、どうやら既に準備は出来たようだ。


新海(しんかい)君、お昼に言っていたけど、バドミントン部に行くんだよね?」

「あぁ。他の部も気になるっちゃ気になるけど…とりあえずはバドミントン部に入ろうと思ってる。」

「部活、決めれてよかったね!じゃあ、僕はこれで行くよ。それじゃあまた明日!」

「分かった。また明日な。」

 俺達はお互いに手を振り合い、俺はその背中を黙って見送る。そして藤堂の大きく広いその背中はどこか寂しそうな気がした。

 そして藤堂が教室を出て行くと同時に、神無月(かんなづき)さんが席を立ち、ちらりとこちらを一度だけ見て、教室を出ていった。俺は先程と同様に、その後ろ姿を黙って見送る。

 するとある2人がこちらに近づいて来た。それは山田(やまだ)と、中条(なかじょう)さんだ。今日のお昼の間に山田とも約束を交わし、3人で部活に行く事になっていた。


「新海君、もう準備出来てるかな?」

「うん、出来てるよ。」

「よし、それじゃあ行くか!」

 そんなやりとりを交わし、俺達は体育館を目指す。俺はバドミントンが自分にあったスポーツなのかと少し心配にもなりながらも、それと同時にとても楽しみでもあった。そのせいで少し口角が上がりそうになるが、まだ我慢だ。

 俺達は体育館に到着するとどうすればいいのか指示をもらう為に、顔見知りの先輩の姿を探した。俺が視線を巡らせるとあっさりと目的の人を見つける事が出来た。その人は暇そうに壁に寄りかかりながら、携帯を弄っていたので、話し掛けても問題ないと判断をし、俺達は先輩に近づき声を掛けた。


遠藤(えんどう)先輩、こんにちは。」

「ん?」

 遠藤先輩は俺達の事を視界に入れると携帯を弄るのをやめ、俺達1人1人に視線をよこしてきた。


隼人(はやと)君に(もも)ちゃん。その子は…新しい子だね?この前見た気がしなくもないけど……どうしたの?私に何か用?」

 遠藤先輩は普段の様子とは裏腹に、至って真面目に首を傾げながら質問してくる。その際に山田が肩をガッカリと落とした気がするが、それは恐らく気のせいだろう。


「はい、そうですね…。えーと、部活動体験に来たんですけど…どうすればいいのか分からなくって。」

「へむへむ、なるなるほどほど。えーと、新入部員の部活動体験は15分後くらいから始まるはずだから……えーと、着替え持ってるよね?」

 俺はそう尋ねられて静かにコクリと頷き、肯定を表す。


「なら更衣室に案内するね?」

 そう告げると更衣室があると思われる方に歩いていく遠藤先輩。俺達はそれに黙って付いて行く。更衣室は体育館の入り口を右に曲がったところに、トイレと一緒にあった。男子と女子で別れているので、当然中条さんは1人になるのだが、1人の小悪魔がそれを許さなかった。


「桃ちゃん…この前の続きしよっか?」

 先程まで真面目だった事が嘘だったかの様に、みるみる表情が豹変していく遠藤先輩。ニヤニヤと獲物を見るかの様に嬉しそうに話す遠藤先輩。中条さんも直ぐに遠藤先輩が何をしようとしているのか想像がついたのか、少し身震いをする。


「え?こ、この前の続きってまさか…。」

「そう、そのまさかだよん。ムフフ、桃ちゃん、もう逃げられないから、後悔しても遅いからね?」

「えぇ、いや、ちょ、ちょっと待ってくださいぃぃ…って、押さないでぇ!?」

 バタン。

 そう抵抗する中条さんだったが、その抵抗も虚しく終わり、遠藤先輩に背中を押されながら無理矢理更衣室に入れられてしまった。そして取り残された男2人。


「は?」

 この前の出来事を知らない山田がそう声を漏らしてしまうのも仕方のない事だろう。俺は中で行われている光景を想像しながら着替える事にした……。


―――――――――――――――――――――――――――


 着替え終わった俺達は、一足先に体育館のメインホールに戻り、中条さんを待っていた。すると、とても満足そうな顔をしつつ、今にもスキップをしそうな遠藤先輩と、顔をほんのりとピンクに染めつつ、頭から蒸気を立ちこめさせていた中条さんがやってきた。

 中でいったい何が行われていたのか、とてもとても気になっていた俺と山田だったが、その衝動を抑え何も訊かないでおいた。今の中条さんに追い討ちをかけるのは可哀想だ。

 そして遠藤先輩は、鷲川(わしかわ)先輩の事を指で指し、「後はあそこにいけば分かるよ。」と言い残し、靴紐を縛っていた神無月さんの方にスキップをしながら近づいて行った。

(なるほど、次のターゲットは神無月さんか。南無三。)

 そんな事を思いつつ、そして神無月さんの悲鳴を耳にしながら俺達は鷲川先輩に近づいていった。そこには新入部員と思われる集まりがあったので、そこに参加する事にした。

 中条さんは他クラスにも知り合いがいたのか、直ぐに俺の知らない女子達に囲まれていた。俺と山田は追い出されるようにその場から少し離れ、鷲川先輩の指示を待つ事にした。鷲川先輩は同じ部の友達なのか分からないが、隣にいた男子と喋っていた。俺はその人が誰か分からなかったので、じっと見ていると、鷲川先輩がこちらに気づき、手を振ってくれた。俺はそれに答えるようにペコリと10°ほどの会釈をした。

 鷲川先輩は体育館に設置してある時計をちらりと見た後、3回高い音が出るように手を鳴らした。自然と話し声は収まり、みんなの視線も鷲川先輩に集まる。


「はい、今日は集まってくれてありがとう。俺は鷲川(わしかわ)博隆(ひろたか)。こいつは佐野(さの)晃利(あきとし)。よろしくね。」

 鷲川先輩によって佐野先輩?という人が紹介された。佐野先輩は右手を上げて、笑顔で答えていた。


「今日は軽い運動とラケットの振り方を教えた後に、少しだけ羽を打ってみようか。…2回目の子もいると思うけど、基本は大切だから、しっかりと取り組んで欲しい。俺からは以上だけど、何か質問はあるかな?」

 ここで誰も声を出す人はいなかった。


「よし!じゃあ早速始めるけど、分からないことがあったら、俺か佐野に直ぐ聞いて欲しい。じゃあ、今からランニングをするけど、辛くなったら無理をしなくていいからね?10分完走だから、自分のペースで走ってね。」

 そう説明している間に佐野先輩がタイマーをセットしていた。俺は山田についていけばいいかと考えていると、俺の右腕の袖が引っ張られるのに気付く。俺は首だけ振り返ると、中条さんが上目遣いでこちらを見ていた。


「新海君のかっこいいところ、見てみたいな?」

 そう言われ、俺は俄然やる気が出てきた。男とはとてもチョロイ生き物だと思いつつ、とりあえず鷲川先輩の後ろについて行くことにした。タイマーがスタートし、バドミントン部全員でのランニングが始まった。

 どうやら鷲川先輩のペースは皆より少し早かったみたいで、付いてこれていたのは俺だけみたいだった。そんな中、俺は少しの優越感に浸りながら最後まで鷲川先輩の後についていった。

 そして10分完走が終わり、3分間程の小休憩が設けられた。軍で鍛えてきた俺だったが、少しだけ呼吸を乱していた。体も温まり丁度良いアップになっていた。そんな俺に神無月さんが近寄ってきて称賛の声を上げてきた。


「あなた…やっぱり実力は本物ね。鷲川先輩はバドミントンの腕前は全国屈指。もちろんスタミナもこの部の中でトップなのよ?それに平然とついていけるなんて単純に凄いわね。」

「別に平然ではないけどな…あと、神無月さんって褒める事出来たんだね。」

「あなた、私をなんだと思ってるの?」

 呆れた様にそう言う神無月さん。俺はあぐらをかき、両手を後ろにして、体を支えていたので、肩を竦める。そして神無月さんは立って俺に話し掛けてきていたので、俺が下から見上げる形になっていた。

(あ、この角度もなかなか悪くない…遠藤先輩くらいならもっと凄いのかな?)

 俺がそんな不純な事を考えていると、神無月さんは少し不快そうに眉を顰めて睨んでくる。


「あなた今、変な事考えたでしょ?」

「え?なんで?」

「だって顔がニヤけているから丸わかりよ。」

「…鎌かけなら通用しないぞ。」

 そう今の神無月さんの言葉に余計な返答や、表情のチェックをするのはアウト事項だ。こういうあからさまな鎌かけはスルーするのが1番なのだが、今回はあえて「わかっているぞ?」的な雰囲気を出したかった為に返答した。つまり、俺の自己満足だ。

 神無月さんはそこで興味を失ったのか、足早に俺から離れていった。俺は小休憩の終わりを先輩が告げていたので、鷲川先輩の元にもう一度集まった。

 そしてトレーニングが始まり、順調に事は進んでいった……。


―――――――――――――――――――――――――――


「ブハハハッッ…まじで面白いな。なんで全然ラケットに当てれないんだよ。」

「おい、そろそろやめてくれ。俺のライフはもうゼロだ……。」

 俺は語気を弱めてそう返事をしていた。部活が終わった後、俺達はコンビニに寄り、そこで今日の部活の話をしていたのだが、俺のポンコツぶりに山田は大爆笑していたのだ。


「だってそうだろ?運動能力が高くて、フォームも綺麗なのにラケットにまともに当たらないやつなんてお前くらいだろ?」

「や、山田君、そんなに言うと可哀想だよ?」

「いや、中条さん。その一言も十分傷をえぐってるよら…」

「え?ご、ごめん。」

 そう言って俯く俺の周りでどうしたものかと慌てふためく中条さん。なんでこんなに俺はバカにされているのかというと、ラケットにシャトルが全然当たらなかったからだ。当たってもフレームにあたり上手く飛ばなかった。トレーニングを終えた後、鷲川先輩達にラケットの振り方を教えてもらっていたのたが、俺はその教えに従い練習していた。先輩達には初めてやったにしては綺麗な振り方だと褒められていたのだが、俺が実際にシャトルを打とうとすると、空振りやフレームショットばかりだった。

 つまり、期待させるだけさせて実際は下手くそというただのかませ犬になっていた。

 俺はまず遠藤先輩に盛大に笑われて傷つき、神無月さんにバカにされ致命傷を負い、今トドメを刺されたわけだ。心配してくれる中条さんの優しいはずの言葉も、今では逆の意味に聞こえてしまうのが不思議だ。そして俺達はコンビニで買ったスイーツを食べながら、寮への帰路に着いた。

(自信、あったのになぁ……。)

 調子に乗っていた俺は盛大に初日からこけた事もあり、その足取りはトボトボと引きずる様に、あからさま足自体が重たくなった様な気がしていた……。

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