3-5 不変たる日常の流れ?
俺達は普段通りに学校に到着し、教室に足を踏み入れた。
すると、それと同時に明らかに辺りがざわついた。クラスの人気者である中条さんが朝、男子と一緒に登校してきたとなれば、どういう事かと気になる人も多いだろう。まだ学校も始まって1週間なので、そういったゴシップは珍しいのだろう。
俺達はとりあえず気にする事なく普段通りに席に着席し、HRの準備をしていた。HRは直ぐに始まりそうだったので、朝は誰からも話し掛けられる事はなかった。そう、朝は。
―――――――――――――――――――――――――――
1限目の数学の終わりを告げるチャイムが鳴り、教科担当の先生が教室を出ていくと、それと同時に俺は3人の男子達に囲まれていた。藤堂は普段どおり寝ており、話し掛けられてはいなかった。俺は3人の男子達の隙間を縫って中条さんを視界に捉えてみたが、中条さんも複数の女子と男子達に囲まれていた。「なるほど、俺の方に3人しか来ないのはそうゆうことか」と納得し、俺の目の前の男子達に視線を戻す。
そして俺から話し掛けるのではなく相手が喋り出すのを待った。
「なぁ新海。俺達にも中条さんと仲良くなる方法を教えてくれないか?」
「へ?」
俺は嫉妬や憎悪を向けられてもおかしくないと覚悟していたのだが、予想だにしていなかった真剣な表情から発せられる言葉に、驚きを隠せなかった。そんな事を訊かれるとは微塵も思っていなかったからだ。
まず俺は朝に藤堂にも言ったのだが、気がついたら中条さんとは仲良くなっていた。その事は俺が凄いわけではなく、中条さんの魅力と技量でなしえた技だ。なので俺は少し返答に困ってしまうが、そのまま伝える事にした。
「いや、仲良くなる方法なんてないぞ。中条さん相手だと誰でも気がついたら仲良くなってる。実際俺もそうだったしな。」
「で、でも、お前、あの美少女の中条さんと登校なんて俺らからしたら夢のまた夢なんだぞ!?」
「わ、わかったって。だから、ちょっと落ち着け中山、顔が近い。男に迫られても俺は全く嬉しくないぞ。」
「お、おう、すまん、取り乱した…。」
そんな風に、今熱く鼻息を荒くして興奮していたのは、中山瞬。その右隣に立っているのが、谷川総司。左端に立っているのが稲田元。俺はこの3人がグループを組んで行動しているところを何度か目にしたことがある。その時、顔と名前を座席表で確認し、名前を覚えていたのだが、こんなところで役に立つとは思ってもいなかった。
もともと地元が一緒な方面なのか、それとも趣味が偶々一致したのか、とても仲が良さそうではあった。そして俺は残念ながら、アドバイスを出来るほど友達関係には強くない。なので俺は思った事を素直に続けて言った。
「さっきも言ったけど、俺は気がついたら仲良くなってただけだ。アドバイスとかは出来ない。むしろアドバイスされる側だな俺は。……だから中条さんなら声を掛けるだけで仲良くなれると思うぞ。」
俺は思った事を素直に告げたが、それを聞いた3人はあまり良い表情をしていなかった。他人に方法を伝えるだけなら簡単だ。俺も実際そう言われて、声を掛ける事は出来ない。
「やっぱりそうだよな。都合のいいものなんてないよな。勇気を出して声を掛けるしかないのか…。」
「でもな瞬。新海みたいなイケメンならまだしも、俺達みたいなブサメンのオタクだと厳しいものがあるよな?」
「確かに。総司の言った通りだよ、俺達じゃ…なぁ?」
「「うん。」」
「「「厳しいよなぁぁあ…。」」」
そんな顔を合わせながら息ぴったりに落ち込む3人。俺は3人を見ていて、俺と似たような境遇だったため、共感できる事が多々あり、自分と重ねて考えていた。
なので俺は、そんな状況を見兼ねてささやかな助け舟を出す事にした。
「なら…俺から中条さんに伝えておこうか?」
「「「え?」」」
3人は同時に俺を見てくる。その目つきと3人同時の動きは少し怖かったが表情には出さない。
「まじかよ!新海!助かる」
「俺、今日の朝、お前達が爆発しないかな?とか思ってたけど見る目変わったわ。」
「「俺も。」」
「いや、お前達何さらっと怖い事言ってんの!?」
各々勝手に話を聞いて喋っているので、仲間内のノリには若干おいていかれつつも俺は対応していた。途中恐ろしい事を口にしていたが彼らにとっては普通なのだろうか。
「まぁまぁ…。」
「気にするな!」
「いや気にするだろ…。」
そんな話を終えると3人は意気揚々と自分の席に戻っていった。そして今度は前の席の神無月さんに声を掛けられた。彼女は椅子を持ち上げ、180度回転させてから俺と正面になるように座る。俺はその行為を終わるまで待ち、話し掛けてくるまで見届ける。
「あなたが助け舟を出す側に回るなんて意外ね。寧ろ懇願しながら出して欲しい側のはずでしょう?自己犠牲の精神は嫌いじゃないけど…あなたの柄じゃないでしょう?」
相変わらずの無表情のまま、神無月さんはそう淡々と告げてくる。神無月さんの言葉にはところどころトゲをふんだんに混ぜており、昨日の事を根にもっているのは直ぐに分かった。そして俺は思いあたる節もある。
「神無月さん、昨日の事で怒ってるでしょ。俺そんな悪い事したかな?」
「えぇしたわね。あなた決闘の時にどさぐさに紛れてセクハラしたでしょう?バレてないと思ったら大間違いね。」
「え…ま、マジ?」
俺は何も気づいていない、何も知らないといった事を装う為に演技をする。
「…何を驚いているの?普通寸止めでもいいのにあんな事をする必要はないわ。昨日はあえて言わなかったけど…。」
そこで神無月さんは真っ直ぐに俺の目をじっと見てきた。そう、まるで猥褻な行いをした俺を咎める様な目で。俺は感情を無理矢理押し込める事で、表情には一切の感情は出ていない…はず。俺の表情から読み取れるものは何もない。
「…やっぱり言うのはやめておくわ。あれは決闘の中での不慮な事故。そうよね?今言っても仕方のない事ね。」
そう納得したかの様に髪を払いながら前を向く神無月さん。
しかしその目はぎらつき、全く納得していなかった様に見えたのは気のせいだろうか?
(神無月さんは、ずっと根に持つタイプだろうから大変だな、これは…。)
そんな事を呑気に思いつつ、次の授業の準備をするために鞄の中身をあさる。ふと朝に準備してきた体操服が目につく。そう、今日は学校が始まってから初めての体育の時間がある。俺は運動能力に多少の自信があったので、皆にいいところを見せようかと少しばかり楽しみにしていた。
そして2限目の始まりのチャイムが鳴った。
(あ、やべ…まだ準備してないや。)
俺は急いで次の教科の準備に取り掛かった……。
―――――――――――――――――――――――――――
恙無く2限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
今日は体育の時間が3限と4限目の合併であるので、今から着替えなければならない。着替える場所は男女とも更衣室を用意されているので、移動しなければならない。俺は藤堂をとりあえず起こして移動しようとするが、珍しく藤堂は起きており、俺が先に声を掛けられた。
「新海君、更衣室行こっか。」
「おう。てか藤堂お前、起きてたんだな。珍しい…いつもは俺が起こすまで起きないのにな。」
「今日はたまたまだよ?」
そう言いつつ藤堂は苦笑いをして誤魔化した。俺達は着替えを持って教室を出る。そんな中で俺達に声を掛ける存在がいた。その声は少し高めの声で、直ぐには男か女かは判断が出来なかった。
「新海、藤堂!俺も一緒に行っていいか?」
俺達は一斉に振り返り、声の主を確認した。そこにはあまり見慣れない顔があった。なので俺達は2人揃って首を傾げる。
「あれ?ひどいな、金曜日俺も新海と一緒にバド部の見学に行ってたんだけどな。覚えてないか?」
彼は頭を掻き、朗らかに笑いながらそう言ったが、俺には全く覚えがなかった。
「うーん、すまん、覚えてないな。」
「そうか、ならまずは自己紹介からだな。俺は山田勝也。よろしくな?」
「あぁ、よろしく。」「うん、よろしくね。」
「なら一緒に行くって事でいいよな?」
「あぁ、断る理由もないしな。問題ないぞ。」
そうして俺達は3人で更衣室に向かった。山田はノリがよく、直ぐに俺達の輪に溶け込んでいった。どうして今まで1人だったのだろうかなどと考えている内に更衣室に到着する。
更衣室は学籍番号によって、1人1つのロッカーが割り振られており、十分にスペースが確保されている。これは入学当初の学校案内の時に確認済みだ。
とりあえず俺達は直ぐに着替え始めた。するとクラスメイトも続々と入ってきて、流石に狭く感じたが、ある程度のスペースは確保されている事もあり、特に問題はなかった。俺達は先に着替えていたので、皆より早く着替えが終わり、先に体育館に向けて足を運んでいた。そんな廊下を歩く中でも、会話は当然の様に行われる。
「初めての体育って、緊張するよな?」
「「わかる。」」
「男子の中でのカーストは運動が出来る出来ないでも決まってしまうし、女子にはいいところ見せたいよな。」
山田が最初に話したのはそんな事だった。俺達は共感して相槌を打つ。藤堂はあまり自身がないのか、声にも顕著に現れており、少し語気が弱かった。
「僕はあまり運動が得意じゃないから女子に見られるのは少し恥ずかしいな。新海君は意外と動ける人?」
「まぁ、それなりには自信があるけど…どうだろうな、いざとなるとダメダメかもしれん。」
「うーん難しいよな?」
「「うん。」」
そんな事を言いつつ体育館に着くと、既に数人の女子達が待機していた。そこには中条さんや神無月さんの姿も。神無月さんは運動をする際にはどうやらポニーテールになるみたいだ。部活の時や決闘の時も思ったが長い髪が邪魔になるのだろう。それならば切ってしまえばいいと思うが、女心がわかってないなと思い少し反省。そんな神無月さんの姿に見惚れる奴が約一名。
「部活の時も見たけど神無月さんのポニーテールってやっぱしめちゃくちゃいいよな?ロングの状態もいいけど、やっぱりこのギャップがたまらんなぁ。
普段クールな感じからの、活発系に移る。いやー中条さんもめっちゃ可愛いけど、やっぱり俺は神無月さんだなー…うんうん。」
唐突に早口で語り出す山田に対して、俺と藤堂はどういう反応を返せばいいのか迷っていた。確かにクラスの女子…学校全体が基本的に可愛い人が多かったのは既にこの目で確認している。その中でも頭ひとつ抜けているのは事実だったが、他にも可愛い人はたくさんいる。俺は試しに他の女子の名前を挙げてみる事にした。
「でも、クラスの女子でも可愛い人は結構いるだろ?えーと、例えば林さんとか?」
「まぁ確かに顔はいいけど…つるぺた絶壁は無理だな。やっぱり多少のおっぱいがないとダメだね。」
山田は全国…全世界の貧乳好きに喧嘩を売っているが、残念ながら俺も内心同意していた。巨乳好きとしては譲れないものがある。
「そうなんだ?僕は小さくても大きくても大丈夫だな。おっぱいそのものに価値があるよね?」
俺自信こんな話をしていると少し情けなくなってきていた。するとそこで俺達3人の背後から、話に参戦する者達が現れた。それは中山、稲田、谷川の3人組だった。
「俺はやっぱり巨乳派やな。この学校は大きい子がたくさんいて、とてもとても助かる。」
「は?いやいや、貧乳こそ至高に決まってるだろ?ふざけたこと抜かしてんじゃねぇ。」
俺達は必然的に輪を組む形になるが、唐突に参加して、口論し始める巨乳派の中山と、貧乳派の稲田。俺はこの高度?な会話についていけずに2歩程、後ずさる。
そして谷川がこの話に参加していない事に気づき、話し掛ける。
「あれ?谷川は参加しないのか?」
「あぁ、あんなくだらん話に興味はない。」
そうきっぱりと言い放つ谷川。「信じられん」といった様に蔑む眼差しを向ける谷川に、俺は少しだけ真面目な奴なんだと思った。それでも俺は一応確認をしてみる事にする。
「全く興味ないのか?」
「あぁ。俺はなぁ、お尻派なんだよ!」
これまたきっぱりと言い放つ谷川。俺はこいつが真面目な男だと少しでも思ったのが馬鹿だった。まぁ俺自身、人に言えるほど真面目ではない。
更に言うならこの話、体育が終わった後も更衣室でクラスの男子全員を巻き込んだ論争に発展した。
まぁ、男子高校生ならみんなこんなもんだ。悲しきかな……。




