3-4 勘違いスケコマシ野郎
結局楓はなんだかんだ言いつつも、俺に付いてきて、一緒にラーメンを啜っていた。この店のラーメンはコテコテの醤油ラーメンであり、醤油ラーメン派の俺の舌に合っていた事で美味しかった。美味しいは正義なのだ。
そして楓はチュルチュルと麺を啜りながら髪が邪魔にならないようにと、触覚を耳にかけていた。そんな一瞬の動作ですら、なんとも艶しくて俺は箸を止めて見入ってしまった。
俺がそんな事をしていたからなのか、このお店の大将らしき人が話し掛けてきた。
「兄ちゃん、ずいぶんと可愛い彼女さんを連れてるな。そんなに熱心に見てちゃ麺が伸びてしまうぞ?」
「グフッッ!?」
そんな事を言われ、楓だけが噎せていた。店の中はお客さんで一杯で、カウンター席しか空いていなかったので、俺達はしぶしぶカウンター席に座っていたのだが、その弊害が出てしまったようだ。
「大将、別にこいつは彼女じゃありませんよ、ただの幼馴染みですから。」
俺は至って平静を貫きそう答える。しかし大将は納得がいかないのか、首を傾げながら唸っていた。
「そうかぁ?まぁ俺には想いをよせる男に見えたな。そこんとこどうなんだい?正直に答えたら唐揚げの1つくらいおまけするぞ?」
大将は俺に顔を近づけながら、楓にも聞こえるようにわざと大きめな声で訊いてきた。俺はどう返答するかを少しだけ迷ったのだが、この迷いは楓との色恋で生じた迷いではなかった。
そしてもう一度否定してもよかったのだが、唐揚げがタダで貰えるそうなので、好きと言うことにして、唐揚げを貰おうとする程、俺は心は冷えていた。
ちなみに、今店にいるお客さんはなぜか楓以外全員男だったので、楓が可愛い女の子ともあり、俺の言葉にみな耳を傾けていたようだった。
「そうですね、さっきのは嘘です。実は大好きです。」
「グフッッ!?!?」
そこで楓はまた噎せた。そして驚きを隠そうともせずに目を見開いた状態でこっちを見てくる。俺はそれを視界に収めつつも大将に話し掛ける。
「あ、唐揚げ貰えます?」
「お、おう。約束だからな…。」
大将は顔を引きつらせながら鼻をピクピクと痙攣した様に動かしていた。そして俺の手元に届いた唐揚げは気がつくと存在が霞んだと思ったら、一瞬で手元からなくなっており、何も乗っていない皿だけになっていた。
「ちょ、は?何してんの?」
「うっはい、は、隼人のバーカ、こにょ、スケコマシ!!」
「いや、いったいどうゆう事だよ…?あと、食べるか喋るかどっちかにしろよ…。」
楓は俺から奪った唐揚げを口に放り込みながら喋っていたので、とても聞き取りづらい上に、ハムスター程ではないが、頬を膨らませてながら咀嚼していた。そして無駄に小動物らしい可愛さを押し出してきた楓の行動は、少し謎だった。
そこで俺と楓のやりとりに、聴き耳を立てていた店の男どもの思っていた事が一致する。
(((((あ、これ…あの可愛い女の子、あの男のこと絶対好きだろ…。)))))と。
とりあえず俺はゆでダコ状態の楓を見ながら、少しだけ伸びた麺をすすっていた。
「あ、少しだけ麺伸びてる…。」
俺は思わずそんな事を呟いてしまった。それを聞いた店の男どもの思っていた事が再び一致した。
(((((ざまーみろ!)))))
男どもは嫉妬と憎悪の念を込めてそう思っていた。
その後、楓は俺がコンビニでスイーツを奢ると言うまで口を利いてくれる事はなかった……。
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朝になった事で、ベッドから体を起こし、朝の支度を始める。今日からまた学校だ。2日あけたことにより、学校の生活での事が心配になり、少し不安な気持ちになる。しかしそんな気持ちは、部屋を出て直ぐに解消される事になる。
「おはよう新海君…今日は少し遅いんだね?僕と一緒な時間に出るなんて。」
「おはよう。そうだな、今日は少し遅くなってしまったのは、少し学校に行くのが怖かったんだが…今解決したよ。」
俺に話し掛けてきたのは、隈をくっきりとつけ、少し元気がなさそうな藤堂だった。しかし藤堂の顔を見ると俺は自然と笑顔になり、不安な気持ちはどこかに行ってしまった。
「そうなんだ。それならよかった。僕も新海君の顔を見れて、少し安心した。」
「なんだそれ。」
俺達は顔を見合わせて笑っていた。そんな俺達はエレベーターから降り、寮から出て歩いている途中、休日の話をしていた。
すると後ろから声を掛けてくる人がいた。明るく元気な女の子の声で俺達は立ち止まり、同時にくるりと振り返った。
「おはよう新海君♪…あ、藤堂君もおはよう♪」
「ん?あぁ、おはよう中条さん。」
「お、おはよう…。」
声の主はやはり中条さんだった。寮の場所は密集しており、目指す場所も一緒になると、顔見知りと会うことは珍しくないだろう。今日も今日とて可愛い中条さんは、普段通りのヘアスタイルに今日も黒のヘアピンを「XX」のようにつけていた。それが彼女のスタイルへと定着していきそうな予感をしつつ、立ち止まっていた俺達は中条さんが俺の右隣に来た事により、3人横並びなって再び歩き始めた。
「新海君、今日の部活動体験ってバドミントン部に行くよね?それなら、私も一緒に…どうかな?」
少しだけ上目遣いになりながら、猫撫で声でそう言ってくる中条さん。俺は別に嫌でもない上、むしろ知り合いが増えるのは俺としてもありがたい。
「うん、今日はバドミントン部に行こうと思ってるけど、寧ろ一緒に行くのはこちらからお願いしたいくらいだよ。」
「そう?なら嬉しいな♪」
(うーむ、今日も笑顔が眩しいな。ゲヘッ…いいね!)
そんな彼女の笑顔は太陽のように輝いて見えたので、俺は眩しいものを見た様に目に少し手をかざしていた。そんな中、藤堂が中条さんに聞こえないように、声量を落として俺の耳元で呟いた。
「新海君、いつ中条さんと仲良くなったの?」
「うーん、よくわかんないけど、なんか気がついたらそうなってた。皆もそうじゃないのか?」
俺も藤堂に合わせて声量を落としたのだが、流石にこの近距離だと声が聞こえたのか、中条さんが俺に詰め寄ってくる。
「私の前で堂々と内緒話してる?傷ついちゃうなぁー私。プンプン!」
頬を少しだけ膨らませた後に、腕を組んでそっぽを向いてしまう中条さん。そんな行動を見た俺は反射的に謝っていた。
「ご、ごめん、そんなつもりはなかったんだよ。別に変な話はしてないよ?俺と中条さんがいつ仲良くなったか話してただけだから…。」
「そうなんだ…ふーん…。」
そう言って目を細めて俺を見てくる中条さん。確かに1人を無視して内緒話はあまり良くなかったな、と少し反省。そんな中、中条さんは俺から視線を移して藤堂の顔を見て、驚いていた。
「あれ?藤堂君ってよく見たらイケメンなんだね?髪の毛がボサボサで、隈ができててわかりづらかったけど…寝不足なの?」
藤堂は話し掛けられると全く思っていなかったのか、反応が少しだけ遅れる。
「…え?あぁいや、最近ちょっと寝付けなくって…。心配しなくても大丈夫だよ。」
「どうせ徹夜でゲームでもしてたんだろ?」
「まぁ、そんなとこかな。」
俺の指摘に思わず苦笑いをする藤堂。
しかし俺はその答えが正解だとは思わなかった。
「そうなんだ…でも、しっかり寝ないと身体に悪いからね?」
「うん、気をつけるよ。」
そしてそんなやりとりをして俺と藤堂は顔を見合わせた。
「新海君の言ってた意味わかったよ。」
「だろ?」
「うん。これは彼女だから出来る事だね…。」
藤堂は感心した様に言葉を漏らす。そして俺達の中で中条さんに対しての共通の認識が構築されていた。
「また内緒話?もうっ!えいえい!」
再び俺達だけで会話していたので中条さんは少しだけ怒る素振りを見せ、俺達の胸板部分を優しく叩いていた。効果音をつけるとするなら「ポフポフ」といった具合だろう。中条さんは持ち前の明るさと笑顔で気がついたら仲が良くなっている。これが俺達の共通認識だ。自分に好意があるのではないかと勘違いしてしまっても仕方のない事だろう。
(でも、俺はデート?もしてるし、脈アリなんじゃね?うひょおおお、え?コレって勘違いじゃないよね?)
俺はそんな勘違いをしつつ、俺達3人は学校に恙無く、到着したのであった……。




