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3-3 勝者と敗者

(やっぱり隼人(はやと)が勝ったね。まぁ、負けたら御仕置きだったんだけど…まぁ、全然鈍ってなさそうだね。)

 私は眼前で繰り広げられた短いながらも一般的に見れば濃厚な試合を見ていて、そんな事を思っていた。

 当然隼人が勝つと思っていた私にとっては、予想通り過ぎる結果で終わり、少し期待外れでもあった。私としてはもう少しだけ粘って欲しかった事もあり、神無月(かんなづき)さんの反省点を勝手にまとめていた。

 そして私の視線の先では、隼人が私と同じ事を思っていたらしく、べらべらと反省点を喋っていた……。


―――――――――――――――――――――――――――


 俺は神無月さんとゼロ距離で密着している状態だったので、とりあえず4歩後ろに後退した。ナイフをポケットにしまい。再び神無月さんに視線を戻す。どうやら、彼女としてはこの結果が信じられなかったみたいだ。俺を何やら恐ろしいモノを見るかのようなその目は少し不快だったが。なのでそんな風に見られてしまうと、険しい顔になってしまうのは仕方のない事だろう。


「あ、ありえないわ!た、確かに私はまだまだ未熟で、あなたは父上から警戒するべき人として忠告されていた人だった。で、でも、ここまで手も足も出ないだなんて……。」

 神無月さんは少し震えた声でそこまで言い、黙り込む。「あなたは一体何者なの?」と告げてきそうな表情でも、口をパクパクさせて、上手く発声出来ないのか、煩わしそうに目を伏せる。どうやら言葉を失ったようだった。

 とりあえず俺は少し間を開け、説明するように話し掛ける。


「そうだな…。まず1つ目に良い点から。

 自分の間合いの有利を理解して、相手との距離を保ち続けたのは評価出来る点だ。

 2つ目にレイピアをここまで扱える事は良かったと思う。けど、間合いの距離に有利だった場合はもっと点の攻撃じゃなくて、線の攻撃を混ぜるともっと近づけさせない事が簡単だったはずだ。」

 俺はそこで少しだけ黙り、もう一度話を続けた。


「悪い点は、まず俺が一気に距離を詰めたとき何もせずに突っ立っていた事だ。俺が詰める間はいろいろな事を出来たはずだ。距離を離し遠距離攻撃の素振りを見せる事や、自分からも近づく事、はったりだとしても異能を使う素振りを見せる事。それだけで、相手を惑わす事が出来る。試合を有利に運ぶには必要なものだ。

 2つ目に、俺が異能を使うフェイクをしたとき、一度横薙ぎの剣撃を混ぜ、一旦距離を取るべきだったな。確かに異能を相手に簡単に使わせる事はよくないが、とっさの攻撃は無茶なものになる上に、完全に未知な異能の前ではリスキー過ぎる。」

「そ、それは…あなたもそうじゃないの?」

 神無月さんは震えた声でそうは反論する。しかし俺は気にせずに淡々と説明を続ける。


「俺も実際は神無月さんの異能は完全には把握出来ていなかったよ?けど、おおよその把握はしていたし、即致命傷になる攻撃はないと踏んで、急接近する事を選んだ。」

 そこで神無月さんは再び口を噤む。


「異能は振動系。もしくは超高音波じゃないかな?振動(バイブレーション)(ソード)を使ってる時点でおおよその予想は出来る。でも1つ疑問だったのが、この2つの異能なら遠距離攻撃が出来るはずなんだけど…どうしてして、してこなかったの?」

 俺がそう問いかけると、別の人物によってそれは回答される。


「それはねぇ、姉さんは手元にある物体への干渉は得意だけれど、目に見えない空気などの空間への干渉は得意じゃないからだよ。」

 そう言いながら俺達に近づいてきたのは、神無月(かんなづき)夏威(かい)だった。神無月さんはばつが悪そうにし、夏威から顔を背ける。


「久しぶり隼人君。あ、俺の事は夏威でいいよ。気軽に呼んでね?…でも凄いなぁ、息1つきれてないなんて、驚いたよ。俺でも君には敵わないだろうね。」

 夏威は俺の様子を見てそう分析したみたいだった。俺は笑いながら告げられたその事を無視して、先程夏威が言った言葉だけを拾い上げて確認をする。


「それはいいとして…さっき言ってた事だが、本当なのか?」

「うん。そうだね、耳と目はいいみたいだけど、その程度。空間干渉力が恐ろしく低い。そうだよね、姉さん?」

 夏威は俺に向けていた視線を神無月さんに向け、話し掛けていた。


「えぇ、そうね。ごめんなさい夏威。また無様に負けてしまったわ。」

 神無月さんは左手を右の肘にあて、俯いていた。声は普段の自信満々の神無月さんからは想像出来ない程、弱々しかった。今にも塵になって消えてしまいそうな程、小さな声。そしてそんな神無月さんを宥めるているつもりなのか、声を掛ける夏威。


「謝る事はないよ姉さん。今日はいいモノも見れたし。それじゃあ俺はこれで帰るね?じゃあまたね隼人君。今度手合わせでもいいし…」

 そこで夏威は(かえで)の方をじっと見る。


「あそこの可愛い女の子の紹介でも俺はいいかな?じゃぁまたね、バイバイ。」

 そんな事を言って夏威は去っていった。楓はそんな夏威を見ながら、両手で自分を抱きしめ、顔を青ざめつつ身震いをしていたが。

 そして俺は無言で夏威の背中を見送った後、俺も帰ろうとして楓に声を掛けようとしたところで、俺の左腕を神無月さんに掴まれた。


「待って…。」

 その声は先程の様に弱々しく、聞いているだけで悲しくなってしまいそうだった。俺はくるりと振り向いて神無月さんを優しく見つめる。


「あなた、異能を使ってすらなかったでしょ?」

「うんそうだね。俺はこの決闘で使うまでもなく勝てると判断した。無闇に他人に見せびらかすものじゃないからね。」

 神無月さんは俺の言葉に納得したようにコクコクと頷いた後、視線を下に向けながら呟く様に話す。


「そう…完敗ね。私が愚かだったわ。今のが命のやりとりなら私は死んでいた…。次はなかった。」

「そう深く考えなくてもいいと思うよ。今はまだ学生だ。そして異能も発展途上。成長の見込みがあるなら伸ばすだけだよ。それにこれは練習だ。実戦とは違い次がある。自身を追い詰めてもいい事はないよ。必要なら追い込みも効果的だけど、今は違う。

 まぁ今日の結果はおまけみたいなもんさ。俺に言ってくれれば、少しくらいならアドバイスを出来るかもね。」

 俺は少し励ます様にそう言った。皮肉と受け取られないだろうかと少し心配だったが、そうこうしている間に、楓が2人の荷物を持って降りて来たので、楓から荷物を受け取る。


「ありがと。」

「もう帰るの?」

「うん、用も済んだし。」

「そう。」

 俺達は顔を合わせて簡単な確認を取り合う。その間、楓は神無月さんが心配なのか、チラチラと様子を伺う様に見ていた。


「神無月さん、今日はお疲れ様。俺達はもう帰るけど、ここ任せても大丈夫だよね?」

「えぇ。」

「なら任せた。また明日、教室で。」

 俺はそう言うと、出口に向かって歩きだす。楓は神無月さんにペコリと会釈をして、俺の右隣まで小走りでついてきた。

 そこで神無月さんは少し大きめな声で、疑問の声をあげた。


「あなたは一体…何者なの?」

 そんな先程聞きたかったと思われるその問いに、わざわざ答える者はいない。俺は振り向きすらせずに体育館を出た後。楓はチラチラと顔だけ何度も振り返って、見ていたが。


 俺は体育館を出て、直ぐに楓に話し掛ける事にした。

「楓、少し早いけどお昼ご飯にしないか?」

「え、もう?ちょっと早くない?てかどこ行くの?」

 楓は首を傾げつつ、当然の疑問を俺にぶつけてくる。


「電車で20分程のラーメン屋。」

「いや…微妙に遠いし、それになんでラーメン屋?隼人って私の事なんだと思ってるの?」

「友達…いや、ただの仲間。」

「そこ、言い直さなくてもよかったよね…?」

 そこで楓に呆れ顔を向けられてしまったが仕方ない。俺は今日はなんとなくラーメンの気分だったのだ。


「嫌ならついて来なくても大丈夫だぞ。」

「誰も嫌なんて言ってないでしょ!?行くよ、行く行く!」

 俺がそう言うと直ぐに行く事を決める楓。こんな会話が出来るのも楓だけだ。なので俺は苦手と思いつつも、楓の事を少なからず大事にしているのだろうと思い、楓の横顔をじっと見ていた。そんな楓は何かを思い出した様に、「あ」と呟いて話し掛けてきた。


「そういえば隼人。ナイフの柄を神無月さんに押し付けた時、あんた胸の感触確かめてたでしょ?どさくさに紛れて。」

「へ?あー、いやー…。」

 俺は目を泳がせて楓と視線を合わせずに間を開けていたが、チラリと楓の目を見るとジト目を向けつつ、確信を持っている瞳をしていたので誤魔化さず素直に言う事にした。


「そうだな、どさくさに紛れてセクハラしてたな!」

「ほらやっぱり!?このおっぱい大好き変態魔人が!くたばれっ!」

 そう言いながら握り固めた拳を俺に向けて放ってくる楓。俺はかろうじて回避したが、明らかに空を切った拳はただのパンチではなく、異能を使っていた。


「は?ちょ、ちょっとお前、加減加減!あと何さりげなく異能使ってるんだよ!?危ないだろ!?」

「言い訳無用、女の敵は私が始末するだけだから!黙って滅されろ、バカ隼人!」

 そんな事を言いながら容赦なく殴ってくる楓。それを全て避けるのは一苦労だったが、なんとか被弾はゼロで済みそうだった。

 そしてそんなやりとりを5分程していると、中から神無月さんが出てきて、そんな光景を見られてしまったのはまた別のお話。

(こんなのが私に勝利した人だなんて、信じられなくなってきたわね…。)

 そんな事を神無月さんに、恐らく思われていた俺だった……。

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