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3-2 元VATとしての実力

 俺は照れる(かえで)を見ながら、口角を吊り上げてニヤニヤと楽しんでいると、明日の事をふと思い出したので、深く考える事なく楓を誘ってみることにした。


「楓。そういえば明日決闘するんだけど、見にくるか?」

「ほえ?決闘?…誰と?」

 俺が話し掛けるとやや頬を赤らめながも、直ぐにジト目をむけてきた。


神無月(かんなづき)(よう)さんなんだけど…楓なら勿論知ってるよな?」

「うん。…なんでまたそんな相手と?」

「それは俺が訊きたいよ…なんでこうなったのか。」

 俺は呆れた様に肩を(すく)める。楓は俺のそんな素振りを気にする事はないのか、そのまま話を続ける。


「いや、そんなの私も知らないし…で、場所と時間は?」

「10時から、学校の第5異能訓練用体育館。体育館は貸し切りだそうだ。それについてさっき神無月さんから連絡が届いてた。多分学校に連絡して予約したんじゃないかな?」

「ふーん?でも今思ったんだけどさぁ。それって…私が行くことで何かメリットある?」

「…ねぇな。…神無月さんの戦い方を知れるくらいだな。それと警戒されるおまけ付きで。」

「いやそれむしろマイナスだよね!?」

 楓はテンションを上げ、声を張り上げて突っ込んでくる。ナイスツッコミだ。


「そうだな。別に強制してる訳でもないし、ただ単純に興味があるのなら付いて来て欲しかっただけだから。楓が興味ないなら俺1人で行くよ。」

 実際俺は楓に来て欲しいわけじゃなかった。ただの確認みたいなものだったのだが…楓は俺の返答を深読みしたのか黙りこんでしまった。

 俺はそんな楓を待ちながら腕時計で時刻を確認していた。


「わかった。私も行くよ。まぁ隼人(はやと)だけを警戒させておいても面白いけど…それだと可哀想だから私も警戒してもらってヘイトの分散をしてあげるよ。」

 楓が言った事は実は凡手(ぼんしゅ)なのだが、俺自身そこまで重要視していなかった事のでスルーしておく事にした。


「わかった。でも、変な事するなよ。」

「はいはーい、わかってますよー。」

 楓は口角を上げてニヤニヤしながら俺見ていたので、本当に分かっているのか怪しいとこではあった。

 そしてそんな顔を見た俺は、先程の間違いを指摘しようと思ったが、やめておく事にした……。


―――――――――――――――――――――――――――


 俺達は既に食べ終わり、話も終わった事で店を出て帰路に着いていた。

 その間、俺は今日の話を頭の中で整理していた。その時、今日の話の中で違和感を覚える箇所があった。

それは楓が学校にクラックをした時の多重プロテクトと、おそらく今後行われるテロの足取りを簡単に掴ませている事だ。

(考えすぎならいいんだけどな…。)

 そんな真面目な事を考えていた俺だったが、視線はしっかりと楓の少しだけ弾んでいる胸を捉えていた。


 楓と別れ、自室に戻ってきた俺は、携帯の着信に気づき、携帯を徐に開いて届いていたメールを確認した。


「作戦の中でどさぐさに紛れて参戦するなら名前持ち(ネームド)の1人くらい始末しとけ。」

 との短いメールが届いていた。


「あんの、くそじいい…。」

(そもそもなんで俺のメールアドレスを知っているんだ?楓の時も思ったが、俺の個人情報はフリー素材か何かなのか?)

 そして、次会った時にはあのくそじじいには悪態をついてやろうと思った。


「風呂入って寝るか…。」

 俺は誰にも聞こえることのない独り言を呟き、脱衣所に向かった……。


―――――――――――――――――――――――――――


「隼人。あなたもいつか人を導ける日が来るわ……。」

「そうかな?僕あんまり自身がないや。僕も()()()()みたいになりたいけど……。」

「私みたいになる必要はないわよ?だって隼人も、十ぶ……」

 そこで俺は目が覚め、ムクリと体を起こした。カーテンの隙間から少しだけ太陽の光が差しこんでおり、丁度目の高さに当たっていたので、思わず日光を手で遮る。


「朝、か。」

 俺はそんな事を呟いた後、そこでふと頬に何かが伝うのを感じた。そこで手を当ててみる。

 するとそれは涙だった。


「なんで俺、泣いてんだ?」

 俺は泣く事になった原因を探る。

 しかし、俺は起きた瞬間に、原因の糸口と思われる先程まで見ていた夢を忘れていた。そもそもそんな夢を見てもいなかったように……。


―――――――――――――――――――――――――――


 俺は普段のように支度を済ませ、今日はトレーニングウェアに身を包み部屋を出た。そして待ち合わせ場所のロビーで楓と合流し、体育館へ向かって歩き出す。

 そんな俺達に発生する会話は、今日の事に関するもので占められるのは必然だったのだろう。


「隼人はあの体育館使った事あるの?」

「いやないな。最初の施設案内で見たくらいだな。」

「そうだよね?私もだよ。まだ授業で扱わないみたいだから、当分お世話にならないと思ってたんだけど…。」

「それは同感だな。」

(てか楓の事を神無月さんに伝えてないけど大丈夫だよね?あれ?ちょっと心配になってきたな…。まぁ、なるようになれ。うん。)

 とりあえず俺達は恙無(つつがな)く体育館に到着し、扉を開けて中に入った。

 体育館は外見内装共に長方形になっており、真ん中に決闘スペースがあって、それを囲む様に客席のような形で2階部分に椅子が設けられていた。そして俺達が入り口で突っ立っていると、2階から悠然と神無月さんが降りてきた。


「やっと来たわね。もしかしたら来ないと思っていたけど……その後ろの人は?」

 神無月さんはそう言いながら、楓に気づいたのか、眉を顰めていた。

(まぁ、当然警戒するよな…。)

 俺は両手を前に出して神無月さんを宥める様に話す。


「まぁまぁ、落ち着いて。こいつは金宮(かなみや)(かえで)。俺の友達みたいなもんだ。別に邪魔はしないから問題ないだろ?」

金宮(かなみや)(かえで)です。神無月さん、今日はよろしくね♪」

 そう言うと、楓は会釈してから神無月さんと握手をしていた。


新海(しんかい)君、あなたは藤堂(とうどう)君しか友達はいないと思っていたのだけれど…以外ね。」

「グフッ…。」

 神無月さんによって当然の様に吐かれた言葉は、ピンポイントに俺の弱点に命中した。痛いところを突かれ、変な声が出てしまったが、それは仕方のない事だろう。許して欲しい。

(てか、友達はもう藤堂だけじゃない!…はず。

大崎(おおさき)さんに…中条(なかじょう)さん。あと、楓?もだ。遠藤(えんどう)先輩や鷲川(わしかわ)先輩とも仲が良いはず!俺の思い違いではないのなら。)


「…金宮さんに関しては問題ないわ。邪魔しないのならね。あとまだ来ていないけれど、私の弟が来るかもしれないから、よろしく。」

「あぁ分かった。あと楓は強化異能(ブースター)でも、弱体化異能(ディスエフェクター)でもない。ただの脳筋(アホ)だから心配しなくていい。」

 厳密に言うと楓は強化異能(ブースター)に分類されるが…自分にしか強化はかけれないので問題ないだろう。多少の嘘は許して欲しい。


「ちょっと!好きに言わせておいたらすぐ調子に乗るんだから!」

 俺は楓にそんな事を言われながら、俺は肩を揺さぶられた。

 しかし、夏威(かい)の奴も来るらしく、俺は姉に興味はないと思っていたのだが、意外にもそうでもないらしい。それにあいつには元々警戒されているので、今日の戦いを見られても特に変わらないだろう。


「あなたの準備が出来てるなら直ぐ始めたいのだけれど?」

「わかった。楓、荷物持っててくれるか?」

「うん。わかったよ。」

 そう言って俺は携帯と財布を楓に手渡す。そして俺は体育館の中央よりやや奥側に立ち、刃渡り約10cm程のフォールディングナイフを手に持った。まぁ、要するに護身用というやつだ。

 治安が悪い世の中なので、こういったナイフを携帯していることは、珍しい事ではなかったりする。そして俺は神無月さんに視線を戻すと、思わず目を見張ってしまう。そこで俺は指を指してわざわざ訊いてみる。


()()扱えるの?」

「えぇ、けど少し重いから継続的には無理ね。」

 神無月さんは軽く()()を振って見せた。

 俺が()()(ひょう)したのはレイピアだった。刃渡りは80cm程で、幅は2cm程。柄の部分に装飾はなく、出来る限り軽くしようという意思が伝わってくる。まず、どこからそんなものを持ってきたのか謎だったが、ツッコミをいれる事はなかった。


「私、人を(あや)めるつもりはないけれど…殺す気で行くから、ボケッとしてると死ぬわよ?」

「ご忠告どうも。俺はただの決闘で死ぬ気は毛頭ないんで。」

 俺達は今、試合ではなく()()になろうとしていた。まぁ要するに、こんなところを他の人に見られるとまずいということだ。


「楓、合図を頼む。」

「うん、わかった」

 俺は楓に指示をして、その一言をきっかけに両者とも構えをとった。俺は右足を半歩さげ、腰を少しだけ落とし、神無月さんをじっと見つめる。神無月さんはレイピアを通常通りに手の甲を上にして構えた。

 その間に体育館の入り口をちらりと見ると、そこには神無月夏威が立っていた。

(タイミングのいい奴め…。)

 そう思いつつ、俺が視線を神無月さんに戻すとほぼ同時。


「はじめっ!」

 楓は手を振り下ろしながら試合開始の合図を勢いよく言い放つ。俺は楓の言葉が聞こえた瞬間に走って一気に間合いを詰めた。

 これには少し理由がある。

 まず1つ目に、神無月さんは耳がとても良かった事から、俺はおおよその異能の種類を分析していた。ありえないほどの耳の良さから、異能は音に関係する事か、探知系統のものだと考えた。

探知系統ならば、間合いを詰めれば単純に剣術、体術の勝負に持ち込める。

 音の関係する事ならばレイピアを持ってるとはいえ、当然、遠距離攻撃の手段を使ってくる事も考えた。

 今の俺は、フォールディングナイフ1本しか攻撃手段はない。ナイフを投げる事も可能だが…そんな手段を視野に入れるのは早計過ぎる。

 2つ目に、神無月さんはレイピアを持っている事でそれを使うたび、疲れていくだろう。本人も少し重いと言っていた。おそらく鍛えているだろうが長くは持たないと踏み、近距離戦を俺はしたかった。

 そして3つ目に、俺は距離を詰める事で神無月さんがどのように行動するか見極めたかった。異能の力を使ってくれるなら、万々歳だ。

 要するに、遠距離攻撃される前にさっさと間合いを詰めて、近距離戦しようぜ!って、事だ。

 そして俺は走って距離を詰めていくと、気づく事があった。

(剣身が微細に震えている?)

 俺はその事から異能を振動系や超音波での共鳴まで絞りながらも、俺は走るのをやめない。

 神無月さんの間合いは腕の長さや、レイピアの長さを考えると約2m弱。俺はその半分ほどだ。レイピアは微細に震えている事を考え、1発でも触れたらアウト。

 一見すると神無月さんの方が有利だが、間合いを俺の間合いにすることが出来れば立場は逆転する。

 しかし、それは難を有する。触れればアウトなレイピア。多分ナイフで受け止める事すら許されないだろう。つまり、全てかわす必要がある。その上、まだ完全に出し切っていないであろう。異能の力も見極める必要があった。

 俺は神無月さんとの距離3m弱で少し減速し、左右にブレるフェイントをかけ、出方を探ってみる事にした。

 そして神無月さんが放ってきたのは高速の突きだった。俺はその速度に関心した。顔を狙ってきているのは軌道と目線を見ればバレバレだったので、俺は右に顔ずらし、体ごと右から回るようにして一度足をとめ、接近を試みた。

そうすると神無月さんは一度、腕を引きながら、少しだけ後退した。

 もう一度俺は接近し、突きの一撃を左にかわした。

(……?なぜ異能を使ってこない?もしかして、それが精一杯なのか?でも、戦い方はある程度しっかりしているようだな、近づかせてくれない。)

 大体の人は対人戦に重きを置いて異能を使おうとしない。そもそも、大抵は対人戦なら現代兵器を使う方が早いからだ。テロなどを相手にする事を目的として技を磨いたりしない限りはこうはならない。

(これが神無月家の教育か。)

 そう思いつつ俺は、次の手に移る事を決める。

 俺はもう一度接近をして、次の突きの一撃を左にかわすと同時に俺は左の手のひらを神無月さんに広げた状態で向けた。その瞬間、ほんの一瞬だけ神無月さんは硬直した。

 そう、俺がしたのは、異能を使うと見せかけたフェイクだった。

 その間にもう一度接近を試みた。先程とは硬直したせいでタイミングが遅れた剣撃がくるという訳だ。そして俺はあえて、今まで接近するとき100%の力を使わず80%のスピードで接近していた。

 つまり、その20%の差と先程の硬直を利用し、俺は一気に距離を詰めた。その結果、俺は伸びきった腕が止まる瞬間、神無月さんの左手首を自身の左手で掴んだ。

 そして、それを自分の方に引っ張ることで体勢を崩し、俺に手繰り寄せ、右手のナイフを持ち替え、柄の部分を神無月さんの心臓部分に当てる事に成功する。

 つまり、この勝負は俺の「勝ち」というわけだ。

(あ、ちなみに心臓をナイフで刺そうと思ったら、横向きに刺そうね。肋骨に邪魔されちゃうからね。)

 そして神無月さんは信じられないといった様子で顔を痙攣らせて、硬直していた……。

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