1-2 俺ってクズだったわ
俺は解散するなり1人で校舎を出て、俺は腕時計で時刻を確認する。既に昼過ぎだった事で昼食を摂る事にした。この学校は全寮制で、その近くに食堂も併設されているのでそこを利用する事にした。
ちなみに、俺は今日初めて食堂を利用する。なぜこんな事をわざわざ言う必要があるのか。それは俺は実は入学式の3日前から寮に住んでいたからだった。
申請さえすれば入学1週間前から住むことが出来るので利用していたのだが、まだ入学式を終えていないということで、上級生に遭遇してしまう可能性に無駄にびびっていたからだ。食事は全て周辺のコンビニで済ませてきた俺は、我ながら馬鹿だった。
それは上級生にびびることなく食堂を利用出来ていれば、入学式前からの知り合いや友達が出来ていたかもしれないという、誰にでも思いつく手段を蹴っていたからだった。
この学校の学生の大半は、普段から食堂を利用するらしいので当然意味のあるものになるはずだ。だとしてもその事に気づいたのは、入学式の時に隣に座っていた奴のお腹の音を聞いたときだったのだが……。
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食堂に入ってみるとやはり大半の生徒が利用するだけあって、広さはなかなかのものだった。俺はとりあえず列に並び、その間に辺りを見渡してみる事にした。
この空間は1学年150人×3学年、つまり450人はカバー出来る程の広さだ。この空間に机と椅子がずらりと並び、既に半分以上が生徒によって使用されている。待っている間、食堂に充満している食欲を誘ういい匂いを嗅ぎつつ、メニューに目を通す。注文を決めているうちに自分の番になった。食堂のおばちゃんにカツカレー注文する。ちなみにカレーは好物だ。
すると1分程でカツカレーが出てくる。俺はそれを受け取り進んだ先のレジで会計を済ませる。俺はどの席に座ろうかと1人で逡巡していると俺に声を掛ける人がいた。それは俺にとって、聞き慣れた声だった。
奴だ。奴が俺に声を掛けてきやがった。
奴。俺がこんな言い方をするには理由がある。とりあえず振り返って俺の聞き間違いではない事を確かめる。
すると、俺の想像していた人物がそこには立っていた。
満面の笑顔で。
「やっぱり隼人じゃん!何ボケっとしてるのよ。ちゃっちゃと反応しなさいよね!」
「あ、あぁ、そうだな。で?なんだ?」
俺は凄い嫌そうな顔で、そいつにそう答えた。
「どうせ隼人の事だからまだ友達もいないんでしょ?だから一緒に食べる人もいなくて寂しい思いをしているんじゃないかなー?って思って、この優しい優しい私が一緒に食べない?って誘おうと思ってたのよ。」
そいつは偉そうにしながら俺の顔を見ずにそう言ってきた。
「は?お前はいつも一言余計なんだよ。まず俺が友達の1人もいないって決めつけんなよ。」
「え?……じゃあ、友達、出来たの?」
そいつは首を傾げて、目を細めながら俺を見詰めてくる。
「ぐっ……。いや、そ、それは……。」
(くそっ、本当の事だから反論できねぇ……。)
「はいはいとりあえず、ずっと立ってるのも変だし、座ろうよ?」
「お、おう、そうだな……。」
そう言われて俺はなし崩しでついていくしかなかった。
そして俺達は窓際の机を選び、椅子に座る。俺はそいつの顔を見て話し掛ける。
「おい楓、結局用件はさっき言ってたことでいいんだよな?」
「うんそだよ?……そんな、裏なんてないよ?純粋に可哀想だったから声を掛けただけだよ。」
楓は両手を体の前で振り、万人受けする笑顔でそう言ってくる。
楓は普段から一言余計だ。昔からそうだった。いつもいつも何かある事に馬鹿にしやがる。俺も最初は好きの裏返しだと勝手に思い、ニヤニヤしていた時期もあったが、それは俺の思い込みだった。あいつは俺が困るのをいつも楽しそうに笑いやがる。くそっ、あいつと関わるとロクな事がない。
こいつの名前は金宮楓。俺と一応6歳からの付き合いだ。今俺は15歳だから約9年間一緒だったわけになる。厳密には会う機会がそんなにあったわけではないから、実際には9年間と言えないかもしれない。それでも俺がこの学校に行くって決めた時に、勝手について来やがった。
あのくそじじい。今でも思い出したら腹が立ってくる。くそっ。
楓に甘かったじじいのせいで楓もこの学校に行けるようになった。俺は楓が知り合いで仲間だとは思っているが、友達だとは思っていない。酷いと思われようが構わない。俺は楓が苦手だ。命を賭して助けた事もあったが、結局それは仲間だったからだと勝手に解釈している。
そういえば、と、ふと大事な事を思い出したところで俺の脳天に衝撃が走った。
「隼人聞いてる?私が話しているのに無視なんて、サイテーね。しっかり聞いてなさいよね……ごにょごにょ……。」
楓は最初、はきはきと話していたのだが、途中から顔を逸らして聞き取れないくらいの小さな声になった。
俺は首を傾げ、頭をさすりながら訊き返す。
「は?なんて?てか、何殴ってきてんだよ。痛いだろ。」
「あ、あんたが私の話を、無視するからでしょ?私がせっかく隼人の為に友達作りの話をしてあげようとしてたのに。まったく……。」
げんこつをくらって不機嫌だった俺だが、ふとその話を聴いて俺は、くるりと手のひらを返した。
「ま、まじかよ、それを早く言えよな。ったく、楓もさっさと最後まで用件を言えばいいのに。」
「は、隼人が私の話を聞いていなかったからでしょ!?な、何様のつもりですか?バーカ、もう知らない。」
楓は怒った様子で席を立ち上がり、トレーを持って俺に背中を向ける。
「え?ちょ、ちょ、ちょっと待てよ。まだ話は……って、もう遅いか。はぁ。」
俺自身分かっていた。今の対応は流石にない。ないったらない。
(後で謝りにいくか……。)
ちなみに楓と話している間、俺達は周りの視線を集めていた。結構大声を出してしまった事もあるが、1番の要因は楓だろう。あいつはみてくれはいい。俺もそこはとても評価している。
1番素晴らしいのは胸だ。何カップあるのかは流石に聞いたら殺されそうなので聞かないが、あれはFはあるなと勝手に思っている。
子供の頃はまな板だとなんやとバカにしていた時期もあったのだが、次第にバカに出来なくなり、気がついたらけしからんものが立派に成長していたのだ。実にけしからん。
「どうも素晴らしいモノを見せていただきありがとうございます。」
なんて言ったら、間違いなく殺されるだろうな。
ちなみに髪の毛は綺麗な淡いピンク色でなぜそうなっているのかは理由があったりなかったりする。笑顔もとても似合い皆が好印象を残す様な可愛い笑顔だ。
そして髪型はポニーテールで右目に泣きぼくろがある。
(そういえば、神無月さんも右目に泣きぼくろがあったな……。)
なんて事を思い出しながら今日の事を思い出す。
神無月曜。名前は聞いた事はある。父が軍のトップの一員で司令官をやっていたはずだ。そして神無月さん自身はEクラスへの配属。確か双子の弟も同じく入学しているはずなんだが、どのクラスになったのかは知らないので、思考を放棄する事にした。
しかし、あの有名な家の出がEクラスに配属とは。上が黙ってないだろうな。
(何か思惑でもあるのだろうか?)
なんて事を思っているうちに俺は楓に対して謝る事を忘れていったのであった。
俺クズやな……。
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食事を済ませて悲しく1人でいる俺は、寮の自室に戻る前に近くのコンビニによることにした。特にこれといった用事はなかったのだが、暇な事もあり寄ったのだろう。自分でも分からない。所謂なんとなく、というやつだ。
そしてコンビニに入るとまず俺に視線が集中したのが分かった。入ってくる人に視線が集まるのはよくあることなのだが、今日は一風変わった視線の色だった。なぜ?と思いつつよくよく考えてみると、自分の服装に思い至る。
(一応名門校の制服を着ているわけだから、視線を集めてもおかしい事はないのか。)
そんな事を思いつつ、注目を浴びている事にそわそわしながら店内を歩いていると、俺と同じ制服を着ている身長175cm程の男子生徒を見かけた。学校近辺のコンビニなので当たり前かと思った所で視線を棚に戻そうとして、それは起こった。
店内の入り口から2人組の強盗らしき人物が勢いよく入って来た。慌ただしい2人組は覆面マスクを被り、手には拳銃を持っていた。1人は手ぶらでなんだこいつ?と、思いつつも、俺は反射的に棚に隠れて見守る事にした。
犯人達は最初に声を荒げて脅す様に金を要求してきた。いろいろツッコミどころ満載だ。
まず、なぜコンビニなのか分からない。お金を盗めてもせいぜい数万円ってところだろう。
そして、犯行時間が昼間。なぜ、すぐ足取りがつく時間に来るのかが分からない。寧ろ何かの揺動や訓練なのではないかと思う程だ。
どうしたものかと少し困っていたら、それは来た。
いや、颯爽と現れたと言う方が正しい。
「強盗さん、そんな事はやめて自主しないかい?まだ引き返せるかもよ?」
「は?なんだこのガキ?お前死にテェのか?」
そいつは強盗の高圧的な口調や拳銃を物ともせずに話し掛けていた。それに腹を立てたのか、声を荒げる強盗。
「アニキの発火で丸焦げにされたいのか?あぁぁ!!?」
そんな大声は店内にいる女性客の短い悲鳴を誘うには十分だった。だとしても俺を含めて、そいつには一切響く事はなかった。それに寧ろ呆れを誘う程に、2人組は滑稽だった。
「俺は忠告はしたよ?武力行使はさ、嫌いじゃないけど、ねっ!!」
その瞬間。
強盗達はその男子生徒へと距離を詰めようとする足を止め、唐突に苦しみ始めた。喉元に手をあてて酸素を求めるかのように。
強盗は数10秒後、何も出来ずに床に倒れ伏した。一般人には理解出来ない一瞬の内の出来事だったかもしれないが、俺にはおおよその予想はついていた。恐らくそれは……。
「「空気の流れを制御した。」」
「君の考えている事でおおよそあっているよ、新海隼人君?」
その瞬間、俺は背筋に冷や汗が流れたのを感じた。
男子生徒は俺の近くに歩みよってくる。
「なぜ?俺の名前を?」
「うちの父さんから聞いててね。「新海隼人には注意しろ」ってね。」
「なるほど、勝手にマークされていたわけか。俺はそんなことされる事をした覚えはないんだけどな。」
「そうかい?俺は君の事について名前しか教えてもらってないから。でも姉さんにもこの事は伝わってるはずなんだけど…。」
「姉さん?てか、まずお前誰だよ?」
俺は目を細めて少し警戒するが、男子生徒は気にする素振りを見せずに話を続ける。
「あぁ、そういえば名乗ってなかったね。俺は神無月夏威。神無月曜の弟だよ、よろしくね?」
「そうか、お前が神無月家の3番目というわけか。」
「うん。俺は父さんにあんな事言われているけどさ、仲良くやれたらって思うよ。じゃ、またね〜。」
俺は店内から出て行く神無月夏威の背中を見送る。
(なんだったんだ、あいつ?約5m、いや、それ以上の可能性もある有効射程距離を見誤ると危険な相手だな。てか店員さん通報しろよっ!)
俺はそんな事を思いつつ、徐に携帯を取り出して今更通報したのであった……。