3-1 錯綜する気持ち
「ねぇ、隼人……。」
「何だ?」
「ファミレスの奢りでいいって言ったのは私だし、後悔してないけど…。そもそもここファミレスじゃないし、なんでファストフードのハンバーガー屋なの?確実に女の子を誘う場所じゃないと思うんだけど?」
「楓、ファストフードに失礼だぞ…。」
そう言って楓は不服そうに頬を膨らませて俺を睨んでくる。ジトっとした目を向けられて俺は少しだけ目を泳がせていた。
俺達は寮のロビーを出た後、ハンバーガーショップに訪れ、商品を注文する為に列に並んでいた。その間はやはり俺達は注目を浴びていた。主に男共から。
楓はやはり客観的に見ても美少女で可愛い。胸も大きく、更に髪も鮮やかな淡いピンクなのでとても周りの目を引いてしまう。
そして俺は少しだけこの状況が嫌だった。楓の事は子供の頃から知っており、付き合いも長いせいからか知らないが、楓が「そういう」視線に晒されるのが少し不快だった。
その為、俺は周りの奴らに威圧するようなオーラを出しながら、楓をずっと見てしまっていた。恐らく今の俺は怖い顔をしているのではなかろうか?
そんな俺に、普段となんら変わりのない明るい声が俺の耳に聞こえて来る。
「隼人?注文終わったから支払いしておいてね?」
「へ?お、おう……え?注文終わったの?」
俺は意識を別に向けていたので全然気付いていなかった。なので今度は逆に俺の顔は間抜け面だっただろう。
「隼人の分も頼んでおいたから安心して。」
「そ、そうか、わかった。」
楓はそう言って、左手をひらひらと手を振りながら、商品受け取りカウンターに並んでいった。
商品を受け取る間も、待ってる間もその視線は途切れる事は無かった。注文の品を受け取った俺はそんな視線から逃げる様に楓の左手を右手で掴んで、足早に2階に向かった。楓はその時戸惑いながらも俺の手を握り返してくれた。
2階の1番奥の席に座り、俺は気がついたら楓に謝っていた。それは楓に対して言いたい事があったからだ。
「ごめん、楓…俺、気がつ…。」
そして俺はそこで今言おうとしていた事を、ねっとりした…纏わり付く様な霧状の何かで覆われ、隠されてしまった事で忘れてしまう。唐突に消えてしまった感情と言葉に切なさを感じた事で吐き気を催し、思わず口に手を当てる。
「え?何何?急に謝ってきて…しかも黙っちゃうし。」
楓は頼んだジュースをちうちうと飲みながら不思議そうにこちらを見ていた。俺は先程まで楓に対して普段と違う感情を抱いていた…気がした。それが一瞬現れた気がしたと思ったが、気がついたらその感情は既に靄で覆われており、思い出す事は出来なかった。俺はその現象に思いあたるものがあった。
そして俺は結局、その大事な感情を思い出せなかった。
楓の事を「仲間以上の大切な人だと想っている」という、とてもとても大切な感情を…。
俺は結局、普段通りの状態に戻ってしまっていた。そして今日、楓を呼んだ理由を何もなかったかの様に話し始めていた。
「今日は5つの事を聞くために楓を呼んだんだ。」
「え?5つも?てか、さっきのって…ううんなんでもない。」
楓は美味しそうにハンバーガーに食らいついていたが、食べるのをやめて訊き返してくる。
(口の周りにケチャップがついてるぞ…。まぁいいか。)
俺はそんな事を指摘する事なく話を進める。
「あぁそうだ。まず1つ目に貸しの消化だ。奢りの件はこれでチャラでいいよな?」
「隼人…別に金銭面で困ってないでしょ?なら別にケチケチしなくてもいいでしょ?」
「楓…それはお前もだろ…。」
楓は嫌そうな顔をしながらそんな事を言うが、俺達は軍で稼いだお金があり、無茶使い方をしない限りは当分の間は問題なく過ごせる額は持っている。しかし俺は高校生の間、バイトをしようと考えていた。
「そんな事は置いといて2つ目だが…大崎さんの事だ。藤堂は同じ部で会うようだが俺は4日前から会っていないんだ。問題が急に悪化する事はないと思うけど、まぁ一応の確認ってやつだよ。どうなんだ、同じクラスなんだろ?藤堂から聞いた話によると。」
「うん。沙代ちゃんは私の前の席なんだけど…やっぱり本人の意思とは別に異能が発現しているみたい。日に日にその回数が増えてるわけでもないからまだ大丈夫そうだけど、やっぱり一度強制的に行使させる必要があるかも?」
「うーん、わかった。とりあえずそっちの件は楓に一任するから…頼んだ。」
「了解!任せといて♪」
楓は元気良く返事をしたが、俺は少し不安だった。
そもそも異能の使うときの感覚なのだが、簡単にいうなら自分の手足が急に3本や、4本に増える感覚だ。異能によって感じ方は千差万別だが、基本的には自分の認知出来る範囲がぼやけた感じで広くなるのをイメージして欲しい。これが強く、広くなるほど、異能自体の強度が上がる事になる。
しかしたまに大崎さんのように強度はある程度高いがまだ扱いきれずに誤作動を起こす例も珍しくはない。この壁はほとんどの実力者が乗り越えている壁であり、乗り越えるまでと、その前では雲泥の差がある。
この問題は放置しすぎると身体に悪影響がある事はすでに分かっている事だ。なので俺達は心配をしているわけである。
「3つ目なんだが、この前聞きそびれた俺達の学校の事なんだが…。」
「あー、はいはいなるほどね。本当に少しだけだから期待しないでよね?」
「わかってるよ。で実際はどうだったんだ?」
「まず1つ目に、今副校長を勤めてるのが軍の元司令部の人間って事。隼人の担任と同時期に着任したみたいだよ。外面はいいって評判みたいだけど、裏で何を企んでるまではわからなかったよ…。」
「そうか、やはり確実に裏はあるみたいだな…。」
「あともう1つ…。」
そこで周りの人を警戒するように楓はキョロキョロと周りを見渡した。
(馬鹿野郎、それじゃ今から聴かれちゃまずい話をするって言ってるもんだ。)
俺はそんな楓を止めるため、軽く頭にチョップした。
「うへっ……って、変な声出たじゃない!」
「今のは楓が悪い…。」
「と、とりあえず…話を戻すけど…ちょっとだけ学校のコンピュータにクラッキングしてみたの…。」
「は?いや、お前何してんの?」
俺は楓が言い放った言葉に動揺を隠せず、少しトゲがある言い方になってしまった。俺は少し冷静になりつつ眉を顰める。
「…足取り…掴ませてないよな?」
「うん、そこは大丈夫。発信元は海外になってるはずだし…ダミーも複数飛ばしておいたから。それとクラックしたらわかったんだけど、多重のプロテクトがかけられてた。確かに国が運営に携わっているにしても厳重過ぎると思う。いち学校にだよ?ありえないよね?」
楓は不思議そうにそう言いながら、美味しそうにハンバーガーに食らいつく。どうやら十分満足な様だ。
俺は楓から聞いて事を少しだけ頭で整理して何か切り崩す事が出来ないか思案する。
「そうだな…ちなみにクラックするにはどれくらい必要だ?」
「うーん、そうだなぁ…私が6〜7人ほどいて、バレる事が承知の上でのゴリ押しならいけるよ。」
「いや、それ不可能だろ…。」
楓はアホで抜けているところもあるが、基本的にはなんでもできちゃうマン…いや、できちゃウーマンか。
努力家だった楓にはこの技術の習得はお手の物だった。俺も多少出来るが、楓程ではない。楓で無理そうなら、俺は素直に諦めるしかない。
「それで、話は終わりか?」
「うんそだね。…私からは何もないかな…。」
楓は少し考え込むが、直ぐに返答してきた。俺はそれを確認し、話を続ける。
「なら4つ目の話だが…先の件の話だ。軍の対策の話、どうなったんだ?」
「あーうん。それはねぇ、もう大体予測はついてるよ。火薬武器とかの流れを見たらイチコロなんだよね。海外からの密輸。それを過去の犯罪データから予測すれば相手の動きはほとんどわかるんだよねー。足取り掴ませてくれるなら、お茶の子さいさいだよ。多分こうゆうのは隼人の方が得意だよ。」
「わかった。具体的な日数は?」
「おそらく…1週間以内には行動に移すと思うよ。…あ、行くならツーマンセルだからね!?」
楓は少し焦った様に俺に指を指しながらそう言ってきた。その動きが少し愛くるしくて、思わず笑みが溢れる。
「そんなに言われなくても分かってるよ…俺からは次で最後になるけど、楓は何かあるか?」
「え?私?!全然そんな事、考えてなかったな…。」
そう言うと楓は右手を顎にあて、俯いて考えて始めた。そして俺はというと、楓の胸を見ていた。ブラウス越しに見てとれる胸の弾力を想像し、目を離せないでいた。
(なんだこれは…目を離せない…だと?あれはブラックホールか何かなのか?)
そんなくだらない事を思いつつ、2つの巨星から目を離せないでいた。そんな中で楓は結論が出たのか、こっちを向いていた。
「うーん、特にないかな?今のところは。ちょっとだけ考えてみたけど、部活どうするのか聞きたいくらいかな?」
楓は首を傾げながらそんな事を訊いてきたので、俺は簡潔に答える。
「部活はバドミントンに入る予定にしてる…今のところはだけど。」
「そうなんだ……あっ、そういえば思い出した!隼人この前桃ちゃんと2人っきりで帰ってたでしょ?」
「!?……ゲホッ…ゲホッ……は、はぁ?なんでお前その事知ってんだよ!?」
俺はジュースを飲みながら話を聞いていたので、思わず驚いてむせてしまった。そもそもなぜその事を楓が知っているのかが分からなかった。確かに俺はあの時ソワソワしており、周りの警戒を怠っていた。そして見られていてもなんら不思議ではなかった。多分そこを見られていたんだろうが一応訊いておくことにした。
「なんでその事を知ってるんだ?」
「え?いやだって、そんな事言われても…見ちゃっただけだよ?て、てか、隼人は女の子と2人っきりで帰っちゃダメだよ!」
楓は少し焦った様に早口になり、だんだんと頬を朱に染めていく。
「見ちゃっただけって…。てか、なんでダメなんだ?別に楓には関係ないだろ?」
「え?い、いや、それはその…。」
楓は俺が言った事に対しての返答が直ぐに出来ないのか、目を泳がして少しだけ黙る。俺はそんな楓を訝しげに見つめつつ、ジュースに口をつける。
楓は何かを思いついたかの様にばっとこちらに顔を向けて声を少しだけ声を大にして捲し立てる。
「あ、そう!隼人が女の子と2人っきりになると襲っちゃうからダメ!」
「グフッッッッ…は、はぁ!?」
俺はそんな事を言われ、もう一度盛大にむせた。そして、周りからの視線の種類に、確実に殺意の色が混じった事を俺は察知する。
「ちょおま、なんて事言いやがる。場所を考えろよ!」
「ご、ごめん。でも、実際間違ってないよね?!?」
「そんなわけあるかアホ!なら楓はどうなんだよ?」
「え?私を狙ってるの?ちょちょちょ…マジ?」
楓は両手を太ももの間に挟みながらもじもじする。そして顔をほんのり赤くして俺をまじまじと見つめていた。
楓も俺も視線を感じて声のボリュームを下げ、ヒソヒソ話になっているが…どうやら楓はどうしても俺を虚仮にしたい様に思えて仕方がなかった。俺は「はぁ」と、ため息を吐く。
「心配して損したな。俺が今日訊きたかった5つ目は楓の様子を訊きたかったんだけど…その様子だと、問題なさそうだな…。」
「へ?私の事?」
「あぁ、昔の俺達にとって、今の生活は新しい事でいっぱいでついていけてないんじゃないかと、心配になって訊こうと思ってたんだよ。」
「私の事…心配してくれたの?」
楓は恐る恐るといった様子で俺に訊いてくる。目線はしっかりと俺に向けられていたが。
「あぁ、一応、世話にもなってるしな。」
俺がそう言うと楓は、俺から目を逸らして横を向く。楓の横顔を見ると顔と耳が赤くなっているのが見て取れた。要するに誰が見ても照れているという事だ。
(こうゆうところは可愛げがあるのにな、もったいない……。)
俺はそんな事を思いつつ、ジュースを飲み干した……。




