2-6 部活動は素晴らしい?いや、この学校も素晴らしい
次第に部活は恙無く進んでいった。こうなってしまったら運動用の服がない俺は、残念ながら黙って見届けるしかする事はない。
そして俺は部活で行われる練習風景を見るというより、ある2人をずっと見ていた。それは遠藤先輩と神無月さんだ。もちろん目の保養という下心丸出しの面もあった。神無月さんはトレーニングウェアに着替えた事もあり、普段の制服姿とまた違ったいいものがあった。体のラインも普段より分かる様になり、体の凹凸はハッキリしている。更に運動中だということもあって、普段はロングヘアーなのだが、今はポニーテールになっている。要するに可愛い。その一言に尽きる。
しかし、俺はそれだけを見ていた訳ではなかった。
走り方、スタミナ、瞬発力、体の柔らかさ、癖などといったものを見ていた。遠藤先輩は必要ないが神無月さんは必要だった。
何故なら俺は、決闘で神無月さんに完勝するつもりだからだ。技術や身体能力以外で優位をとるとするなら…情報だ。相手の事を知っているという事は、対人戦において大きなアドバンテージとなる。
(まぁ異形なるモノに対しては根底から覆るけどな…。)
そんな事を考えており、人間観察に集中していた俺は隣にいる女子がクラスメイトだという事に、気づいていなかった。
つまり何が言いたいのかというと。傍から見ると俺はただの女子をガン見する変態に見えるというわけだ。
そこで俺は横から声を掛けられる。アルトとソプラノ、その中間くらいの声の高さでとても綺麗な甘い声だった。
「新海君…だよね?」
「はっ、はいぃぃぃ?!」
「うえぇぇぇ、びっ、びっくりしたぁぁ…。」
俺は観察に集中していたのでいきなり声を掛けられて驚く。俺の反応を見て、話し掛けてきた相手も驚いた様だった。
「あ、ご、ごめん、急に大きな声出して…って、あれ…中条…さん?」
俺はその何もしなくても万人を魅了する顔は記憶にあった顔だったので、直ぐに名前が出てきた。
「うん、そうだよ!覚えていてくれていたんだ名前。嬉しいな♪」
そして中条さんはどうやら俺が名前を覚えていた事が余程嬉しかったのか、ぱっと笑顔を咲かせる。
彼女は中条桃。俺のクラスメイトだ。
髪型はボブでこげ茶色。顎のラインで髪は綺麗に切り揃えられており、制服の上からでも分かるふっくらと大きな胸。それは特別大きいわけではないが十分魅力的だった。制服も少しだけ着崩しておりネクタイは胸に乗っかる形になっていた。スカートも上げているのか、艶かしい太ももが少しだけ見えており、スラっとした足が伸びていた。口角の周辺に小さなほくろがあり、1つのチャームポイントになっていた。100人中100人が可愛いと答える、そんな誰にでも受け入れられる様な可憐さが彼女にはあった。
お喋り上手で性格もよく可愛いとなると、人気者にならないほうがおかしいだろう。実際俺が顔と名前が一致する数少ない人物であり、この入学してから1週間もしていないうちにクラスのほとんどと仲が良くなっているくらいである。
(俺には到底出来ない事だな。)
俺はそんな事を思っていた。
「あ、あの、新海君…。」
そして俺は中条さんのそんな言葉によって現実に引き戻される。
「どうしたの?」
「いや、そ、そんなに、黙って見つめられると恥ずかしいというか、テレちゃう…かな?」
俺は中条さんの事について考え込んでいたので、ずっと彼女の事を見つめる形になっていた様だ。中条さんは頬をほんのりとピンクに染めて、視線を横にやりながら髪を弄っていた。
「へ?あ、あぁ、ごめんごめん、つい考え事をしちゃって…中条さんの事を考えてたから。」
「へ?わ、私の事?し、新海君、そ、それって冗談だよね?」
(うん?なんでそんなに慌てているんだ?なんか変なこ…と……うん、言ったな…どうしよう、なんて撤回しよう。)
俺は中条さんにつぶらな目を大きく見開いた状態で見つめられ、自分の過ちに気づき、ちっぽけな頭をフル回転させてこの場を切り抜ける方法を考えた。
(あれ?まじでどうしよう。なんも思いつかねぇ!こ、ここは素直に言うのがベストか?)
「あ、いや、冗談じゃないよ。確かに中条さんの事考えてたけど、決っっっっして、やましい事なんて考えてないよ!」
(あれ?これってなんか必死になってて逆に怪しくね??やばい、しくったかも…。)
そこで中条さんは俺に再び合わせていた視線を切る。そして恥ずかしがっていた顔は急に切り替わり、笑顔にすり替わった。
「あははは、新海君…面白ーい!ごめんね、少しからかっちゃった。話してみると分かったけど新海君って面白いよね?」
「え?そ、そうかな?」
そう自白した中条さんだったが、俺に対して上目使いでそう言ってきた為、俺は大ダメージを負っていた。
(やばいやばいやばいなんだこの可愛い生き物は!?完全に殺しに来てるだろ?いい加減にしろ、こんなの…いいぞもっとやれ!)
俺はそんなふざけた事を考えていたが、彼女は実際のところ凄かった。
謝る姿勢も手を合わせて顔の近くに置き、少しだけ前かがみになり上目使いでこっちを見てくる。全ての動きに気を使い彼女自身の魅力を引き立たせ、扇情的な面持ちを加速させている。
簡単にやろうと思っても出来ないものを平然とやってのけるのは、シビレはしないが、憧れはする。これをされて落ちない男はいないだろう…。
「でもやっぱり女の子を凝視するのは勘違いされやすいから気をつけた方がいいかもね?さっきも神無月さんの事ずっと見てたよね?」
「え?あ、あぁ、そんなに前から見てたんだ。」
「うん。新海君の横顔カッコよかったよ?」
「へ?ま、マジ?」
「うん♪嘘じゃないよ?」
やはり中条さんは話しが上手い。全て中条さんの掌の上で踊らされている感覚に陥る。しかしそれを自覚している上で不快な気持ちを抱かせない事が、彼女の凄いところだろう。
(うおっっっっしゃぁぁぁあ!!カッコいいってまた言われたぞ?!本日2度目だぞ?!しかも美少女から。これは俺のモテ期到来か?ガハハ!)
※違います
しかし気分が有頂天に昇り詰めていた今の俺には中条さんのテクニックなど、どうでもよかった。
それでもよくよく冷静に考えると、愛嬌を振りまき人気者の中条さんは、男子に「カッコいい」と伝える事は、普通の事だったのかもしれない。
そして話の話題もスルッと中条さんから投げかけられる。
「新海君はバドミントン部に入る事にしたの?」
「いや、俺はまだ決めあぐねているんだ。中条さんは?」
「うーん、見てきた中だといい部活だと思うんだけど、やっぱりまだ実際にやってみないとなんとも言えないよね?私皆が着てるようなトレーニングウェアとかまだ持ってなくって、体験の輪に入りずらいんだよね。他の見ている人たちも同じだと思う。新海君も?」
そんな言葉に俺は中条さんと同じ様に、俺達の他にいる見学者を見渡す。
「…いや、俺はちょっと違うかな?確かに服は持ってないんだけど…そもそも今日は神無月さんに連れられて来たんだ。だから、用意とかしてなくてさ。」
「そうなんだ?それであの…神無月さんに?……もしかして新海君って、以外と遣り手?」
「え?」
そんな問いに、俺は思わず間抜けな声を上げる。練習風景から視線を引き戻し、中条さんに向けると、彼女はニヤニヤと楽しそうに笑っていた。そんな顔も似合っているのだから、最初は否定する事すら忘れそうになった。
「だって神無月さんと仲が良いみたいだし?神無月さんは、誰とも友達になってないみたいなの。それで唯一新海君には心を開いているのかなー?って。」
「いや、それはないよ。俺が神無月さんと最初に話した時に、友達作る気ないってハッキリ言ってたから。あとさっきも「あなたと友達になった覚えはない」って言ってたし、別に仲がいいわけじゃないよ。」
「ふーん、そうなんだ。」
そして目を細めて唇を尖らせる中条さん。それは誰から見ても疑っているのは明らかだった。
「なんか納得してなそうな顔してるよ…中条さん?」
「別にぃぃ…あ、そういえば、新海君も服持ってないんだよね?」
「うん、いつか買いに行けたらって思ってるんだけど。」
「なら明日空いてる?もし空いてるなら私と服、買いに行かない?」
「ふぁ?」
「ふぁ?」
俺は突然の誘いに変な声を出す。そんな俺の声に中条さんは目を丸くしてリピートしてきた。俺は恥ずかしい思いをしたが、中条さんを見て、とりあえず咳払いをして誤魔化した。
「明日は空いてるけど…もしかして2人で?」
「うん♪あ、もしかして嫌…だったかな?」
中条さんは瞳を少しだけ潤ませながら首を傾げて訊いてくる。
(てかこれって、デートの誘いだよな??休日に男女が2人っきりで買い物なんて…フハハ、男子の皆の衆お先に失礼するぜ!俺は一足先に大人の階段を駆け上ってやるぜ!…てか、やはりこれはモテ期到来だな!)
※違います
そして俺はとりあえず先の質問に対して返答をする。
「いやいやむしろ嬉しいよ。可愛い女の子と一緒に買い物なんて。あ、連絡先交換してもいいかな?」
そう言って俺は携帯を取り出して、それに指を指す。そうやって突拍子に行われた、俺のさりげなく連絡先交換作戦は順調に進んでいった。
「嬉しいなんて…ありがとう♪あ、このメッセージアプリのでいいよね?……はいっ!登録完了!じゃあ私から連絡するね!」
「わかった。」
「あれ?もういい時間だね?うーん一緒に帰る?新海君。」
「え?う、うんそうだね、帰ろっか?」
俺は断る理由もなく、中条さんの朗らかな笑顔に押し負けて普通にYESと答えていた。まだ部活は続いていたのだが、ずっと見ているだけなら意味もないと思い帰る事にした。
(見れたいものは見れたしな。てか、今日の俺凄くね?どうしたし急にまじで。上手い風に行き過ぎて怖くなるぐらいだな。うっ、何か今悪寒が……気のせいか。あ、神無月さん放置してきちゃった…まぁ、いいか…。)
俺は中条さんと2人っきりで帰るという事に気をとられ、ソワソワしていた事もあり、俺に向けられていた視線に気づくことが出来なかった…。
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(な、なんでぇぇぇぇえ?なんで隼人が桃ちゃんと仲良く2人で帰ってるの?え?えぇぇぇぇ???)
私―金宮楓はその瞬間を目撃してしまったのである。
(こ、今度の奢り、高いの選んでやるんだから!)
私はそんなけち臭い事を考えながら後をこそこそつけていってしまったのであった。
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私、中条桃は今、新海隼人君と一緒に寮に向かっていた。帰路についている間、視線を新海君ではない誰かからずっと向けられていたが、いつもの事なので確認すらもしなかった。
私が初めて新海君を見た時の印象は、どこにでもいるような普通の男子高校生というものだった。
そしてその印象は正しいものだった。最初は。
初めに目を見た時から私は分かってしまった。そして、話していく内に私は確信した。
彼は周りの人と同じく私を好意的な目で見てはくれていた。しかし彼の奥底からは常に私を冷めた目で見ているとも感じた。それは勘違いではない。
それでも冷めた目で見てくる人は、過去を振り返ってみると全くいない訳ではない。けど彼はそんな人達ともかなり違うように思えた。そんな彼に私は興味を持った。何故私をそんな目でみるのかと。
なぜ?
なぜ?
考えても自分1人でははっきりとした結論は出なかった。そしてそんな彼に少し興味を持ってしまったのは、「私」としては必然だったのかもしれない…。
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(あ、あっれー?俺が電車の事を話始めたら中条さん、急に黙っちゃったよ。手を顔に当てて急に真剣な顔になって…ハッ! も、もしかして、俺の話がつまらない話だからか?そ、そうだよな、電車の話なんか誰も聞きたくないよな?)
急に黙り込み始めた中条さんを見て、俺は勝手な思い込みをし、背中に大量の冷や汗をかいていた……。




