2-5 単身突撃って凄い事だよね?
(まずいまずいまずいっ!!)
俺は今、とても悩み、露骨に焦っていた。
何故なら最近は特別忙しい訳ではなかったのだが、部活動体験で初日に行ったE-sports部以外には、行く事が出来ていなかったからだ。そして最初に若干のトラウマを植え付けられた俺からすると、1人で他の部に顔を出すのも辛い状況になってしまっていた。
最初でこけたとはいえ、その後簡単に友達が出来たことによって、俺は完全に調子に乗っていたのだ。その結果がこのざまだ。時はもう既に週末を迎えており、学校の授業は平日しかないので、金曜日の今日が今週のラストチャンスだった。どうしようかと俺は1人で悩みつつ、とりあえず直ぐに帰宅が出来る様に準備をしていると、藤堂に声を掛けられる。
「今日もお疲れ様ー。あっ、僕は今日も部活に行くね。」
「おうまた明日な。」
「うん。それと…新海君も早く部活決めないと、大丈夫?」
「あぁ大丈夫だ。心配するな。多分なんとかなるよ…多分…。」
俺は目線を落とし、あまり自信を持てなかった事で歯切れが悪くなってしまった。だが藤堂はそんな事に気にする素振りも見せる事なく、俺は藤堂との別れの挨拶をして俺は1人になってしまう。そして俺は分かっていながらも故意的に無視していた視線に向き合う。
「俺に何か用かな、神無月さん?」
「えぇ、ありありね。」
今日の放課後になってから、ずっとこっちを見ていたのは神無月さんだった。ずっと見ていただけもあり、藤堂も気づいたのか思わず苦笑いをしていた程だ。俺は神無月さんの顔を見ると、無表情ながらもじと目で見られていることに気づき、若干そそられるものがあった。
(これが美少女パワーか。なんでも様になるな…。)
そんなくだらないことを考えていると、口角が自然と上がりそうになるので、俺は自身の右手で口を押さえつけた。
「…何やってるの?」
「い、いや、気にしないでください。どうぞ話を続けて…。」
神無月さんは首を傾げ、訝しげに俺を見ながら話を続けた。
「あなたいつになったら連絡してくるの?そもそも連絡する気…あるの?」
「え?あ、当たり前じゃないか、ははは。確かに俺は連絡するって言ったけど、日時は俺が決める事に了承してくれたよね?それに俺、部活動体験で忙しいし。」
俺は一度乾いた笑い声を上げた後、矢継ぎ早にそう告げると神無月さんも俺な釣られたのか早口になり、矢継ぎ早に話を進める。
「確かにそうだけど…私としては早めがいいの。だから早めに連絡出来ないかしら?そして…あなた今嘘をついたでしょ。部活動体験で忙しいと言ったけど、あなたいつも直ぐに帰ってるじゃない。」
神無月さんはなんで俺の行動を知っているのか少し不思議だったが、言い当てられたのは事実なので、俺は少しだけ動揺する。俺は表情をわざとコロコロ変えているのだが、神無月さんは表情を一切変えずに話す。そしてその姿はとても凛としている。
「いやいや嘘じゃないよ!俺も部活動体験に行きたいけど、1人で行く勇気がなくって困ってたんだよね!うんうん、とりあえず入部しようと思う部活が決まらないと決闘なんか無理だね。うん。」
「は、はぁ?あなた……まぁ、いいわ。そんなに困ってるなら、私が仮入部してる部に来る?」
「へ、いいの?てかどこの部活なの?」
「バドミントン部よ。」
そう端的に言って、何故か俺に舞い降りてきたチャンス。これはものにするしか俺の道は切り開かれない。そしてさりげなく神無月さんがバドミントン部なのは意外だった。
俺は神無月さんの外見で、茶道部あたりではないかと独断と偏見で勝手そう考えていたのだが、失礼だったな。と少し反省。そしてそんな俺の考えを読んだかの様に放たれる言葉。
「茶道部や、書道部とかに入ってそうとか思ったでしょ?」
俺はその問いに黙って頷く。そして少しため息を吐く神無月さん。恐らく周りからも同じイメージを抱かれており、このやりとりは既に何度も繰り返されているのだろう。
「で結局、行くの?行かないの?どっちなの?」
「あ、行きます行きます。寧ろこっちからお願いします。」
急かす様な神無月さんに俺は肯定を示した後、俺は自分の荷物を持ち、俺の返答を聞いて一足先に歩き出していた神無月さんに、追いつくように小走りでついていった……。
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この学校は全国屈指の学校ともあり、まず敷地面積と共に全ての施設が大きく、数が多い。そのため男女混合の部とはいえ、体育館一つを貸し切りで使っていた。
俺は運動用の服装を生憎今日は持ってきていなかったので、参加せずに見守るかたちとなった。そして神無月さんは「着替えてくるわ。」と、言い残して俺は1人になった。そんな悲しく、暫くポツンと1人で佇んでいた俺に、隣から明るい元気な声で話し掛けられた。
「こんにちは!」
俺はそんな声を聞いて、体全体を左横に向かせた。
「君、曜ちゃんと一緒に来てたけど…彼氏?」
「え?えぇ、うーん、はい。」
(ん?ちょっと待て…俺今なんて言った?)
俺は今、自分の内なる願望から変な事を言った気がするが…とりあえずどうしようかと頭を悩ませていると、俺の背後から後頭部に軽くチョップされた。全く痛くなかったのは、本人なりの優しさだろう。
「何を言ってるの新海君?ねぇ馬鹿なの?私はあなたの彼氏…ましてや友達にすらなった覚えはないわ。」
「今の会話、聞こえていたのか?」
「えぇ、私耳が少しだけ良いから。」
相変わらずの無表情でそう言った神無月さん。確かに小さい声ではなかったが…俺達が会話している時、神無月さんは見当たらなかった。部活動もまだ始まっておらず静かな方だが、会話はそこらじゅうで行われている。そんな中、俺たちの会話を聞き取るのは困難を極めるはず。
俺はそれを可能にするものに少し心当たりがあったが、今は関係ないと思い、結局思考を放棄した。
「あと奈々華先輩。からかうのもやめてください。新海君、直ぐに調子に乗るので。」
そんな咎める様に神無月さんに注意され、奈々華先輩と呼ばれた女性は、魅力的な笑顔で笑いながら謝ってきた。
「あはは…ごっめーん!この子結構カッコ良かったからぁ、少しつついてやろうと思ったの。もうしないから!」
(ん?今なんて?俺がカッコいいだって? っっっっっ、シャァァァァァァアア!!)
俺は奈々華先輩が言った事を聞き逃さず、心の中で盛大にガッツポーズした。いかんいかん、話に戻らねば。
「神無月さん、この人は?」
「遠藤奈々華先輩。私達の1つ上の学年ね。」
「よろしくお願いします!あ、俺は新海隼人っていいます。」
俺が先輩だと分かり、直ぐに自己紹介をすると遠藤先輩は朗らかに笑いながら、右手でVサインをして答えてくれた。年上だからか知らないがその朗らかな笑顔には惹きつけられる何かがあった。
(うーむ素晴らしい。やはりこの学校は可愛い人が多いな。)
俺はそんな事を思いつつ、改めて遠藤先輩の容姿を舐め回す様に見つめてしまう。
髪の色は少し茶色よりで、その綺麗な髪は、アップの髪型にまとめあげられていた。クリクリとした瞳も大きく、鼻も整ってツンとしており、平均よりやや高い。肌も透き通る様な白さと美しさで、ぷるっとしたピンク色の唇も蠱惑的に俺の目には映った。総じて笑顔が似合う大人の女性…いや、悪戯好きなお姉さんかな?という感じがした。
そして、胸。おっ…胸は楓とためをはっていた。体を動かすだけで、その豊満な果実はゆさゆさと揺れる。服越しに分かるその弾力と形。これが年上の女性の持つものかと感心し、比較するかの様に隣を見そうになってしまったが、俺は直ぐに首を前に戻した。どうやらバレていないようなのでセーフだ。
「新海隼人…なら、隼人君だね!それにしても…。」
そう言って遠藤先輩は黙って俺と神無月さんを交互に見ていた。新しい玩具を見つけた子供の様に、それはそれは楽しそうにニヤニヤしながら。するとそこで少しだけ渋い男の人の声が聞こえてくる。
「おい奈々華!何やってんだお前!遊んでないで早く準備しろ。」
「えぇ〜?遊んでないよひろきち。私はねぇ立派に新入部員の確保に…って、引っ張らないでよぉ!?!」
「どうせお前のことだから、1年弄って遊んでたんだろ!いいから黙って働けバカ。」
そんなやりとりを経て、遠藤先輩はずるずると引きずられながら強制退場させられた。どうやらあの人には遠藤先輩の悪戯は通用しないようだ。俺はあれが誰なのか気になり神無月さんに訊いてみる。
「今のは?」
「鷲川博隆先輩。」
「苦労してそうだね…。」
「そうね…。」
(鷲川先輩頑張ってください…。)
そうして俺達は他人事のように遠くを見つめていたのであった……。




