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16-1 それは君の願い

ここでは小説4巻目に突入したとして書いています。

作者本人が勝手に、そうしているだけなので、

気にせず読んでいただけたら幸いです。


ガラリと話の本筋が変わるわけではないので、

何の心配も必要ありません。

 俺は今、病室のある一室の扉の前に佇んでいた。

 そして何となくここに至る経緯を思い出す。それは入室を躊躇っている証拠。俺の心の弱さからくる、一種の迷いだったのだろう……。


――――――――――――――――――――――――――――


 俺が意識を失った約3時間後に、千鳥戦闘演習場の隣に併設されている病院の一室で目を覚ました後、軽い診察を受けた。そして浜田(はまだ)先生に軽いカウンセリングを受け(元々保険の先生と、生徒のメンタルケアを並行して行っている為)、試験の結末やペアの(はやし)さんの容態を教えてもらい、更にある少女がいるはずの病室の場所を訊いたのだった……。


――――――――――――――――――――――――――――


 そこで俺は意識を過去から現在に引き戻す。消毒液の匂いが微かに漂う中、俺はなんとなくノックする事を再び躊躇っていた。特に意味のない足踏みの後、深呼吸をしてから意識を切り替える。

 そして俺はやっとの事で眼前の病室の扉を2度ノックする。「コンコン」と軽快な音を立てた後、中から聞こえてきた聴き慣れた少女の声で、「どうぞ」と返答された事で、俺は扉をゆっくりと横にスライドさせた。


「やっぱり新海(しんかい)君ですか……。」

 その少女―春雨(はるさめ)さんは俺の顔を見て、はにかんでいた。それに俺がここにくるのはお見通しだったみたいだ。

 そして何処か無理をしながら、俺へ後ろめたさを感じている事は、少しぎこちない笑顔と無理に平常を装った声音で直ぐに伝わってきた。

 だから俺は、無意識に名前を紡いでいた。


「春雨さん……。」

「ふふっ、それだけじゃ分かんないですよ……。あ、とりあえずここ、座ってください。」

 そう言って再びはにかみ、一度目を伏せた後、春雨さんは病室に配備してある丸椅子に指を指していた。俺はずっと入り口付近に立っているのも変だったので、大人しく春雨さんが横になるベットの隣に座る。

 それを確認したのか、春雨さんが正面の壁を見つめながら、話の続きを自ら進める。それは俺へ、そして皆への懺悔をする様にも見てとれた。


「新海君が心配しているのは、この怪我の事ですか?」

 春雨さんはそう言って、擦り傷を負ったと思われる右腕を見せてくる。既に治療は済んでいるのか、損傷部はガーゼで覆われて見えている訳ではなかったが。

 そこで俺がどんな表情をし、どんな言葉を掛ければいいのか迷っていると、春雨さんは俺と目を合わせる事なく首を横に振る。


「いえ、違いますよね。確かに新海君は優しいですから勿論怪我の心配もしてくれていると思いますけど、今、聞きたいのは、そんな事ではないですよね。」

 そして春雨さんは俺がここを訪れた理由を分かっているのか、古ぼけた青いヘアピンに手を添えていた。


「抑える事は出来たんです、何度も。そう、何度も。このヘアピンに触れれば優しい暖かさで包んでくれて、私に何度も勇気を与えてくれました。私は上手に異能を扱えている気がしたんです。」

「それでもあの時は、いつもより異能が強く発現した。」

「っ、やっぱり新海君には全てお見通しですね。……私は勘違いをしていたんです。異能を上手く扱えていると、自分は他人に、自分の為に、危害を加える為に異能を使っても平気なんだと。」

 そう言って敢えて責める言葉を選んだであろう春雨さんは窓の外を見る。春雨さんは、数時間前程まで戦場の場になっていた戦闘演習場を、感慨深い様に見詰めていた。そんな俺達に、窓越しに西日が差し込んでくる。

 日差しに照らされた春雨さんの横顔は何処か儚く、俺は思わず目を奪われていた。

 それでも俺の口はしっかりと動かさなければならない。それが俺と彼女の為だから。


「あれは春雨さんのせいじゃない。恐らく外的要因による故意的な妨害だ。君は本当に上手く制御出来てた。」

「それって、強化異能(ブースター)による妨害ですか?」

「……あぁ。それも犯人の目星はおおよそついてる。」

「それでも、異能を制御出来なかったのは未熟な私です。浅間(あさま)君にびっくりして心を乱したのも、事実です。寧ろ異能を強化してもらっているので、反則ですよ。それに別にあの事をもう引きずっていませんよ。一度は取り乱しましたけど、もう大丈夫です。」

 それを聞いて俺は春雨さんの手をじっと見詰めていた。震える事なく、ギュッと握られている両手。熱が篭った拳を見ていると、俺がお節介を焼いている気分になってしまう。

 俺は春雨さんの為になる事を言えないかと思い、必死に言葉を厳選する。人を動かそうとして選んだ言葉など、きっと空っぽだというのに。

 そんな情けない俺とは違い、春雨さんは少し迷いがなくなった様に先に話し掛けてくる。


「新海君、私は既にあなたから色々貰っています。後は私が結果を残すだけなんです。あんな事が起きて黙って見ていて欲しいなんて、説得力がないかもしれないですけど、見ていてください。そうじゃないと、私はあなたの隣で胸を張って歩けません。

 私、自分の足で、この世界をあなたと渡り歩きたいんです。」

 そうやって決意を宿してはいるが、弱々しい瞳で俺を見つめ、俺がやっとのことで紡ごうとしていた言葉は、繰り出される前に一蹴される。

 そこで病室に響き渡るノック音。優しく2度、「コンコン」と鳴らされたノックに、俺が扉の方向に視線を向けていると、春雨さんは俺の時と同様に、来訪者を招き入れた。

 その来訪者は、試験でずぶ濡れになって病衣に着替えている俺達2人とは違い、試験で着用していたと思われる体操服のままだった。


「あら、新海君。」

神無月(かんなづき)さん……。」「(よう)ちゃん……。」

 俺と春雨さんは、来訪者の姿が見えた瞬間、同時にその人物の名前を呟いていた。その声に反応する様に神無月さんは、ぎこちなくニコリと笑っていた。


「2人とも意外と元気そうね。」

 そう言って神無月さんは、自然に丸椅子を用意して俺の隣に座る。神無月さんが普段の無表情ではなく、彼女なりに精一杯の笑顔だったのは、春雨さんを安心させる為だったのだろう。

 不器用でも簡単に伝わる暖かい行動を目にした春雨さんは一度はにかんで、頭をすっと下げる。


「曜ちゃん、ごめんなさい。」

「なんで謝るの?試験で私を倒した事なら、別に気にする事ではないわ。」

 一度会釈した春雨さんに驚いたのか、神無月さんは目を白黒させながらも、落ち着いた対応していた。神無月さんがここを訪れたのは、俺と同じ理由なのだろうか?


「試験で少しだけ異能を失敗しただけじゃない。あれで出た怪我人もゼロ。別に誰も気にして無いわよ。」

 そう言って神無月さんは徐に春雨さんの右手を握る。優しく包み込む様にして握られたその手は、春雨さんの強がっている心を溶かしている様にも見えた。

 そして神無月さんは誰から聞いたのかは分からないが、恐らく俺と同様に浜田先生から訊き出したのか、試験後半の様子は知っているみたいだった。


「曜ちゃん、私はもう大丈夫です。新海君にも言いましたけど、もう引きずっていませんから。」

 そんな春雨さんの一言。それを聞いた神無月さんは、黙って春雨さんを見つめていた俺に、じっと視線を向けてくる。その表情を読み取ると、「出て行ってくれるかしら?」と、言われている気がした。どうやら何も出来ない木偶の坊の出番はここで終わりらしい。

 そこで俺は素直にそれに従う事にして、黙って立ち上がる。俺が何か伝えると春雨さんの更なるプレッシャーになる気がして、俺が伝えたい思いを封殺して、何も言う事なく部屋を退室する事にした。


「新海君、もう行くんですか?」

 そんな質問に俺は黙ってコクリと頷く。そして直ぐにクルリと2人に背を向けて歩き始める。


「あ、これ、新海君、返そうと思って。」

 しかし俺は立ち止まらない。恐らくヘアピンを返そうとしたのだろうが、あれは彼女に必要だろう。それに俺の事も考えると返してもらうつもりも、元からなかった。

 そして扉を横にスライドさせ、部屋を後にする。俺は少しだけ部屋の前に立ち、聞き耳を立てる。

 数10秒程経過したあたりで春雨さんと思われる声が微かに響いてくる。「曜ぢゃぁぁぁん……。」と、泣き叫んでいる様な声。俺とは別角度から春雨さんの心へとアプローチしてくれる神無月さんには感謝しかない。俺は神無月さんがあそこまで春雨さんを想ってくれる様になるとは予想していなかった。

 そして俺は、春雨さんの手助けになれているのか心配になってくる。俺の前では強がり、弱みを見せてくれなかった。それは俺へ、言葉通りに成長した姿を見せたかったのかもしれない。俺は少し弱気になりながらもそう考えるしかなかった。

 俺は止めていた足を再び動かして、春雨さんの病室の前を後にする。今の俺に出来るのは、外野の排除だけだ。

 そんなちっぽけな存在な俺は、上手く力になれない事に歯軋りをした後、()へ協力を申し込んだ……。

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