表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/216

15-4 鋭く砥がれた牙!

「おい、なんか降ってきそうじゃないか?」

 そんな唐突に漏らした立花(たちばな)の声を拾い、下の様子をじっと見ていた俺と浅間(あさま)は空を見上げる。

 今日は晴天の青空の下、試験は開始されていたはず。天気予報でも降水確率は0%だった。そもそも雲は異能で消す事が可能なので、()()が自然現象ではない事が直ぐに分かった。

 俺達は異能の副産物によって誕生したと思われる大きな(それ)を、黙って見上げていた。眼下では靄が常に発生し、それを吹き飛ばすように旋風が幾度となく舞い上がり、直線的な電撃が空中を目を見張る速度で(ほとばし)る。

 俺はそこで数分程で雲を作り出したと思われる人物の顔が脳裏を()ぎる。

 そして立花は雲が発生した原因を理解していた様だが、浅間は全く理解出来ていないのか、不思議そうに雲を見つめ、首を傾げていた。


「立花、これ、勝てるぞ。」

「何?」

 俺が思わずそう呟くと、「それは本当か?」と、問いただすかの様に俺を睨んでくる立花。そこで俺は肯定を示す為に頷く。

 偶然、いや、もしかしたら竜星(りゅうせい)はこれを狙っていたのかもしれない、雲の生成を。いや、偶々か。これは竜星にとってメリットにはなり得ないのだから。

 そしてこれは、恐らく竜星1人ではなし得ない事を、風を巻き起こす人物が加わる事で引き起こされる自然現象。冷たい空気は必ず重くなり、下に溜まってしまう。そう、竜星が放つ冷気によって靄は下に溜まるだけだが、それを鬱陶しく思った石川(いしかわ)が、上空へと巻き上げる風を何度も起こせば(そもそも冷気を放置し過ぎると凍傷や低体温症を引き起こす為、正しい判断)、それは上昇気流によってどんどん空に舞い上がり、雲が生成される。元々5月初めと晴天の日とはいえ、永遠とそれを繰り返されればものの数分で雲を作る事は容易いはず。

 そして雨がそろそろ降り出すのは容易に想像もついた。俺はそこでまさに天から降ってきた勝ちの目に、身体を震わせる。


「雲?いや雨か?つまり、状態変化、か?その上でガラス……。」

 俺が雨、すなわち大量の水を使う戦法を巡らせていると、立花が手を口元に当てながらブツブツと呟く。


「おい、ガラスは固体と勘違いされやすいが、確か液体、だったよな?」

「そうだな。」

「ケッ、騙されたぜ。そんな使い方ありかよ。」

「そうか?立花の異能の方がもっと面白そうだがな?」

 俺は立花の俺の異能についての追求を半ば肯定するように話を進めて、更に単純な好奇心を持った言葉を投げ掛ける。それを立花は面白そうに鼻で笑う。

 そして猛獣の様な獰猛な笑みを浮かべる。


「俺の異能は原理がバレ難い上に、強力で扱いやすい。対策もされ難いしな。新海(しんかい)、お前ならどう対処する?」

「おいおい、今は仲間だろ?」

「ハッ、そんなの関係ねぇ。下の奴らを全員ボコしてからやり合えばいい。」

 そこで俺は黙ってガラス板を降下させる。立花が何か不満を漏らしていたが、俺は無表情のままそれを聞き流す。浅間が必死に宥めてくれたおかげで、とりあえず矛を収めたのか、黙って空を見上げていた。

 そして、予想通りに小雨ながらも降り出す雨。その俺からすれば天の恵みによって俺は戦況が一変する事を察知していた。

 そこで俺達が地表に舞い降りた時には雨の勢いは増し、地面にも既に水溜りが出来ていた。

 そして俺は徐々に掌握した水の量を増やしていく。情報強化を行わなければ、瞬く間に液体は個体へと変えられてしまう可能性がある。それでも防ぐ事が出来ないのなら、また考えておいた別のプランに移行するだけだ。

 そして降る雨があられに変わる。干渉力の関係上、離れれば離れる程、液体が混じる嫌なあられだった。そしてその境界(ライン)を超える事が戦闘開始の合図。

 冷気が肌を撫で続け、視界が狭まり、体温の低下が始まる。そんな単純な事でも、戦闘の時間制限が課せられるだけで、自由な動きが出来なくなる。そして時おり吹き抜ける旋風は、体感気温の低下に更に拍車を掛ける。

 俺達は迅速な戦闘の終結を目指し、単独で駆ける。

 そして眼前で行われている戦闘に混じる形で俺は躍りかかる。高速で動きながらも、忍び寄る様に近づいた俺に気づいた石川(いしかわ)に向けて、まずは単純な掌底打ちを放つ。遠距離での撃ち合いをしていた石川は俺の存在に気付きつつも、対応は出来なかった。なのでものの見事に胸部に命中して、石川は苦悶の声を上げながら尻もちをつく。ここまで簡単に倒れてくれるのなら、初撃からスタンバトンを使いたかったが、そうもいかないのが厄介なとこだった。

 そこで視界の悪い中でも仲間の異変に気づいたのか、すかさず電撃でのカバーが入る。「バチィ」と普段よりも高出力の様に電流が迸る事になったのは、異能を使用した中条(なかじょう)さんが焦っていたからだろうと、自己完結する。

 そこで俺は亜音速程の電撃を容易く身を屈めて回避する。いかに早い攻撃でも、直線的で単調かつ、単発の攻撃が俺にあたるはずもない。

 そして回避した俺に、更に靄の向こうから何かが飛んでくる。空気でもない何かがゆらゆらとこちらに向かってくる。ゆらゆらと言っても、十二分な速度で俺に飛来する。直感的にヤバいと理解して回避しようとするが、視界の端で捉えた人物を信頼して石川へと意識を向ける。

 浅間の異能はいつも無音で使用される為、結果どうなったのかは石川へと目を向けていた俺には分からなかったが、恐らく上手く対処してくれたのだろう。

 そして荒れ狂う大量の液体を制御しつつ、俺は右フックを石川の顔面に放つ。凍結した地面をものともしない俺の踏み込みによって、やっと立ち上がった彼我との距離を詰め、俺は拳を振りかざす。


新海(しんかい)いぃぃぃ!!」

 そんな断末魔?の様な雄叫びを上げる石川。俺はそんな石川に気圧される事なく、無慈悲に拳を振り抜く。痛快な打撃音と共に俺の拳に人の感触が伝わってくる。石川の決死の反撃である右ストレートも体を半身ずらして回避した俺は、大海に石川を放り投げる。放り投げると言っても、殴られた反動で仰け反らせて、そのまま大量の液体に呑まれる形となる。

 激しい水流を発生させている俺の制御下にある球体の液体は、石川の体をあっさりと陥落させる程の威力を秘めていた。

 息の出来ない中、超高速で激流に全身を打ち続けられ、三半規管を酷使させ続ける。酸素を奪い、体力、平衡感覚を奪う。それから逃れる事が出来なかった石川はあっさりと地面に倒れ伏す。ビシャビシャになった体は端から既にほんの少しだが、凍結が始まっていた。俺はせめてもの情けで、ガラス玉を制御して、石川の体を竜星の異能?の射程距離外へと運んでおく事にした。

 それと同時に思考を働かせていた俺は、1人の少女の接近に気付いており、体は一気に3倍近くの体重に変化したと錯覚する。そして目を見張る程高速で俺に接近し、スタンバトンを繰り出してくる、決意の炎を煌々と燃やした1人の少女がいた。

 ちらりと覗かせる古ぼけた青いヘアピン。そこに一度だけ意識を向けて、対処に取り掛かる。春雨(はるさめ)さんは俺が教えた秘策(自身の放つ圧力を増幅させる)を使用しているので、圧倒的に早く動いている様に見える。

 自身の放つ圧力、つまり気迫は相手圧倒させ、間接的に思考速度を削り取る。春雨さんの速度に変化は生じる事はないが、気迫を間に受けた相手からすると、実質的に数倍の速度で動いている様に見える。そんなただ単純な事だが、強力無比でもある。

 自身の身体能力が向上し、普段の感覚が損なわれる訳でもなく、ただ自身に向けて異能を使用するだけ。それだけのはずなので扱いも簡単で、春雨さんが短期間でそれを習得するのは、他に比べれば容易だった。

 そしてそれが今、俺に鋭い牙となって襲い掛かる。春雨さんの戦闘技術はお世辞にも高いものとは言えない。しかし俺は今、普段の3倍程の足枷(体重)になっている体を無理矢理動かし、普段の2倍程の速さまでに加速された春雨さんの動きも相まって、圧倒的な速度での撃ち合いを仕掛けられる。

 俺は鈍る思考の中で必死に体へと命令を下し続ける。右左右左右と春雨さんから繰り出される拙い突きのスタンバトンを、俺は忙しなくいなす様に振り抜き続ける。じりじりと俺が後退していく中、パワーではやや俺が優っているので、春雨さんも決定打を打てずに焦っているのか、眉を顰めていた。

 そして俺が春雨さんの気迫にやっと順応し始め、異能の精密な制御権を取り戻した事に安堵した束の間、俺の左隣から浅間が飛び出す。完全に意識が俺だけに向いた瞬間を狙っての突貫。春雨さんは突如現れた俺の影に隠れていた人物の存在に驚き、目を瞑ってしまった。可愛い顔をしながらも、中々良い攻めを披露する浅間が、拳を振り抜こうとした瞬間。

 その場に強力な圧力が掛かる。

 刹那にしてその場を支配する鈍重な空気。

 張り詰めた空気と強者が異能を使用した際に出る、特有の圧迫感も共に存在していた。

 しかしそれは実際には気のせいであり、ただ皆に掛かる重量が跳ね上がっただけだった。地球の中心へと引っ張る力は増大し、実質的に重力としてそれは襲い掛かる。それの対象として浅間は勿論、立花も。そして、その立花と少し離れた場所で戦っていた仲間であるはずの中条さんと三神(みかみ)も、全て異能の対象になって、体が唐突に鉛で出来たかの様な錯覚を伴いながら強制的に体の自由を奪われる。

 そしてその光景は、靄がいつの間にか晴れていた事もあり、俺と春雨さんの視界にしっかりと捉えられていた。俺は辛うじて自身の足で立つ事に成功していたが、歩く事はほぼ不可能だった。

 そして苦しそうに悶えながら地面を這い蹲る4人。もれなく地面との完全な接触を果たし、一切の動きを取れない浅間が春雨さんの至近距離で「ぐぁぁ…。」と、苦悶の声を上げる。まさに「ミシミシ」と体が悲鳴を上げているのが聞こえてきそうな程に圧迫され、今にも押し潰されそうだった。

 春雨さんはその惨状を見て明らかに動揺し、更に異能を暴発させている事は誰の目から見ても明らかだった。それでも明らかに普段の干渉力より格段に跳ね上がっている事は、その場では本人を除き、俺にしか分からなかっただろう。それは本人の()()の力だったのか、外的要因なのかは直ぐには分からなかったが、俺はすかさず異能を使用していた。皆の体も心配だったが、それよりも俺もまずい状況だった。

 それは地面にうつ伏せになれば解決する事なのだが、そうもいかない。今俺が倒れる情景を彼女の瞳に映してしまうのは、完全に心が折れてしまう事だろうから。俺は脳に回る血液が格段に減少して、意識を朦朧とさせ、異能の精密さが拙くなりながらも激流と化した液体で春雨さんを彼方に運ぶ。

 残念ながら加減する程の余裕は、俺にはなかったので、荒波に揉まれ空中を移動し、勢いよく地面へと放り出されれば、恐慌状態で受け身すらとれなそうな状態の春雨さんには怪我をさせてしまったかもしれない。

 そんな事を心配しつつ、そこで体の枷が外れる。俺は春雨さんの射程距離外まで体を運べた事に安堵して、ガクリと膝をつく。血が勢いよく流れ出し、痺れと共に痛みが走る。俺は頭の中を針で刺され、かき混ぜられる鈍痛を感じ、吐き気を催しながらも、苦悶の声は完全に封殺する。

 そして俺の耳に届くグループ全滅の報告。どこのグループが全滅したのかは聞き取る事が出来なかったが、俺に向けて接近する誰かの存在を()が検知していた。

 ピンク色の尾びれを残像として残しながら、轟音を轟かせながら走る彗星。それは何度もこけたような擦り傷を全身に作り、服装も黒く汚れ、乱れていた。()は言う事を聞いてくれない体に、鞭を打って無理矢理構えをとる。

 そして容赦なく突かれるスタンバトン。それは顔を右にずらして回避。左足の蹴りは勢いづく前に蹴りで止める。左拳の3連撃は全て弾く様に止め、斜めから振り下ろすスタンバトンはステップで回避。そしてすかさず反撃の蹴り。腹部へと繰り出した右足は、いとも簡単に(かえで)の左手に受け止められる。そこで俺の足はピクリとも動かす事が出来なくなる。

 そして俺の足に向けられる電撃。

 そこで俺は既に伸ばしていた左腕で、楓の右手首を掴む事に成功する。俺の左腕は膂力の限りを尽くしてその迫りくる脅威を引き剥がそうと力を込める。それでも圧倒的なパワーの元、確実に距離は詰められていく。放電は既に行われており、何度もバチバチと耳障りな不快な音は耳に届いていた。

 そして先程まであられを降らせていた原因を作った竜星(りゅうせい)は恐らく既に倒されてしまったのか、降る雨は、あられから結構な土砂降りに早変わりしていた。それでも俺の射程距離内ではある意味雨は降る事はなかったが。雲の出来た原因が原因なので、ゲリラ豪雨と呼ぶべき恵みの雨が降り止む前に決着をつけたい。

 そして俺は足に電撃が放たれる直前で制御させていた激流を水の砲弾として楓の顔に放つ。荒れ狂う激流を食らう直前、楓は流石にたまらずといった様に俺から距離をとる。呼吸が出来なくなる上に、かなりの衝撃を食らい、視界の確保もままならない中で戦うのは愚作過ぎるので、距離をとるその動きは当たり前ではあった。

 そして楓との戦闘では全ての行動が1秒にも満たない。今の異能も1秒以内に間に合わせていて、それですらギリギリだったのだ。

 俺は更に気を引き締め、一度(俺の射程距離約30m以上)距離を取ろうとする楓に既に液体を追従させていた。それでも楓の方が動く速度としては速いので、追いつく事はない。だから俺も距離を詰めて、全方位から囲う様に襲い掛かる。

 そして俺はそこで思わぬ伏兵の登場に気づくのが遅れた。俺は楓だけに意識を向け、他への周囲への警戒を怠っていた訳ではない。寧ろ注視していた。それなのに俺の索敵範囲内のはずのビル影から、堂々と姿を現されては、一瞬俺の思考は停止する。

 一種のイレギュラー的存在は、既に俺との距離を30cm以内に詰めていた。この距離に詰められるまで、俺の()はこの子から発せられる音と匂いを知覚出来ていなかった。

 そして完全に走りの形態に移行していた俺はそこから無理矢理にでも対象する事は不可能だと、一瞬停止した頭脳をフル回転させ判断し、身を捻るのではなく、駆け抜ける事を選択した。

 しかしそれでも流石に間に合わず、俺はもろに脇腹へと直撃を許してしまう。凄まじい速さで全身を駆け巡る電流によって俺の筋繊維は硬直し、地面へと投げ出される。全身が石の様に動かなくなってしまえば、走る体勢だった俺が、一芸をしたかの様に面白い程に無様に地面を転がってしまうのは仕方ないない事だった。

 微かに俺の耳に届いた「あ、ご、ごめんなさいぃぃ!」という叫び?は、彼女―大崎(おおさき)さんらしいと言えば、らしかった。そして残念ながら俺はそこで呆気なく意識を手放してしまった。

 更に俺が意識を失ってから約2分後、試験の終了の合図が鳴り響いたらしいが、俺の耳には届く事はなかった。

 そして意識を失い、倒れ伏す俺。それでも()は、暗い闇の中で、確実に状況を把握していた。その暗い闇を暗示するかの様に……。

15章の最終話になります。

小説3巻目を意識したお話になるので、話はここでひと段落つきます。作者の自己満足なのでこれは気にしなくても問題ないです。

話はまだまだ続きますので、次回の16章1話もどうぞよろしくお願いします。


更新報告はTwitterで行っておりますので、そちらで確認していただけたら、幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ