15-1 最終戦①
試験も2時間半が経過し、この広大な施設内で見かける生徒はほぼ皆無に等しい程になっていた。それは長く感じられたこの試験の終わりの兆しでもあった。
しかし、それでも残りのグループ数は8。かなりの人数が減ったにも関わらず、グループ数の変動はあまり見せていない。戦闘拒否の−ポイントを背負ってもグループ順位を上げる方が結果的に+ポイントになりやすい。そんな事を百も承知な皆の作戦が一致するのは当然の様に思えた。
そしてぐるりと一周する事でスタート地点に舞い戻って来ていた俺と林さんの耳に、待ちに待った報告が届く。
「グループ15、全滅。残りグループ数、7。」
そんな平先生による8回目の戦況報告となれば、俺達からしてみれば既に聞き慣れた声になっていた。
そして暫定順位が7位以上が確定したので、グループとしての役割は果たしたと勝手に見なした俺と林さんは、すっと立ち上がる。
「さて、人狩り行きますか!」
「え、新海君ってそんな昔のゲームしてたんですか?」
そんな林さんの質問に俺は何を言っているのか理解出来ずに首を傾げる。俺が本当に何を言っているのか分からない事が、声に出さなくても林さんには伝わったのか「忘れてください。」と、短く告げられた。
そこで本日何度目かを数えるのすらやめた移動方法を使い、グループ数減らしに俺達は打って出る。林さんも手慣れた様にガラス板に乗る。
そこで俺は1時間半程前の事を再び思い出した。林さんの隠していた本音、いや、少し見えかけていた弱さを露呈した一件は、林さんの手によって自ら閉じられる結果で幕を下ろした。
今でもにこやかに笑っているが、やはりそれは無理をしての笑顔なのではないかと、どうしても疑ってしまう。俺達の間に刻まれた小さな傷跡は修復されるのだろうか。俺は少なくともそれを望んでいる。
そしてほんの数分程、廃墟ビルエリアを空中徘徊していた俺達は林さんの合図と共に急降下をしていた。目的は高さ約16m程の5回建のビルだ。意外と近くに身を潜めていた事で簡単に見つける事が出来た。とりあえず俺達は、現状課せられているはずの−10ポイントの分をキルポイントで補わなければならない。
そこで俺達はビル内部へと侵入する。5階の窓から直接。そして異能の射程圏内に入った瞬間に、ビルの窓を制御して俺達が通れる大きさを確保したのだ。そもそもの窓サッシの問題で身を屈めた状態で俺がギリギリ通れるくらいだったので、スレスレアトラクションを体験した林さんには再び怒られる事になった。
小声と大袈裟なジェスチャーで文句を告げられた後、異能を再び使用したのか林さんは黙り込む。そして直ぐ様ボソボソと呟き始めた。
「2階分の階段を降りた先、20mくらい離れた壁沿いに2人。何か会話してますね。……今上で音がしなかったか?だそうです。
これバレてはないですけど、相当不審がられてますね。」
そう言って閉じていた目蓋をゆっくりと開く林さん。今回は視覚、嗅覚、味覚を代償にしたのだろうか。
そしてどうやら俺達の着陸音が反響して3階下の階まで聞こえたみたいだった。ビル自体が響きやすいのか、相手の異能で音を拾われたのかは不明だったが。
とりあえず完璧に存在を察知される前に、短期決戦を仕掛ける事にした。相手に対策される前に動こうと考えて再びガラス板へと足を運ぶ。相手は恐らくだが階段を見張っているはずなので、窓から侵入する事に決めた。窓を見ているのなら一旦離れる事も視野に入れて高度を下げる。
一瞬でけりをつける。それだけを意識して俺は臨戦態勢になり、神経を研ぎ澄ませる。
そしてなるべく早く敵を視認出来る様に屈んでいた俺の目に、背中を無防備に晒す男子生徒2人が視界に入る。
そこで俺は合図をしたと同時に突貫する。それは服の擦れる音以外、音の全くする事のない侵入。ガラス窓は割るかスライドさせるしか侵入方法しかないと思い油断している奴らには、服の擦れる音を聞き取る事は出来なかった。
そして窓付近の柱の影で階段を警戒し続ける2人は、俺と林さんの同時電撃攻撃によって、あっさり床と仲良しになる。林さんの気配と僅かな音に反応した1人は振り返ったが、抵抗はさせなかった。ドサリと倒れ伏した2人を見て呆気ないと思ってしまうのは、仕方のない事なのだろうか。
まさに暗殺者の動きをして見せたが俺達だったが、この2人は階段に気を取られ過ぎたせいもあってそもそも他の可能性が頭から抜け落ちていたのだろう。
とりあえず対象の無力化はあっさりと済んだので、俺達は次の標的を目指す事にした……。
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「これで2ペア目。」
俺は思わずそんな言葉を漏らす。次の標的にした相手も意外にもあっさりと方がついてしまったので、肩透かしを食らった気分だった。
それは林さんも同じだったのか、俺の独り言を拾って、俺が口に出さなかった部分をはっきりと告げてくる。
「なんか呆気ないですね。新海君の適切な判断のせいで、相手が弱いんじゃないかと錯覚してしまいそうです……。」
「うーん、まぁここまで息を潜めて隠れてる人達だから、戦闘に自信がなくても不思議ではないからね。戦うよりも隠れる事を選択出来るのは悪い事ではないから……。」
そんなやりとりを交わす俺達に、割って入る様な声が外のスピーカーから聞こえて来る。
「グループ2、全滅。残りグループ数、6。」
そんな報告を聞いて俺達は喜ぶわけでもなく、デパートの階段を上る。南棟の周辺エリアは街中を想定した作りになっているので、市街地にいるのとなんら変わりのない気分にさせられる。
とりあえず屋上へと淡々とした足取りで向かった俺達は、屋上へと着き、ふと視線を向けた眼下の光景に驚きを隠せなかった。
恐らく南棟の周辺でずっと居座っていたと思われる2人のペアが戦闘を開始しようとしていたからだ。別に俺はそれだけでは驚かなかったが、相手にしようとしているペアが、俺達のグループメンバーだったので、思わず驚いてしまったのだ。
それはCクラスのペア。相変わらず柄の悪そうな顔を映し出しながら距離を詰めていく。何やら会話をしているみたいだったが、俺の耳では聞き取る事は不可能だった。
そこで俺はその戦闘に参加する事を決める。林さんを戦略的に温存したとしても3対2。数的有利を取れるのは大きい。
とりあえず俺は林さんに戦闘の意思を確かめる。良く言えば戦略的、悪く言えば個人の意思を封殺して、このまま屋上に残って隠れてもらうのがベスト。
しかし俺はそんな事を強要はしたくなかった。
「林さん。今、あいつらと戦う自信はある?」
そんな俺の問いに動揺を隠そうともせずにうろたえる林さん。そして数瞬悩んだ結果、答えを出したみたいだった。
「倒せる自信はあまりないです。でも今は新海君がいてくれます。それに1位、とるんですよね?なら、結局倒さないといけない相手です。足を引っ張らない様に微力ながらも頑張ります!」
そんな意地悪そうな笑みを浮かべる林さん。その後決意を露わにして、拳を握りしめていた。
本人にはそんなつもりはないのだろうが、ここで頼られる事が少し俺の心を傷つけた。勿論、頼られる事は嬉しい。それでも先の一件を引きずっている俺には別の捉え方をしてしまっていた。
俺はそんな気が沈みそうになる考えを振り払う様にして無理矢理笑顔を貼り付ける。そろそろ楓にも再捕捉される時間帯だ。そこでこれが最終戦になるだろうと、俺の直感が囁いていた。
そして自身に言い聞かせ、鼓舞するかの様に高らかに宣言する。
「そうだね、とりますか1位!」
「え、冗談のつもりだったんですけど。」
そんな林さんとの微妙な温度差を感じ、俺は気がついたら苦虫を噛み潰したような顔になってしまっていた。
そして俺は林さんに「新海君もそんな顔するんですね。あ、さっきのはもちろん冗談ですよ?」との言葉が掛けられるまで、少し悲しい気持ちになっていた。
そんな事は横に置き、俺達は戦場へと向かう。眼下のペア―夏威と南部さんを倒す為に……。




